禪院家に強術式の男として生まれても詰むことあるんだ……   作:ある日の残り香

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 宝の持ち腐れだな。








第十話【起首雷同-依存-】

 

「ちょっと、呪霊の呪の字も出ないじゃない」

「全くであるな。」

 

 

 

 成果なしとして、一度車を止めたコンビニまで引き返す。

 

「残穢も気配もまるで感じられませんでした。」

「っスか……となるとハズレ。ふりだしっスかね。」

 

 おにぎりを食いながら、今後について話し合う。ところでこの梱包を剥がすの難しくないか?前世の記憶を検索せざるを得なかったぞ。

 

「でも時間をかけるのはマズくねぇ?」

「そうであるな。」

「なんでよ。」

「だって有名な心霊スポットなんだろ?呪われてる人はまだまだいるかも。しかも今ん所致死率100%。これ以上人死には勘弁だろ。」

 

 この事件の肝はそこだ。早期解決をなさなければ、今後失われる命が多い。時限爆弾のような性格を持っているのだ。

 

「あぁ!!いたーっ!!良かったー!!」

 

 うむ、来たな。

 

「伏黒さーん!!」

「誰だっけ?」

「伏黒の後輩だろ。釘崎散々イジってたじゃん。」

 

 自転車をキコキコ漕いでやってきたのは、伏黒坊の後輩である。そして、その後ろに乗っているのは、彼の姉君だ。と、吾輩は前世の知識で知っておる。

 

「八十八橋って言ってたから……!!本っ当良かった!!」

「……藤沼?」

 

 そこで語られたのは、伏黒坊の同級生である彼女も八十八橋へ行っていたこと、それから伏黒津美紀もその時に同行していたこと。

 

「そうか。じゃあ津美紀にも聞いてみるわ。」

 

 彼らが去るまで、伏黒坊は平静を装っていたが、彼らが去るとその表情から余裕は消えた。

 

「伏黒!!しっかりしろ!!まずは安否確認だろ!!」

「……大丈夫だ。悪ィ、少し外す。」

 

 伏黒坊は、少し離れたところで高専の伊地知殿に連絡をとった。

 

 

 

 

 

 

視点:伏黒恵

 

 落ち着け、冷静に。

 

「事情はわかりました、津美紀さんの護衛ですね。ですが今手の空いているのが二級術師の方だけで……あ、いや……うーん……」

「二級……。本当にそうですか?なんか、含みがありますけど。」

「今高専には特別一級術師が滞在しているのですが、個人的に津美紀さんには近づけたくない人種です。それに、あまり彼には借りを作るべきではないかと。」

 

 高専に特別一級術師がいる……?

 

「……特別一級術師ってことは、御三家の人間ですか。その口ぶりから、大体のことはわかりました。つまり、現状動けるのは本当に二級術師が最高ってことですね。」

 

 禪院家に一樹さんの潜伏先がバレたと考えるのが自然だろう。クソ、こんな状況で悩みの種が増えた。

 

「任務の話に戻ります。被呪者の数がこちらの想定よりずっと多いとなると、呪いの等級も見直さねばなりません。恐らく虎杖君の成長を加味した上で割り振られた任務。そこからさらに危険度が上がるとなると、二級術師の手には余るかと。」

 

 つまり、護衛には期待できない。俺だけでも戻るべきか?

 

「皆さんの方に関しては……一樹さんに全てを任せて撤退を推奨します。五条さんは生徒の成長の機会を大事には思っていますが、それでも皆さんが死んでしまうくらいならば撤退の選択を肯定すると思います。」

「……一樹さん一人で大丈夫なんですか?」

「あの方なら、特級呪霊が相手でも問題はないでしょう。それに、今高専に戻すのも……。」

 

 もしも、呪霊が襲ってくるタイプじゃなく、マーキングした人間の内側から術式が発動するタイプなら、そばで守り続けても意味がない。根本となる呪霊を今すぐ祓うべきだ。

 一樹さんの腕を信頼していないわけじゃない。でも、俺たち三人が撤退した後、もしものことがあって呪霊を祓えなかったら……津美紀も一樹さんも失う。

 

「……伊地知さん、俺たちって足手纏いになるでしょうか。」

「それは……私には判断できません。戦う本人にしかわからないことでしょうから。」

 

 それから電話を切り、皆の元へ戻った。

 

「なんで伊地知さんと話してんの?」

「津美紀の姉ちゃん無事だったか?」

「問題ない。」

 

 津美紀のことについて、こいつらに無駄な心配をかけたくない。だから説明はしない。

 

