禪院家に強術式の男として生まれても詰むことあるんだ……   作:ある日の残り香

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覆滅:完全に滅びてしまうこと。あるいは滅ぼすこと。









第二十話【渋谷事変-覆滅-】

 

 最初に湧き出したのは後悔だった。

 

 なんで、渋谷事変を止められたのに起こしちゃったんだろうって。

 

 伏黒津美紀って、わたしにとってそこまでして助けたい存在だったかなって。

 

 五条悟への私怨も馬鹿らしく思えてきた。封印を見過ごすのは流石にやりすぎたかもって、今更反省しても遅いんだろうけど……それでも反省している。

 

 嫌だ。まだ……。

 

 まだ、死にたくない。

 

 

 

 

 

 

 

視点:禪院直毘人

 

22:59

 

 火山の呪霊を追いかけた先で見たものは、焼かれ、未だに火が消えておらぬ七海一級術師と、高校生ほどの呪詛師二人、そして、片腕をなくした火山頭の呪霊。最後に──

 

「冗談だろう。」

「こうもわらわらと集まって来ては、気分も良くないものだ。動くなよ、老骨。動けば切る。」

 

 呪いの王、両面宿儺。

 

 宿儺は自身の復活に寄与した呪詛師と呪霊に褒美を取らせると言いながら、不愉快だとして呪詛師は殺した。まさに傲慢、まさに天災。

 

「次はオマエだ、呪霊。何の用だ。」

「用は……ない!!」

 

 俺は今、どうするべきか考えていた。この呪霊と宿儺がお互いに意識を向けているうちに攻撃するか、逃走するか。前者はないだろう。殺されて終わりだ。ならば後者を選ぶか?いやいや、こちらも期待値は薄い。

 そんなことを考えているうちに、呪霊と宿儺の交渉は終わりかけていた。俺も老いた。咄嗟の判断ができない。

 

「指の礼だ。かかって来──」

 

 その時、地上で尋常じゃないほどの呪力の起こりがあった。

 

「──話が変わった。去ね。」

 

 目の前で細切れになった呪霊。そして、宿儺は俺の方にも手を払い、術式を発動させた。なんとかギリギリのところで【落花の情】を発動するも出力で押し負け、致命傷を負った。

 宿儺は無様に倒れ伏した俺には見向きもせず、トドメも刺さずに地上へ向かったようだった。

 

「ハッ……化け物め。」

 

 先ほどの呪力の起こり、あれはおそらく一樹の魔虚羅だ。宿儺はきっと、一樹の元へ向かった。

 

 一樹はたしかに、今や「炳」の中では直哉を越え筆頭。さらには特級認定のための査定が行われている実力者だ。それでも、呪いの王相手では分が悪すぎる。なにせ、一樹の特級認定の主な根拠は魔虚羅の使役や、式神による軍隊の保有であり、本人の戦闘能力はそこのオマケとして考慮されているだけだ。

 

「……どうか、生き…延びろよ……一樹。」

 

 俺は祈るように呟き、目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

視点:宿儺

 

「──やはりな。八岐大蛇に近いモノだな。」

 

 絵描きの女が喚び出した式神は、二撃目で全てに対応してくる。正確には、背後の法陣が回転した後にだ。

 

 かつて少年院で戦った伏黒恵の唱えた呪詞……布瑠の言とあの法陣は完全な循環と調和を意味する。推し量るにこの式神の能力はあらゆる事象への適応。最強の後出し虫拳。

 あの時の俺なら、敗れていたかもしれんな。力もろくに戻っておらず、心臓も欠いていたあの時の俺ならば。

 

「…ケヒッ!クックックッ……余計に楽しみになったぞ、伏黒恵!!」

 

 掌印を組む。

 

「領域展開【伏魔御厨子】」

 

 俺の閉じない領域は、相手に逃げ道を与えるという縛りによって必中効果範囲が底上げされている。が、伏黒恵や術者であるあの女を巻き込んでは興醒めだ。効果範囲は半径140m程度に絞る。

 

 おそらく、魔虚羅を破る唯一の手段は、「初見の技にて適応前に屠る」こと。【捌】はその条件を満たしているが、適応が【解】ではなく斬撃そのものに行われた場合はその限りではない。

 

 視線を向ければやはり、魔虚羅は再生を始めていた。

 

