禪院家に強術式の男として生まれても詰むことあるんだ……   作:ある日の残り香

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過去編は今回で終わり。

誤字が多くて……
ほんと、誤字報告修正ありがとうございます……
スマホのフリック入力でやってるのでどうにも誤変換とかフリックミスがね……。




 


第七話【爪痕】

 

 実に簡単な任務であった。音に関する術式を持ち、周囲の住民を自殺に追い込んでいた一級呪霊の討伐。離れたところから目視で存在を確認し、目標のおおまかな呪力量を推しはかり、これだけあれば削り切れるだろうと【貫牛】を3体召喚。3体全ての同時着弾により呪霊は音を立てて消滅した。

 

「はて、これで終わりか?」

「……余裕がありそうですので、帰り際にこの辺りに出没した2〜3級の呪霊も祓っていただきましょうか。」

「うむ、承ろう。それだけ狩れば丁度酒を飲むのに丁度良い時間帯になるであろうしな。」

「お酒を飲めるようになってからというもの、お酒ばかりですね。まったく、現当主様にそっくりです。」

 

 その日消費した式神は【貫牛】が五枚、【円鹿】が二枚、【鵺】が一枚、【大蛇】が三枚、【玉犬】を五枚ずつであった。

 

「……呪霊、多くないか?」

「そうですね。たしかに妙です。それに、どこか……こう、なんと言いますか。統率された兵隊のようにも思える動作も一部ありましたね。」

「しかしまあ、これにて討伐任務も終わりである。さあ、酒を飲みにゆこう!」

「あ、私はこの後禪院家に報告してすぐにプライベートの予定がありますのでお一人でどうぞ。」

「……。じゃあ先にお土産買うから、それを禪院家に届けてはくれまいか?」

 

 吾輩は窓に禪院家の者たちへのお土産を持たせ、飲屋街へ向かった。

 

 

 

 

 

 

「ふふ、あははっ!たのし〜!!」

 

 吾輩は酔っ払って気分が良くなり、千鳥足で夜の街を歩く。

 

「わたしは〜♩禪院の次期当主〜♩」

「やあ、お兄さん。」

 

 そんな吾輩の前に、一人の男らしき存在が声をかけた。

 

「誰?わたしの知り合いかな……なんか見覚えある気がするし……」

「禪院一樹であってるかな?」

 

 そして男が吾輩の身体に手を伸ばした。吾輩は彼が呪霊であることにその時初めて気づき、反転術式を使用できる【円鹿】の呪符を使おうとするが、酔っているせいかうまく掴めず、術式を発動できなかった。

 その隙を逃すことなく、呪霊は術式を発動させた。吾輩が読者として前世で最も恐れた術式を。

 

「──【無為転変】。」

 

 酔いが覚めていくのを感じた。吾輩はこれから死ぬのだと確信したためだ。

 

 身体が作り替えられていく。骨が捻れ、肉が裂け、身体が壊れていく。幾らかの肉と脂、それから骨が弾け飛ぶ。ぐにぃ、ぐちゃりと身体が音を立てて改造されていく。

 

 しかし、しばらくすると身体の痛みが収まる。驚くことに、吾輩には未だ意識があった。

 

 恐る恐る目を開けると、吾輩の前には驚愕する呪霊、真人がいた。此奴が先ほどよりも背が伸びたように思えたが……違う。

 これは……私が縮んでいるのだ。

 

「は───?」

「へえ、【無為転変】を喰らったのに、性別が変わっただけで済んだ……妙な魂だね?」

 

 その言葉に、自分でも信じられず体を触れて確認してみると、どこか柔らかさを感じる。その時確信したのだ。吾輩が女になってしまったことを。

 

「……まあ、【無為転変】の効きが悪いなら普通にぶっ殺しちゃうか。」

 

 真人が腕を鎌のような形へと変形させた。吾輩の命を刈り取るために。

 

「【鳥獣戯画法術】──【脱兎】。」

 

 それからのことは、知っての通りであろう。吾輩は高専に潜伏した。

 

 

 

 

 

 

視点:禪院甚壱

 

