禪院家に強術式の男として生まれても詰むことあるんだ…… 作:ある日の残り香
【鳥獣戯画法術】という術式を思いついたことから始まった物語、思ったよりも多くの人に読んでもらえてびっくりしましたけど、なんとか完結まで走り切ることができました。
それでは最終話、どうぞよろしく最後までお願いします。
……この作品の着地点ってどこだろう。
視点:五条悟
「傑……。」
傑の遺体はすぐに見つかった。そう、遺体だ。すでにアイツは身体を乗り換えている。遺体を上層部が押収しているのを見るに、そう考えるのが自然だろう。もしも高専の誰かが殺害したのなら……それはきっと憂太だ。でも、仮にもし憂太とコイツが全力で命の取り合いをしたのなら、こんな綺麗に遺体が残るわけがない。少なくとも腕の一本や二本は捥げるか焼け焦げているだろう。
ここまで綺麗な死体となると、あり得るとすれば一樹の魔虚羅だが……鍛えた僕が言うのもなんだけど、一樹は弱い。高専時代の傑にも勝てないと思う。つまり、自死だ。肉体を乗り換えるための。
「五条悟、状況は理解しているか。」
「君は……ああ、京都校の。悪いけど、何も分かってなくてね。説明頼める?」
京都校の憲紀の口からこれまでのことが語られた。
「……一樹が特級認定で僕の仕事の後釜、ね。使い潰したいのが見え見えだ。そして、学長の処刑と僕を渋谷事変の共同正犯扱いか。そして、悠仁の死刑執行。」
馬鹿にしやがって。僕がいなくなった途端にこれだ。
「それと、夏油傑の肉体を奪っていた術師……羂索は死んだ。禪院一樹の体を乗っ取ろうとして失敗したようだ。」
「……なにモンだよ、アイツ。」
そういうことなら安心だ。膿腐った上層部を一掃すれば、憲紀がトップの加茂家、一樹がトップの禪院家、その他マトモな術師が実権を握って改革を進められる。
「あと、禪院家は壊滅した。」
「は?」
ごめん、何が壊滅したって?
「禪院一樹と禪院直哉の留守中、裏梅という平安の術師に襲撃されたようだ。その術師も、禪院一樹によって始末済みだと聞いている。」
「……はぁ〜、よりによって直哉が残っちゃったか。」
禪院家の中でも腐ってる奴が残っちゃったな。強くはあるけど、頭が古すぎる。箱入り坊ちゃんだから禪院家の古臭い因習に染まってるだろうし。あー、やだやだ。
にしても、一樹強くなったね。僕に殴られるたびに泣いてた頃から比べるとすごい成長だ。
「まったく、気分は浦島太郎だね。僕ってばそんな長い間封印されてた?」
「およそ三週間だな。最強が一人消えただけで、均衡が崩れたというハナシだ。」
大まかな情報は知れた。なら僕が向かうべきは──
「高専は健在?」
「そのはずだ。」
高専に行けばもっと詳しいことがわかるだろう。
視点:禪院一樹
「忘れておった。【獄門疆・裏】を開けると表から出てくるのだった。」
「……わざわざ避難したの、徒労に終わりましたね。」
「うむ。……おかえりパーティの準備でもするか。」
第四修練場から撤収し、本校舎へと戻った我々を待ち構えていた男を見て、学生たちが走り出す。各々が彼を呼びながら。
「や、ただいま。みんな頑張ったね。」
悟殿が生徒たちと戯れた後、こちらをみる。美しい青い瞳……六眼に射抜かれ、吾輩は蛇に睨まれたカエルのように怯んだ。悟殿のことを先程まで完全に忘れていたことと、渋谷事変でのことが後ろめたいのである。
悟殿の顔も、表情がよくわからない。これ、もしかして怒ってあるのではないか?
