ラインハルト主導の帝国領侵攻作戦。
原作ではない展開です。
この世界線では原作よりもうちょっとフリードリヒ四世が長生きしましたが、それも限界だったのです。
それだけではありません。
ラインハルトが出世することで原作で抜擢された将官達も出世せず、それどころか双璧はクロプシュトック事件で事実上帝国を離脱しています。ミッターマイヤーはとっつかまって現在でもゴーモン係(漫画版で道原先生が大好きだと公言していたあの)に遊ばれており、ロイエンタールはミッターマイヤーを助けるすべもなく軍に失望して離脱。
また、メルカッツなどの将帥も冷遇されており、帝国の状況はとてもよくないといえます。
ラインハルトがいなければ、帝国はこうも弱体化してしまうのです。
イゼルローン要塞が落ちた。
さらには帝国では現在、大規模な内戦の可能性がある。
ここ数年、同盟軍はラインハルトの存在もあって勝ち続けており。何度も行われたイゼルローン回廊での戦いでも、帝国軍に同盟軍以上の損害を必ず強いていた。そしてこの間のイゼルローン要塞攻略により、帝国兵だけではなくイゼルローン要塞にいたその家族、合計して五百万近い捕虜を得た。
今回こそ、帝国攻略の好機。
そう唱える最高評議会議員達が数名いたが。
その中で、議長であるトリューニヒトは、反対の意思表明をしていた。
ラインハルトからしてみれば見え透いていた。
ラインハルトを始末し。
ついでにさらなる名声を得るための行動だ。
このような作戦がうまくいくわけがない。
普通だったらそのはずである。
大将となったラインハルトが、中将級……艦隊指揮官達がいる会議室に。ハイネセンに凱旋後、中将に昇進したキルヒアイスとともに出向くと。
「軍事のバランス」とやらで艦隊司令官に収まっている無能も含めて。
同盟を代表する将帥達が、席に着いていた。
その中にはラインハルトができると判断しているウランフ、ボロディン、ビュコックに加えて。
ついにここに座る地位になったヤンもいる。
いずれにしても、彼らから畏敬の視線がラインハルトに向けられた。
既に場の空気をラインハルトは支配していた。会議室に入るだけで。
その圧倒的な容姿はグリフォンに例えられることが多いが、その苛烈すぎる視線が怖いという声もあるそうだ。
ただ、ラインハルトはそれすらも武器にしていたが。
キルヒアイスとともに席に着く。
作戦の音頭をとるのはワイドボーンという男である。現在准将をしている。
士官学校で十年来の秀才とまで言われたようだが。
ラインハルトからすれば、凡将に過ぎなかった。
恐らくは、最高評議会の意思を伝えられてここに来ているのだろう。その隣には、フォークと言う頬のこけた病的な視線の男がいる。
フォークと言う人物にラインハルトは興味を感じなかった。
「それでは作戦についての会議を始めます」
「その前に作戦の戦略的意義を知りたい。 イゼルローンを制圧し、ここ数年で我が軍は画期的な勝利を積み重ねている。 それでも帝国の人口は同盟の倍。 領土の広さにもかなりの差がある」
そう苦言を呈したのはウランフだ。
なんでも草原の遊牧民の末裔らしく、極めて精悍な顔をしている。
同盟を代表する猛将であり、ラインハルトの力を認めて何度もフリーハンドで作戦を任せてくれた。
ラインハルトもその結果、成果を効率よく出すことができ。
階級で追い抜いた今でも敬意を払っている。
「迎撃に出た敵を撃破して撤退するのか、それとも恒久的に拠点を構築するのか。 いずれなのか、説明を願えるか」
「はい、懸念は最もでしょう。 統合作戦本部の作戦はいくつか提案されましたが、同盟の軍勢の大半を主導して帝都オーディンを直撃すべしというものもありました。 しかしこれは現実的には不可能だと判断して、却下しております」
