禪院家に強術式の男として生まれても詰むことあるんだ……   作:ある日の残り香

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原作を読み直すところから始まった。
渋谷事変〜人外魔境新宿決戦は何度も読み返してるけど、序盤はかなり忘却の彼方にいる。

そういうわけで、描写の矛盾とかあったらごめんなさいね。


 
 


第二話【姉妹校交流会-花-】

 

「故人の虎杖悠仁君でぇーっす!!」

「はい!!おっぱっぴー!!」

 

 空気が凍る瞬間というものは、居心地が悪いものである。特に、誰かを笑わせようと用意したモノが受けず、それどころか変な空気を生み出してしまった者と、その周囲の者たちの放つ負のオーラは吾輩にとっては耐え難いものであった。前世の記憶で知っていたとはいえ、漫画という媒体で上の次元から笑いながら読むのと、その場にいるのとでは文脈が全く異なるものである。

 

 吾輩は五条悟のはからいで此度、ついに主人公である虎杖悠仁くんと顔を合わせた(否、一方的に顔を見た)のだった。護衛対象のようなものであるため、顔くらいは覚えておけとのことだった。吾輩は面で顔を隠し、五条悟の付き人としてそばに控えている。

 両校の顔合わせと、交流会のルール説明が終わるとそれぞれが作戦を練るためにはけていった。

 

「輝かしい少年であったなぁ……」

「でしょ?」

 

 漫画で読んだ以上に彼は底抜けの根明であり、そばにいるだけで心が浄化されるような感覚さえあった。

 

「ところで僕、歌姫と内緒で話すことあるんだよね。少し席を外してもらっていいかな?」

「うむ、それでは吾輩はそのあたりで絵でも描いていよう。」

「サンキュー!」

 

 このタイミングならば、おそらく内通者探しの依頼だろう。吾輩に話せないところを見るに、まだ吾輩は信用されていないのだろう。無理もない。それどころか吾輩は禪院家の術師で、七海殿さえ危機的状況に陥るほどの呪霊と遭遇して五体満足で帰ってきている。十二分に疑わしい。おそらく、手元に置かれているのも監視なのだろう。

 

 思い返してみれば、吾輩は五条悟とは直哉殿ほどではないが顔を合わせる機会があったとはいえ、吾輩の人となりまでは知られていない。知られているのも、術式のことぐらいなのではないだろうか。あとは真希伝いで話を聞いているならば、それぐらいか。

 そう考えると、吾輩だけが一方的に五条悟のことを知っており、少し不公平であるなとふと思う。

 今後のことを考えれば、主人公陣営についていた方が生存率は高い。そうであるならば、彼らとは良好な関係を築きたいのは自然なことだ。そのためには、生徒たちに近づいても問題ない程度に五条悟からの信頼を得るべきだろう。

 お互いを知ること、それが信頼獲得の条件。なれば、交流会終了後に飲み会でも──と、五条悟は下戸であった。この手は使えない。

 

 吾輩が考え込んでいると、五条悟が話を終えたのか吾輩を呼びに来た。

 

「おまたせー……ん、それ──」

「あ」

 

 五条悟のことを考えていたせいか、気づけば吾輩は五条悟を描いていた。漫画の五条悟を。

 

「え、僕じゃん」

「……欲しいなら差し上げても構わんが」

「えー!うれしー!生徒からもまだ貰ったことないんだよ、似顔絵!」

 

 喜ぶ彼をみて、吾輩は漫画の五条悟を思い出す。

 

 "でも「花に自分をわかってほしい」なんて思わないだろ"

 

 それは、五条悟なりの愛であったが、どこまでも悲しい線引きだった。五条悟は、周囲の人々を愛している。だがその愛は、割れ物を扱うかのような、赤子に触れるかのような、そして花を愛でるような愛であった。彼にとって、周囲のもの全ては儚く脆い存在であり、いつ失うかもわからない者たちなのである。

 始まりは、おそらく夏油傑との決別なのだろう。最強だから五条悟なのか、五条悟だから最強なのか。それが彼に線引きを作らせた。故に彼は強さの責任を伴侶とし、一つ上の世界から人々を俯瞰した。普く守るために。

 

「……悟殿は、なぜ教師になったのだ?」

 

 吾輩は知っている。その答えを。

 

「強く聡い仲間を育てるためさ。」

 

 ある王子がいた。王子は一輪の花を愛した。だが、やがて旅先で同じ花が数多に生けられた光景を目にし、強い衝撃を受けた。

 だが最後には、悟ったのだ。自分が真に愛したのは、自分が故郷に置いてきてしまった一輪の花だったのだと。

 蛇の毒牙で王子は還った。自分の故郷へ、一輪の花の元へ。看取った者に、祝福と福音を残して。

 

「貴殿はおそらく、花園の花すべてを等しく愛することができるのだろうな。ただ、故郷の花が一輪恋しく思えるだけで。」

「ごめん、詩的すぎてわからないかも」

 

 程なくして吾輩と五条悟は、実況席とも言える部屋へと入室した。

 

 

 

 

 

