禪院家に強術式の男として生まれても詰むことあるんだ……   作:ある日の残り香

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 リアルの諸々が片付いたので戻って参りました!(2月20日)

 さて。帰ってきて「ここからどうするんだったかな」と思い、プロットを確認したところ以下のように書いてありました。

渋谷事変の終わりらへん
→いい感じに終わらせる!(原文ママ)

プロットとは……?
あああああああぁぁあああああ!!!(苦しみ)







第二十一話【渋谷事変-閉門-】

 

視点:三輪霞

 

「時間ダ、三輪。」

「嫌!!」

 

 嗚咽混じりに、断末魔をあげるように叫ぶ。手の中にある、大切な友人の遺したソレが、今にも機能停止しようとしているのを、別れが近づいてくるのを拒むように。

 

「さよならなんて言わないで!!」

「三輪!!」

 

 彼が、メカ丸が声を張り上げる。次の瞬間、機械から発せられる音声ではなく私の耳に直接、人物の声が届いてくるような感覚を覚える。

 

「幸せになってくれ。どんな形であれ、オマエが幸せなら──俺の願いは叶ったも同然だ。」

 

 

 

「──いや、誰?」

 

 ガラス越しに映った気がする、透き通った声の……丁髷頭のあの少女は一体誰だったんでしょうね。メカ丸。

 

 ハッとして、手の中のミニメカ丸に目を移す。もう、ソレは動いていなかった。呪力も感じられなかった。

 つまり、もう彼はこの世にいない。喪失感が押し寄せ、私は走る列車の中でただ泣き叫ぶとしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

23:16

視点:真人

 

「虎杖いねぇじゃん!!しかも分身も祓われた……クソ!鹿の式神を使えるのは禪院一樹だけではなかったか!!」

 

 ウニ頭に分身を祓われたせいで、手分けして虎杖を探すこともできなくなった。さてさて、どうしたものか。

 

「……禪院一樹もウニ頭に持ってかれた。面白そうなおもちゃはほとんど残っちゃいない。まるで潰れる直前のハローマックだ。」

 

 俺は渋谷を彷徨った。

 

 

 

 

 

 

23:19

視点:虎杖悠仁

 

「ナナミン!ナナミン……!!」

「……虎杖君。」

 

 俺は、宿儺が目覚めた場所に──ナナミンが倒れていた場所まで戻った。そこには、ナナミンが倒れていたままだった。ナナミン以外には、少女二人の残骸と、血を流して倒れているお爺さんが一人いた。お爺さんの方は下手に動かせば傷が開くと判断して触れていない。

 俺が反転術式を使えたら……なんて考えたが、そんなことを考えてもどうしようもない。どうにか家入さんのとこまで運ぶしかないのだ。

 

「……火傷が酷いですね。反転術式でも完治はしないでしょう。」

「それでも……生きてて、よがった……っ!」

「……何があったんですか。」

 

 俺はこれまでの経緯を説明する。俺が宿儺に主導権を奪われたこと、渋谷の人々を虐殺したこと、イッツーを笑いながら切り刻んだこと。それら全てを包み隠さず。

 

「──虎杖君、あなたは馬鹿ですか。」

「え」

「少なくとも今の話の中には、君の落ち度は薄い。宿儺の復活については上への要請のためとはいえ、一時離脱して監督責任を果たせなかった私の責任です。」

「でも……」

「くよくよ悩むのは後にしてください。見たところ、虎杖君はまだ体力に余裕がありそうですし、五条さんを頼みます。私は直毘人さんを連れて離脱します。」

 

 ナナミンの顔は、とても申し訳なさそうな、悔しそうな表情で満たされていた。

 

「本来、大人としてあなた一人に向かわせるべきではないのはわかっています。それでも、今の私では足手纏いになりかねない。だからこれは大人と子供ではなく、術師から術師への要請です。」

 

 それでも、ナナミンは力強くこちらを見据えた。

 

「……押忍。」

「すみませんね。虎杖君。後は頼みます。」

 

「みぃつけた!!」

 

 振り向くと、そこにはこちらは全力疾走してくる白い影。ツギハギを身体中に走らせた憎き怨敵。

 

「──真人ッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

23:25

視点:禪院一樹

 