そうか。
最低限の判断はできるらしい。
ラインハルトはそのまま様子を見守る。
視線を向けられて緊張したのか、何度かワイドボーンは咳払いをしていた。
「長年の疲弊もあり、現在稼働できる艦隊は正式十二艦隊のうち十一個。 そのうち今回は三つを動員して、それで帝国領内に楔を打ち込みます。 狙いとするのは、この星系です」
「ほう、これは」
「カストロプ公爵領です。 数年前に、激しい反乱があり、二度にわたって帝国の鎮圧軍を撃退しています。 三度目に帝国の正規軍を当時の総司令官であったミュッケンベルガー元帥が討伐軍を率いて鎮圧。 しかし、以降も政情不安が続いています。 現在、対立が続く帝国内にて、ここでの問題が加速し、隙が生まれているようなのです」
土地としては悪くないか。
名前はこちらに来てから調べた。
先代カストロプ公爵が「見事な奇術」とまで言われるほどの蓄財の達人で、膨大な資産を懐に入れていた怪物的な輩だった。
それもあって、その跡をついだカストロプ公マクシミリアンが、不正蓄財を追求した帝国に反発し、反乱を起こしたのだ。
マクシミリアンには一定の軍才があったようで。それで帝国軍は苦戦したが。しかし、それにしても帝国軍が無能だっただけだとラインハルトは見ている。
たまにそれなりにできる指揮官が出てくることはあるのだが。
特に大貴族出身の将官は完全にカモだ。
それに、である。
カストロプ公は蓄財の裏で、フェザーンと繋がりがあったいう話も既に調べている。
同盟内でラインハルトは既に権力の根を張っており、それらの情報を獲得はしていた。
ただし、である。
その作戦がうまくいくとはとても思えなかったが。
「三個艦隊というとかなりの大軍だ。 指揮は誰が執るのか」
「ロボス元帥にお願いする予定でしたが、ロボス元帥は糖尿が悪化して、現在治療中です。 そこでラインハルト大将にお願いいたしたく」
「そうか。 それはかまわないが、この作戦は失敗するぞ」
ずばりラインハルトが言うと、会議室がざわめく。
ウランフはまあそうだろうなという表情になる。
老練の名将であり、同盟の戦歴が服を着ているような提督であるビュコックも頷いていた。
「常勝無敗とまで言われるラインハルト大将とは思えない発言ですな」
「私を持ち上げるのは結構だが、私も人間だ。 失敗もすれば能力に限界もある。 まずこの作戦では、かなりの長距離を進まなければならず、途中にあるいくつかの星系を経由しないとワープも厳しい。 補給路の確保、カストロプ領の確保を長期間するとなると、駐留軍や場合によっては巨大な軍事基地も必要になるだろう。 三個艦隊でカストロプ領を制圧するのは極めて簡単だ。 私とここにいる提督達が連携すれば、何の問題もなくできるだろうな。 問題はその後だ。 長年の戦争で疲弊が蓄積し、遺族年金だけでも国家予算を圧迫している状況で、そのような資金を出す余裕があるのか?」
「そ、それは……」
ラインハルトの発言に、ワイドボーンは明らかに視線を泳がせる。
フォークとか言うのが、それに対して言う。
「これは最高評議会の意思です。 我らは民主主義国家の文民統制の思想に従って、上の指示には従わなければなりません。 上が勝てと言えば勝ち、占領作戦を成功させろといえば成功させるのが仕事です」
「私もラインハルト閣下の発言に賛成する」
ヤン提督が援護射撃。
頷くと、ボロディン提督も意見を述べた。
「ラインハルト大将の言うとおりだ。 一戦して勝てというのであれば、勝って見せよう。 今の帝国にたいした将帥はおらず、貴族出身の指揮官など我々の敵ではない。 ただし、数が同等ならばだ。 敵の領内奥深くに誘い込まれ、補給を断たれでもし、更に分散したところを各個に攻撃でもされたら負けるとまでは言わないが、勝つのは厳しいだろうな」