 ならば、残された手段は──

 

「【(カミノ)】────(フーガ)。」

 

 【解】と【捌】の調理工程を経て初めて【竈】の扉は開く。【竈】の炎は火力に対して速度がなく、効果範囲が狭い。故に、これらを解決するために俺は一つの縛りを付与した。

 それが、「領域展開中を除く多対一での【竈】の実行禁止」。この縛りによって領域【伏魔御厨子】の術式を拡張……粉塵化した全ての物質が【竈】と同様の爆発性の呪力を帯びる。

 これらにより、【竈】は領域内の生物を確実に死に至らしめる。文字通りの必殺の術と化す。

 

 魔虚羅を一撃で葬り去れるであろう、俺の最終奥義だ。

 

 渋谷の夜を、俺の炎が赤く照らす。

 

 

 

 

 

 

 

視点:禪院一樹

 

「絵描きの女、良い作品だった。評価してやろう──」

「……は、はは」

「甲乙丙丁で評価するならば、乙と言ったところか。真ではないものの、それに迫るだけの贋作だった。」

 

 魔虚羅は、宿儺に敗北した。それは原作の知識で知っているものと一切変わりようのない事実。魔虚羅は、【伏魔御厨子】後の【竈】を耐えられないのだ。事前に炎と爆発に適応しておければ話は変わったのだろうが、その場合呪いの王がただ敗北を受け入れるとは思えない。なんらかの突破口を見つけ、原作よりも強化されてしまう可能性があった。その上、わたしもそのまま処理されるだけだろう。

 そうなって残された皆が苦労して、最悪の場合死ぬくらいなら……わたしの命を大人しく差し出して終わらせたほうが……きっといい。

 

「それで、貴殿は吾輩を殺すのだろう。」

「そうだが……小僧に後悔させるならば、泣き喚かせてなんぼだろう。」

「残念だが、吾輩は──」

「ああ、痛覚が麻痺しているのであろう?知っている。でなければ、足がそのようになって涼しい顔をしていられるわけがないからな。お前のような程度の術師が。」

 

 反転術式で足を再生させるだけの時間は稼げなかった。あと60秒。いや、あと40秒でもあれば話は別だっただろう。まだ組織を少々構成できた程度だ。呪いの王から逃げられる程は回復していない。

 

「ほれ、治してやる。」

「……は?」

 

 宿儺の手から、白っぽくて温かい正のエネルギー……反転術式が注がれる。わたしの足は元通りの綺麗な状態へと回帰した。それだけじゃなく、身体中の細かい傷も癒えている。

 

「な、なぜ……」

「すぐにわかる。」

 

 間をおかずに宿儺が指を弾くと同時に、【解】が私の腕を切りつけた。領域展開直後なのに術式が焼き切れていないのかなど、さまざまな疑問が脳裏をよぎったが、それよりも先にわたしは身体を動かしていた。そうして【穢筆】を使って【落花の情】を反射的に発動させたにも拘らず、熱を帯びたような痛みが脳まで届いた。

 

「い゛だっ……!?」

 

 何故、何故痛みを感じるのか。五条悟との猛特訓で、わたしは痛みを感じなくなったはずだった。カランと音を立てて、【穢筆】が地面を転がる。

 

「ケヒッ──せっかく俺がこの手で治してやったのだ……久しぶりの痛み、存分に味わうといい。」

「まっ……」

 

 ──宿儺によって再生された神経によって痛覚が、久方ぶりにわたしの脳まで信号を届けた。宿儺が斬撃を飛ばすたびに、わたしは悲鳴を上げる。

 少しでもダメージを軽減するためにも【落花の情】を発動しようと、先ほどの痛みで取り落としてしまった【穢筆】を取ろうと手を伸ばすも、その手を切り飛ばされる。

 

「実に哀れだな。ただ麻痺していただけだというのに、痛みを克服したと勘違いしていた末路がこれだ。五条悟は教えなかったのか?あくまでも忘れさせていただけであると。」

 

 腕に、足に、脇腹に、首に、胸元に。斬撃が絶えず飛ばされる。

 