「それより任務の危険度が吊り上がった。この件は一樹さんに引き継がれる。オマエらはもう帰れ。」

「「??」」

「ふむ」

 

 少年院の時のような状況にはしたくない。俺の個人的な都合で、俺は残るつもりなのだから、二人を巻き込むのは道理ではない。

 

「オマエらって、伏黒は?」

「俺は武田さんに挨拶して帰る。ほら行け!!」

 

 虎杖と釘崎を車に乗せ、俺は一樹さんに視線を向けずに告げる。

 

「俺も一緒に戦わせてください。」

「構わないが……うーむ。個人的には君たち三人でも十分だと思うのだがね。」

「……俺の都合に付き合わせて、死なせたくありません。」

 

 俺の言葉に、一樹さんはしばらく考え込むと、歩き始めた。

 

「では、武田殿への挨拶へ向かいつつ、道すがら話そう。それを元にどうするか決めよう。」

「……はい。」

 

 

 

 

 

 

 歩き始めてから、俺は一樹さんに伝えなければならないことを思い出した。

 

「……高専に、特別一級術師が来ているそうです。」

「まことか?」

「はい、伊地知さんが言うには。」

 

 一樹さんは訝しみつつも、高専から貸し出された携帯を取り出し、誰かに連絡をした。

 

「吾輩だ。そちらの状況は?」

 

「……酷いことはされてないのだな?よかった。」

 

「……なるほど、葬儀にてあの窓の子が。吾輩のこれは、初めから仕組まれていたの、か。」

 

 話している相手は真希さんだろう。一樹さんの表情がコロコロと変わる。切迫、安堵、そして傷心。

 

「彼奴は吾輩を連れ戻しに来たのではないのか。それは一安心である。奴と電話を変われるか?」

 

「……問題なかろう、帰るのが遅くなりそうなのでな。それを伝えなければ。」

 

 話すつもりなのか!?禪院家の人間と!?それって大丈夫なのか!?

 

「……直哉殿、息災であ──っ!人の声を聞くなり笑うでない!!」

 

 ……思ったよりも問題なさそうだな。

 

「五月蝿いぞ、直哉殿。今か?うむ、若人たちの任務の引率をしていたのだが、呪霊が思ったよりも手強そうであり、吾輩が前に出るか否かというところであるな。」

 

「誰か一緒にいるのか、であるか?うむ、伏黒坊がついておる。」

 

「……それは遠慮したい。今の吾輩は高専の勢力として活動しておる。故に、ここで直哉殿の手を借りてしまえば、禪院家に借りを作ることとなろう。学長殿に迷惑はかけたくない。」

 

「……帰る時間か?うむ、明日の朝であるかの……出直したほうが良いかもしれんな。」

 

「──それでも待つ、と?直哉殿、貴殿は暇なのか?」

 

「宿泊場所に困ったならば、吾輩の部屋を使うといい。鍵はかけておらんのでな。」

 

「フッ、女の身体になった時……貴殿から吾輩への対応が変わるのではないかということを最も恐れておったのだが、杞憂であったな。吾輩が当主になった暁には炳を頼むぞ、直哉殿。」

 

「……あ〜、電波が悪くて聞こえぬなぁ〜?切るぞ。」

 

 電話を切り、一樹さんがこちらに向き直る。向き直ると同時に、緩んでいた表情が引き締められ、真剣な話をするというオーラを出した。

 

「──吾輩がツギハギ呪霊と遭遇したのは、間者による策略であった。が、その間者は蜥蜴の尻尾切りにあったようである。どちらにせよ、その間者が吾輩の葬式で吾輩の現状をバラしおった。もはや残穢を隠す意味もない。全力で戦える。」

「それは……心強いです。」

「だが、そうだな。伏黒坊。一つ賭けをしよう。」

「なんですか?」

 

 一樹さんが、悪い笑顔を浮かべた。

 

「もしも、虎杖悠仁と釘崎嬢が貴殿の抜け駆けに気づいて駆けつけたのならば、その時は吾輩は手を出さぬ。お前たちの成長の機会としてな。来なかった時は吾輩が一人で祓いきる。」

「なっ……!?」

「吾輩は少なくとも、貴殿には下手な特級相手にも負けないだろうというポテンシャルを感じでおるのだぞ?」

「……虎杖と釘崎に関しては、どう評価してますか?」

「虎杖悠仁はそもそも問題あるまい。そして釘崎嬢、彼女は心が強い。死地にて本領を発揮し、成長するタイプであろう。こんなちょうどいい任務、後にも先にも逃せば惜しくなろう。」

