その時歴史がまた動かなかった 作:dwwyakata@2024
帝国では無能なブラウンシュバイクとリッテンハイムが内戦開始。
ラインハルトがおらず、フリードリヒ四世は意図的に跡継ぎを決めず。当然の結果です。
そして大量の難民が同盟に流れ込んだことで。
同盟もまた無事ではいられません。
あらゆる全てが破滅に転がり落ちていきます。
帝国の内乱は片付きそうにもない。
貴族達がブラウンシュバイクとリッテンハイムの両派閥に分かれて争い始めたが、どちらも軍事の専門家よりも、貴族の家名を重視した人事を行ったからだ。
リッテンハイムに取り込まれたミュッケンベルガー元帥も、ほとんど作戦に口出しを許されず。
大軍を動員しても両方が無様な消耗戦をするばかりで、無駄に損害ばかりが増えていく。
明日の権力を握るのが誰になるか。
そればかり貴族達は考えていて。
勝てないかもしれないとすら思わず。
ひたすら領土を荒らしながら、終わりも見えない戦いを続けていた。
ブラウンシュバイクとリッテンハイムの娘は女帝候補と言うこともあり、皇夫となりたいと申し出る大貴族が後を絶たず。
それをブラウンシュバイクとリッテンハイム双方が、まったく捌けない状況であり。
そんな状態を見た兵士達は多数が脱走。
イゼルローン回廊に逃げ込み、膨大な艦艇が同盟の手に渡っていた。
内乱が開始されてから二年。
同盟に逃げ込んだ民は50億人に達し、あまりにも急激すぎる人員の膨張に同盟政府も悲鳴を上げていた。
未入植惑星に多数の民を配置して、同盟の国力を上げようとしたのだが。
問題ばかり発生して、いずれにしてもうまくはいかなかった。
キャゼルヌ少将はとうとう何度か倒れてしまい。
ヤンも疲労がたまって、完全に辟易していた。
小競り合いがまた起きた。
二千隻ほどの艦隊が、同盟に入ってやるから地位をよこせと恫喝してきたのである。
それを鎮圧する過程で、民間人の乗った商船やシャトルが巻き込まれ、大きな被害を出した。
一度や二度ではない。
ヤンも流石にこういうことが続くと、疲弊がたまる。
それだけではない。
これを鎮圧したのはキルヒアイス提督の分艦隊だったのだが。
この戦いがあまりにも容赦なく、指揮系統を文字通り消滅、粉砕していた。
これもあって、相手は恐怖して早々に降伏したのだが。
キルヒアイス提督の凄まじい戦いぶりは噂にもなり始めていて。
赤い悪魔と一部で恐れられるようになり始めている。
普段も一切笑わないどころか、ますます鬼相が強くなってきている。
それもあって、同盟でももっとも若い将官の一人であるのに。
女性人気は全くないと言って良いほどだった。
とにかく、無事だった民を回収して、後方に送り届ける。小競り合いを起こした兵士達は捕虜扱いだ。
軍法会議にかけた後、場合によっては収容所送りだろう。
いずれにしても、同盟政府はもはやパンク寸前である。
豚を丸呑みにした大蛇と同じで。
当面はまともに身動きもできないだろう。
通信を入れてきたのは、ウランフ中将だった。
「ヤン提督、忙しいところをすまないな」
「いえ、何かありましたか」
「ああ。 植民星で暴動が起きているらしい。 陸戦部隊が鎮圧に当たっているが、このままだと他の星でも似たようなことが起きるかもしれないな」
「これだけ急激に人が増えたのです。 混乱は致し方ないでしょう」
逃げてきた民だけで五十億だ。
帝国では貴族同士の仁義なき戦いで凄まじい被害が出ている。兵士だけで一千万を既に超える死者が出ており、報復攻撃の応酬で民間人は既に20億人以上が死んでいるという話まである。
帝国と同盟の人口は逆転したのではないのか。
そういう噂まであるそうだ。
首都星オーディンは現在ブラウンシュバイク公が押さえているようだが、二ヶ月前はリッテンハイム侯が押さえていて。それも数ヶ月おきに所有者が代わり。所有者が代わるたびに戦場になって、踏み荒らされている。
その過程で、悪名高い新無憂宮も焼け果てたそうである。
オーディンの市街地の数割が灰燼と化しているという話もある。
このままでは、オーディンからも避難民が来る可能性すらある。
そういう話だった。
「それと、流石に貴官は交代だそうだ。 これだけ長期間、よく最前線で働いてくれたな。 休暇も短いが出るらしい」
