生は針のように   作:アーっr

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針主人公っていうのも楽じゃねえんだよ


光陰針の如し

 

 

 「しゃあっ 刃向かってんじゃねぇ」

 

 左手の爪で呪霊を貫く。我ながら惚れ惚れする鋭さだ。

 名は体を表すというが、針の名の通り俺の左手は鍵爪のように鋭い。日本狼のようでもある。

 

 適当にカモを見繕って、奇襲でも仕掛ける。雑魚共は反応すら出来ない。楽な仕事だぜ。

 

 

 しかし………そんな俺にも悩みがある。それは勿論、これからの未来の事だ。

 

 このままではまずい、という予感がある。原始人(やせい)の勘ってとこかな。

 

 

 あのいけ好かねぇ五条のガキっが生まれたせいで、この時代の呪霊や術師のレベルが上がりまくってやがる。

 

 俺は困った。雑魚狩りは大好きだし、今までそうやって生きてきた。格上どころか同格とすら戦うつもりはねえ。

 

 適当に呪詛師として細々と活動してきた今回の人生だったが、ここに来て翳りが見えやがった。

 

 「ここまで這い上がるのも楽じゃねぇんだよ」

 

 ため息と共に吐き捨てる。

 

 初めて呪いを見た時からここまで長かった。

 術式を自覚し、運用方法を理解し、長い年月を経て漸くここまで来た。

 

 最初は興奮したっけなぁ。

 こう、“しゃあっ”と力を入れたら急に指が鋭くなりやがったんだ。

 

 今考えてみれば、体の一部を針にする術式なんてとんでもないハズレ術式だったぜ。

 

 だが、過去27回の受肉の経験が確かに俺を支えている。特級なんて奴等が居なきゃ普通に最強だ。

 

 

 今回で28回目の受肉だが、全ての受肉で共通して学んだことがある。“天才には勝てない”。

 

 俺が必死こいて張った結界を秒で消し飛ばす。式神使いの癖に俺より近接戦が強ぇ。

 こんなのは序の口だ。

 

 平安の頃に居た宿儺なんかは、アレはもう違う生物だ。バカデケェマンモスを思い出したぜ。

 

 罠にかけて、爪で貫いて、それでもマンモスは動きやがる。生物としての格がちげぇんだ。

 どうしようもなく太刀打ち出来ない存在を許容しなきゃならねぇ。原始(むかし)からそうだった。

 

 

 そんなのは別に良い。勝つのにこだわるのは馬鹿のやることだからな。

 逃げて、隠れて、奇襲して。どんだけ無様でも生きていればそれで良い。

 

 だがよ、このままじゃ雑魚狩りどころじゃねぇ。俺自身のレベルを上げなきゃ、この時代には着いていけねぇ。

 

 じゃなきゃ、平安の頃みたいに俺の方が雑魚狩りされちまう。

 

 あの時はもう諦めてた。この時代は無理だと、俺の針は折れてた。

 今回はちげぇ。どうやら羂索が派手に動くらしい。

 

 

 羂索とは平安の頃からの付き合いだ。

 あの野郎、呪物になって蘇り続ける俺に興味を持ってノコノコ近づいて来やがった。

 

 勿論教えるのは渋ったさ。胡散臭かったしな。だから言ってやったんだ。

 

 「んだぁ?この阿婆擦れ……」

 

 タコ殴りにされた。いや、少しはやり返してやったんだぜ?

 

 しかしアイツも平安の術師。反転や結界術なんかも使えるレベルの高い術師だった。

 

 平安のレベルについて行けてなかった俺は普通に負けた。そんでもって、呪物化の話もゲロった。

 

 情けねぇことに、命を奪わない代わりに計画に手を貸す『縛り』を結ばされた。

 そこからと言うもの、適度な間隔で受肉させられてその時代で活動してる。

 

 大抵の場合、その時代の強者に殺される。それか凡ミスで雑魚にやられる。

 これはまぁ、受肉先が悪い時もあった。

 

 

 今回の器はまぁまぁイイやつを用意したらしい。呪力強化無しでもそこそこ戦える。

 

 俺が一番得意なのは単純な呪力強化だ。

 呪いとの付き合いなら俺に勝てる奴なんていねぇ。俺が何万年向き合ってきたと思ってやがる。

 

 量や出力で負けても、呪力への理解は誰にも負けねぇ。宿儺にも、五条のガキっにもな。

 

 

 そう……何百万年も、俺は呪力と関わり続けてきた。自分の術式ともな。

 

 最初は針なんて概念は無かった。そもそも言語すら無い猿同然の存在だったからな。

 

 ただ、なんか細長くなる程度だった。ちっぽけなこれが俺の牙で、爪で、武器だった。

 

 それがどんどん細く、鋭くなっていった。もっともっとと繰り返すうちに、目に見えなくなった。

 

 「ってもう糸じゃねぇか」

 

 その頃には、『針』が完成していた。

 

 

 針が完成しても術式の成長は止まるところを知らなかった。

 とはいえ、大分低迷が続いた。結局戦闘では針ほど細くするメリットも無い。

 

 あれは確か‥‥天然痘の時だったか?

 医療用の針を見てからはブレイクスルーが起きた。

 

 刺した後に呪力を注入することで、相手の呪力操作をかき乱す芸当も出来るようになった。

 コイツが面白いくらいに刺さりやがる。呪力操作は呪術の基礎だからな。

 

 どいつもコイツも、術式が焼き切れた後みてぇにガタガタな操作に成り下がった。

 反転で呪力を中和しようとしてもその状態じゃあ反転なんて使えるはずもねぇ。

 

 全身呪力で出来てる呪霊なんて、キショい挙動するだけの置き物になったりもした。

 

 

 ここまで積み重ねても勝てないのが天才って奴らだ。アイツらに針をぶち込もうとしてもまず当たらねぇ。

 

 だから諦めた。天才には勝てねぇ。

 

 ならよ、天才以外に勝てりゃ生き残れんだよ。だって俺以外の凡人も天才に勝てねぇんだから。

 

 凡人の中で上位なら、天才さえ躱せば生きていける。楽な雑魚狩りでな。

 

 

 「やあ、針。元気そうで良かったよ」

 

 「どぉも〜〜〜」

 

 今の羂索は坊主らしい。我欲に塗れた破戒僧のモノマネってんなら優勝だな。

 

 これから激動の時代になる。天才と凡人が入り乱れる。羂索がそうする。

 

 精々天才同士で潰し合え。俺はただ、凡人に刺さる針であれば良い。

 

 

 




針千釣
 原始人(ガチ)。数百万年前から呪力に気付いてた大ベテラン。
 しかしあっち側には勝てない。

羂索
 猿の頃から生き延びてる生きた化石を見て興奮した。どっかの結界師と違ってちゃんと生きてるので高評価。
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