禪院家に強術式の男として生まれても詰むことあるんだ……   作:ある日の残り香

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 これまでずっと直毘人の一人称を間違えていたことに今更気づく。

 渋谷事変が難しすぎるので多分更新ペース落ちます。
 想定外のバタフライエフェクトに翻弄されている。









第十八話【渋谷事変-降霊-】

 

視点:脹相

 

「俺は弟の仇、虎杖悠仁と釘崎野薔薇を殺す。その後は高専に保管されている他の弟達を回収する。」

 

 こちらの状況が敵方にバレ、それぞれが別行動をする方針となったため、俺はこれを機に弟達の仇を打とうと考えた。

 

「釘崎とやらは知らんが虎杖は駄目だ。宿儺にする。」

「関係ない」

「あ゛ん?」

 

 関係ない、殺す。弟を殺したのだから殺す。

 

「脹相、君にはその二人よりも禪院一樹を優先して欲しいんだけどね。彼女も仇だろう?」

「あくまでもあの女は直接手を下してはいない。優先度は低いな。」

「そうかい。」

 

 俺の弟達の命を奪ったのは虎杖悠仁と釘崎野薔薇だ。禪院一樹はただそこにいて見殺しにしたに過ぎない。夏油傑が共犯者として名前をあげたことにすら疑問があった。

 

 その後、真人の仲裁もあり虎杖の殺害をかけたゲームが開始された。遅れをとるわけにはいかない。俺は真人に続いて階段を駆け上がる。

 

 俺たちの背後で、漏瑚が夏油に呼び止められて何かを指示されていたが、内容は聞こえなかった。

 

 

 

 

 

 

 

視点:禪院真希

 

21:24

 

「通話越しに戦闘の音が聞こえたッス……どうやら、一樹さんと正体不明の呪詛師が交戦してたみたいッスね。」

「伊地知さんとこに一樹もいんのか?」

「あと……正直、信じられないんッスけど……通話越しの一樹さんが言ってたのが聞こえて……」

 

 明さんは瞳を震わせて、酷く動揺しながら告げた。

 

「五条さんが、封印された……らしいっス。」

「は?」

「え?」

「ほげー」

 

 悟が負けることはまずないと思っていた。それなのに、状況がキナ臭くなってるとは思ってはいたが……。

 

「……伊地知さんの所にいる呪詛師は、一樹と"戦闘"になるレベルなんだろ。そんなやつが今渋谷にはいるってことだ。」

 

 渋谷にいる戦力で、おそらく悟に次いでるのは総監部による特級査定中の一樹。その一樹が今手を離せない状況にあるなら、帳の外でも単独行動は危険だ。

 

「……一樹のことだ。生きてりゃどうせ私のところに来る。心配性だからな。来ないとしたら、その時は──死んでる可能性が高いし、それだけの呪詛師が飛び回ってるってことになる。明さんと野薔薇は一樹が来るまで私とジジイの側から離れるな。」

「これは、ちと俺も酒を飲んでばかりはいられないかもしれんなぁ?」

 

 クソ、渋谷で一体何が起こってやがる!

 

 

 

 

 

 

 

視点:禪院一樹

 

 かつての自分の軽率な行いが、今のわたしを責め立てる。わたしの知る原作の渋谷事変は、何がどこで起こるのかを把握するだけでもやっとなほど、各所で複雑に状況が動く章だった。だからこそ、どこで何が起こるのかを把握しているということは大きなアドバンテージだった。

 それを、たった一人の取るに足らない呪詛師を討ったことで崩し、展開を読めなくしてしまった。わたしにはもはや、前世の記憶によるアドバンテージはほとんど残っていないといっても過言ではないかもしれない。

 

「渋谷事変の強敵は……パパ黒、陀艮、漏瑚、宿儺、真人、裏梅、羂索……いや、お兄ちゃんも虎杖くん以外と当たったら洒落にならない!」

 

 ならば、わたしが虎杖悠仁と接触してこれ以上彼を原作の流れから逸らしてはいけない。虎杖悠仁と戦って、お兄ちゃんには存在しない記憶を見てもらわなければ。

 

