禪院家に強術式の男として生まれても詰むことあるんだ…… 作:ある日の残り香
葦を啣む雁。
意味:準備万端!
視点:禪院一樹
「運命の修正力…では、ないだろうな……?」
脹相のお陰で多少は持ち直したものの、それでも吾輩の心は騒めいていた。結局、原作同様に禪院家は滅びてしまったのだから。
「……七海殿と直毘人殿も、死んだ。」
渋谷で、途中まで生存するかと思っていた七海殿と直毘人殿も結局は死んでしまった。
「仙台結界は、乙骨殿が平定した……。」
どれも、原作通りの流れに収束していく。
「真依を救っても……もしやすると、何も…変わらないのでは?」
嫌だ。そんなのは、嫌だ。
【ガコン】
「……魔虚羅?」
空耳だろうか、今は特に適応する対象もいない。だというのに、方陣の回る音が聞こえた気がした。
「……この結界内を平定したら、一度高専へ戻ろう。真依を取り戻せる可能性は十分実証できたのだから。」
その後は、宿儺を祓って……終わりのはずなのだ。
視点:乙骨憂太
『──そういうわけで、吾輩は一度東京へ戻る。真依を救い出す手立てが揃ったのでな。乙骨殿はどうする?』
「なら僕も戻ります。」
『ならば、貴殿の得点を用いて高専に戻り次第死滅回游の終了条件定義を行っておこう。』
死滅回游の終了条件、「天使を除く全受肉体泳者の死亡または呪物の破壊」。これを、天元様に協力してもらってコガネに押し通す。
『あとは津美紀嬢に可能な限り安全な結界で泳者登録をしてもらい、得点を1点受け渡せば、伏黒坊も一安心であるな。』
「そうですね、そうなれば宿儺を虎杖くんから引き剥がしてゲームセットです。」
順調だ。すべてが順調に進んでいる、怖いくらいに。それでも、不安要素は明確に存在する。
「それにしても、髙羽さん……でしたっけ。一樹さんの知る未来で羂索を追い詰めた術師、彼の術式ってそんなに無法だったんですね。」
『……あの術式は狂っていてな、説明をするのが難しくて省いてしまったのが仇となったな。』
一樹さんは、すべてを話してくれたわけではなかった。彼女の自己判断で一部情報が省かれている。どうして。どうして自己判断しちゃうんですか。
「……ここから起こる出来事って、何かありますか?」
『待ちたまえ、今検索……を。』
通話越しに一樹さんが息を呑む声が聞こえた。とてつもなく嫌な予感がする。
『──わ、忘れておった!!11月14日の深夜に、各国の軍隊が結界内に突入してくる。』
「なんで!!?」
だいぶ話が変わってくるぞ、それは!!
『に、日本人の呪力をエネルギーとして…使えると、羂索が各国に根回ししたのだ。吾輩の知る限りでは其奴らは呪霊と受肉体に狩られるのだが……』
「待ってください……これ、結構まずいんじゃ……!?」
仙台結界には烏鷺さんと石流さんがいるけれど、桜島と広島、大阪の結界内には非好戦的な覚醒型泳者しか残っていない。呪霊も粗方狩り尽くされている。もしもそこに軍隊なんて投入されてしまえば──
「……一樹さん、どうしますか。」
『羂索め、嫌な置き土産を──』
「あの!」
傍で聞いていた三輪さんが声を上げる。
「どうしたんですか、三輪さん。」
そういえば、三輪さんが高専メンバーの現状を伝えるために来てくれていたんだった。ちょうどそのくらいの時期にコガネ通話が追加されたから、少し不憫だったけど。
「一つ、私にアイデアがあります。」
「……本当に?」
視点:禪院一樹