「そうか、ご苦労。下がっていいぞ。」

 

 俺は一樹が襲撃されたという地点へとやってきた。あたりは酷いものだった。血が、肉が、骨が飛び散っていた。

 そして、地面に遺された血に塗れたトンビコート。その脇に転がる、彼のものであろう呪符や数枚のレシート。

 

「【円鹿】を使用しようとして、発動できなかった痕跡がある。【円鹿】はたしか、反転術式を使える式神だったか。それを用いる相手ということは呪詛師ではなく、呪霊か。」

 

 しばらくして、この場に残っている残穢が禪院一樹と、数日前に確認された特級呪霊のものであると判明した。

 

「──人の魂に干渉し、それを捻じ曲げる呪霊か。」

 

 術師にとっても、魂という存在は理解し難いモノである。故に、それを守ることはできない。どれだけ多くの呪力を纏っていようと、魂だけは裸同然である。

 

「酔ってさえいなければ勝算はあっただろうに。酒を飲み始めた時から危うさは感じていたが……年長者として一度はシメておくべきだったか。」

 

 今更後悔しても遅いことである。今更反省しても遅いことである。それでも、あれほどの人材を失ったことは禪院家にとっては痛手でしかない。誰が次の当主になるにしても、禪院一樹は戦力として禪院家を支えていただろうから。

 

「甚壱さん……」

「蘭太、この襲撃は偶然だと思うか?」

「……思いません、なんらかの思惑があるかと。しかし、有り得るでしょうか。呪霊が徒党を組むなんて。」

「可能性として頭に入れておけ。もしかすると、狙われているのは禪院家そのものかもしれない。一つずつ、ジェンガを崩すように柱を抜かれている可能性がある。」

 

 報告よりも多かった呪霊たちは統率が取られていた。窓の報告によれば、禪院一樹はそれらとの戦闘で呪符もそれなりに消費していた。そして、襲撃されたのは飲酒をして、戦闘不能になった時。

 状況が出来すぎている。

 

「葬儀のためにも、肉片と骨は出来るだけ回収させる。俺たちは帰るぞ。近いうちに直毘人、それから直哉と扇を呼んで今後について話し合う。」

 

 傷跡は大きい。禪院家の戦力としても、俺の心情としても。

 

 

 

 

 

 

視点:羂索

 

 真人が仕留め損なった。しかし、殺害の優先度はそこまで高くない術師だったため、まだ妥協できる範囲内だ。

 

「【無為転変】したのに、性別だけ変わって他は無傷だったんだよね。変な魂してた、魂にも外側と内側の概念があるってことなのかな……いやぁ、よくわかんないね。夏油。」

「……とはいえ、禪院一樹は女になった時点で無力化できたと考えていいだろうね。禪院家は昔から女性蔑視的な風土がある。これで彼……ふっ、いや、今は彼女か。彼女が当主になる道は途絶えたと考えていい。」

 

 禪院一樹が禪院家の当主になることがあれば、総監部への影響力も考慮する必要がある。はっきり言って厄介だ。腐った総監部であれば、五条悟封印後のゴタゴタに乗じて乗っ取ることも難しくない。だが、禪院家が健在かつ、禪院一樹のような呪術界の腐敗とはほど遠い人物がそれを統括しているとなれば、その計画も御破算となる。

 もっとも総監部の乗っ取りはサブであり、必要条件ではないのだが、それでも妨害してくる敵は減らしておきたい。目的がはっきりしている時に発生するランダムエンカウントほど面倒なことはないからね。

 

「とにかく、禪院一樹のことはこれで終わり。いやぁ、消耗が激しい中無理させたね、真人。」

「ほんとだよ。人使いが荒いんだから、夏油は。」

「呪霊だろう。」

 

 ただ、一つ策は打っておこう。おそらく、禪院一樹は五条悟の側につく。だからこそ、これ以上彼女に余計なことをさせないように、確実に彼女を終わらせるための一手を打っておくに越したことはない。

 