「悟殿……。」
そして吾輩は、先手必勝とばかりにスライディングで土下座をした。
「忘れていてすまなかった!」
「は?」
「え?」
どうやら墓穴を掘ってしまった。わざわざ待ち構えているもんだから、怒っているのかと思ったが、微笑んでいたようだった。だった、というのはその表情が崩れたからである。ちょっと怒ってる。
「一樹、マジビンタ。」
「……拒否は」
「ダメ。」
とても痛かった。
視点:五条悟
「──にしても、随分可愛い格好してるね?趣味?」
「ンなわけがないであろう!縛りである!縛り!」
「へぇ、誰との?」
「直哉殿だが。」
「じゃ、直哉の趣味か。少女趣味なんだな、アイツ。」
反転術式で僕にぶたれた頬を治しながら反論してくる姿は、なんか少しおかしくて面白かった。こんなこと言うと怒られるかもだけど、一樹は音の鳴るおもちゃとして優秀なんだ。
「五条先生、流石に女性に手をあげるのは良くないですよ。」
「そうだぞー!」
「おかか」
「一樹は男の子だから良いの、教育的指導デス。」
生徒たちからの非難を受け流しつつ、僕は一樹を六眼でじっくりと観察する。
呪力量がかなり増えてるな。憂太程じゃないけど、多くなってる。それと、肉体にも何か違和感が……ある。
これ……よくわからないけど、たぶん────
「……一樹、どっかで処女捨てた?」
「──ま、魔虚羅ァ!!」
理不尽。これ僕、そんな悪いかな?
視点:禪院真希
直哉か?
……バカ目隠しは一樹に連れてかれた。生徒の前でそういう質問をするのは普通にダメだろ。アイツ倫理観消し飛んでんのか。
「直哉さん、ヤッたんですか。」
「ふるべ……」
「やっとらんで。俺のことホモかなんかやと思っとる?」
日頃の行いのせいで直哉に信用はない。だが、直哉はため息をつくと当たり前のことでもいうかのように一言告げた。
「てか──普通に考えて羂索やろ。それともなんなん?俺は羂索と同列なん?」
その一言で場が静まり返った。その響きは、あまりにも悍ましかったから。
「一樹くん、負けたら嫁入りの縛りが掛かった戦いで羂索に一回負けとるんよ。俺が目覚めた時には壊れたオモチャみたいに笑いながら羂索の遺体のそばに立っとった。あん時の一樹くん、メンタルやばかったで。ありゃ、好きでもない相手に食われた女の反応や。」
「僕が初めて会った時も、いきなり泣き出したくらいには精神が弱ってましたし……身体を弄ばれたって……まさか──」
憂太も青い顔をして口元を抑える。だんだんとこの場の空気が沈鬱としたものに変わっていく。皆に共通していたのは羂索への嫌悪感。
「おのれ加茂憲倫ィ!!俺の母だけでなく、妹にまで……!!」
「い、妹!?」
「脹相くんはなぁ……頭がアカンわ。」
その空気を打ち破ったのは更なる狂気であった。少しだけ場が緩くなった。ありがとう脹相。
「てか、羂索って男なの?女なの?」
「普通に考えて男だろ。」
「いや……だって俺のカーチャンの額にも──」
そして、その空気をまた凍らせたのはその弟だった。悠仁オマエまじか。あ、だから脹相は……なるほど。
「もう、キショすぎて何も言えねえよ。」
「あの子は私の友人だった。」
「うわっ!?びっくりした!?」
私らの中心に立つように突如現れた天元様が、羂索の人柄などについて説明していった。衝撃の事実もいくつかあったが、忘れようと思う。
視点:禪院一樹
「……おそらく、吾輩は死んでる間に…羂索に身体を弄ばれた。」
「そっか。」
悟殿の部屋で、吾輩は思い当たる節について説明する。
「……目を覚ました時感じた違和感、気持ち悪さ。痛み……どれも、忘れたくても忘れることができん。」
「どこまでもキショいな、あの脳味噌野郎。」
「悟殿も悟殿である。なぜ皆の前で……」
強い軽蔑と抗議の眼差しで悟殿を睨むが、全く効いていない。
「……それで、なぜ気づいたのだ?」
「──端的に言うと、胎の中に何かが渦巻いてる。」
「虎杖悠仁と同じタイプである、か……。」
羂索のことである、どうせ自分で産むつもりだったのだろう。夏油傑という一般家庭出身で特級術師になったイレギュラーと、御三家の特級術師を掛け合わせたところに自分の呪力を混ぜ合わせたら何が生まれるのか気になった……とかそんなところであろうか。
「こういった呪術が関わってるタイプって、堕ろせるものなのか?」
「いや、知ってるわけないでしょ。」
「その六眼は飾りか?」
こうして、吾輩には新たな悩みの種が生まれた。
「……悟殿、生徒たちの前で話したことは一生許さぬからな。」
「デリカシーがないとはよく言われるよ。」
して、此奴はなぜこんなに嬉しそうなのだ。吾輩にとっては絶望でしかないのだが。
まさか、夏油傑の忘形見だからか?