11/14 09:43
吾輩は魔虚羅の肩に乗り、ようやく高専へと戻ってきた。ただ、時間がない。急がねばならん。
「一樹さん、本当に一樹さんなんですよね?」
「うむ、伊地知殿。吾輩だ。」
「よかった……っ!亡くなったと聞いた時には……本当に……!」
「泣くでない、これから忙しくなるのだぞ。」
真依を取り戻す前にやるべきことをやらねばならん。こちらは時間制限があるのでな。
「……それにしても、あの格好はなんなんでしょうか。」
背後で伊地知殿の声が聞こえた気がした。
伊地知殿が入口を警護していた室内に入ると、そこには日下部殿とその傍には車椅子に座った津美紀嬢がおった。
「はじめましてであるな、津美紀嬢。話は伏黒坊……弟君から聞いておる。」
「伊地知さんから話は聞いてます。一樹さんですよね。恵がお世話になってます。」
彼女は丁寧にお辞儀をした。万じゃない姿は新鮮であるな。
「可能であれば貴殿とはゆっくりと話をしたかったが、事情があってな。日下部殿、伊地知殿から説明は受けたな?」
「ああ、嬢ちゃんを桜島結界に連れてって護衛しろって奴だろ?」
「移動は憂坊に協力してもらえる事になっている。吾輩の財布はだいぶ軽くなったがな。」
これから行うのは津美紀嬢の宣誓と、新たなルールの追加である。
「にしても、マジなのかよ。アンタが未来を知ってるって。」
「……うむ。」
「──夜蛾さんのことも、知ってたのか。」
「……交流会のことも、与幸吉のことも、渋谷事変のことも……全て知っていたさ。」
頬に鋭い痛みが走った。日下部殿の平手だ。打たれたところが熱くなってヒリヒリする。
「……これ以上は追及しない。が、一発殴るくらいは許してくれよ。」
「日下部さん!?」
「──止められた流れを止めなかった咎は吾輩にある。一発で済んだだけ慈悲を感じるな。」
それでも、渋谷事変でサボっていた貴殿に殴られるのはちょっとモヤモヤするのだ。優しい最強の一級術師殿。
「……とはいえ、吾輩の知識も万能ではない。渋谷事変で色々と動いた結果、羂索に目をつけられ、こうなってしまったしな。」
吾輩は額の縫い目を指でなぞる。
「さ、行動を開始してくれ。結界内に入る時、決してコガネには応えてはならんぞ。ランダムな地点に転送されてしまうからな。」
「わーったよ。」
「一樹さん、ありがとうございます。」
「……結界内に入ったらコガネを通して連絡してくれ。貴殿らに1点ずつ与えて、件のルールを追加する。」
吾輩の現在の得点は159点。乙骨殿が205点。直哉殿が75点。ルール追加も結界内外への移動も問題なく行える。
「ところでよ、その格好はなんだ?」
「……縛りでな。」
「そうか……オマエも苦労してんだな。」
「乙骨坊、先に来ておったか。」
「一樹さん!」
「一樹!」
「……。」
薨星宮の入り口には、乙骨殿と脹相、それから真希が待っておった。
「……真希?」
が、久しぶりの再会だと言うのに真希は何も言わない。怒ってる?やっぱり怒っておるよな?
吾輩が不安そうに見ておると、真希はため息をついてツカツカと歩み寄ってくる。日下部殿の件が直前にあったため、殴られると思い目を瞑った。
しかし、そんな痛みはいつまで経ってもやってこなかった。ただ、優しく抱きしめられた。
「……馬鹿が、全部抱え込みやがって。」
「……悪かったな、真希──いっ!?」
……いや待って、痛い。痛い痛い痛い痛いっ!!