「あ゛ゃ……っぐ!?み゛…ぎゃ……っ」

「小僧、見ろ。これがこの女の本性だ。お前はこの女を頼りになる術師だと思っていたようだが、中身はただの女。それも、こうして泣き喚くことしかできない弱者だ。」

「ゆ……てくだざい゛……ゆるじで……っ!」

「ハハハハハッ!見ろ!情けなく許しを乞い始めたぞ!!」

「あ……ち゛が…ぅぁ゛っ」

 

 ゲラゲラと笑いながら、死なない程度に宿儺が斬撃をわたしへ飛ばす。意図的に苦しめるように、手加減されている。切り刻み、刻み過ぎれば反転術式で治癒しては切り刻みを繰り返した。

 

「い゛だっ…いぃ……ぅ、う゛ぅぁ゛……っ」

「ほら、頑張れ頑張れ。まだまだ序の口だぞ?」

「い゛だどりく…ん゛っ……!はや゛ぐ…もどっ……ぐぁ゛っ」

 

 痛い。痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。

 

 その苦しみのループが、数分の間続いた。

 

 

 

 

 

 

 永遠に思えたその苦痛ののち、斬撃が止まると、わたしは水溜りの上に仰向けで倒れていた。わたしの身体から漏れ出した血液による水溜り。それが、わたしの着物と肌を赤く汚していた。

 何故止まったのか、助かったのか。わたしは宿儺の方へ、虎杖くんの方へと視線を向けた。しかし、その顔はいまだに宿儺のもの。嗜虐心に満たされた邪悪な顔だった。

 

「おっと……そろそろか。よく鳴る玩具だった。小僧程度のために壊してしまうのは少々惜しいが、仕方ない。」

 

 宿儺がゆっくりとわたしへ歩み寄る。わざと、恐怖を刻みつけるようにゆっくりと歩み寄る。

 

「──茂井さん……助けて……。」

 

 自然と、口から漏れた言葉。わたしだけが知る名前。禪院一樹は知らなかった名前。

 

 わたしは強く目を閉じる。

 

 最後に正体不明の浮遊感を感じて、そのまま意識が闇に落ちて行く。

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど。ようやくわかった。吾輩は、彼を模して作られたのか。」

 

 ふと聞こえた、どこか聞き慣れた男の声に顔をあげた。

 

 気づくと、そこは渋谷ではなく、何枚もの肖像画が赤い水溜りの上に浮かぶ空間だった。空間の中心部にはイーゼルと椅子があり、その椅子には男が一人座っていた。

 

「誰……?」

「吾輩か?吾輩は真人とやらによって貴殿が曝け出されるまで、この身体の外郭を担っていた……まあ、いわば肉体の情報だな。今や、貴殿の目元と自我くらいにしか影響を及ぼすことのない仄かな残滓よ。術式は吾輩のものであるがね。」

「……いや、だいぶ表に出てるよね?」

「貴殿よりもソトヅラがいいのでな。」

 

 振り向いた男の顔は、かつてわたしが何度も鏡で見た禪院一樹のものだった。よく見れば、うっすらと透けている。

 

「ここは貴殿の生得領域だ。そして吾輩の生得領域だ。全ての視線が、憎悪と軽蔑をもって交差するアトリエである。」

 

 生得領域……虎杖くんが宿儺と縛りを結んだところか。たしか全ての術師が持ってる心象風景みたいなモノだよね。

 

「わたし、死んだの?」

「生きている、が……気を失ったな。伏黒坊には感謝するといい。彼奴の【鵺】によって戦線を離脱中である。」

「……虎杖くんは?」

「宿儺から肉体の主導権を取り戻した。その心中は推し量れんが……耐え難いだろうな。貴殿の記憶から読み解いた彼とほとんど相違ないが、顔見知りをゲラゲラと笑いながら切り刻んだ記憶がある分、より酷いやもしれぬ。」

 

 わたしの軽率さが、虎杖くんを余計に傷つけてしまった。

 

「しばらくここで休め。その間現実では気絶したままだが、傷ついた魂を癒すにはここが最適だろう。」

「……そうさせてもらうね。なんかここ、懐かしい感じがするし。」

 

 髪の毛をかきあげ、キャンバスに筆を走らせる禪院一樹を眺めながら、わたしはしばらくぼんやりと休むこととした。

 

「……ねえ。」

「なんだ?」

「なんで、その人の絵を描くの?何枚も、何枚も。」

 