 これ、吾輩がすべきことはあるだろうか。

 

 吾輩は虎杖悠仁の殺害を妨害するために、五条悟の付き人を装ってここにいるはず。だが、そもそも前世の記憶からして吾輩がここで介入すべきポイントはない。

 虎杖悠仁の暗殺は、東堂葵の暴走によって妨害される。それ以降、東堂によって虎杖悠仁は殻を破るためのイニシエーションを経ることとなる。下手に干渉して、それを阻害した場合未来で詰む恐れがある。

 そういった前世の知識を生かした判断以外でも、そもそも画面が見えなくなったりしているにも拘わらず五条悟からのなんらかの指示もなければ、それらしい符牒もないのだ。

 となると、吾輩を自由に泳がせたくがないが故の首輪か。吾輩は腐っても特別一級術師、その上、高度の式神使いでもある。もしも吾輩が内通者であれば五条悟であっても居場所がわからない状態からのよーいドンでは不安要素が生まれる。故に警戒されているのだろうが、早いところ信頼を勝ち取りたいところだ。

 

「ところで……」

 

 先程まで五条悟と話していた一級術師、冥冥が吾輩の方を見て口を開く。

 

「彼女は一体何者かな?」

「僕の付き人さ。悠仁を殺されたりしないように護衛として雇ってる。ほら、自己紹介!」

「……。」

 

 自己紹介……?

 五条悟、吾輩たちは偽名などの打ち合わせをしていなかったと記憶しておるのだが。なぜそのような無茶振りを──

 そう思い、彼の顔を見れば口角が上がっている。つまり、わざとである。こういったところが部下などから嫌われる遠因なのではなかろうか。

 

「わがは……こほん。私は河野万里子であ……です!」

 

 うむ、普段の口調も隠せた。名前は暇つぶしに持ち込み、今読んでいた本の訳者からとった。完璧である。

 ……む?全員の顔が微妙であるな?おかしい、完璧に擬態できているはずだが。

 

「すまないけど、お面を取ってもらってもいいかな?」

「それはできませぬ……あっ、できません。」

「……。」

 

 うむ、怪しまれておる。吾輩が同じ立場であったとしても、顔を隠したものは心理的に信用し難いものであるから当然のことであるのだが。

 

「……悟、信頼できるのか?」

「いや、できないけど?」

 

 ──このような状況なのだから貴殿だけでも味方してくれないだろうか。そう愚痴りたくなる気持ちを抑え、吾輩はため息をひとつついた。

 

「……面を、取れば良いのだな。」

 

 吾輩は面に手をかけた。

 

 始めから五条悟は、吾輩の正体を隠すことに協力するつもりはなかったのだと今になって悟った。おそらく、吾輩の顔を見た反応で吾輩が内通者であるのか、そしてこの部屋に内通者がいるのか否かをはかりたいのだろう。

 

 吾輩は面を取り払い、その顔を晒した。

 

「禪院家か。」

「違います。」

「や、禪院家だよ。術式も相伝。」

「……悟殿、約束が違うではありませぬか。」

 

 吾輩が批難の眼差しを五条悟に向けるが、彼は吾輩以外の者たちに視線を向けていた。やはり、吾輩をリトマス試験紙代わりか何かとして用いようとしたのだろう。

 

「ごめんごめん。でも名前だけはまだ言わないでおくし、禪院家に引き渡したりもしない。」

「禪院一樹だろう──その特徴的な喋り方。」

 

 冥冥がピシャリと言い当てた。もう詰みである。

 

「しまった……面を取ったことで気が抜けて──」

「いや、それ以前から大分喋り方漏れてたよ。」

 

 そんなはずはない。吾輩はうまく擬態できていたはずであろう。

 

「ちょっと待って……禪院一樹って男よね?」

 

 歌姫が当然の疑問を口にする。

 

「そうなんだよね。でも彼女は間違いなく禪院一樹だ。僕の六眼が彼女の術式が【鳥獣戯画法術】であることを証明している。本人から聞いたところ、ツギハギの呪霊にやられたらしい。」

「彼奴に触れられ、術式が発動したことで吾輩はこのような姿になってしもうた。今の吾輩が禪院家に帰っても、碌な目には遭わぬ……そう思い高専内に潜伏していたのだが、そこを悟殿に見つかってしもてな。」

 

 諦めた吾輩は全てを白状した。せめてここにいる連中だけでも口止めできれば、少しは──

 

「そこなんだよね……だって考えても見てよ。ツギハギの呪霊は、特級呪霊で、なおかつこれまでは犠牲者を改造人間に変えている。それなのに、わざわざ女にするだけで生かして返すなんておかしい……だから内通者なんじゃないかと疑ってたんだけど……」

「疑われておったのか……そも、人間が呪霊と手を組むわけがなかろうて。」

「んー……」

 

 五条悟は何かを考え始めた。吾輩は「とりあえずここで見聞きしたことは内密に」と周囲に釘を刺しはしたものの、良心よりも金で動く冥冥と、保守派の楽巖寺学長はこれを黙っていられるだろうか。

 