「……いざという時は頼みます。」

「うむ。そういう時のためにたくさん描いてきたのでな。」

 

 そういうと、彼女は袖から呪符を何枚も取り出す。

 

「【円鹿】を中心に描いてきた。呪霊ならば反転術式が効くであろうし、怪我をした者の治療もできるのでな。」

「……そういえば、【鳥獣戯画法術】ってどういう術式なんですか?」

「見ての通りである。と、思うておったが……何か気になることでもあるのか?」

 

 一樹さんの術式【鳥獣戯画法術】。【十種影法術】の式神を描き、使役する術式。少なくとも俺や真希さんはそう認識していた。おそらく、禪院家の術師もそう認識しているはずだ。

 

「……先日、宿儺が言っていたことが気になって。」

「フム?」

 

 五条先生と一樹さんが手合わせをした日の夜、俺が虎杖と夜食のカップ焼きそばを食べていると、宿儺の口がヌッと出てきて突然【鳥獣戯画法術】の考察を始めたのだ。その時の発言が少し引っかかっている。

 

「"あの女が十種の式神に拘る理由がわからんな。あれでは宝の持ち腐れだ"……と、言っていました。宿儺の口ぶりからすると、十種以外の式神も使役できるってことになるんですけど、その辺はどうなんですか?」

「……真依を慰めようと猫を描いて喚び出したこともあったな。言われてみれば、何故吾輩は十種に拘泥しているのだろうか。」

 

 宿儺の見立ては正しかった。【鳥獣戯画法術】は十種の式神以外も喚び出せる。

 

「ふーむ……まァ強いて言えば、わかりやすいからであろうな。」

「わかりやすい?」

「相伝術式のメリットはその内容が詳細に至るまで受け継がれており、使用法などのノウハウも存在していることである。吾輩の術式は歴史が浅いため、正しい使い方なぞわからぬ。だからこそ、わかりやすい手本を真似たのだろう。」

「──その手本が、【十種影法術】。禪院家で最も格式の高い相伝術式。」

「うむ。しかし、そうか。呪いの王に宝の持ち腐れなどと言われると、このままでは良くないのだろうな。」

 

 一樹さんは、これまで見た中で最も真剣な表情で顎に手を当てて考え込んでしまった。

 

 

 

 

 

 

視点:禪院直哉

 

「切られたわ。」

 

 真希ちゃんに電話を投げ渡し、立ち上がる。

 

「どうだったよ。」

「声は随分とまぁ可愛らしくなっとったけど、中身は変わっとらんな。一安心やわ。」

 

 こちらに媚びる様子は一切なし。自我もちゃんと男のまま。ちゃあんと俺の弟分の禪院一樹のままやった。

 女に変わったんも、戦いで腕無くしたようなもんで、何か根本から変わったわけでもなさそうや。

 

「問題は他の連中やな。雑魚の罪は強さを知らんこと。表層だけなぞって測りたがるねん。一樹くんが女になったってことばっかり気にして、好き勝手言っとる。」

「ソレ、お前にも言えるだろ。」

「偽物は黙っとれや。一樹くんへの義理で手ェ出すの抑えてやってんやで?」

 

 真希ちゃんは甚爾くんとは違う。弱くて情けへん。そんなのが生きて歩っとるだけで、甚爾くんまで大したことがなかったなんてほざく何も知らん連中が沸く。ほんと、首括って死んでくれへんやろか。

 

「俺が当主なったら、真希ちゃんには二度と禪院の敷居は跨がせへんで。せいぜい、一樹くんが当主になることにでも期待しておくんやな、カス。」

「私は私の力で居場所を作る。当主になるのは私だ。」

 

 なれるわけないやろ。オマエが。

 

 

 

 

 

 

 

 

視点:禪院一樹

 

 只今夜。新田嬢には事前に伏黒坊を連れ出す了承を得た。

 

「伏黒坊、仮眠はとれたかの。」

「寝れるわけないじゃないですか、あんな短時間で。」

「で、あるか。」

「一樹さんは何してたんですか?」

「新しい呪符について試行錯誤しておったのだが、成果は芳しくないな。」

 

 そう言って、伏黒坊に描いた数枚の呪符を見せた。

 

「八岐大蛇、八咫烏、猿の仏僧、五条先生……。」

「これらを試してみたのであるが、猿の仏僧しか喚び出せんでな。呪力量が足りておらぬのだろう。悟殿に関しては呪力の起こりすら感じられんかった。悟殿は鳥獣に分類されないのであろうか。」