 この領域内に浮かぶ全ての肖像画は、全て同じ人物を描いていた。

 

 黒い髪で、儚げな目をした少女。顔は似ていないのに、雰囲気はどことなく真依に似ている。そして、目元以外はわたしによく似ていた。

 

「これは貴殿の顔である、田中静華。」

「わたしの……顔。」

「もはや、記憶も薄れていただろう?」

 

 言われてみれば、わたしは前世の自分の顔が思い出せない。

 

「こうして見ると、今の貴殿の姿は前世の姿にそっくりであるな。目元は吾輩の……禪院の血を感じるが。」

「……ねえ。あなたは誰なの?」

 

 そうやって、穏やかに笑う顔がどうしても茂井さんと重なる。

 

「先ほどの答えでは満足していないのだな。」

「うん。」

 

 彼はしばらく考え込むと、「あくまで推察だが」と前置きして話し始める。

 

「吾輩はきっと、贋作だ。元となった人物の後悔、その代償行為を遂行するためにこの世界に産み落とされた器。模造された救済者なのだろう。」

「贋作……。」

「そこになんの因果か、本来はあるべき魂とは別のものが中に入ったのだよ。それが貴殿である。おかげで、肉体の吾輩と魂である貴殿はそれぞれが個別の存在としてこの生得領域内に分たれて存在することとなった。」

「……そして、真人の【無為転変】によって外郭であるあなたが破壊されて、あなたを羽織ったわたしが表に出た、と。」

「うむ。吾輩を羽織るというのは面白い表現であるな。だが、適切ではない。元より吾輩の中には貴殿もいたのだ。微睡んでいただけで。」

「どういうこと?」

「最近ようやく本格的に目を覚ましただけで、昔から禪院一樹は吾輩であり、貴殿でもあったのだ。特に、吾輩が酔った時などはな。」

 

 カラカラと笑いながら、彼は絵を描き進めていた。

 

「──おや、目を覚ますようだぞ。貴殿は、ここでの出来事は忘れるだろう。だがそれでいい。肉体と魂のズレを知覚すればするほど、吾輩は消滅に近づいていく。基本的には、魂のほうが肉体よりも強いのだからな。」

「……そっか。消えないで欲しいから、ちゃんと忘れるよ。」

 

 ふわりと温かい風に包まれて、わたしの意識は浮上する。

 

 

 

 

 

 

 

視点:伏黒恵

 

「一樹さんっ!!」

 

 妙な胸騒ぎがして、宿儺が向かった先へ【鵺】を放ったところ、ギリギリのところで一樹さんを救出することに成功した。

 

「怪我は酷いが……四肢は繋がってる。家入さんのところへ……」

 

 【鵺】から一樹さんを受け止め、横抱きで走り出した俺の前に、突如飛び出してきた呪霊が立ちはだかった。

 

「クソ……特級か。」

「何オマエ……って、いいもの持ってるじゃん。ソレ置いて行くなら、見逃してやってもいいよ?」

 

 呪霊を観察する。人型でツギハギ……一樹さんを襲った呪霊であり、虎杖の因縁の相手でもある呪霊だ。

 その呪霊が指差したソレ……一樹さんのことだろうな。渡せばどうなるかなんて、火を見るより明らかだ。渡すわけがない。

 だがたしか、報告によればこいつには通常の攻撃は通らないんだったな。少し前までの俺なら相性最悪だっただろう。だが──

 

「……呪霊なら、これで相手してやるよ。」

 

 俺は、かつての一樹さんからの提案を呑んでいた。即ち、魔虚羅の運用封印の縛りだ。それにより、俺の呪力量と出力はそこらの一級術師と比較しても高水準なレベルにまで達していた。

 故に当然、かつての自分ならば苦心したであろうレベルの調伏の儀もいくつかはこなせている。

 

「──【円鹿】!」

「ゲッ……!?」

 

 反転術式を扱える式神、【円鹿】。正真正銘の【十種影法術】の式神だ。この式神の召喚に、俺は通常よりも多めに呪力を注ぎ込んだ。

 一樹さんの術式では、描いた呪符の器によって消費呪力が一定だが、【十種影法術】は違う。莫大な呪力量で補助すれば、式神はより強大な存在へと変貌する。

 