「伏黒坊、やめておけ。釘崎嬢はもっと駄目である。」

 

 吾輩は今すぐにでも虎杖悠仁の元へ向かおうとする二人を止めていた。

 

「伏黒坊は高専側の実質最高戦力である。日下部殿も現在連絡がつかぬが故な。そのため、非戦闘員の多いここを離れられては困るのだ。貴殿の【円鹿】も、家入女史の負担を減らすことにつながっている。生命線なのだ、貴殿は。」

「だが……虎杖が──」

「そうよ。一樹先生、あの馬鹿はまだ帳の中にいるのよ?それに、宿儺に身体を乗っ取られて……たくさんの人を殺させられたんでしょ。アイツのことだから、きっとそれを抱え込んでる。喝を入れてやらないと。」

「……悪く思うかも知れぬが、そもそも釘崎嬢は実力不足である。戻っても死ぬだけであろう。釘崎嬢を行かせるくらいならば、呪力切れの吾輩の方がまだマシである。」

「一樹さんは絶対安静で。」

 

 ここで二人を行かせれば、どうなるかはわからない。少なくとも、釘崎嬢は戦闘不能になる可能性が高い。前世の記憶では一命を取り留めていたが、ここまでの流れも大きく変わっている都合上、不確定要素だ。安易に指せない一手である。

 

「オイ、一樹。」

「……真希、どうした。」

「恵が【遊雲】を持ってる。それ持って恵と一緒に虎杖に加勢して来い。」

「フム……」

 

 真希の目線が突き刺さる。気づけば、吾輩の身体は震えていた。静華の魂の影響だろう。虎杖悠仁への、宿儺への恐怖心が湧き出してくる。やはり、彼女の魂が色濃くなりつつある。吾輩の肉体に宿る自我への侵食も、もはや無視できる程度ではなさそうだ。

 

「──真希、それは最後の手段にしてくれまいか。」

 

 だがここで誰も虎杖悠仁の救出に動かないとなれば、この二人は勝手に動き出すだろう。そうなれば釘崎嬢がどうなるかは想像に難くない。伏黒坊も、戦力的にここを離れてほしくはない。吾輩は羂索との縛りがある。ならば、今戦地に送り込むべきは直哉である。少なくとも直哉ならば、そう簡単に死ぬことはない。

 

「直哉殿、貴殿に頼みがある。」

 

 吾輩の声が虚空に霧散する。返事がない。

 

「──直哉殿?」

「直哉さんなら、一樹さんと入れ替わりに飛び出して行きましたよ。」

 

 ……疾風迅雷であるな。吾輩は深く重く、ため息をついた。

 

「……10分。あと10分経っても虎杖悠仁が戻らなければ、吾輩が前線に戻る。それで良いか?」

「「……。」」

「これでも譲歩した方であることは理解してほしい。その時は、伏黒坊はここにいる者たちを連れ高専へ。」

 

 前世の記憶通りなら、あと10分程度で決着がつく……はずだ。もはや、色々が変わりすぎて何も展開が読めやしないが。

 

 

 

 

 

 

23:26

視点:虎杖悠仁

 

 ナナミンとお爺さんの死。俺には手負の二人を守りながら戦えるだけの実力はなかった。二人は、俺の目の前で【無為転変】によって爆散した。

 それでも俺はブレなかった。ナナミンに託されたから。真人に拳を叩き込み続けた。しかし──

 

「やめるのだ……吾輩を、これ以上いたぶるでない……宿儺……」

 

 真人が一樹さんの姿を真似て弱々しく呟いた時、僅かながらの動揺が生まれ、その一瞬の隙をつかれて俺は真人の黒閃をもろに受けてしまった。

 

「やっぱり、アイツをやったのは宿儺……いや、お前だったんだな?虎杖悠仁!」

「……うるせぇよ。ってか、なんで一樹さんが宿儺にやられたこと知ってんだ。」

 

 すぐに体勢を立て直すが、心にはまだ動揺が残っている。一樹さんを宿儺が切り刻んでいた光景がフラッシュバックする。そして何より、あの場にいなかったはずのコイツが、一樹さんの負傷を知っていることになんとも言えない嫌な予感が走った。

 

「なんでって……わかんない?」

 