「──テメェ本当に悪いと思ってんのか?あぁ?!」
「みぎゃあぁぁぁぁあっ!!折れる!折れてしまうのだ!やめるのだ!!」
「てかなんだよ、その格好!!ふざけてんのか!!」
「こ、これは直哉殿との縛りで……!」
2分ほどして、吾輩は解放された。吾輩と魔虚羅が横並びに正座している絵面となって。
「……ほ、本当に心の底から反省しておるのだ。」
「ったく……。」
「真希さん、一樹さんも悪気があったわけじゃ……」
「憂太は一旦下がってろ。」
「真希、一樹は昔からこうで……」
「オマエはなんなんだよ!こえーよ!」
真希は面倒くさそうに頭を掻くと、ぼそっと「……おかえり。」と呟いた。
「……で、魔虚羅を使って真依を取り戻すんだろ。脹相が案内してくれる。行くぞ。」
「ああ、お兄ちゃんに任せろ。」
吾輩たちは、薨星宮を進んでいく。
視点:禪院真依
暗い水の底で、私が私じゃないことを強く感じていた。私じゃない誰かが私の体を操っている。その時の視界と感覚だけが流れ込んできていた。
「領域展──」
だからこそ、今も生々しく覚えている。
「一樹…さん……?」
私の身体を操っている術師の【構築術式】が、一樹さんの身体を貫いた瞬間を。
動くのも辛いだろうに首を後ろに向けた一樹さんと、目があった。
「……ま、い?」
「あなたが一樹?器の子の記憶は随分と脚色されていたのね。」
「……ぁ、あ゛ぁあああああっ!!」
上がったのは、悲痛な声。
「何故なのだ、なぜ……っ!なぜ真依に……!?」
「ほんっとに馬鹿だね。縛りは慎重に結ぶべきだったんだよ。他の誰かに受肉させるなとか、そういう条件を一切指定しなかった君の落ち度だ。」
「……羂索、貴様ぁ゛ッ!」
「声を張り上げない方がいい、死ぬよ。」
術式が解かれる。致命傷は避けられてはいるが、腹から胸にかけて風穴が空いている。
その光景に、全ての音が遠くなっていき、彼らの会話のほとんどが意味をなさずに耳を抜けていく。
「──私はこれでも、君に興味があってね。禪院家という勢力を取り込みたいのもあるけど、君個人も欲しいんだ。」
加茂憲倫は跪き、這いつくばっていた一樹さんの顎を掴んで持ち上げる。
「八岐大蛇を討った素戔嗚尊は、櫛名田比売を娶ったという。この戦いは私の勝ちだ。これで私は禪院家の次代当主で、君は私の妻ということになる。」
「……最悪であるな。死んだ方がマシだ。」
身体が麻痺しているせいか、彼女は悪態をつきつつも、何も抵抗する様子はない。一樹さんが、取られる。そんなの、嫌だ。それなのに、身体が動かない。動けない。
彼女の目も、まるで死んだ魚のように闇に沈んでいた。声も平坦で、絶望に塗りつぶされている。
最後に聞き取れたのは、か細く、痛々しい声だった。
「……すまぬ、真依。吾輩が馬鹿なばっかりに、守れなかった。吾輩が、余計なことをしたせいで。」
"……吾輩が言いたいのは──何かを作ることができる術式は、何かを与えることができる術式ということなのだ。"
"何かを与えることができるということは、何かを慈しむことができるということである。それはすなわち優しさであり、真依の優しさが術式として顕れていると言えるだろうさ。"
そう評された【構築術式】が、あなたを貫いてしまった。
私が、あなたを折ってしまった。
その現実に私の心は砕け散り、水底へ沈んだ。
「……へ?」
どれだけ長く、眠っていただろうか。気づくと、私は波打ち際に立っていた。素足で踏んだ砂浜は少しざらついていて、痛かった。
「もしかして私、死んだの?」
状況が飲み込めない。
「にゃー」
そんな時、足元に猫が擦り寄ってきた。見覚えがある。それはかつて、私が悲しんでいる時などに一樹さんが描いて呼び出してくれた式神だ。
猫は、港町の方へとスタスタと歩き出し、途中で「ついてこい」とでも言うかのようにこちらへ振り向いた。
「……。」
一方視界の端で雁が葦を咥えていた。彼らはこれから飛び立つのだろう。海の先を目指して。
海の先か、港町か。私が向かうべきなのは、果たしてどちらか。
私が選んだのは……。
視点:虎杖悠仁
11/14 10:55
今さっき、二つのルールが死滅回游に追加された。
[〈総則〉13、11月14日の午前11時をもって、非術師の結界への侵入が不可能となる。]
[〈総則〉14、死滅回游に参加する来栖華を除くすべての受肉体が死亡、またはその呪物が破壊された時、死滅回游は終了し、その時点で1点以上得点を所持している泳者は全員死滅回游から解放される。]
「……何故かしれっと私が除外されてるのに薄寒いものを感じますね。」
「一樹さんは来栖が天使だってことを知らないしな……高専にはまだ天使云々も伝えてないし……。」
──って、ちょっと待て!伏黒のねーちゃんって非術師だよな!?