視点:禪院直哉
あれから数日が経って、ついに死滅回游は完全に終了した。コガネが消え、全国の結界も消え去った。
まあ、つまり……
「魔虚羅もお役御免……契約を果たす時やで、一樹くん。」
「ようやく、吾輩もこの恥ずかしい衣装を脱げるのだな。」
俺のお●んちんを再び生やしてもらえる時が来たということや。一樹くんが静かに筆を走らせとる。
「……蘭太殿、最期まで勇敢に闘ったのだろうな。」
「なんでしんみりしとんねん。おちん●ん描いとるだけやろ。」
「懐かしいな、あの部屋で甚壱殿や信朗殿と一緒に直哉殿のチ●ポの概念を固めた日が。」
「死者からしたらたまったもんやないで、そんな思い出で偲ばれとったら。」
一樹くん、変なところで狂っとるんよな。
「……芋虫になっとらんやろな?」
「うむ。吾輩は一度描いた絵は忘れぬ。それに、あの日は楽しかったからな。」
「そか。」
「──描けたぞ。」
無事に俺にはブツが生え、縛りは完遂。一樹君は「ようやく解放された〜!」と俺のことを気にするそぶりもなく魔法少女衣装を脱ぎ捨てて、部屋に仕舞っていた着流しと半纏へと着替えた。
やれやれと思いながら服を拾い上げた時に気づく。
「……なあ、呪具化しとらんか。この服。」
「は?」
特級術師が絶えず術式を発動させながら着込んでいたせいか、この衣装は呪具化しとった。術式はないんやけど、墨の呪力が染み込んどって、自己補完しとった。下手な攻撃なら多分弾くで、これ。
一樹くんがいらんと言ったから、この呪具は新しい禪院家の忌庫に安置されることとなった。
視点:禪院真依
「あ。」
「……真依。」
着流しに半纏という格好で現れたのは、一樹さんだった。いざこうして声をかけられると、なんと応えて良いかわからなかった。
「すまなかった。」
「え?」
「吾輩が馬鹿で、弱かったばっかりに真依には辛い目に合わせてしまった。」
「いや、そんなこと……」
「……すまなかった。」
一樹さんが頭を下げる。私は焦って「顔を上げて」と声をかける。
「私こそ…私が、受肉されなければ……一樹さんは……」
あの時、領域展開が決まっていれば一樹さんは勝っていただろう。私はソレを妨害し、一樹さんを死に至らしめた。そして……。
「責任は、とるつもり。」
「真依には責任などない。むしろ、咎を負うのは吾輩なのだ。」
一樹さんは、私が受肉されたのは一樹さんのせいだと説明する。それでも、私は納得できなかった。それでも、この人が求めているのは私が罪悪感に暮れることではないと気づいた。
なら、私はどうするべきか。彼の罪を、掬い上げるべきだ。それが、彼の救いになる。
「……なら、一樹さんが責任をとってくれる?」
「吾輩にできることなら、なんでも。」
「じゃあ──」
……いや、無理。言えない。今ここで言うのは、ダメだ。一樹さんは絶対に首を縦に振る。でもそれは、一樹さんの弱みに付け込むだけだ。そんなのは、不健全だ。
「……真依?」
「わ、私に──絵の描き方を教えて。」
「……それで良い、のか?そんなことで責任を取れるのならば、いくらでも教えよう。」
「そ、じゃあずっとね。」
いつか、あなたが抱えるその罪悪感が薄れた時。その時になって初めてこの想いは伝えようと思う。
恋愛感情なのかよくわからないけど、それでも……これからもずっと一緒にいたいのだと。
視点:禪院一樹
2024/n/n
吾輩は京都で開かれる超常決議に出席することとなった。
「特級術師が全員出席とは……物々しすぎるのではないか?」
「仕方ないでしょー、お外の国に舐められたら終わりなんだし。」
吾輩のボヤキに反応したのは五条悟(34・独身)。
「真依と息子も連れていく。吾輩の目に見える範囲の方が守りやすいのでな。」
「お、そうなの?」