 目の前の呪いは口角を吊り上げると、悍ましい笑顔で続けた。

 

「禪院一樹は俺が殺したよ。それと、アイツを助けようとしたウニ頭の術師も。」

「──は?」

「誰かさんが宿儺に身体の支配を渡していなければ、アイツら二人とも逃げ切れるだけの余裕はあっただろうに。それと、さっき死んだ七三術師とジジイも、宿儺が暴れてなけりゃもっとマシな状況だったかもなぁ?これってさ、虎杖──」

 

 俺が──

 

「オマエが殺したって言っても、変わりはないよな。」

 

 違う、そう否定したかったが声が出ない。俺は必死に、止むことなく降り注ぐ真人の攻撃を受け流す。

 

「どーせオマエは!!害虫駆除とか!!昔話の妖怪退治とか!!その程度の認識で渋谷に来たんだろ!?甘ェんだよクソガキが!!」

 

 そのラッシュの果てにガードを抜かれ、俺の頬に真人の拳がクリーンヒットする。脳がグラグラと揺れる。

 

「これはな戦争なんだよ!!間違いを正す戦いじゃねぇ!!正しさの押し付け合いさ!!ペラッペラの正義のな!!」

 

 地面に転がった俺は、すぐに立ち上がろうとしたが動揺が、精神の乱れが身体にも影響を及ぼしたのか手が震えて立つことができない。

 

「……オマエは俺だ虎杖悠仁。俺が何も考えずに人を殺すように、オマエは何も考えずに人を助ける。呪いの本能と人間の理性が獲得した尊厳──100年後に残るのはどっちかっつーそういう戦いだ。そんなことにすら気づかない奴が、どうして俺に勝てるよ?」

 

 真人が、俺を見下しながら吐き捨てる。

 

「なぁ虎杖悠仁、殺した呪いを数えたことはあるかい?」

「──あ゛ぁ?」

「ないよな、俺も俺も❤︎」

「……。」

「殺した人間の数とか、マジでどーでもいいもん。オマエの事も、そのうち忘れるさ。」

 

 俺は──

 

「惑わされるな、ブラザー。」

 

 力強い声が聞こえ、俺はそちらへと振り向いた。

 

 手拍子の音が響く。

 

 

 

 

 

 

23:28

視点:禪院直哉

 

「誰かと思えば傑くんやないか。久しぶりやね。」

「ああ、直哉か。フフッ、歳を重ねても相変わらず顔には幼さが残ってるね。苦労をしていない人間は童顔になるっていうけど、どうやら君に限っては本当みたいだ。」

「よく喋る口やな。」

 

 恵くんと一樹くんが非戦闘員の元についたなら、俺がどう動こうが勝手やろと思って、帳の中に戻ってみたはいいが、派手なイベントはほとんどが終わってしまったみたいや。話に聞いとった氷の呪詛師も見当たらんし。

 まあ、それでも主犯格くんと相対できただけマシやろうけど。

 

「で、なんでこんなテロ起こしたん?親友の悟くんまで封印して。」

「人間の可能性を試したかったんだ。」

「ほーん、これまた大層な理念抱えとるんやね。変わらんね、きみ。」

 

 さて……俺でも勝てるやろか。目の前にいる、この特級術師には。

 

「人間の可能性を試したいんなら、目の前の俺から試させたるで。」

「……悪いけど、今急いでいるんだよね。」

 

 彼の傍に呪霊が現れる。【呪霊操術】……ってことはほんまに傑くんなんやな。乙骨くんが殺したもんやと思っとったけど。

 

「1級呪霊・阿部定。君が私と戦闘をするつもりなら、この呪霊に術式を行使させる。」

「……脅しのつもりなん?どんな術式だろうが、対応して見せるで?」

「この呪霊の術式は、男性にのみ発動する。1936年、当時の世間の人々の関心を集めた猟奇殺人事件があった。」

 

 術式の開示やな。ハッ、小狡いマネやな。聞いた上で対応したろか。

 

「愛した男を殺した後にその陰茎を切り取り、持ち出して逃げた女。それが阿部定という。この呪霊は、その事件への恐れから生まれた仮想怨霊さ。」

「……ほーん。」

「この呪霊の術式は、陰茎の切断。男に対するコトリバコみたいなものさ。あらゆる事象を無視して、この切断は行われる。その上、生殖機能は反転術式でも戻らない。」

 