「そのような発言は利敵行為です! 慎んでいただきたい!」
「誰に対してものを言っているか、若造が!」
ビュコック提督が机を叩いて、寝言をほざいたフォークを一喝。
それでフォークはひっと声を漏らして黙り込んだ。
頼りない後輩を見てため息をついたワイドボーンが、一時休憩を提案。それで、一旦解散となる。
三個艦隊で帝国領奥深くへ侵攻か。
カストロプ領を奪う策については悪くはない。
というか、準備が整ったのなら、オーディンを強襲するのは立派な策の一つだといえるだろう。
頭を潰してから、他を制圧して回ればいい。
辺境の貧しい民が暮らす惑星を制圧しても、ろくな物資は出てこない。
帝国の門閥貴族を叩き潰して、連中が五百年間搾取して蓄えこんだ利権や資金を回収すれば、改革なんぞいくらでもできる。
ただ残念ながら、今の同盟にはそれができる資金も体力もない。
ラインハルトは、それを冷静に見ていた。
ヤン提督と話す。
「さてヤン提督、どう見る」
「そうですね、この作戦は失敗するでしょう。 ラインハルト提督がおっしゃった通り、敵に勝つことはともかく、長期的な制圧は非常に難しい。 ましてや政情不安の星系を押さえても、治安維持の専門部隊まで必要になります。 民主主義の正義を掲げてそれらを制圧しても、民がそれを納得してくれるかは別問題。 最悪反乱や暴動まで発生するでしょう」
「うむ。 ならば、こういうのはどうか」
遮音フィールドを展開。
それで、話をする。
ヤン提督はなるほどと言うと、頷いていた。
「私の先輩のキャゼルヌ提督に相談してみます。 おそらく今回の補給作戦の指揮を執るでしょうから」
「キャゼルヌ提督と貴官は仲が悪いという噂もあるようだが」
「本当に極悪人ですよあの先輩は」
「そうか」
よくヤンはキャゼルヌの悪口を言っているのだが、それが本心からの憎しみだとはとても思えないのだ。
ラインハルトは癖がある人材が嫌いではない。
部下の私事に口を出す気はないし。
ましてやまだ同僚であるヤンの交流関係にどうこうと口を挟むつもりはなかった。
休憩時間中に、いくつかの資料について目を通しておく。
凄まじい集中力で、ラインハルトは余人の数倍の速度で資料を読み、記憶していく。ラインハルトの記憶力は高く、今までの戦役で同僚や上司の能力については容赦なく判定し、それらを記憶している。
ちなみにフォークは失格だ。
最高評議会の議長の座をとったら、即座に解任する。
あれは国を潰す寄生虫である。
休憩時間が終わる。
そして、ワイドボーンが提案をしてきた。
「専門家である提督の方々の意見を総合しますに、まずは威力偵察がよろしいかと思います。 予定通り三個艦隊を用意します。 総司令官はラインハルト=フォン=ミューゼル大将。 動員する艦隊は、第二、第五、第十。 ヤン提督、ビュコック提督、ウランフ提督がそれぞれ指揮をお願いいたします。 部隊はカストロプ公爵領を目指して、直進。 相手の反撃能力を見極めてください。 内戦がいつ始まってもおかしくない帝国の状況から考えて、おそらくそれほどの迎撃戦力は出てこないとは思いますが、念のために」
第二艦隊は、何度かの戦闘で消耗し、規模は一万隻ほど。代わりにヤン提督が新たに司令官に就任している。
今までは参謀を任せていたが、司令官か。
お手並み拝見というところである。
人事に関しても、ヤン提督には総司令部が便宜を図ってくれるはずだ。
ビュコックとウランフの両提督は、充分に実力を認めている。単独行動をすることもないだろう。いくつかの会戦で見事な連携を見せており、その点でも安心感が強い。
また二つの艦隊はそれぞれ一万五千隻ほどの規模を有しており。正式艦隊として恥ずかしくない戦力である。