「なら、やっぱり真希のところに向かうのが最適解だよね。これは私情じゃなく、合理的判断。真希、今行くから!!」

 

 伊地知さんと別れたわたしは独り言を呟きながら、【鵺】で渋谷の空を滑空する。

 

「……は、どこが合理的なのやら。」

 

 吾輩は、自分の思考に失笑しつつ真希を救援しに向かう。吾輩にとって、真希と真依は……絶対に失いたくない大切な存在であるのだから。あの姉妹を、助け損ねたくないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

視点:オガミ婆

 

22:04

 

 帳が上がってしまった。とはいえ、今の孫ならば術師を殺して抑えることはできるだろう。

 

「五条悟はおらんに越したことはない。オマエは下に降りて術師を殺せ。」

 

 儂は孫に命令する。が、孫の反応はない。

 

「孫?」

「ババァ」

 

 その時、心底不愉快そうなドスの効いた声が孫から聞こえてきた。

 

「誰に命令してんだよ。」

 

 孫は、孫ではなくなっていた。強い危機感、焦燥感が身体を包み込む。

 

「どういうことだ…儂はまだ肉体の情報しか降ろしておらん!!」

 

 そう、このような不測の事態を未然に防ぐため、魂の情報は降ろさんと決めている!!

 それなのに──

 

「よく分かんねぇけど、俺の肉体は特別だからな。コイツの魂が俺の肉体に勝てなかったんだろ。」

 

 なんとでもないように禪院甚爾が口にしたのは、"魂が肉体に負ける"などという、信じがたい言葉だった。

 

「そんな……あり得ん!!」

「術師は殺せか……」

 

 一瞬、何が起きたのか分からなかった。ただ一つ事実として存在するのは──

 

「テメェも術師だろ。」

 

 儂の目前に、拳を振りかぶった禪院甚爾がいたことだ。

 

 

 

 

 

 

 

視点:七海建人

 

21:56

 

「……なるほど、わかりました。伊地知君は、このまま高専まで撤退してください。」

「しかし……!」

「ここに来るまでの間、何人もの補助監督が殺されていました。おそらく、先ほど貴方を襲った呪詛師による犯行でしょう。もはや帳外での連絡網の樹立は不可能……禪院さんの式神が無事な間に高専に戻り、本件のことを上に直接伝えてください。」

 

 私は先ほど、伏黒君たちを伊野君に託し、伊地知君と合流して一級術師の権限が必要な要請をするために外に出てきた。

 主な要請は反転術式が使用できる家入さんやその他一級以上の実力者を派遣してもらうことと、周辺住民への避難勧告拡大の申請であったが、既に家入さんはこちらへ向かっており、術師の派遣に関しては手の空いている術師が少ないため派遣は難しいとのことだった。ただし、避難勧告を拡大できただけマシとしよう。これらを12分という短時間でこなせたのも、今の渋谷での切迫した状況を考えれば上出来だ。

 

「七海さんはどうしますか、今の状況」

「帳の中へ戻り、それから伊野くんたちと共に五条さんの奪還に動きます。」

「……ご武運を!」

「ええ、そちらこそ後は頼みます。」

 

 伊地知君を見送り、私は再び帳の中へと向かう。

 

 

 

 

 

 違和感があった。なぜ、禪院一樹はちょうど今日という日に渋谷にいたのか。ハロウィンに興味があったとは言っていたというが、本当にそれだけだろうか。関わりは少ないが、あの人のことは噂には聞いている。大層な酒好きのようだが、伊地知君は彼女がシラフだったと証言している。このハロウィンの祭り騒ぎの中で、だ。

 さらに、禪院一樹はおそらく五条さんの封印を目撃している。伊地知君から聞いた話では、禪院一樹は虎杖君がメカ丸君経由で情報を得てそれを公開するより先に、五条さんの封印を知っていた。そして極め付けは──

 

「──あの時、彼女は地階から【鵺】と【脱兎】を使って飛び出してきた。おそらく、五条さんが封印された渋谷駅の地下五階から。おそらく、封印の現場を目撃している。」

 