「コガネ!伏黒津美紀って泳者はいるか!?」
[検索するぜ……いたぜ!]
伏黒津美紀
得点:001 変更:00回 滞留結界:桜島
「良かった……桜島結界って、一樹さんが最初にいた結界だよな?」
「……と、いうことは。」
「あとは受肉体が全部倒されれば、この狂ったゲームは終わる。」
終わるんだ。もうこれで大丈夫。残る受肉体を全員狩り尽くしてから俺も天使に宿儺ごと消してもらえば、全部終わる。もっと大丈夫。
「ルールを追加したのは、禪院一樹さんと乙骨憂太さんですね。」
「……やっぱり、イッツーは生きてたんだ!羂索になんか乗っ取られてなかった!」
ありがとう、イッツー。終わりを整えてくれて。
これ以上はもう、何も望まない。
[禪院一樹が東京結界に侵入してきたぜ!]
12時過ぎ、昼頃にコガネがイッツーの結界入りを告げた。
「契闊。」
視点:禪院真希
「というわけで、吾輩たちは東京第一結界に足を踏み入れる。」
せっかく再会したのに、また別行動だ。
「真希、真依のことを頼む。目を覚ましたら、きっと混乱しておるだろうからな。」
「……わかった。」
「安心しぃ、すぐに終わらせて帰って来たる。」
「あくまでも、僕たちは保険だからね。魔虚羅で全てが解決するはずだから。」
一樹、憂太、直哉がまるで最終決戦にでも赴くかのように、厳粛な空気を纏っていた。一樹は左目につけた眼帯を痛そうにさすっていて、憂太は【贋作・草薙剣】に体重を預けてふぅと息を吐いていた。直哉はいつも通りだが、プレッシャーを放っている。
「乙骨殿。使えそうか?」
「はい。術式を使う時だけ、呪力特性が変わるんだと思います。」
「で、あるか。ならば頼むぞ。」
「にしても、乙骨くんの描いたコレ。まるでコピー機にかけたみたいに一樹くんが描いたソレと瓜二つやな。」
高専に残留する筆頭戦力は由基さんだ。私と真依や硝子さん、渋谷事変の負傷者、それから天元様を守るために残ってくれる。
「俺も共に……」
「ダメだ脹相。貴殿が結界に入ると、貴殿も死ななければならなくなる。死滅回游の終了条件を忘れてはおらぬか?」
そして、脹相。コイツも残留組だ。
「虎杖悠仁の心にいらぬ傷を残すつもりか?」
「だが、弟と妹を──」
「あ?何かキショいこと言うた?一樹くんは俺の弟分やで。」
コイツのことはよくわからない。悠仁の兄貴らしいが、急に一樹の兄であるとも名乗り始めやがったからな……気を抜くと私らまで妹扱いされるんじゃないかと思うと普通にこえー。
「さて、それでは行くとするか。」
「ちゃんと帰ってこいよ。一樹、憂太。」
「うむ!」
「はい!」
「俺は?」
三人を送り出した後、私は真依の寝ているベッドの脇に座った。
「たしか……」
それから、一樹がくれた筆を取り出すと紙に絵を描き始める。一樹の術式が刻まれたこの呪具で描かれた動物は、式神として現れる。
「……クソ、上手く描けねえな。」
猫を描いてみた。たしか、真依が落ち込んでる時には一樹がこうやって慰めてやってたらしいから。
私が描いた不恰好な猫は、真依の足元に降り立つとスヤスヤと眠り始めた。
「──早く目を覚ませよ、真依。」
「……んん、うん?」
ちょうど、そんな時だった。真依が目を覚ましたのは。
「真依!真依なのか!?」
「真希……私…私……一樹さんを……」