 クソ、なんでどいつもこいつも俺のちん●ん狙うんや。

 

「──オーケー、交渉の席につくで。」

「話が分かるヤツで助かるよ。」

 

 

 

 そこで俺はコイツの大まかな計画を聞いた。死滅回游……呪術全盛、平安の世の再現。強者蔓延るコロニーでの生き残りをかけた戦い……うん、強くなるための戦場としては悪くない。非術師への被害?知らんわ。雑魚なのが悪いんやろ。

 俺に求められたのは、その儀式開始の黙認。

 

「……そういうことなら、ここは通したるわ。実現したら面白そうやしな。」

「ふふっ、ありがとうね。」

「で、なんで俺のこと殺さへんの?殺せるやろ、君なら。」

「殺せるが時間が掛かる。それくらいには厄介だ。それに、君は殺すのにも惜しい。まあそれについては、また次の機会に話そうか。禪院家の次期当主としての君と。」

 

 傑くんのガワを被った何者かの目を見据える。

 

「俺が勝つ方に賭けとるんやな、きみは。」

「その方が都合がいいからね。禪院一樹が権力を持てば、呪術界はヌルくなってしまう。それは、私の望む方向じゃないんだ。もっとドロドロと、そして殺伐としていないと。」

「一樹くんも一樹くんでぶっ飛んだヤツやけどな。」

「ああ、知ってるよ。なんせ、彼女は──」

「"彼"や。」

 

 今、心底「めんどくさ」って顔したやろ。悪いけど、そこだけは譲れへんねん。

 

「……彼は、私の計画を知り尽くした上で五条悟の封印を黙認した。私と、縛りまで結んでね。」

「──は?」

 

 俺の横を通り抜けながら歩き去っていく男は笑っていた。一樹くんが悟くんの封印を黙認?嘘やろ、一樹くんやで?悟くんは恩人のはずやろ?

 

「……一樹くん、何考えとるのやろ。」

 

 俺は初めて、禪院一樹という人間の闇を覗いた気がした。

 

 

 

 

 

23:36

視点:羂索

 

 手には、呪霊玉となった真人。目の前には、私の息子──虎杖悠仁が這いつくばっている。正直、期待以上だったよ。君との戦闘によって、真人は成長した。完璧な状態と言っても良い。

 私は【呪霊操術】について術式の開示を済ませると、真人を取り込んだ。

 

「馬鹿だな」

 

 上空では、魔女っ子術師が何者かへ合図を送っている。

 

「君が感じた気配に、私が気づかないと思ったのかい?」

 

 間をおかずに飛んできたのは、【赤血操術】が付与された矢。古典的かつ単純だ。容易に回避できる。

 ──が、こっちはそうともいかないね。呪力の起こりもない、人類の発明の中で、最も手軽に人に殺人を齎した物品。

 

「狙撃銃か、いいね。私も術師相手であれば、通常兵器は積極的に取り入れるべきだと思うよ。」

 

 銃火器。使用者の呪力が直前まで薄すぎて気づかなかった。が、私も1000年実戦経験を積んでいる。この程度の狙撃なら対応できる。低級の呪霊で弾丸を受け止めた。

 

 狙撃者は禪院真依か、"都合がいい"。

 さて、どうやって──

 

 うん、ちょっと煩いね。

 私は取るに足らない術師の居合を手で止めると、そちらへ向けて術式を行使する。術式の抽出をするためにも、撃っておく必要はあるんだ。ちょうど良い。

 

「極ノ番──【うずまき】」

 

 防がれたけど、今は【うずまき】というド派手な攻撃に皆が目を奪われていた。その隙に、やっておきたかったことは済ませておいた。マーキング程度なら、時間はかからないからね。

 

「……さて、下拵えは十分だね。」

 

 爆風が晴れていく。

 

「シン影か…よかったよ。少しは蘊蓄のある奴が来てくれて。」

 

 一級術師、日下部篤也。術式を持たない術師であるのに、一級にまで上り詰めた、この時代の術師の中では上澄の存在。まあ、私からしてみれば取るに足らない存在ではあるのだけど。