「──ところで悟殿、吾輩と貴殿の約束は今ここで破綻したと考えてよろしいか?吾輩にもう、虎杖悠仁を護衛する理由はなかろう。」

 

 もういい。吾輩は真人を探して身体を元に戻してもらおう。その上で手が余ったならば虎杖悠仁はじめとした高専メンバーを援護するとしようか。

 姉妹校交流会編にも、真人は登場している。これから起こる騒動の隙に術師を複数名殺害しつつ、【両面宿儺の指】と【呪胎九相図】を回収するのだ。その過程で相対し、縛りでもなんでも結んで元に戻してもらおう。そちら方面には主要キャラはいないため、原作が大きくズレることは……いや、もし仮に真人が呪物回収をせずに撤退した場合、お兄ちゃんがいなくなる。すると、人外魔境新宿決戦編で詰んでしまう。うむ。それはとても困るが、そもそも人外魔境新宿決戦編を勃発させなければ良いだけのこと。

 うむ、真人との接触をはかるのが吾輩にとっては良さそうだ。先に不義理を働いたのは五条悟だ。吾輩は少しばかり我欲に走っても構わないだろう。

 五条悟は相変わらず考え込むばかりで口を開かない。

 

「それでは失礼する、悟ど──」

 

 吾輩が部屋を去ろうとした時、壁の札がすべて除かれた。呪霊たちが祓われたのだ。

 

「団体戦終了……?しかも全部東京校!!」

「……東京側が祓ったわけではなさそうであるな。」

「ああ、妙だな。烏達が誰も何も見ていない。」

 

 始まってしまった。

 

「未登録の呪力でも札は赤く燃える。」

「外部の人間…侵入者ってことですか?」

「天元様の結界が機能してないってこと?」

「外部であろうと内部であろうと、不測の事態には変わるまい。」

 

 だがチャンスだ。ここで吾輩が真人が向かうであろう場所へ向かえれば、目的は達成できる。理由は「宿儺の指を狙っている可能性がある」だのなんだのと言い、そこに加えて「指にマーキングされたのではないか?」などと言えば押し切れるであろう。

 

「俺は天元様の所に。悟は楽巖寺学長と学生の保護を。冥はここで区画内の学生の位置を特定。悟達に逐一報告してくれ。」

「委細承知。賞与期待してますよ。」

「吾輩は──」

「君はこっち。」

 

 ヒョイと身体を持ち上げられ、吾輩は突然のことに混乱する。吾輩の用意したセリフは全てこの脳内混乱によりすべて消し飛んでしもうた。

 

「ほらお爺ちゃん散歩の時間ですよ!!昼ごはんはさっき食べたでしょ!!」

「悟殿、なぜ吾輩を掴んで離さぬのだ?」

「急ぎましょう。」

 

 吾輩は結局、五条悟と行動を共にすることになった。

 

 

 

 

 

 

 下ろされた帳は、前世での知識同様「五条悟の侵入を拒む代わりにその他全ての者が出入り可能な嘱託式の帷」であった。

 一先ず歌姫庵と楽巖寺学長を見送った吾輩は、五条悟と相談の時間を取った。

 

「悟殿、吾輩はどちらに同行すれば良いのだ?」

「迷うところだね、正直。はっきり言うと、僕はまだ君を信用できていない。だから、僕の手が届かない帷の内側に送ることには消極的だ。かといって、君の実力は知っている。帷の中に入れることで、生徒を救うってことに関しては安定感が増すだろうね。君が味方なら。敵なら目も当てられない。」

 

 正直なところ、問答無用で帷の中に送り込まれるかと思っていたため、これは僥倖である。五条悟に同行しつつ、五条悟を真人の方へ誘導すれば上手くいけば宿儺の指回収も遅滞させたうえに、吾輩は男の身体に戻れるやもしれん。

 

「ならば吾輩は貴殿に付いておこう。今後禪院家の者が来た時、貴殿の後ろ盾がなければ凌げるかわからん。その時のためにも貴殿からの信頼を得て、その上で貸しでも作れれば良しといったところか。」

「……そっか。」

 

 うむ、吾輩の望み通りな展開になりそ──

 

「今の言葉で君のことを信じた。生徒を頼むよ!」

「え、は?」

 

 五条悟は吾輩を引っ掴むと、とばりの中へ投げ込んだ。




 
 禪院一樹は五条悟の花ではなかった。別に目につけば直ちに引き抜いて捨てるような雑草でもなかったが、自分の花にとって悪影響を及ぼすのならば抜くこともやむなしといった野草である。
 
 過去形である。




装備呪具:撫骨(2級呪具)
ブコツ。形状は長い針のよう。組成はリン酸カルシウム多め。貫通力に優れ、射程も槍ほど取り回しが悪くないため、接近戦でも扱える。
しかし、槍のようなリーチもなければ、突き以外の攻撃手段がないため、実用性は刀の方が良い。
呪力含有量が多いため、呪力がない者や少ない者にとっては有難い。




前作以上に見切り発車かつ、プロットも何も考えてなければ、着地点も決まっていません。
終わりかもです。
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