目を覚ました真依は、震えた声で喋り始めた。同じく震えた手で顔を覆い、泣きじゃくる。
「一樹は生きてる。」
「……え?」
「羂索……加茂憲倫に勝ったんだ。」
説明しても難しいだろうから、簡単に説明した。わかりやすいように噛み砕いて。
「今は出払っているけど、すぐ戻ってくるよ。」
「そう…よかった……っ!」
真依がさらに泣きじゃくったので、優しく背を撫でることにした。
「──って、何この不細工な猫。」
「は?可愛いだろ。」
それからは久しぶりに姉妹喧嘩をした。腹が立ったので「じゃあオマエも描いてみろよ!」と筆を渡したところ、真依の方が上手く描けていたので完敗した。姉としての威厳が崩れ去っていく。
「ところでこの筆は?」
「一樹の遺品。」
「やっぱり死んでるじゃない!?」
軽いジョークのつもりだったが、真依がガチ泣きしてしまった。
これ、私が悪いのか?
……私が悪いな。
視点:加茂憲紀
「……禪院家の壊滅、か。」
状況が目まぐるしく変わる。総監部の通達をなんとか撤回させようと必死になっている間に、外では何もかもがコロコロと変わっていく。
「坊ちゃま。五条悟の件、なんとかなりそうです。」
「そうか、感謝する。」
西宮の報告で、羂索の死と禪院一樹の生存を昨晩知った。きっと、これだけスムーズに総監部の決定に対して楽巖寺学長や私の意見が通るようになったのは、羂索がいなくなったことが大きいだろう。
禪院一樹が獄門疆を所有し続けようとして却下されたのは、規定を改定する前に五条悟の封印を解くのが目に見えていたからだろう。
だが、その問題もコレで解決だ。あとは獄門疆の封印を解く手段を得て、規定の改定を待てば良い。
準備は整った。あとは風を待つだけだ。
視点:虎杖悠仁
「覚えているか?」
左手の小指がズキズキと痛む。
「面白いものが見れると言ったろう、小僧。」
先ほどまでベッドで寝ていたはずの伏黒が起き上がっていて、その顔には──
「とはいえ、賭けだったな。魂が折れる瞬間を待ち望んでいたが、急を要したので、意識を失っている状態で妥協することになった。」
次の瞬間、俺は腹に強い衝撃を感じると共に吹き飛んだ。
本編に載っけられなかったエピソード①
桜島結界の泳者たちは、通話機能を使って他結界にいる泳者に無差別的に「魔法少女がやってきて、この狂ったデスゲームを終わらせてくれるのだ」と布教活動を行っている。
初めは眉唾物、悪戯だと思っていた受け手たちも、終了条件ルール追加によって信じるようになり、死滅回游結界内では一種の宗教のようになりつつある。
また、受肉体狩りと称して覚醒型の泳者が徒党を組んで受肉型の泳者に挑むケースが増えている。双方犠牲者は多い。
パンダ「マスコット枠が脅かされている」
シャルル「会ってみたい!」
本編に載っけられなかったエピソード②
高専の保健室の前を通りかかった真希は、その中から一樹と乙骨のあやしげな会話を聞いた。
「……大丈夫です、力を抜いてください。一樹さん。」
「い、痛くしないでくれたまえよ……?」
「それは……努力はします。僕も初めてなので。」
「……お手柔らかに、頼むぞ。」
これって……。
「て、てめぇ!一樹!憂太!オマエらこんな時になにやっ…て?」
そうして真希が見たのは、ベッドに寝かされた一樹の目に、憂太がなんらかの器具を突っ込もうとしていた姿だった。
