禪院家に強術式の男として生まれても詰むことあるんだ…… 作:ある日の残り香
思いついちゃったから書き始めちゃった。
お酒美味しい。
アニメで動く直哉くん、よかったね。
第一話【驕り高ぶり言語道断、無為転変】
吾輩の名は
吾輩には、他の者たちとは違うアドバンテージがあった。そう、前世の記憶だ。前世において吾輩はどこにでもいる図書館の司書であった。名を、
彼女の世界には、『呪術廻戦』という漫画がある。彼女が愛したこの作品は、どうにも吾輩が生きておるこの世界と酷似している。確信した理由は、「五条悟」の存在と吾輩の生まれた家、「禪院家」の存在による。運が良いことに、吾輩はこの漫画の内容を全て覚えていた。つまりだ、吾輩は未来を知っておるということになる。
どうだろう、素晴らしいアドバンテージではないだろうか?その上、禪院家という御三家に生まれることもできた。それも、前世とは違う男の身で、だ。女であれば地獄だっただろう。だが男として生まれ、さらには良い術式にも恵まれた。もはや吾輩に死角はない。
前世のアドバンテージを生かして禪院直哉も伏黒恵も押し退けて、吾輩が当主を目指してみるのもまた一興かもしれんなァ。そうすれば……いや何、これはまだ説明する必要はあるまい。
甚壱殿は良い御仁であるが、顔が醜い。造りは良いのだが、整えようという気概がない時点で獣よ。扇殿は全てにおいて論外だ。そして、直哉殿。直哉殿は顔と実力、それから向上心を見れば良い御仁に見受けられるが、禪院に浸かりすぎておる。あのような性格では、他家との交渉や、非術師の政治家と良い関係を築くことはできん。そも、この三人が余計なことをしたがために禪院家が滅ぶのだ。吾輩が力をつけて押さえ込むしかあるまいよ。
伏黒恵は若すぎる。すぐにふるべゆらゆらしてしまうほどの辛抱なしである。その上、宿儺の器だ。此奴もなしなし。
うむ、やはり吾輩が当主になるべきだ。前世の知識を生かして原作よりも死者を減らし、膿となる術師は人外魔境新宿決戦に出陣させれば禪院家のニューディールも計れる。
ふふふ、ふははは!勝った!吾輩の計画には一寸の狂いも───
「は───?」
「へえ、【無為転変】を喰らったのに、性別が変わっただけで済んだ……妙な魂だね?」
吾輩は驕り高ぶっていた。呪霊の討伐の任を終え、帰る前に一杯やろうと酒屋に入り、日本酒を6合ほど頂いたのだがその帰りにどこか見覚えのあるツギハギの呪霊と遭遇してしまったのだ。
酔っておるせいか術式も満足に使えず、吾輩はいともたやすく奴に触れられてしもうた。前世の記憶があるからこそ、この時点で詰みであることを理解し、酔いから覚めたのだがもう遅い。奴の、真人の【無為転変】が発動した。
だが、次に目を開ければ吾輩の身体は五体満足であった。自分でも信じられず体を触れて確認してみると、どこか柔らかさを感じる。その時気づいたのだ。吾輩が女になってしまったことを。
「……まあ、【無為転変】の効きが悪いなら普通にぶっ殺しちゃうか。」
真人が腕を鎌のような形へと変形させた。冗談ではない。玉を取られた上にタマを取られてたまるものか。
「【
吾輩は袖に残っていた呪符を取り出した。その呪符に描かれているのは、兎の戯画。僅かな呪力のおこりの後、呪符から式神が召喚される。
禪院家相伝の術式は、光と影が関連している。吾輩の術式であり、【十種影法術】の派生術式である【鳥獣戯画法術】もその例に漏れない。呪符に墨汁で生物の戯画を描くことで、呪符に光を吸収させ、そこに呪力を流し込むことでその式神を喚び出す。
どうやら、過去にこの術式が発現したものはおらぬようで、歴史は浅く、取扱説明書なぞ存在しない。だが、吾輩はなんとなくその使い方が分かったと同時に、吾輩こそがこの術式を他の何者よりも生かすことができると確信した。
鳥獣戯画は、日本の漫画の祖先であるという見方がされている。つまり、鳥獣戯画とは漫画である。そう仮説を立てた吾輩は筆を手に取り、前世の漫画で見た十種の式神を描いた。様相のわからぬ【虎葬】を除いて。そして、それぞれに呪力を込めてみると、【魔虚羅】を除き、すべてを召喚することができた上、その性質も【十種影法術】と寸分違わず同じであった。【魔虚羅】は、召喚しようと呪力を込めたところ、吾輩の呪力が枯渇した。呪力さえあれば喚べるのやもしれぬが、あの手応えを考えるに現実的ではない。