これに千隻ほどのラインハルト直営艦隊が加わる。この艦隊の指揮はキルヒアイスに任せる。
合計しての戦力は、四万二千二百隻。動員兵力は六百十三万五千人。イゼルローン回廊攻略戦で今までに動員された最大の戦力とほぼ同規模である。
しかも近年は勝利が続いていた結果、消耗に回復が追いついてきている。
兵の質は問題がない。
ラインハルトは、キルヒアイスと三人の提督とともに、会議室を出る。
ビュコックが早速悪態をついていた。
「馬鹿馬鹿しい作戦だ。 無駄に資材をドブに捨てるも同じではないか」
「同感です。 カストロプ公爵領を制圧するのはできるでしょうが、それ自体に現時点では意味がありません」
ヤンが同意する。
ラインハルトは、そこで爆弾を投じていた。
「おそらく今回の会戦、罠とみてよかろうな」
「ほう」
「詳しく聞かせてほしいのだが、ラインハルト提督」
ウランフに頷く。
まずはこの作戦だが、できすぎている。
同盟は選挙が近づくと好戦的になる。そう帝国の兵士達は噂しているが、それはラインハルトが見る限り本当だ。
選挙で勝つために、画期的な軍事的成果を求めたがる。
そんな連中が政治家をしているのだ。
軍事的成果のためにどれだけ人が死ぬかなんて、連中はどうとも思っていない。その点では、帝国の門閥貴族と同じゴミの山だ。
ラインハルトも戦いは好きだ。
宇宙を武力で奪い取るつもりでもいる。
だが、無辜の民を無意味に傷つけるつもりはないし。
部下を無意味に殺すつもりもない。
「フェザーンの動きがおかしい。 フェザーンにとって大事なのは、帝国と同盟の軍事的バランスだ。 帝国が勝てば同盟が勝つように仕組んでいる節がある。 そうして疲弊したところを、経済力で侵略していく。 それが奴らの戦略だ」
「なるほど、確かに同盟が大負けした後は、同盟が勝利するケースが多い。 今回、イゼルローンを帝国が失ったことに対して、フェザーンは同盟の戦力を削ろうと目論んでいると」
ウランフが言うが、実はそれよりもっと大きいだろうとラインハルトは見ていた。
この戦い、同盟を代表する猛将であるウランフと、歴戦のビュコック。
それに明らかに軍事的なバランスブレイカーであるラインハルトとヤン。
この全員を、フェザーンは始末するつもりだとみてよかった。
去年、辣腕で知られたフェザーンの指導者、ルビンスキーが倒れた。黒狐と言われる陰謀の達人も、病気には勝てなかった。
後を継いだフェザーンの指導者はニコラス=ボルテックという男だが。この男が後を継いでから、どうもラインハルトの周りでうごめいている陰謀の切れが落ちたように思う。
ルビンスキーと比較されている可能性もある。
だとしたら、大規模な策を弄してくるはずだ。
焦りもあるだろうから。
「だが、問題はない。 卿らは戦闘で全力を尽くすことだけを考えてほしい。 必ずや卿らも将兵も勝利した上で可能な限り故郷に帰そう」
「随分と自信がおありのようですな」
「いくつか既に策は考えてある」
そのまま、オフィスにキルヒアイスと戻る。
そして、策の細かい部分を、二人で調整した。
さて、ここからだ。
ここからは、全てで裏をかかなければならない。
同盟軍は全軍で五千万という規模だ。流石にラインハルトでも、全てに目が届くわけではない。
キルヒアイスと相談を終えてから、直下の艦隊を見に行く。
手配された旗艦があるのだ。
同盟の最新鋭戦艦、旗艦級の中でも最新鋭のトリグラフ級の三番艦。アジ=ダハーカ。
三つの艦首を持ち、それぞれに強力な主砲を備えている極めて高い戦闘力を持つ旗艦級戦艦である。
現在同盟の旗艦は、アキレウス級及びその改良型のレオニダス級から順次トリグラフ級に更新を進めている。レオニダス級はかなり強力な旗艦だったのだが、それも超火力を持つトリグラフ級には及ばないと言うことで、順調な更改ではある。