 だというのに五条悟の封印解放や回収を諦め、地上へ出てきたのだ。ここから考えられる可能性は二つ。

 一つは、あの禪院一樹であっても戦わずして逃げることを選択するしかなかった状況にあった可能性。しかし、こちらはあまり想定できない。メカ丸君の情報によれば、地下五階にいたのは夏油さんと呪霊たち。禪院一樹の【円鹿】の物量作戦で攻めれば苦戦はすれど、勝てない相手ではないだろう。とはいえ、今補助監督を殺して回っている呪詛師と同レベルの相手が複数控えていたというのなら話は別だが。

 二つ目は、考えたくないが彼女が何らかの理由で五条悟を見殺しにした可能性だ。五条家と禪院家が不仲であることは呪術師の界隈では周知の事実だ。その上、先日五条さんと話した時、「最近の彼女からはさ、な〜んか敵意というか……憎悪を向けられてる気がするんだよね〜」と愚痴っていた。詳しく聞いてみると、彼女の内臓を術式を付与した打撃で潰したり、手足を千切ったり潰したりして反転術式を回させることを訓練と称して繰り返していたらしい。そりゃ、恨まれるだろう。

 

「……まさかな。」

 

 五条悟の封印だけでも危機的状況なのに、禪院一樹までもが我々の敵となれば……もうこの国は終わりも終わりだ。

 だが、伊地知君を助けた以上は少なくとも我々の敵ではないと信じたい。五条さんを見殺しにしたとしても、それは五条さんへの私怨によるものだろうし、彼女はその分しっかり働いてくれるはずだ。

 

「それはそれとして、この件が終わったら問いただして……もしも本当に五条さんを見殺しにしていたというなら、苦言の一つや二つを呈させてもらいましょうか。」

 

 近づいてきた改造人間を前に、ネクタイを外してそれを拳に巻きつけた。

 

 

 

 

 

 

視点:禪院一樹

 

22:20

 

 ……前世の記憶と違う、七海殿がいない。その上、新田嬢と釘崎嬢も帳の外側ではなく内側にいる。

 

 吾輩は先ほど禪院班へと合流した。しかし、状態は前世の記憶のものとは大きく異なる。

 ここに来るまで、数人の補助監督の凍死体や、砕け散った遺体を見てきたことで、新田嬢と釘崎嬢が心配になり少し遠回りして、前世の記憶では七海殿が重面春太と戦闘していた地点へ向かったが、そこには戦闘の形跡も何もなく、不思議に思いつつも真希の元へ向かえば二人は直毘人と真希と共に行動していた。

 いずれにせよ、結果だけ見れば大正解な行動である。

 

「帳の外にいる呪詛師であるが……あれは吾輩でも勝てるか怪しい。ハッタリで追い返したが、今も帳の外で補助監督を殺している可能性が高い。」

「なんで補助監督を……」

「術師に連絡網を作らせないためであろうな。」

 

 さて今の状態でこの二人、それから真希を帳の外に逃すのは果たして正しい選択なのだろうか。吾輩には、とてもそうとは思えない。裏梅に捕捉されて死亡するのが目に見えている。

 

「のう、一樹よ。お前のことだ、どうせこの状況で真希を逃す方法を考えているのだろう。」

「……うむ。ハッキリ言って、真希にはこの戦いは重すぎる。釘崎嬢も同様だ。一級術師で最低レベルとでも言おうか。しかし、どう逃がせというのだ。この状況で。」

 

 禪院家と連絡をとって炳を数人送ってもらったとしても焼け石に水だろう。裏梅相手に戦える可能性のある術師は少ない。

 残っている【悟廟】を預けるという選択肢もあるにはあるのだが、リソース管理の都合上即決できるものではないし、もしも道中で【悟廟】が機嫌を悪くして消滅してしまえば最悪だ。

 

「──伊地知殿には、無下限を使える式神を預けてきた。その式神を真希に渡して、新田嬢含めた三人くっついて離脱してもらうという方法も考えた。だがあの式神は予備も含めて残り二枚だけしか持ってきておらんし、予備まで使えば、呪力の残存量の問題で魔虚羅の召喚も怪しくなる。」