 彼によって、【うずまき】による死傷者はゼロとなった。そして、続々と高専の術師たちがここへ集結してくる。

 その中には、まだ遠いものの禪院一樹の姿もあった。手に持ってるのは【遊雲】と【穢筆】かな。とはいえ、宿儺との戦いで消耗しているはずだ。それほど警戒する必要もない。

 今はそれよりも、私の近くで殺意を向けているコレに対応すべきだろう。

 

「やぁ、脹相。」

「アイツは…!!」

 

「気づいたようだね」

「そういうことか!!加茂憲倫!!」

 

 

 

 

 

 

視点:禪院一樹

 

「まいったな。満を辞して参上したのに氷漬けとは。」

 

 現場に駆けつけると、高専陣営がちょうど羂索へ攻撃を仕掛けようとしているところだった。吾輩もそれに乗っかろうとしたのだが、間抜けなことに、裏梅の【霜凪】が直撃し、氷漬けにされてしまった。

 

 目の前では西宮嬢、虎杖悠仁、脹相が戦闘をしているが、羂索と裏梅相手ではどうしても見劣りする。

 ほれ、今にも【直瀑】で全滅寸前である。しかし、ここで駆けつけてくれるのだよな。特級術師が。

 

「久しぶりだね、夏油君。あの時の答えを聞かせてもらおうか。どんな女が、タイプだい?」

「九十九由基!!」

 

 

 

 すぐに九十九由基と羂索は問答を始めた。ラルゥが術師たちを安全な場所は回収する時間を稼ぐためであろう。

 ……真依も、無事に回収されるはずだ。

 

 そのまま、原作通りの流れとなる。羂索による【無為転変】の遠隔発動、これは彼がマーキングを済ませた二種類の非術師に遠隔で【無為転変】を脳に施すことで、片や器としての強度を高め、片や術式が発動可能なように変更するものだ。

 が、吾輩との縛りがあるからか……呪物の封印を解く様子はない。これで津美紀嬢はあの最悪の運命から逸れることができるだろう。

 

「さて、そろそろか。」

 

 脹相の毒が回り、裏梅の術式が解除される。

 

「──ここで殺す。」

 

 裏梅は危険だ。高専勢では(ノッてる時の秤を除き)誰一人として対処はできない。毒で怯んでいるこの一瞬をついて首を断ち、脳を潰す。

 

 羂索が解き放つ呪霊の奔流を躱しながら、距離を詰めると、【穢筆】で首を掻き切り、【游雲】を頭に振り下ろす。

 

「……手応えがない。回収されたか?」

 

 空へと立ち上る呪霊の雲。それらが渦を巻き、空を満たしていく。

 

 

 

 

 後ろ飛びに高専勢の元へ戻った吾輩は、九十九由基を見据える。

 

「助力感謝する。九十九殿。」

「……禪院の術師で女、君が禪院一樹か。礼には及ばないよ。」

「うむ。貴殿がいなければ全滅していた。まったく、直哉殿はどこで道草を……」

「ひどい言い草やね。」

 

 悪びれる様子もなくノソノソと歩いてきたのは、禪院直哉その人であった。

 

「それより一樹くん。パパが死んどった。急いで京都戻るで、今から。」

「……直毘人殿が、そうか。」

「服装と身の回り品から推定しただけやから確定やないけどな。酷い有様やったで。まるで肉が弾けて飛んでったみたいや。一樹くんの身体を弄り回した呪霊の仕業やね。」

 

 なるほどなぁ、漏瑚に殺されずに真人に殺されたか。原作では死ぬまでしばらく時間があったが、すでに死亡しているとなると、早いうちに本家へ戻り、当主の継承を行わねば、原作よりも禪院家の御三家としての上層部への発言権は弱くなりかねない。

 

「──というわけでな、吾輩たちは急ぎ本家へ戻る。虎杖悠仁、貴殿の朋友たちが貴殿の帰りを待っている。帰るついでに吾輩の動向を彼らに伝えてくれまいか?」

「イッツー…死んだんじゃ……?」

「はぁ?誰であるか、そのような不謹慎な──ああ、彼奴か。そのような戯言に追い詰められるでない。吾輩は無事であるし、宿儺のアレは事故である。貴殿に罪はない。」

「一樹くん、そないに震えてると説得力ないで。」

 

 結局、虎杖悠仁は高専には戻らないことを選択した。これって吾輩のせいか?