「……次また吾輩の息子に近づいたら、ただでは置かぬからな。」
何を隠そう、その息子というのが件の羂索の置き土産だ。そして、その子に悟殿が執着する理由は、お察しの通り夏油傑の血が混じっているからである。親友の忘形見でもあるということであるな。でもあの態度は気持ち悪いのだ。自分の息子だから余計に悟殿への警戒心を抱いてしまう。
「出席者は僕、憂太、一樹、由基さん、直哉だね。」
「直哉殿、最近ボケておるから心配なのだが……。」
「ほんと、奥さんが可哀想だよ。」
「あんな奴でも結婚できるなんて、政略結婚というものは闇が深いな。」
直哉殿は結婚して、子供にも恵まれた。ただし、政略結婚とはいえ相手が不憫に思えたので、婚姻前に吾輩が直哉殿を教育しておいたお陰か、未だに直哉殿は離婚してもおらぬし、背中も刺されておらぬ。
教育というのは具体的には、"奥方に暴力を振るえばチ●ポを消す"、"奥方に強引に行為を迫ればチ●ポを消す"、"奥方に〜"……といった縛りを結んだのである。なお、吾輩がこれとは関係なく術式を解除した場合、直哉殿に逆らえなくなるという縛りを結ばされた。でも直哉殿、それって貴殿の地雷ではないのか?
まあ、直哉殿の話はこれくらいで良いだろう。
「そういえば、今年の生徒はどう?」
「皆落ち着いていて良い子であるな、本当に悟殿が面接したのか?」
「僕のことなんだと思ってんの?」
悟殿は学長になり、吾輩は高専の教師となった。というのも、死滅回游後も相変わらず呪霊の質は落ちず、呪詛師も同じくであったため、強く聡い仲間が欲しいという実情によるものだ。なお悟殿は学長とは言ってもお飾りであり、本業は全国行脚の呪霊・呪詛師の討伐である。生徒に直接指導する時間は減らされている。
そして吾輩は高専の一年生と三年生を担任している。とはいえ、吾輩には教育者としての才はない(主に知性)ため、基本的に【猿仏僧】頼りであるが。だが、手合わせに関しては丁度良い式神を呼び出せば実践的な訓練ができると評判である。
「教職に勤めて六年目……この歳になってようやく、日下部殿の有り難みを知ったよ。」
「ま、あの人は頻繁にサボるけどね。」
日下部殿は二年生の担任をしている。基礎を叩き込む上では、彼以上の教育者はいないだろう。サボりがちなのは玉に瑕であるが。
「そうだ、一樹。来週の土曜日空けといて。」
「構わんが……何故であるか?」
「同窓会をやるんだ。悠仁たちがね。」
「……ふっ、そういうことか。わかった。」
雑談はその辺りで切り上げ、京都行きの新幹線に間に合うように各々準備を整えて出発した。
新幹線の座席から窓を眺める。三人掛けのシートには吾輩と真依が、息子を挟んで座っている。
「一樹さん、緊張してる?」
「まあ、そうであるな。」
「お母さんなら大丈夫!」
吾輩と真依は、現在同居している。といっても、戸籍上は両方女であるし、あくまでもただの同居に過ぎない。ただ、そばにいるだけ。恋人でもなく、夫婦でもなく……ただ、家族ではあるのだろう。真希も今は"まだ"うちに住んでおるが、おそらくもう少しで乙骨殿と──ああ、これは関係がなかったな。
息子は父親のことを知らない。きっと、知らなくて良いのだと思う。大切なのは血ではなく、愛なのだから。それは、同じ羂索の息子として虎杖悠仁がそれを証明してくれている。
事実、息子はとても良い子だ。泣いてる子がいれば慰めてあげるし、困ってる人がいたら手助けをしにいくし、弱いものいじめをする人は許さない。本当に良い子だ。
──どこかで矯正しないと、袈裟を着かねないけれど。
「……真依、吾輩は幸せ者だよ。」
「……なによ、急に。」
「ふっ、なんでであろうな。ふと、そう思ったのだ。」
視点:?????