と、話を戻そうか。吾輩が喚び出したのは【脱兎】である。此奴はいくらでも増え、そして素早く動く。吾輩を真人の元から遠ざけるには最適解であった。呪力効率も悪くなく、使い勝手も良いため、袖の中には常に五枚携帯している。
「あーあ。逃げられちゃった。」
逃げた先で、吾輩は蹲った。声にならないような呻き声をあげたのに、立ち上がってため息をつく。
吾輩は、ガラスに映った自身の姿を確認する。吾輩の短くて男らしかった黒く硬い髪は、最早髪質から変わり、しなやかに肩までストンと落ちていた。禪院の血を感じる吾輩の鋭い目は相変わらずだが、顔の輪郭が男らしいものから女らしい丸みを帯びた形へと変わっている。
極めつけは、股間から消えた吾輩の大事な愛刀の気配と、僅かに膨らんだ胸、細くなった身体と逆に大きくなった尻。
正直外見だけで言えば好みであった。だが、それが……そんな好みの女が──
「……これが、吾輩だというのか?」
先に弁明しておくと、吾輩には女性蔑視の考えはない。少なくとも、他の禪院家の者どもと比べれば。というのも、吾輩は自身が前世で女だったことを知っており、もしも女性蔑視的な思想を抱けば、真っ先に自分へと返ってくるからだ。正直、前世の性別に戻ったことで得体の知れぬ安心感さえ感じている。
問題は、そう。他の禪院家の者は女を見下しており、女を人として、呪術師として扱わぬのだ。吾輩は確実に、当主候補レースから下される。それどころか、術師としての活動も見咎められるやもしれん。最悪の場合は即、相手を決められて子を──。
「よし、吾輩は死んだことにして身を隠そう。」
吾輩の決定は早かった。
「というわけなのだよ、真希。吾輩を匿ってはくれぬか?」
「嘘だろお前……」
「頼れる歳の近い者がお前しかおらぬ。禪院に戻ればどうなるかなんて想像は容易であろう?ほら、吾輩もお前を助けたことがあった……三度ほどであるが……」
吾輩は高専に忍び込み、真希の部屋を訪ねた。真希にはよく稽古をつけてやったし、あの家の中ではまともに相手していた方である。そも、吾輩には禪院家以外に知人もおらぬ。ぼっちである。故に、真希ぐらいしか頼れる相手がおらぬのだ。
「面の皮が厚い……って言いてえところだが、しょうがねえな。」
「恩に着るぞ、真希。吾輩は今、残穢を残すわけにはいかぬので術式も使えぬ。お前と同じだ、仲良くしよ──」
吾輩の横で空気を切るような音がした。見れば、真希の拳がそこにあった。
「──フー……喧嘩なら買うぞ。」
「な、なぜそうなるのだ……?」
吾輩には段ボールで作られた寝床が与えられた。うむ、意外と住み心地は悪くない。
一方、翌日の禪院家は軽い騒ぎになっていた。
「はぁ?一樹くん死んだん?」
「まだ確定ではありませんが……。」
「はっ!んなわけないやん。そら、死んでくれたらありがたいけど。」
禪院家で、ある男が頬杖をつきながら吐き捨てる。
「一樹くん、呪術師としてはまあまあな強さしとるで。俺やパパと同じ特別一級術師さかい、そこらの呪霊には遅れを取らんわ。」
「街に推定特級呪霊が現れたそうです。その上、現場に落ちていた領収書を見るに彼は直前に日本酒を六合飲んでおり──」
「ほな死ぬかぁ。」
禪院直哉は、興味を無くしたのかあくびをする。
「はぁ、ライバルもおらんなって張り合いがなくなりそうやわ。若いからまだまだ伸びると思たんやけどなぁ。変な喋り方するとこ以外は認めてたんやで?こう見えて。」
禪院一樹の術式は、直哉にとっても興味深い術式だった。どこまでやれるのか、どこまで至れるのか。未知の術式であるが故の、見えない天井。その術式を持った彼ならば、もしかすると「アッチ側」に立てるのではないかと思ったのだ。
「ま、酒にうつつ抜かすとこうなるってことやな。酒を飲む量セーブできへん馬鹿は死んだ方がええ。」
舌打ちをすると、直哉は任務へ出掛けた。
真希の部屋で「飼われ」始めてから数日が経った。吾輩は人々が寝静まった夜に買い物は行き、食料などを調達していた。
「……さすがに服は替えているとはいえ、臭うか。」
吾輩は風呂に入れていない。銭湯がこの時間にやっておらんのもそうなのだが、そもそも自分のものとは言え女体を見るのが小恥ずかしいというのもある。前世が女であるのだから気にしなければ良いのだが、前世の記憶はあくまで記憶で、人格はこの20年間を生きてきた禪院一樹として形成されている。それが故、羞恥心に打ち勝つことができぬのだ。
「やれや──」