それまでに乗っていたユリシーズは老朽艦で、ただ幸運艦でもあったので、ラインハルトは気に入ってはいたが。
これはなかなかに美しく壮麗な艦だ。
ラインハルトも、黒を主体とし、赤のラインが入った猛々しいデザインを見て、一目で気に入っていた。
「これはよいな。 キルヒアイス、あの赤いラインはお前の赤毛のようだ」
「お恥ずかしい限りです」
「ただ金色の塗装……いや白か。 それもほしいな」
「カラーリングについては、ある程度融通が利くでしょう。 デザインが崩れない程度に、発注をしておきます」
頷くと、ラインハルトは中に入ってまずは安全面を確認する。
この時代、どれだけ単艦で強力でも、艦隊規模の相手をするのは不可能だ。それに、である。
今回は作戦の内容が内容だ。
勝利を確信した瞬間、背後から撃たれる可能性を常に想定しておかなければならないだろう。
忠誠心が高い部下達に徹底的に調査をさせる。
爆弾やバックドアなどの仕掛けはないようだ。あったとしても、不安要素は全て排除させておく。
それからしばらくして、艦体に白のラインを加えて塗装した。黒をあくまで主体としているが、そこに赤と白が鮮やかに加わっている。
デザイナーはいかがでしょうかとラインハルトに恐縮した様子で頭を下げたが、ラインハルトは満足したと伝え、旗艦に乗り込む。
この戦いに勝ち。
ラインハルトは、元帥になる。
ただ、おそらく今回は倍以上の敵と、敵地で戦うことを想定しなければならない。作戦は、先にいくつでも練っておかなければならなかった。
フェザーン自治領では、既に亡くなった前自治領主、アドリアン=ルビンスキーの指示による、ラインハルトの排除がうまくいかないことで。現自治領主、ニコラス=ボルテックの参謀達が右往左往していた。
フェザーン自治領はそもそもとして、背後に地球教が存在している。
遙か昔、地球を祖とした人間だが。
あまりにも傲慢に地球から旅立った人々を搾取し続けたことが徒になり、袋叩きになって滅びた。
ただ、そのときの出来事があまりにもやり過ぎ……億人単位の無差別殺戮が発生したこともあり。
地球は長年恨みを充溢させてきたし。
蓄えていた富の一部を守り通したことで、腐敗した銀河帝国に賄賂を送ることで。帝国と同盟の間のパワーバランスを保ち、共倒れさせて最終的に地球がまた支配者になる。そういう目的で、フェザーンを作り上げたのである。
イゼルローン回廊とフェザーン回廊だけしか同盟と帝国の接点はないが。
その一つをフェザーンが押さえていることで、この潰し合いはうまくいっていた。
それがうまくいかなくなり始めたのは、帝国の先代皇帝であるフリードリヒ四世がなくなってから。
それに何よりラインハルトが戦歴を重ね、特に艦隊指揮官をするようになりはじめてから、帝国の消耗が加速度的に増えていったこと。
青ざめた顔でデスクについているボルテックに。
参謀の一人であるルパート(先代自治領主ルビンスキーの私生児である)が、データを提出していた。
「帝国で大規模な内乱が始まる兆しがあります。 フェザーンの諜報員がディスカッションを開始していますが、おそらく来年には開始するでしょう。 しかも、同盟内部は意気が上がり、インフレが解消し始めています。 ラインハルトの力が、今までの五分に近かった戦況を覆しつつあります。 帝国との国力差が近接し始めており、今までは48対40だったのが、46対42になりつつあります」
「わかった。 とにかく対策を練らなければならん。 フェザーンの国力には限界がある。 ここで帝国が内乱を起こしたら、無能な指揮官しか残っていない帝国は泥沼になり、国力の過半を喪失する。 同盟では勝利が続いていることもあり、クーデターの類を起こさせるのは難しいだろう。 例の計画はどうなっている」