 【円鹿】が、反転術式の正のエネルギーを目の前の呪霊に放出する。すると、思ったよりもあっけなくその呪霊は消失した。

 

「……呆気なさすぎる。分身かなんかだったのか?」

「ん…ぅ……」

 

 式神の反転術式に当てられたおかげか、一樹さんも目を覚ましたようだ。彼女はしばらく周囲をぼんやりと見回すと、俺の顔をじっと見て固まった。

 

「おはようございます。一樹さん。」

「……ふ、伏黒坊!?な、何故吾輩は貴殿にお、お姫様抱っこされておるのだ?」

「宿儺に殺されかけているところを助けたんですよ。文句言わないでください。」

「わ、吾輩はも、もう歩けるから降ろしてくれて良いのだぞ!」

「降ろしません。どうせ歩けないでしょうし。」

 

 緊張感のない人だ。そう思って、横抱きのまま家入さんの所を目指した。虎杖のことは気がかりだが、呪力切れのこの人ももうこれ以上前線で戦わせるわけにはいかない。まずはこの人を一旦退げなければ。

 

「一樹さん、アンタはもうこれでリタイアです。呪力残ってないでしょ。」

「……うむ、すっからかんであるな。【穢筆】も落としてきてしもうた。なかなかに使い勝手の良い呪具であったし、正直取りに戻りたいが……仮に虎杖悠仁がまだ、す、宿儺だったらと思うと、な……」

「……そうですか。」

 

 腕の中の一樹さんは小さく震えていた。五条先生のスパルタ指導後と似たような状態だ。それほど、宿儺には酷い目に遭わされたのだろう。今も俺の【円鹿】の反転術式で治療しているとはいえ、ところどころ痛々しい傷が見えている。着物もボロボロで……

 

「……。」

「伏黒坊?」

 

 俺は一度一樹さんを降ろすと学ランを脱ぎ、それを一樹さんに被せた。今更であるが、目のやり場に困ったからだ。

 

「……伏黒坊、さてはむっつりであるな?」

「シバきますよ。それと、今はそんなことはどうでもいいでしょう。」

 

 俺は振り向いて、宿儺の領域展開と詳細不明の炎の術式によって更地となった渋谷の街を眺めた。多くの命が失われただろう。そこには初めから建物も何もなかったかのような平らな土地が広がっている。

 

「……俺は、虎杖を助けたことを後悔していません。だから、この結果は俺の責任です。どうか、虎杖を恨まないでください。」

「う、恨まんよ。虎杖悠仁も、貴殿も。ただ、この身体に染みついた恐怖は……そう簡単には晴れぬだろうな。」

 

 前髪で隠れた一樹さんの表情は、俺の目にはよく見えなかった。

 

「それじゃ、また運ぶんで……」

「だ、だから!吾輩は歩けると言っておろう!歳下にあのような運ばれ方をするのは気分があまり良くないのだ!」

「変なところでプライドあるんですね。」

 

 一樹さんが歩けるというのでしばらく様子を見たが、足が震えていて見ていられなかったので、結局俺が横抱きして家入さんの元へ運んだ。

 

 

 

 

 

 

 

視点:虎杖悠仁

 

23:14

 

 目の前に広がる光景を、信じたくなかった。文字通り目を疑った。

 

 視界に広がるのは更地。文字通り何もない空白地帯。だが、そこには元は建物がひしめいていて、人々がいたはずだ。

 

 次いで脳内に浮かぶのは、俺が殺した人々の姿。切り裂かれていく見知らぬ人たち、領域に巻き込まれた人たち。そして──

 

 

 

 

「い゛だっ…いぃ……ぅ、う゛ぅぁ゛……っ」

「ほら、頑張れ頑張れ。まだまだ序の口だぞ?」

「い゛だどりく…ん゛っ……!はや゛ぐ…もどっ……ぐぁ゛っ」

 

 

 

 

 拷問のように斬撃を受け、涙目になりながら苦痛に喘ぎ、泣き叫ぶように助けを求めていたイッツーの姿。

 

 ふと足元に視線を落とせば、彼女から流れ出た血溜まりが俺の顔を映していた。

 

「う──」

 

 胸の奥から迫り出してくる不快感を吐き出す。ビチャと地面に吐き出される。

 

 思い出すのは、かつての「なんで俺が死刑なんだって思ってるよ」という、能天気な自分の声。

 