「ま、真希さん!ちょっとグロテスクだと思うので見ない方が……!」
「ちょっと、目を抉ろうと思ってな……」
「意味わかんねえよ!!」
真希は変な想像をしていた自分が嫌になったが、それはそれとしてこの光景も意味がわからなかった。
「ってか、目を抉るなら硝子さんに頼めよ。」
「天才であるかぁ?」「天才ですか?」
特級術師ってのは、異常者の集まりなのか?と真希は振り返る。
↓没展開(人外魔境新宿決戦ルート)↓
絵描きの女が連れていた贋作は、召喚されてから随分と経過しているようだった。つまり、事前にあらゆる事象に対して適応してきた可能性が高いということであり、斬撃や炎なんてものは既に無意味となっているはずだ。【御厨子】では有効打になり得ない。
故に正面からの突破は不可能だろう。あらゆる事象に対して適応を終えているのだから。
だが、俺の見立て通り──
【ガコン】
どろり、と魔虚羅の剣に触れた贋作が溶けた。
「適応への適応は行なっていないはずだ。」
「しまった──」
「そして【鳥獣戯画法術】の式神への適応と、【十種影法術】の式神をへの適応。どちらの難度が高いかなど、火を見るより明らかだ。」
「……チッ!」
やはり此奴は甘い。詰めも性格も何もかも。
「【解】」
「【鏡亀】っ!」
流石に魔虚羅が破られた時のことを想定していたか。即座に思考を切り替え、適切な式神を選んで召喚したか。初見の式神なのを見るに、あれからも式神の幅を増やしたのだろう。
「認めてやろう、禪院一樹。もはや今の貴様は、その術式を使いこなしている。」
「……背水の陣である。」
禪院一樹が式神を召喚する。その数は、かつて平安で俺を討伐に来た連合軍と同等かそれ以上か……まぁ、質は比べるべくもないが。
「忘れているんじゃないのか?魔虚羅は【鳥獣戯画法術】の式神に適応している。」
魔虚羅の一薙で、すべての式神が霧散する。もはや此奴の手札は俺に何一つ通用しない。
「形勢逆転だ。」
「吾輩が式神を出し切ったのは……吾輩の呪力を吐き出すためだ。」
禪院一樹が走り出す。それは俺の方ではなく、魔虚羅の方へと向かっていた。残った呪力全てをすべて吐き出すかのような瞬発的な呪力強化、流石の俺でも追いつくことはできない。
「術式反転【硯】」
禪院一樹が魔虚羅に触れると、魔虚羅が墨となって禪院一樹の肉体に染み込んでいった。
「……これで魔虚羅のイチイチ交換である。」
「ケヒッ……器用なことをするものだな!」
この後には五条悟も控えている。あまり時間をかけたくはなかったし、魔虚羅を失ったのは痛手だ。
※この後一樹は普通にボコボコにされた後に袈裟斬りされるけど、その隙に五条悟の200%虚式が炸裂する。
「宿儺が魔虚羅を失った時は……吾輩ごとやってくれ、悟殿。」
「僕が巻き込まなくても死ぬってなったら考えてあげるよ。」
「……あ、この作戦については真希には黙っておいてくれないか。真希は絶対反対するであろう?」
虚数の質量が自身を焼き尽くそうとしている中、吾輩は目を閉じた。
「直哉殿、吾輩もそちらへ向かうぞ。手土産は、ないが……。」
みたいな流れで、死んだと思われていた直哉が駆けつけて回収って感じを考えていた。
だが、このルートだと虎杖が覚醒しないので、真依を取り戻すのに時間がとてもかかる。