 禪院一樹が高専を頼るのは確実なのだ。高専には、東京なら禪院真希が、京都なら禪院真依がいる。どちらにせよ、禪院一樹を匿うだろう。そして、東京高専にいた場合は五条悟が見逃すわけがない。なんらかの方法で囲い込むはずだ。

 そして禪院家もまた、禪院一樹を手放すわけがない。その上で男尊女卑な風土が完成している禪院家であれば、もう彼女は術師としてではなく、胎として使うだろう。男より優れた女を認めるとは思えないから。そうなれば、五条悟は禪院家を許さない。潰しあってくれるはずだ。そうなれば、禪院一樹というカードだけで禪院家も終わる。

 

「例の禪院家の窓に情報を流すためにも、交流会で与幸吉には頑張ってもらわないとね……写真は、あの"窓"経由で禪院家に流せばいいだろう。」

 

 禪院家には自滅してもらいたい。あれだけの部隊力を持つ家なんて、私の計画には邪魔だもの。使い古されたボロ雑巾は、見飽きちゃったから。

 

 

 

 

 

 

視点:与幸吉

 

 メカ丸の機能を用いて撮影した映像を切り出し、写真として印刷する。写っているのは、先日の交流会で加茂たちを救った黒い髪の女性。

 

「禪院一樹、か。」

 

 真依から何度か話は聞いたことがある。禪院家の中にもまとも寄りな感性を持つ術師がいると。真依にとって、兄のような関係であるその男は、優れた術式と才能を持ち、禪院家の当主候補に名を連ねるにまで至っているという。

 だが写真に写っているのは女性だ。真人によって肉体を捻じ曲げられた結果なのだという。

 

「……俺の時は大丈夫だよな?」

 

 俺は彼らと縛りを結んでいる。内通者をやる代わりに、俺の肉体を治すと。天与呪縛から解放すると。

 

「アイツらが真っ当に契約を履行するのか、怪しいところだな。正直。」

 

 写真を小型のメカ丸に添付し、指定された場所に届けた。そこには真人がいて、写真を受け取るとどこかへ消えた。

 

「ふぅ……。」

 

 俺はみんなを裏切っている。最悪な裏切り者だ。それでも、俺はみんなに会いたいんだ。生身で。その為なら、クズにでも何にでもなってやる。

 

 そうやって目を閉じたとほぼ同時に、高専に置いてあるメカ丸が物音に気づいた。

 メカ丸を操作し、物音がした場所へ向かうと真依が倒れていた。その手には、手紙……葬儀の案内だ。ソレが握られていた。

 

「真依、どうしタ。」

「一樹さんが……死んだ。」

 

 ……こんな時、俺はどう声をかければいい。

 

 

 

 

 

 

 

視点:禪院一樹

 

 鳥の鳴き声と共に目を覚ます。どうやら、長い夢を見ていたようであった。概ね、過去の記憶の再生であったが……内容はほとんど思い出すことはできない。

 ただ、胸の痛みを感じる。少しひんやりとしていて、それでいて温かい。そんな矛盾した痛みが、まるで古傷が疼くかのように。

 

「おそらく前世の記憶である、か。」

 

 ベッドから抜け出すと、軽くストレッチをしてから寝巻きを着替え、廊下に出る。始業時間までまだ時間があったため、和紙と硯、それから筆を持ち日の当たる場所で絵を描くことにした。

 

「……呪符のストックも用意しておかねばなるまいな。」

 

 そうして絵を描いていると、背後に気配を感じて振り返る。

 

「真希か。何か用であるか?」

「真依がヤバい。」

「……真依に何が!?」

 

 吾輩は筆を取り落として真希の肩を揺するも、真希は溜め息をついて吾輩に一発拳骨を落とした。

 

「い゛っ゛!?」

「──お前が生きてること知らねえから、今更になってお前の訃報を聞いて体調崩したってさ。」

「な……」

「私んところにも葬儀の案内が来た。私は出席しねえからな。弔う相手もいねえのに葬式なんかにゃ出ねえよ。」

 

 そういえば、真依は知らないのであったな。吾輩が生きておることも、吾輩が女になってしまったことも。

 