「準備はしておりますが、いかんせんあのラインハルトに参謀はヤンです。 そばについているキルヒアイスも隙なく周囲を固めており、暗殺者など送りようがありません」
「……」
昔、自由惑星同盟の全盛期。ブルース=アッシュビーという名将がいた。
アッシュビーの手により当時の帝国は司令部が全滅するほどの壊滅的な被害を受け、結果として門閥貴族以外の将官が出世する土壌が醸成されたのだが。
優秀な非門閥貴族の将官は、ここ数年の戦闘であらかた戦死するか、同盟に亡命してしまった。
それもあって、打つ手が限られてしまっている。
今回は同盟の面倒な将帥をまとめて葬る策を立てには立てた。
だがボルテックも、血で血を洗う権力闘争の経験者だ。
ルビンスキーほどではないにしても、陰謀には自信もある。
少し前までルパートはきな臭い動きをずっと続けていたのだが。
ルビンスキーが病気になり、病室で管につながれて頭痛を訴えながらもがき苦しんで死んで行くのを見て、何か思うところがあったのか。
それとも、私生児として自分を省みなかった父親の無残な死を見ることが目的だったのか。
すっかり毒気が抜けてしまい。
今は真面目に権力を求めて働いている。
いっそ、いずれ此奴に権力を譲って良いともボルテックは思っている。
というのも、このまま事態が推移すると。
同盟が帝国との力の差を逆転する日が来る。
そして、ラインハルトが同盟の議長にでもなれば。
フェザーンに軍事侵攻でもしてきかねない。
あのラインハルトという男、最初はプロパガンダに利用されているだけだとボルテックは思っていた。
整いすぎた容姿もある。
だが、フェザーンの工作員が情報を集めれば集めるほど、化け物に等しい才覚の持ち主だと言うことがわかってきていた。
最近では議員とテレビで討論をすることがあるが。
民主主義にも精通していて、専門家である議員にズバズバと現実的な改革案を提示し、それで議員が黙り込んで恐縮してしまうことがよくある。
それもあって、同盟でもラインハルトの政界進出を望む声が強くなってきている。
同盟を食い荒らしていた腐食剤ともいえるトリューニヒトも、排除に向けて動こうとはしたようだが。
既に手遅れであり。
現時点では、地球教徒が裏から支援していても、焼け石に水。ラインハルトの圧倒的な人気が同盟を覆い尽くしつつある。
だからこそ、ここで仕留めなければならないのだ。
「帝国で現在動かせる戦力を全て叩きつけるように、とにかく賄賂を渡して動かせ。 指揮官はできればメルカッツがいいだろうが……」
「メルカッツは現在、ブラウンシュバイク公が身元を押さえており、戦線に出すことを恐れているようです。 おそらく対抗馬であるリッテンハイム侯に暗殺されるのを警戒しているのではないかと」
「……」
ブラウンシュバイクは凄まじい金持ちで、それこそ一人で一個艦隊を私兵として持っているほどである。
生半可な賄賂では動くまい。
それでもどうにかするしかない。
同盟帝国双方から吸い上げてきた、そして地球から供給されてきた金をかなり失ってしまうことになる。
そしてフェザーンの力は金だ。
金を失うだけフェザーンの力は落ちる。
「ミュッケンベルガー元帥もリッテンハイム候に押さえられているという話だ。 だとすると。後は大貴族出身の将くらいしかおるまい。 とにかく、必ず勝てる状態を作り出せ。 このままだと……」
ラインハルトに宇宙全てを飲み込まれる。その恐怖が、ボルテックの中には確信として燃え上がりつつあった。
帝国では門閥貴族が内ゲバ開始の兆候。
フェザーンもルビンスキーが病死した結果右往左往。
こんなもんです。