 

「九十九殿、というわけだ。高専の者たちには吾輩のことと、虎杖悠仁のことを伝達してもらっても構わぬか?今は伏黒坊……伏黒恵が式神を用いて彼らを高専に避難させている最中のはずだ。」

「わかった。正直、御三家のうちの一家が少なくともこちら側につくというのなら心強い。上層部が加茂憲倫に良いようにされるリスクが低減されるからね。」

「うむ、吾輩と直哉殿を信じてほしい。」

「ところで、どんな女がタイプかな?男でも良いけど。」

「……絵描きに理解のある女の子、であるな。」

「答えるんかい。」

 

 吾輩と直哉殿は、高専陣営から離れると今後について話し合った。結論として、直哉殿を先行させることで禪院家現当主の死亡の通達と、次代当主を決める儀式の準備を整えることとなった。

 

「それでは直哉殿、また後ほど。」

「一樹くんが戻ったら、休んですぐ当主争奪戦や。気ぃ抜くんやないで。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

23:57

視点:伏黒津美紀

 

 重い瞼が開かれる。まるで長い悪夢から覚めたかのような脱力感。鼻腔をつくのは、消毒液の臭い。

 

 私は、事故か何かに遭ったのだろうか。入院するほどの怪我なのだろう、記憶が曖昧なのも、その影響か。

 

「……恵。」

 

 ふと口から漏れるのは、弟の名前。

 

 

 

 

 

 

 

24:04

視点:禪院真依

 

 誰かの足音が聞こえる。おそらく、音からして男のもの。

 夜を明かすため、一時的に滞在しているホテル。ラルゥと名乗る変態が私たちを連れてきた場所。ここには、男は東堂先輩と新田くん以外にはあの変態しかいない。あの変態、ついに本性を表したわね。

 

 そう思い、弾を込める。扉が開くと同時に弾を打ち込んでやる。

 

「……。」

 

 ドアが開く、その直前。側面の壁から何かが飛び出す。

 

「──呪霊!?」

 

 低級の呪霊の中には、構造物をすり抜けるモノもいる。それが私に巻きつき、銃を取り上げ、拘束する。普通の術師なら、余裕で対応できる程度のものだ。

 

「や、禪院真依。」

「──加茂憲倫っ!」

 

 

 

 

 

 

24:06

視点:ラルゥ

 

「真依ちゃん!!無事!?」

 

 とてつもなく悍ましい呪力を感じとり、部屋へ向かうと、そこには真依ちゃんが倒れていた。

 

「ねぇ!アナタ、どうしたの!何があったの?」

「うぅ、煩いわね……声の圧が凄いわ。」

 

 よかった、ひとまず意識はあるわ。

 

「……加茂憲倫が現れたのよ。あなたの気配を感じたのか、去って行ったけど。」

「何故……」

「……一樹さんへの人質、ってところかしら。殺さず、傀儡として使い潰すための人質。」

 

 禪院一樹、百鬼夜行では京都で活躍していた術師よね。禪院家の次期当主候補だとか。そのコの弱点が、このコってことかしら。

 

「……今回のこととか、これからのことも含めて私に関することは一樹さんにも、誰にも言わないで。心配させたくないから。」

「わかったわ。」

 

 彼女が小指を差し出してくる。ゆびきりげんまんね。

 私は彼女と乙女の約束を交わした。

 

「はい、縛り。」

「大袈裟ねぇ……あら?本当に縛り結んでるわこの子。」

「複雑な乙女心ってやつ。わかるでしょ?」





計画性を、持ちましょう(自戒)

いや、本当に遅くなって申し訳ありません。
諸々自体は20日に終わってたんですが、展開が本当に記憶の片隅にも残ってなくて続きが中々絞り出せなかったんです。
本当に、メモとかしておけばよかったと反省しかないですね。

何はともあれ、これにて渋谷事変は終了となります。

次回から新章です。
どうか、完結までもうしばらくお付き合いいただけると幸いです。



久しぶりすぎて!
書き方を!!
忘れた!!!
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