「……アンタ、また絵を描き始めたのかい?」
「ああ。」
帰省した時、僕の手についた絵の具を見て母さんは渋い顔をした。
「……アンタの趣味だから、私がとやかくいうことじゃないのかもしれないけど、私は心配だよ。」
「大丈夫だって、先生からも許可は得てる。」
数ヶ月前、僕は一度筆を折った。描き続けた少女の死によって。
僕にとって、絵は罰であり、贖罪だった。もう二度と会えぬと思っていた、僕には何もしてあげることができなかった悲劇の姉妹、その妹を描き続け、僕への軽蔑と戒めを込めることで、僕の罪を強く自覚させていた。
下らない、意味のない自傷行為だ。それでも、当時の僕にはそれだけが贖罪の手段であり、重すぎる罪を酌量する唯一の手段だった。
そして僕はまた、罪を重ねた。
今もまだ覚えている。彼女の儚げな顔が、潰れ砕ける映像が何度も脳内にフラッシュバックした。彼女の顔を見るたびに、その光景が何度だって鮮明に再生されてしまう。
僕は半狂乱になって部屋を埋め尽くしていた彼女の肖像画を破いた。それからイーゼルを叩き割り、筆をへし折り……画材を全て捨てた。
結果として、その行為を行なっている際の物音や声によって近隣住民に通報され、僕は精神科に通うことになった。先生には、絵を描くことを止められた。でも、それでもいいと思った。僕にはもう、絵を描く権利なんてないのだと思ったから。
ではなぜ、僕が絵を再び描き始めたのか。
「──僕は、"ちゃんと生きる"ことにした。そのためにはまず、ちゃんと過去に向き合わないといけないと思ったんだ。」
「向き合うってアンタ……これまでずっとやってきたじゃないかい。それで心を病んだんだろう。もういいじゃないか…忘れてしまったほうがいい。」
「……いや、僕は向き合ってこなかったんだ。都合よく、自分の罪悪感をはぐらかすための代償行為に彼女を"使い"続けた。」
精神科での治療を受ける中で、僕はふと気づいたのだ。
彼女は、どんな顔をしていただろうかと。
僕の描いた彼女の顔はどれも、軽蔑と憎悪が滲んでいた。でも、あの日最期に僕に向けた彼女の顔には、儚さと……何か、大きな…温かいものがあった。
「……西郷隆盛の顔を誰も知らない。人間っていうのは、視覚情報にとらわれて、それも……新しい記憶をより鮮明に記憶する。」
退院後、彼女を偲ぶために呪術廻戦を再び買い集めた。僕が読むのをやめた時は14巻までしか出てなかったのに、今や30巻で完結し、続編のスピンオフまで出ている。
モジュロ。余物。その最終巻が、今年の5月に発売してこの作品もまた完結する。
あとはアニメも、20巻ぐらいまで放送が終了した。
そうして作品の最先端まで読み進めた時に気付いたのだ。僕の記憶の中の呪術廻戦は、既にあの頃の呪術廻戦の絵柄ではなく、アニメやモジュロの絵柄になっていたことに。
「それでも……大切なのは、残しておくことなんだと思う。」
脳の記憶はたしかに変わり果ててしまった。それでも、漫画をひらけばそこにはあの頃の呪術廻戦が残っている。
「絵を描き、保存することは……その瞬間を永遠に残すことなんだと思う。」
かつて、僕は絵を呪いだと言った。
「僕は、忘れてしまったんだ。彼女の笑顔を、彼女が僕に向けてくれていた……愛情を。」
僕は、彼女を呪ってしまったんだ。彼女を描く中で、自分への憎悪や軽蔑を流し込み続けた。そして、僕の中の彼女は歪んだ。
「だから、思い出して……もう忘れないように、額装しなきゃいけないんだと思う。」
今度は、呪いにならないように。祈りを込めようと思うんだ。
「それが、これから僕がちゃんと生きるための第一歩、過去に向き合うことだと思う。」
絵は、魂の発露だ。
描くことは、呪い/祈りだ。
僕は、もう逃げない。ちゃんと、向き合う。
僕が彼女にかけてしまった呪いを解くために。
彼女の笑顔を、思い出して……記録するために。
「静華ちゃん、いつか死後に再会する時は……僕も、自分を恥じなくていい、そんな僕になってみせるよ。」
視点:髙羽史彦
「最後のセリフは俺!!!!!!」
『禪院家に強術式の男として生まれても詰むことあるんだ……』 完
本編と異なる末路を辿ったキャラ+一樹
禪院一樹