「五条先生のこと動物扱いしてたんですか?」

「元来、鳥獣戯画には丙丁を中心に人間も描かれておる。正式名称は鳥獣人物戯画であるしな。故に喚べると思ったのだが、うまくいかぬものだ。」

「ああ、そういう……。」

 

 八岐大蛇と八咫烏を召喚しようとした時に感じたのは、魔虚羅の時にも感じた莫大な呪力不足であった。神話に語られる生物は難しいのだろう。そこで、鳥獣戯画にも描かれる猿を描いてみたところ、此奴は召喚できた。ならばとダメ元で五条悟を描いてみるも、これも召喚されず。こちらに関しては呪力の起こりすら発生しない。まるで、術式対象ではないというかのように。

 

「ところで、猿は何ができるんですか?」

「うむ、読経をすることができるぞ。」

「……そうですか。」

「しかしまァ、こうしてみるとやはり十種の式神は格と完成度が高い。これだけでも十分に思えてしまう。両面宿儺の真意はわからぬな。」

 

 正直、あの宿儺が言うほどなのだから、自分が思っている以上にポテンシャルが高い術式なのではないかと期待したところはある。それこそ、五条悟の召喚も試してみるくらいには。

 

「と、着いたな。」

「ああ。」

 

 八十八橋を下から見上げる。

 

「……して、伏黒坊。賭けは吾輩の勝ちであるな。」

 

 吾輩たちのものではない足音が背後から聞こえ、そこには虎杖悠仁と釘崎嬢が立っていた。

 

「オマエら……」

「──別に何でも話してくれとは言わねぇけどさ。せめて頼れよ、友達だろ?」

 

 吾輩はおそらく……その光景が眩しくて、思わず涙が溢れた。

 

 

 

 

 

 

「何かあったのかい?」

「──ん?別に何もないけど?」

「そっか、ならいいんだけど。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

視点:???(前世、どこかの部屋)

 

「いいかい、静華くん。絵というのはね、共通認識の記号化なんだ。」

 

 キャンバスに筆を走らせながら口を開く。

 

「写実的に描くか、抽象的に描くか、はたまた戯画的に描くか。それは描き手の自由だが、そのほとんどは受け取り手と認識を共有できるように描くんだ。」

「うーん……?」

 

 絵のモデルの少女は古びた木の椅子に腰掛けながら、首を傾げた。

 

「僕らはユニコーンを観たことがない。僕らは死神を見たことがない。それでも、彼らの姿形を知っている。それが絵による、共通認識の記号化だ。ソレを、視覚的に共有する。誰もがソレをソレと認識する。これが絵の魔力であり、呪いでもある。」

「呪い?」

 

 銘を入れ、筆をバケツに落とす。

 

「……静華くん、君は西郷隆盛の顔を知っているかい?」

「うん。教科書で見たよ。」

「──ソレこそが、呪いなんだ。」

 

 ヘアバンドを外し、手を洗う。

 

「実物を知らずとも、絵が広まればソレが共通認識となる。現代には写真がある分マシだけどね。」

「……。」

「共通認識は一度出来上がってしまえば、それを覆すことは難しい。」

「あのさ……」

「ん?」

 

 不満そうな少女の声に顔をそちらに向けた。

 

「それ、今するべき話だった?」

「確かに、絵のモデルになってくれた直後にする話じゃなかったね……。」

 

 それは過ぎ去った、ある日の思い出。

 

 

 





点がふたつ、弧が一つ適切な配置に置かれれば顔が出来上がる。

おかしいよね。人間の顔ってもっと複雑なはずなのに。








Q,何故五条先生の絵は呪力の起こりすら発生しないの?
A,■■になっている姿が誰にもイメージされないため、術式対象外として扱われる。同じ理由でほとんどの術師が対象外となる。抜け道はあるのだが、現状は気づく気配もない。
 なお本編中は実行されないし、禪院一樹がその発想には至らないのでネタバラシすると、死滅回游編以降の天元は術式の対象内。


Q,漫画のキャラならいけるの?
A,呪術の世界に存在する漫画なら、特定の条件を満たしたキャラは理論上召喚できる。ただし、この小説には「クロスオーバー」タグがついていないので、メタ的な話をすると登場は期待できない。




直哉の真希真依への反応

真依
 いい身体しとるし、女である自覚もあるんやけど、手を出したら一樹くんに殺されそうやからな。遠くから眺めるだけにしとるで。

真希
 甚爾くんの偽物。これ以上甚爾くんの格下がる前にはよ死んでくれ。




 難しい。
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