「吾輩はどうすれば……」

「会いに行ってやれ──なんて無責任にゃ言えねえしなぁ……てか、お前らそんな仲良かったのか?」

「それは……内緒である。」

「拳骨おかわりいるか?」

「やめたまえ、真希。普通に痛いのだ。」

 

 うむ、真依へのメンタルケアのことも考えねばなるまい。教師をやりつつ、強くなるための鍛錬と、魔虚羅に類する奥の手の確保を同時並行で10月31日までに行わねばならないとなると、本当に休む暇などない。

 

「……吾輩は、今のままではいられぬ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

視点:窓

 

 私は、禪院家が嫌いだった。禪院家に生まれたことを、ずっと悔やんでいた。ここでは、私のような人間に人権がない。

 それでも、私はマシな方だったと思う。情報の処理能力や観察力、それから洞察力が買われて、窓としての役割があったから。

 

 そうじゃない人たちの人生は、末路はいつも私の視界の端を通り過ぎていった。

 

「今日もご苦労であるな。」

 

 そんな人たちと比べれば、私の人生なんてイージーだ。なにせ、私が専属で窓をしている相手は禪院家の中でも穏健で、女性蔑視も薄い若者だったから。

 彼は他の禪院家の人間とは違い、私を不当に扱ったりしない。私を人として扱い、対等に話してくれる。

 

 でも、それでも。外の非術師の女たちと比べたら不幸な人生だ。青春も、オシャレも、恋愛も……何もかも、私は楽しむことができないのだから。

 

 だから私は、その甘言に惹き寄せられた。

 

「禪院家、滅ぼしたくない?」

 

 人型のツギハギ呪霊が、ある夜私に話しかけてきた。

 

 

 

 

 

 

 禪院一樹を嵌めた。彼の喪失が、禪院家を傾ける最初の置き石になるのだと。正直躊躇った。彼を失えば、もしかすると私の立場は酷いものになるかもしれない。それでも、最終的に禪院家が滅ぶならそれも関係ない。きっと、天国にいる彼は私を許してくれると思う。彼はとても優しいから、むしろこれまで苦しかった私に「辛かったのだな」と声をかけてくれると思う。

 事件現場も見に行った。自分がやったことをしっかりと自覚するために。だが、飛び立った肉片や骨の欠片を眺めても、私は何も感じなかった。

 

 それからしばらくして、またツギハギ呪霊が私の前に現れた。

 

「禪院一樹、生きてるよ。」

「え?」

「これ。俺の術式でさ、魂を捻じ曲げようとしたんだけど、この通り女になるだけで死ななくてさ〜」

 

 手渡された写真には、女が一人写っていた。

 黒い髪の、禪院家の女が。

 

「わかるでしょ、その写真を禪院家に渡せばどうなるか。」

「……。」

「今度こそ、禪院一樹にトドメを刺せる。今の禪院一樹は五条悟の大事な仲間の一人だから、禪院家が取り返そうとすれば禪院家と五条悟の関係に溝ができて……禪院家もタダじゃ済まない。」

「禪院家を……」

「お前がブッ壊すんだ、胸が躍るだろ?デケェ傷跡を刻んでやろうよ。」

 

 私が、禪院家を壊せる……?

 

 写真を握りしめた。

 

 

 

 この写真は、いつ使うのが最も効果的だろう。

 

 ふらふらと禪院家の廊下を歩いていると、男たちの声が聞こえてきた。

 

「一樹の葬儀、来週だってな。」

「世話になったもんな……しっかり供養してやらないと。」

 

 葬儀。葬儀なら、禪院家の人間のほとんどが集まる。

 

 ──丁度いい。その時にこの情報をばら撒こう。

 




 
禪院一樹
 そこそこ酔うと、本人も無自覚のうちに前世の口調に戻る。身長178cmの男が、だ。周囲からしてみたら普通に怖い。



整合性を(なるべく)とりつつ、"ちゃんと完結させる"ことを目標に頑張ります。


次回から原作でいうところの起首雷同編です。
そこに禪院家の色々が混じって来ます。
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