「死ねよ。」

 

 もう止まらない。かつての自分の発言を思い出すたびに、自分が許せなくなる。自分が生きていることを、許せなくなる。否定したくなる。

 

「人を助けろ」

「オマエがいるから───人が死ぬんだよ」

 

 脳内に響く、二つの声。何故か重なる二つの声。

 その声により、俺は悟る。

 

「行かなきゃ」

 

 このままじゃ俺は──

 

「戦わなきゃ。」

 

 ただの人殺しだ。

 

 俺は立ち上がり、歩き出した。生きた屍のように。

 

 

 

 

 





唐突な情報開示

Q,一樹がもしも漫画をよく読む人だったら?
→あの世界にあるのかわからないけど、ジョ●ョの【スタープ●チナ】とか【メイドイ●ヘブン】は式神扱いで召喚できそう。あとはデ●ノートの【リュー●】とか。遊☆●☆王のモンスター全般とか。意外と式神扱いできそうなキャラクターって思いつかないね。


Q.一樹ってなんで漫画読まないの?
→小説の方が好きだから。いや、漫画も読めよ。ちなみに、口調は夏目漱石の『吾輩は猫である』から影響を受けたらしいよ。え、知ってた?


Q,茂井さんは静華ちゃんのことどう思ってた?
→好意はあったけど、大人として(まだ大学生のくせに)毅然と突き放した。つまりどっちかといえば脈アリでした。でも、愛したからこそ変な年上の自分じゃなくて、同年代の友人などと等身大の青春を過ごして、真剣に誰かと恋愛して幸せになってほしいと願った。もし仮に出会ったのがお互い大人同士だったら、付き合ってたかも。
 余談だけど、たぶん茂井さんは高校時代には彼女はいたと思うし、たぶん童貞ではないと思う。流されやすそうだし、ツラがいいメロ男だし。その推定元カノとは美大に進むと相談したら別れを切り出されて終了とかそんな感じだと思う。


Q,もしも一樹が最初から女だったら直哉はどうなってた?
→原作通りのドブカス。女は眼中にない。いけすかないけど甚爾くんに顔似てる自分より年下が、努力して自分に食らいついて来たという貯金あっての今である。


Q,真依は一樹のことどう思ってる?
→真希に向けるBig Love に似た親愛の情。恋愛感情ではないが、執着や薄らとした独占欲に近い何かはある。


Q,一樹は真依をどう思ってる?
→護らなきゃいけない存在。肉体がざわつく。


Q,一樹に器の才能はありますか?
→皆無。仮に呪物が取り込まれた場合、何故か中に入った呪物が死にます。


Q,一樹の恋愛対象はなんですか?
→田中静華のような女性……というのは半ば冗談。どちらかといえば女の子だけど、魂が女の子なので心の底からイケメンな人(夏油傑とか、虎杖悠仁とかみたいなタイプ)には弱い。真希はその条件を満たしているが、真希は乙骨とくっつく。


Q,八岐大蛇と八咫烏の召喚コストは?
→八岐大蛇は1.15乙骨。八咫烏は0.79乙骨。どちらにせよ、喚ぶならなんらかの重めの縛りが必要になる。


Q,一樹の好きなお酒の銘柄はなんですか?
→禪院家の人間だし、多分高級な日本酒が好きなんだと思う。あとは偏見だけど、にごり酒とか飲んでそう。きっと私とはお酒の趣味が合わない。


Q,一樹は渋谷でナンパされましたか?
→されなかった。これから五条悟を出し抜いて羂索と取引をするんだという緊張感で目がキマってて、周りが「あの人怖い」ってなってたから。


Q,一樹の意味深ポエムの原典を教えて。
→対五条は『星の王子さま』の薔薇と王子様の関係、それから王子さまを噛み、星へ還した蛇。対伏黒は『変身』のグレゴール・ザムザとその家族の末路。番外編として、茂井さんに言ったストリックランドは『月と六ペンス』に登場する妻子を捨てて画家になった男の名前。






変更前
渋谷事変→八塩折編→エピローグ

変更後
渋谷事変→櫛名田編→死滅回游編→人外魔境新宿決戦編?



次回
渋谷事変-(たぶん)閉門-

バタフライエフェクト、その末路を見届けよ。
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