禪院家に強術式の男として生まれても詰むことあるんだ……   作:ある日の残り香

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(多少は荒れるかなとは思ってたけど、思ったよりもヤバいことになっちゃったなという顔)

まだ仕込みがバレてないのは嬉しいけど、冷や汗が出る。








死滅回游編(狩人〜)
第二十五話【執行/裏】


 

11/08(禪院家新当主就任から5日後)

 

 

視点:虎杖悠仁

 

「恵くんおらんやん。あと、悠仁くんは久しぶりやね。」

 

 声の方を見上げると、禪院家の人(名前は忘れた)が立っていた。

 

「君らも何してん。目立ちすぎやで、逃げる気ないん?」

「逃げる?」

「何や知らんのか。君、死刑やって。悟君の後ろだてがのうなったから。当主サマでも、これだけはどうにもならへん。」

 

 思い出すのは、猪野さんの言葉。五条先生が利かせていた融通で救われていた術師が数多くいるとか言ってた……俺の死刑の執行猶予がなくなったんだ。

 

「んで、恵くんはおらんのか?」

「伏黒に何の用だよ。」

「呪具返して来いって当主サマにパシられてな。早く返して帰りたいんやけど。」

 

 そう言って、直哉さんは【遊雲】をチラつかせる。

 

「恵くんら、君を探してるんやって。」

「信用できないな。悠仁を殺しに来たんじゃないのか、貴様は。」

「ちゃうちゃう。味方やで、悠仁くんがヘンなのに殺されると怒られるの俺やねんで?勘弁してほしいわ。」

 

 気づくと、彼が目の前に立っていた。速すぎる。それから彼がこちらに対して何かを言おうとした瞬間、ぬるりとした不気味な呪力が場を包んだ。

 

「あれ?一人じゃないんだ」

 

 

 

 

 

 

 

視点:乙骨憂太

 

「誰が虎杖君の、何?」

 

 上手く演じられているだろうか。虎杖君を殺しに来た冷酷な術師を。

 

「やはり悠仁の死刑執行人か。」

「!!」

 

 うん、虎杖君たちは怖がってる。演技力は十分みたいだ。それで──

 

「ちょい待って」

 

 これは、誰?

 

「君、乙骨君やろ。」

 

 いや、本当に誰?

 

「禪院直哉。真希ちゃんのいとこや。当主サマの命令でな、もしも虎杖君が変なのに殺されそうになっとんなら、殺されへんよう守れって言われとる。」

 

 禪院家当主……今は禪院一樹って人だって聞いたけど、真希さんの尊敬してる術師、だったよね。それが、虎杖君の死刑に反発している……なるほど、味方なのかな。でも、今の僕は死刑執行人って立場だから……。

 

「敵、ってことですよね?」

「いや、安心しぃ。君の邪魔はせぇへん。」

「なっ!?」

「は?」

 

 どういうこと〜????

 

「君、正式な死刑執行人やろ?君なら良いって当主サマが言ってるんよ。」

「……。」

「──君なら、悠仁くん殺してもかまへんでって言ってんねんやで。こっちの目つき悪い方は俺が押さえとくから。」

「ふざけるな!」

 

 本当によくわからない人だな。

 

「じゃあ、そっちは任せます。」

 

 一瞬のうちに、二つの戦闘が始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

視点:脹相

 

「見てたで、さっき。【赤血操術】やろ。」

「!」

「加茂家の相伝や。なんで君がそれを持っとんのかは知らんけど、俺個人的に加茂家嫌いやねん。死なん程度に痛めつけたる。」

「オマエこそ、俺の弟にあの術師を差し向けておいて──生きて帰れると思っているのか?」

 

 おそらく、この術師は強い。殺す気で突破しなければ、悠仁の元には加勢できない。

 

「弟……ああ、なるほどな。君、加茂憲倫の血縁かいな。あのキショい奴死んだから、そこは安心してええで。」

「は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

視点:乙骨憂太

 

「元気そうですね、直哉さん。」

「皮肉か?」

 

 虎杖君を連れて戻ると、そこにはある程度消耗した直哉さんが、気絶した【赤血操術】の男を椅子にして座っていた。

 

「……終わったんか?」

「はい。」

「そりゃシゴデキやn──オ゛エ゛ェッ」

 

 うわ、吐いた。毒かな?