「なら温存しとけ。」

「ちなみにだが、一樹よ。その無下限を使える式神を一体召喚するのに使う呪力量はどの程度だ?」

「【円鹿】8体分……魔虚羅の召喚には吾輩の総呪力の約80%程度を用いるのだが、其奴一体で5%は持っていかれる。あまり多用はできぬ。その上、扱いが難しくてな。最悪の場合離脱前に式神が解除されかねない。」

 

 今の吾輩の残り呪力はおおよそ93%程度。魔虚羅のことを考えれば実質的な使用可能残量は13%である。五条悟との鍛錬で呪力効率を極限まで高めた上でこれなのだ。まったく、六眼によって桁外れの呪力効率を誇る五条悟や、莫大な呪力量を持つ乙骨殿が羨ましい。

 とはいえ呪力量も今より少なく、効率も悪かった昔ならば【円鹿】を8体も召喚すればそれだけで72%(今の呪力量で計算すると48%分に相当する)ほどを消費していた。それだけでも黒閃と扇殿による襲撃、五条悟には感謝せねばなるまい。

 

「うむ。【円鹿】を展開しつつ、ある程度は同行してもらった方が安全か。呪詛師相手なら話は別だが、呪霊相手ならば特級であっても【円鹿】を4体も侍らせておけば数秒で祓える。【魔虚羅】ならば一撃で済むのだが──。」

 

 ふと、吾輩は足を止めた。

 

「そうか。」

 

 吾輩は、【蝦蟇】と【玉犬・黒】の呪符を数枚と、【八握剣異戒神将魔虚羅】の呪符を取り出して眺める。

 

「いやぁ、固定観念に縛られておったわ。魔虚羅は格上相手に出すものだと思い込んでおったが……吾輩は魔虚羅を式神として完全な制御下に置いておったのだったな。」

 

 強敵相手に対して使用して相打ちに持ち込むというのは、式神としての運用ではなく、自爆装置として使用していた伏黒恵の場合の話。

 吾輩はすでに魔虚羅を自身の制御下としており、一度召喚してしまえば、破壊されない限り魔虚羅は残り続ける。敵一体に使用してはい終わりというモノではない。そばに侍らせ、退魔の剣によって真人以外の呪霊を全て祓うために使うという選択肢もあるし、その後で裏梅にぶつけるのもアリだ。

 魔虚羅を破壊できる存在も、今やこの渋谷には羂索と宿儺ぐらいしかおらぬだろうし、割とこの一手は良いかもしれぬ。

 

「さて、問題は召喚後に伊地知殿が再び無防備になってしまうことだが……」

「大問題ッスよ!?」

「大問題じゃねえか。」

「大問題ね。」

「……それもそうであるな。」

「なんだ、喚ばんのか。」

 

 伊地知殿は、真希や真依……それから生徒たちと比べれば優先度は高くない。それでも、吾輩が誘ったら飲み会も来てくれるし、善良な人物でもある。願わくば生きていてもらいたいので、吾輩はしぶしぶ呪符をしまった。

 

「では、【円鹿】4体による行進だ。皆の者、あまり離れすぎるでないぞ。反転術式が届かなくなる。」

 

 吾輩は【円鹿】を4体召喚し、歩き出した。この先に待つ特級呪霊との戦いへと。

 

 

 

 

 

 

視点:禪院直毘人

 

「そういえば、言い忘れていたな。一樹よ。」

「なん……ああ、ほぼ当主内定であることのお祝いであるか?」

「いや、そうじゃない。それに関しては、内定ではなく実際に当主になった時に祝わせてもらおう。」

「じゃあ、なんであるか?」

 

 以前に会った時よりも、立ち姿が凛としている。以前までの呪力量と術式にモノを言わせているだけだった頃とは大きく異なる。もはや、男だった時よりも今の方が術師として優れていると言えよう。

 

「いやなに、直哉との式のことなのだが──」

「ジジイ。気が早ぇぞ。」

「うげ〜セクハラジジイだ!」

 

 後ろを歩く真希と釘崎野薔薇が苦言を呈するが、聞こえないふりをする。

 

「──どんな酒を用意しようか迷っているのだが、希望はあるか?」

「うーむ……強いて言えば辛口の──いや待て、吾輩は真希の言う通り直哉と結婚するつもりはないぞ!」

「おい!一瞬流されかけたよな、オマエ!?」

「一樹先生、緊張感とかないの?」

 