そのような雑念があったからだろうか。吾輩は気を抜いていた。高専にバレずに侵入することを繰り返していたため、慢心もあったのだろう。だが、吾輩は目の前に立つ者の姿を認めると、その慢心した自分を殴りたくなった。
「キミ、誰かな?高専の人間じゃないよね。」
「……やれやれだ。」
目の前の男、五条悟がアイマスクを外して吾輩を見ると、一瞬鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしてから吹き出した。
「な〜んだ、一樹かあ!なにその姿〜!」
「深い事情があるのだよ。笑わないでくれないか、惨めだ。」
それから吾輩は、五条悟に連れられて事情を話した。
「──そういうわけでな、吾輩はツギハギの呪霊の手によって玉を取られた。」
「タマ取られなくてよかったね〜、そいつ特級呪霊だよ。この前、七海が殺されかけたやつ〜」
「七海殿、噂には聞いたことがあるが、黒閃の御仁であるな……彼でさえ殺されかけた上に取り逃すほどの呪霊、か。まこと吾輩も危ないところであったな。」
前世の知識では知っているが、吾輩は七海建人とは面識がない。このような反応が自然だろうか。
「それで、禪院家のクソさは知ってる。その姿のままで禪院家に戻りたくないんだろ?」
「うむ。今は真希の下で厄介になっておる。」
「あ〜、どうりで最近真希の機嫌が悪いわけだ!」
「それについては申し訳なく思うておる。が、吾輩としても真希ぐらいしか頼れる相手がおらぬのだ。残穢を気にして術式も使えない状況で、ここよりも安全な場所もないわけでな。」
吾輩は今、上手く行ったのか死亡した扱いになっている。それが生きているとなれば、ほぼ確実に連れ戻される。そして連れ戻された後どうなるのかは想像に難くない。
「悟殿、天逆鉾を持ってはおらぬか?禪院甚爾を殺した貴殿が持っておると踏んだのだが……」
「ああ、アレなら壊したよ。」
「吾輩の希望も今ここで壊されたな。」
前世の知識で知ってはいたけど、駄目元で聞いてみたのだが案の定破壊されていた。もっとも、あの呪具の効果で術式の強制解除を行なったとて、歪められた魂の形が戻るとも限らない。
「吾輩はどうすれば良いのだろうな……」
「いっそ別人としてシラを切り続ければ?」
「吾輩の術式の希少性は理解しておろう。別人として扱うのは無理がある。それに、吾輩の術式はすでに禪院家の相伝としてその有用性含めて認知されておる。別人として振る舞おうとも、吾輩が禪院家に呼び込まれるのは避けられぬだろう。」
「困ったね〜……あ、期待してるかもだけど、恵の時みたいにこちらが買い戻すとかは無理だよ?」
「……期待など初めからしておらぬ。」
正直期待はしておった。伏黒恵のように五条悟が後見人を務めてさえくれれば、特級の後ろ盾でなんとかなるのではないかと。吾輩があと五つほど若ければ生徒として受け入れてもらえたのだろうが、誠に残念だ。
「嘘、絶対期待してたでしょ〜」
「……これ以上の用件がないならば吾輩は帰る。」
「ところで、これ黙っておく代わりに僕の頼みを聞いてくれない?」
席を立とうとした吾輩を、五条悟の声が引き止める。
「……よ、よもや、抱かせろとか言うわけではあるまいな?」
「言わない言わない、僕のことなんだと思ってんの?」
「……怪奇、変態目隠し教師。」
「一樹、マジビンタ──って、そうじゃなくて!」
五条悟は咳払いをすると、その願いを告げた。
「宿儺の器が実は生きてるんだけど、姉妹校交流会でそれを明らかにする。だから、その時にやってくるであろう刺客とかをいい感じに妨害してくれない?」
「……吾輩が今術式を使えないのは話したはずだが?」
「呪具を使えばいい。呪具なら持ち主の残穢が残らない。」
宿儺の器、虎杖悠二か。
まあ、今後のことを考えれば彼との関わりを作るのもやぶさかではない。それに、これが黙秘の条件だと言うのならば吾輩には首を縦に振るしかないのだから。
「……呪具は貸し出してくれるのか?」
「ああ、勿論。」
禪院一樹(ぜんいんいつき)
年齢 20歳
一人称 吾輩(子供の頃読んだ小説から影響を受けたらしい)
服装 和装・トンビコート
身長 178cm→163cm
体重 78kg→52kg
術式 鳥獣戯画法術(詳細は今後)
呪力特性 墨(詳細は今後)
呪力量 そこそこ
呪力効率 ロス多め
呪具の扱い 2級呪霊程度なら呪具の呪力だけで祓えた
結界術 不得意
領域対策 落花の情
反転術式 効率悪いけど自分には使える
お酒 少し強い
頭の出来 あまり良くない
続く場合はのんびり更新していきます。