 

「治しましょうか?」

 

 彼の目的はよくわからない。でも……見殺しにしたらしたで厄介なことになりそうだ。それに、潜在的な味方の可能性もある。

 

「僕の反転術式、他人も治せますよ。その代わり、虎杖君の死は、アナタの口からも上に報告してください。」

 

 直哉さんはその提案を飲んだけど、二つ付け加えた。

 

「ほんなら、【遊雲】とコレ。前者は恵くんに、後者は真希ちゃんに渡したってや。」

「……何故ですか?」

「片方は当主サマが恵くんから借りパクしてた特級呪具で、もう片方は遺品みたいなもんや。ほんとは真依ちゃんに渡したかったらしいけど、真希ちゃんでも多少は使えるはずやで。」

「遺品……。」

「笑うとこやで、ここ。術師が使い込んだ物品は、呪具化することもあるって言うやろ?多分、それにはちゃあんと術式が刻まれとんねん。雑魚い式神程度ならその筆が自己補完する墨の呪力で召喚できるはずやで。」

 

 直哉さんは、去り際にそう説明するとフッと姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

視点:虎杖悠仁

 

 嫌な夢を見た。多分幼少期の夢なんだろうけど、母ちゃんの額に傷跡があったんだよ。脹相が言ってたのって、そう言うことかぁ。

 

 ん?ってか俺、生きてるの?

 顔を上げると、焚き火を前に座っている乙骨先輩と目が合った。目つき相変わらず怖っ……って思ってたんだけど。

 

「──よ、よかった〜!!」

 

 どうやら全部芝居だったらしい。へなへなと笑った後、彼が全てを説明してくれた。乙骨先輩は五条先生から後のことを託されたって。俺が生きてるのは、一度殺した後に反転術式で一気に治癒したかららしい。

 

「……どうして、そこまでして」

「僕が大切にしている人達が、君を大切にしているからだよ。」

 

 乙骨先輩の言葉はどこまでもまっすぐだった。

 

「僕も一度、身に余る大きな力を背負ったんだ。でも、背負わされたと思っていた力は、僕自身が招いたモノだった。君とは違う。君の背負った力は、君の力じゃない。」

 

 違うんだよ。

 

「君は、悪くない。」

「……違うんだ。俺のせいとかそう言う問題じゃなくって、俺は人を──」

「虎杖」

「この馬鹿」

 

 声の方を見れば、伏黒と釘崎が立っていた。

 

「伏黒、釘崎……」

「何してんのよ、さっさと高専戻るわよ。」

「今高専の結界は緩んでる。直接顔を見られない限り、オマエが戻っても問題ねぇ。一度先輩らと合流して──」

「やめろ!!当たり前のように受け入れるな、なかったことにするんじゃねぇ!俺は人を殺した!!俺のせいで大勢死んだんだぞ!!」

 

 全てを吐き出す。俺なんかが許されていいわけがない。もう、みんなと一緒にはいられない。

 

「俺のせいだ。オマエ独りで、勝手に諦めるな。」

「重いわねぇ、アンタも……」

 

 そりゃ、オマエはそう言うさ。

 

「俺達は正義の味方(ヒーロー)じゃない。呪術師だ。俺達を本当の意味で裁ける人間はいない。だからこそ、俺たちは存在意義を示し続けなきゃならない。もう俺達には、自分のことを考えてる暇はねぇんだ。ただ、ひたすらに人を助けるんだ。」

 

 違うんだ、伏黒。それじゃオマエは──

 

「これはそもそも、オマエの行動原理だったハズだ。」

 

 俺が隣にいる限り、ずっと苦しむことになるんだぞ!!

 

「まずは俺を助けろ、虎杖。」

 

 その声に顔を上げる。

 

「加茂憲倫が仕組んだ呪術を与えられた者達の殺し合い、"死滅回游"。なんのバグかは知らねえけど、非術師の津美紀も巻き込まれてる。頼む、虎杖……オマエの力が必要だ。」

「八十八橋の時に聞いたわよね?伏黒の姉ちゃんの件。目を覚ましたけど、死滅回游に巻き込まれちゃってるのよ。」

 

 人を助けろ。

 

 かつての爺ちゃんの声が脳内で響く。

 

 

 

 

 

 

 

視点:禪院真希

 

「久しぶり……って訳でもねぇか」

「真希先輩!」

 

 憂太たちが、悠仁を連れて帰ってきた。だが、どうにも憂太の顔が曇っている。

 

「真希さん。」

「……何があった。」

 

 憂太が、布に包まれた何かを私に差し出した。

 

「これ、直哉さんから……遺品だって。術式が刻まれてるから、使ってほしいと。」

「遺品……?」

 