 やはり一樹には酒(コレ)が効く。いくら口では直哉との婚姻を認めないとはいえ、酒を餌にすれば揺らぐ。

 

「ったく、一樹!お前そんなんじゃ当主になっても禪院家を酒のせいで滅ぼすんじゃねえか?」

「な……吾輩のことを何だと思っておるのだ!!」

「酒カス。」

「ぐ……ぬぬ……だが!直毘人と違って吾輩はシラフであるぞ!!ハロウィンを楽しんでいたというのに、周りの皆は飲んでたのに、珍しく、何故か、お酒を飲んでないのだぞ!!」

「じゃなきゃ困るわ。」

「おお、飲むか?」

「の……まないっ!!終わったら飲むのだ!!」

「帰ったら飲むんスか……」

 

 今の此奴はまだ自制が利いている方だ。おおよそ、真希を守るという目的があるお陰で踏み留まれているのだろう。まったく、この酒好きは誰に似たのやら。此奴の父親は酒嫌いな上に下戸であったしな。

 ──さて。

 

「前方に呪──」

「一樹よ、ちと鈍すぎるのではないか?」

 

 発見した呪霊を【投射呪法】で捕捉し、一樹の【円鹿】の群れの方へ蹴り飛ばす。一樹はその意図に気づいたのか、慌てて【円鹿】を真希たちの前に出してそれを受け止めた。

 

「ぶふ──」

 

 呪霊は、【円鹿】4体による反転術式により、数秒でザフッと音を立てて消滅した。

 

「……呪胎であったな。成長していたら厄介だったやもしれん。」

「成程、弱いハズだ。しかし、こうではちと味気ないなぁ?」

「それより直毘人!今ので【円鹿】の耐久が削れたではないか!もっと優しくこちらへ寄越せ!」

「そうだぞジジイ!鹿を虐めるな!」

「別に良いではないか。」

 

 一樹は周囲を気にしていたようだが、他には脅威が何もないと判断したのか一息をついた。

 

「念の為、式神を呪力で補強し直す。下手に削れていたせいで破壊されては敵わん。」

 

 抜かりなく式神の補強を行う姿を見てもやはり、此奴はしっかりしていると言えよう。実力も人柄も当主に相応しい。その上、直哉の嫁にも相応しいだろう。

 だからこそ、家の連中がコソコソと練っている作戦に、俺はあまり良い感情は抱いていない。

 

 "クシナダ作戦"。一樹の当主としての資質を推し量るための、蘭太を始めとした甚壱派が画策している対一樹の計画。この作戦が失敗したならば安心して当主を任せることができるなどと言っていたが、作戦の内容が無粋極まりない。

 しかし、当主を志望する者は何人であっても決闘を認めるとした上、決闘の細かい条件は決めておらぬのだ。これも一つの勝つための戦略として認めることとしている。一樹には、連中の計画が成功した上で叩きのめすぐらいはしてもらいたいところだ。

 

「クックック……」

「おいジジイ!何笑ってんだ!」

「なに、一樹が当主になった後のことを考えておった。直哉ももう良い歳だから、結婚できてよかったなと……」

「縛りは踏み倒すつもりである、直哉の玉は諦めるのだな。」

 

 式神の補強を終えた一樹が、心底うんざりした顔でそう吐き捨てた。

 

 

 

 

 

 

視点:伏黒恵

 

 伊野さんを、既に首都高速三号線の料金所へと到着していた家入さんの元へ送り届けた後、俺は日下部班を目指すか、禪院班を目指すかの選択を迫られた。

 日下部さんのことはよくわからないが、五条先生が強いと言っていたのは聞いたことがある。ならば、真希さんに呪具を渡すためにも、禪院班を目指すべきだ。

 

 そう思い、禪院班がいるであろう場所へ駆けつけるとそこには──

 

「一樹さん、無事だったんですか!」

「……ん?おお、伏黒坊。そっちこそよく無事だったね?氷の呪詛師に遭遇しなかったかの?」

「……補助監督を殺して回った後、姿を消したと伊地知さんから聞いてます。」

「どこへ消えたのかわからないのが怖いところだね。まったく。」

 