享年78歳。肝臓の病。死ぬ直前、総監部に預言書を渡した。生前は薬丸に対してしつこく教育的指導を行なっていた。薬丸からは疎まれていたが、いざ亡くなると薬丸も凹んだ。
禪院直哉
享年37歳。禪院家は細々と続いていくが、御三家に返り咲くことはなかった。29歳の時に正式に特級術師に任命されてから、大きな怪我もなく任務をこなし続けたが、ある日ふと脳の病気を発症して病院に搬送されるも間に合わなかった。子供達は彼の偉業だけを誇り、決して家庭内の彼の実情を述べることはなかった。後々一樹が聞いてみたところ、「人間性は反面教師にしてますが、術師としては本当に誇りなんですよ。親父は。」と答えたらしい。
辞世の句は想像にお任せします。
禪院真依
享年79歳。一樹と真希の死で弱り、老衰。一樹から「好きな人とかいないのか?」と聞かれたがかわし続けた。今でも、一樹への感情が恋心だったのかはわからない。
兄のような存在への親愛だったのか、甘えていただけなのか、それとも異性として慕っていたのか。わからないまま生涯を終えたが、それでも幸せだった。
五条悟
享年60歳。術式のせいか、六眼のせいか長生きはできなかった。教え子の前で孤独についての話(空港でしたような話)をして成人した乙骨と虎杖にボコボコにされた。
やがて孤独は癒えた。強く聡い仲間が育ち、自他への「花」という仕切りが少しずつ和らぎ、晩年には自分も人間なのだとわかった。彼ら(生徒、親友、後輩ら)と共に人の道を歩めたのだと。
「でも、死ぬなら病気や老いじゃなくて宿儺みたいな強い術師と戦って死にたかったなぁ〜」
虎杖悠仁
生きてるけど普通にお爺ちゃん。たぶん素で130歳まで生きるけど、原作とは違って老いデバフがあるため前線には出れない。
もしかすると、小沢さんと幸せになっているかもしれない。
脹相
不老の身で、年老いていく悠仁の世話をしている。モジュロ時空では一樹の孫の秘書役も兼任している。一樹の孫の初恋の相手だが、脹相が歳を取らないことに気づいて失恋したらしい。
天元様
結界現役!
九十九由基
脹相の良い友人になったが、人間なので寿命で亡くなった。享年は不明である。
死滅回游覚醒型游者たち
社会復帰を果たしたり、自首をした人が多い。呪術による殺人をどう取り扱うかは長らく議論された。
五条悟の死までは呪術界のインフレは継続していた。
……これ、モジュロが下手する大人世代の人間だけで完結しないか?
ここまでお読みいただきありがとうございました。
思いつきと行き当たりばったり、ライブ感全開で書き進めてきましたが途中まあ色々とリアルな事情等あって更新が止まったりもしました。それでもここまで書き進めることができたのは、読んでくださった皆様のおかげです。
この作品、ラストはどう終わらせようか本当に迷っていて……というのも、最初に最後を考えた時とはもう何もかもが変わっていて、この作品において、帰結すべきところはどこかと考えに考えた結果が「茂井さん」になりました。
茂井さんというキャラクターもたしかアドリブで存在が組み上げられたキャラクターだったのですが、思ったよりも馴染んだというか、「禪院一樹」というキャラクターのTS設定ともうまく噛み合ったといいますか……奇跡の産物でしたね。
茂井さんみたいな人、現実に結構いると思います。大人として子供には適切に距離をとっているつもりでも、全然距離を取れてなくて、思春期の子供の情緒や心を奪い去っていくタイプ。それでいて、何か問題が起こると自己批判や自己否定が多く散見されるタイプ。もっと楽に生きてほしい。でも、メロい男はそれをダダ漏れに流し続けることが罪なのでそこは反省してもろて。
直哉くんも性能がインフレしましたね。善人直哉にはならなかったけど、一樹くんにチン殺ポ奪の権を握られてしまったことで丸くはなりました。
いやぁ、それにしてもキャラが多すぎてうまく描ききれませんでしたね!日車さんとか大好きなんですけど、出番がなかったです。
さて、これ以上ダラダラと後書きを書き続けても惨憺たる文章しか出来上がらないのでこの辺りで締めましょう。
ここまでのご愛読、ありがとうございました!
『呪術廻戦≡』の最終巻は5月発売!