 親父の術式は別に使えないし……なんて思いながら布を開くとその中には小さな筆があった。明らかに、親父のものではない。

 

「──おい、憂太。これが、何だって言った?」

「……遺品と、直哉さんが言ってました。」

 

 この筆には見覚えがある。アイツが、一樹が絵を描くときに使っていた筆だ。

 

「一樹が、死んだってのか?」

「イッツーが!?」

「その可能性は高いと思うよ。」

 

 ソファに腰をかけていた由基さんが口を挟む。

 

「先日、禪院家の当主が二度変わった。一度目は加茂憲倫に、そしてそれから時間をあまり置かず、禪院一樹に。その間に、夏油傑の死が確認されてる。これってさ……」

「加茂憲倫が肉体を乗り移った可能性が高いってことですよね。一樹さんに。」

 

 真依が行方知らずになっただけに留まらず、一樹まで死んでるってのか。

 

「待て、それってつまり禪院家は既に──」

「加茂憲倫の手の中、だろうね。それにしちゃ、禪院直哉の行動は理解できないけどね。敵に塩を送るようなものだ。」

 

 ……いったいあの日、禪院家で何があったんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

視点:虎杖悠仁

 

「なんもねぇ」

 

 俺たちは脹相の感覚を頼りに、天元様のいる本殿までやってきたのだが──

 

「これが本殿?」

「いや、私たちを拒絶しているのさ。天元は現に干渉しないが、六眼を封印された今なら接触が可能だと判断だが、見通しが甘かった。」

「……。」

「戻ろうか、津美紀さんには時間がない。」

 

 俺たちが肩を落として去ろうとしたときのことだった。

 

「帰るのか?」

 

 威厳ある声が、背後から聞こえた。

 

「初めまして。禪院の子、道真の血、芻霊呪法の術師、呪胎九相図そして──宿儺の器。」

「私には挨拶なしかい?天元」

 

 コイツが……

 

「君は初対面じゃないだろう。九十九由基。」

「……何故薨星宮を閉じた。」

「羂索に君が同調していることを警戒した。私には、人の心まではわからないのでね。」

「羂索?」

「かつて加茂憲倫、先日までは夏油傑の肉体に宿っていた術師だ。」

「慈悲の羂、救済の索か……皮肉にもなっていないね。」

「──今は、その羂索って奴は誰の肉体に宿ってる?」

 

 真希先輩が一歩踏み出して聞いた。しかし、この場にいるほとんどが、それについては気になっていたのは同じだった。

 

「……これが難しくてな。私でも確かなことは言えない。客観的に見れば、禪院一樹に宿ったはずだ。」

「何故言い切らない?」

「──禪院一樹に移ったのを最後に、羂索の気配が消えた。私に捕捉されるのを恐れて、何らかの手段で追跡を不可能にした可能性がある。もしかすると、今は別の人間に宿っている可能性もあるから、確定するような言い方は避けた。」

「そんなことできるの?」

「羂索は結界術の達人だからね。もしかすると、可能なのかもしれない。」

 

 イッツー……。

 

「……すみません。」

「僕達はその羂索の目的と、獄門疆の解き方を聞きに来ました。知っていることを話してもらえませんか?」

「勿論…と言いたいところだが、一つ条件を出させてもらう。乙骨憂太、九十九由基、呪胎九相図。三人の内二人はここに残り、私の護衛をしてもらう。」

「護衛……?不死なんですよね?」

「封印とかを危惧してるんですか?」

「フェアじゃないなぁ。護衛の期間も理由も明かさないのか?」

「……では、羂索について語ろうか。」

 

 それから語られたのは、羂索の目的が日本全土を対象とした人類への進化の強制、具体的には人類と天元様の同化ということと、天元様が今【呪霊操術】の術式対象だということ。

 

「で、でも今の羂索の肉体は──」

「そうだ、禪院一樹のものだ。しかし、あの子がなんの考えもなく、【呪霊操術】を手放すとは思えない。何らかの縛りで術式を保有した状態を維持しているだろう。」

 

 どこまでも狡猾な術師らしい、羂索っていう術師は。

 

「羂索の術師としての実力を考慮すると、接触した時点で取り込まれるかもしれない。だから私の本体は今、薨星宮で全てを拒絶している。」

「その上で護衛を?」

「あぁ。羂索は私に次ぐ結界術の使い手。薨星宮の封印もいつ解かれるか分からない。」

「何故今なんだ。星漿体との同化を阻止、天元を進化させ【呪霊操術】で取り込み操る。羂索は宿儺とも関わりがあるようだった。少なくとも千年術師をやっている。何故!今なんだ!!」