 思った以上に何とでもなさそうな顔をして、一樹さんがそこにいた。

 

「真希さん、これを。」

「ハッ……気が効くな。」

 

 真希さんに【遊雲】を渡し、歩きながら状況を共有する。

 

 

 

 

 

 

「なるほどね……ってことは、虎杖は今一人なの?」

「そうだ。死んだら殺すって約束した。」

「はぁ〜……」

 

 釘崎と真希さんは頭を抱えていた。新田さんは「男の子ってそういうところあるッスよねぇ」という顔で呆れていた。

 

「……ここには一級の術師が二人いるんだし。班をここで分けて、虎杖の方へ一部は向かった方がいいんじゃない?」

「ふむ……虎杖悠仁の救援か。」

「なら俺が行くとしよう。俺なら【投射呪法】を使えばすぐに向かうことができる。」

「ではそちらは直毘人に任せるとし──」

 

 その時、一樹さんの背後に人影が見えた気がした。

 

「一樹さんッ!!」

「……あ」

 

 次の瞬間には、人影ごと一樹さんは姿を消していた。【円鹿】は進む足を止めたものの、解除はされていない……まだ一樹さんは生きている、少なくとも意識もある。

 

「俺は一樹さんを助けに戻ります!直毘人さんは三人を──」

「やめておけ、伏黒恵。」

 

 すぐに助けに向かおうとした俺を、直毘人さんが止めた。

 

「何故止め──」

「足手纏いを増やすな。アレ相手では、足手纏いがいれば彼奴でも確実に負ける。無事に戻ってくることを信じて、【円鹿】のそばで待機していろ。」

「……ジジィ、誰だアレは。」

「……フンッ、亡霊だ。」

 

 ふと見た直毘人さんの顔は、焦りと衝撃の色がかすかに見て取れた。

 

 

 

 

 

 

 

視点:禪院一樹

 

「……伏黒坊との情報共有に、時間を使いすぎたようであるな。」

 

 降霊された禪院甚爾の乱入。陀艮戦の終盤で発生する出来事であり、術師たちが苦戦していた陀艮を瞬殺する。

 しかし、今回は陀艮がもういない。そもそも、正史よりも歩を進めた地点での遭遇である。そして……相手に選ばれたのは吾輩だった。伏黒恵ですらない。たぶん魔虚羅のせいだ。

 戦闘の場所も正史で皆が陀艮と戦った場所だ。吾輩だけ連れ戻されたということであるな。早いところ、此奴をなんとかして彼らの元に戻らなくては、いつ漏瑚が来るかもわからぬ。

 

「ハッ……悟殿がナンパに気をつけろと言っていたが……。」

 

 吾輩は、【穢筆】を構えた。

 

「まさか甚爾殿にナンパされるとはな。直哉殿に自慢してやらねば。」

「……。」

 

 伏黒恵との戦闘では、此奴は生前の記憶を取り戻して自死する。だが、無関係の吾輩では自死を期待できない。真っ向から削り切るしかない。

 

 丸腰とはいえ……かつての五条悟を負かした男に、吾輩は勝たねばならないのだ。

 

 

 

 

 





昔の一樹

吾「【円鹿】を召喚するぞ」今の約10倍の呪力ドバァ
直「呪力雑やなぁ」


黒閃後の一樹

吾「ロスを抑えて【円鹿】を召喚するぞ」今の約3倍の呪力ドバァ
悟「うっわ……」


五条悟スパルタ教室後の一樹

吾「ど、どうであるか……さ、悟殿……?」今の呪力消費量
悟「まぁ、これ以上は六眼でもなければ無理か。おつかれ。」





今回の裏で起きてたこと

虎杖・伏黒vs粟坂 決着
→原作通り

イノタクvs孫 決着
→原作通り

冥冥vs色々 決着
→原作通り

脹相vs虎杖 決着
→原作通り

七海建人、渋谷駅構内へ
→次回かその次で深掘り







次回、
渋谷事変-躍動-

アッチ側へ、手を掛ける。
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