 

 由基さんのその質問に対して、天元様が答えたのは、天与呪縛のフィジカルギフテッド、禪院甚爾の干渉によってあらゆる因果が破壊されたことと、あらゆる条件が偶然にも揃ってしまったことが理由だと説明された。

 

「じゃあ、死滅回游は何のために行われるんですか?」

「同化前の慣らしだよ。」

 

 それからなんか難しい話が説明されたけど、俺にはよく分からなかった。色々聞こうとしたが、その前に誰が護衛として残るのかと答えを求められ、脹相と由基さんが残ることになった。

 

「ありがとう…これが、五条悟の解放──そのために必要な【獄門疆「裏」】だ。」

 

 天元様が取り出したのは、渋谷で五条先生を捕らえた【獄門疆】と瓜二つの呪物だった。

 

 

 

 

 

 

視点:伏黒恵

 

 必要なことはわかった。「天使」という受肉体の捜索と、ルール追加による津美紀の回游離脱。

 

「なあ、恵。それについてなんだが、術式がないなら私と同じでノーリスクなんじゃないか?」

「真希さんがノーリスクだと確定したわけでもないでしょう。危ない橋は渡りたくない。」

 

 その後は、各々の持ち場をどこにするか、何をするかを話し合った。

 

 俺と虎杖は秤先輩のところへ向かって、協力を仰ぐ。

 

 真希さんは──

 

「死ぬ気ですか?」

「真希さん、流石にそれは──」

「禪院家の情報を探るなら、禪院家の人間の方が都合がいいだろ。」

 

 禪院家の現状把握。そのために、禪院家本家へ向かう。

 

「なら、僕も行く。真希さん一人には荷が重すぎる。」

 

 そこに、乙骨先輩も加わる。

 

「私としても、あまり推奨はできないのだがね。」

「天元様、僕らは必ず生きて戻ります。だから信じてください。その後は、パンダくんを探して回游の平定に動きます。」

「……真希さん、【遊雲】を持っていってください。真希さんの方がきっと上手く使いこなせる。」

 

 こうして、俺たちは二手に分かれて──

 

「ちょっと、私は?」

「釘崎は……下手に孤立させたくないな。俺たちと来い。」

 

 こうして、俺たちは二手に分かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

視点:禪院甚壱

 

「一樹、入るぞ。」

「どうぞ。」

 

 部屋の中では、一樹が机に向かって筆をとり、何枚もの呪符を用意していた。いくつかを手に取って見れば、殲滅性能が高い式神が多い。

 

「まるで戦争準備だな。何と戦うつもりだ?」

「悪いが、直哉殿以外には話すつもりはない。貴殿らは、貴殿らの仕事を果たせばよろしい。」

 

 一樹は当主任命後から、人が変わったように冷徹な人間になった。酒は飲まないし、冗談も言わない。そして、直哉の前以外では笑うことさえなくなった。多少馬鹿なところは相変わらずだが無策で動くことも減った。行動前に俺や直哉に相談をするというプロセスが身についたようだった。

 

「……真依のことだが、いつまで続けるつもりだ?」

「黙れ。上手くいくはずなのだ。クソ……記憶さえ読めれば、もっと確実性が……」

 

 禪院家の忌庫の中に閉じ込められた真依。一樹があれだけ大事にしていた娘は、今や暗く冷たい密室の中で、呪力を封じられた状態で拘束されている。飢えぬように【蟲】は入れられているが、式神【蘭眼(らんがん)】が常に監視しているため、身動きすら取れずに。

 

「甚壱殿、そのような小言が用事だと言うのならさっさと部屋から出ていけ。吾輩は暇ではないのだ。」

「……俺の知ってる一樹は、あの日死んだみたいだな。可愛げがねえ。」

「どうとでも好きに言いたまえ。どうせ、貴殿らでは吾輩の足元にも及ばない。」





【蘭眼(らんがん)】
消費呪力:少なくはない
 巨大な二つの目の姿をした、禪院蘭太を元に作成された式神。対象を拘束する術式を持つ。ただし、呪力を封じられた万相手でも3時間程度で崩壊するため、その都度交換されている。

禪院甚壱レビュー
 見た目、どうにかならなかったのか。6.0点

禪院蘭太レビュー
 ちょっと気持ち悪いですね。6.0点。

禪院直哉レビュー
 ビジュがアカンわ。0.0点。





釘崎の扱いに困っている。
どうしよ。
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