「それはありがたい話ですね。 後任はどうなりますか」
「キルヒアイス提督を中将に昇進の上で、新しく創設される第十四艦隊を任せるらしい」
それを聞いて、無言になる。
ちょっとこれはまずいのではないか。
そう思ったのだが、ウランフ提督も声を落としていた。
「貴官の部下であったな。 あまりよい評判は聞かないが」
「極めて優秀な提督です。 民間人に対する攻撃などもしません。 ただ、あまりにも苛烈すぎる行動をとるため、注意をしてください」
「わかった。 本来なら頼もしい筈なのだが……」
「……」
あまりにも激務が続くため、最高評議会に居座り続けていたトリューニヒト議長が、倒れたという話があるらしい。
権力を得ることにだけ特化した怪物だとヤンは思っていたのだが。
この状況では、トリューニヒトは権力だけにしがみついてもいられなくなったようなのである。
それで仕事をさせられて。
ついに倒れたという訳か。
今、病院で治療を受けているらしい。
後任は穏健派で知られるジョアン=レベロ議員だが。
この状況に対して、軍縮を訴えるジェシカ=エドワーズ=ラップ議員が票を伸ばしており、最高評議会にまもなく就任するらしい。
ヤンの昔なじみであるジェシカは、ヤンの親友のジャン=ロベール=ラップと結婚し、それでも反戦派議員として精力的に活動している。ちなみに子供が一人いる。
ラップはこの間第十三艦隊の指揮官に就任したので、夫とは真逆のことをしている訳だが。
それはそれとして、夫婦仲はとてもいい。
ヤンとしても、たまには二人の家庭に出向いて、手料理でも食べたいところではあるのだが。
どうにも歴史が暗い方向に動いているようにしか思えなかった。
ともかく、現在指揮している第四艦隊を率いて、ハイネセンまで戻る。
年単位で留守にしていたが。
それもまた、軍人としては仕方がないことだった。
ハイネセンまで戻ると、ヤンが驚かされたのは、治安の悪化である。
帝国の公用言語でプラカードを抱えた暴徒が、道を練り歩いている。
仕事はあるはずだが。
待遇改善と、もっと権利をよこせというものらしい。
ニュースで知ってはいたが、かなり衝突が発生しているようである。
それは無理もないことだ。
合計五十億というと、元の同盟総人口の三割を超える人数だ。それが一気に流れ込んできて。
今後更に増えるのが確定なのである。
元門閥貴族だった連中には、星をいくつかよこせとかほざくような輩もいるとかで。
評議会も頭を抱えているらしい。
こればかりは。
嫌っているトリューニヒトにすら、ヤンも同情してしまう。
幸い、家はそれほど汚くなっていなかった。
留守司令官を自称する(まあ、実態がその通りだし)被保護者のユリアンが、丁寧に掃除などをしてくれていたからである。
ユリアンは前会ったときとは別人のように背が伸びていて。
ヤンも思わず二度見したほどだった。
だが、成長期なのだから当然であろう。
ともかく、疲れ果てたので、二~三日は寝ようと思って。ユリアンに留守を守ってくれたことに感謝しながら、ベッドに潜り込んだ。
それは、残念ながら、かなわなかった。
翌日、ハイネセンで大規模な暴動が発生した。
鎮圧はされたものの、警官隊にも暴徒にも大きな被害が出ていた。刑務所はとっくにパンクしている。
とうとう軍が鎮圧に繰り出されることになり。
ヤンのところにも、MPが来ていた。
ヤンに対する視線は複雑極まりなかった。
イゼルローン要塞をヤンが落としたから、膨大な難民が同盟に流れ込んできた。そういう風説があるらしい。
それは聞いてはいたが。
こういうMPにまでそういう風説が言っているのは、想定外だった。
「二年間最前線で休暇なしで働いていたんだ。 寝かせてくれないかな」
「そうですな。 イゼルローン要塞を見事な手腕で陥落させた武勲、更にその後の活躍も聞き及んでいます。 しかし、暴徒はまた暴れ出す可能性もあり、聴取は必要なのです」
「わかった。 手短に頼むよ」
ヤンとしても、流石に追い返すわけにもいかない。
いくつかの話をしたあと、MPは帰る。
それから連絡が来た。
ジェシカだった。
「ヤン、やっと戻ってきたのね。 無事?」
「ああ、どうにかね。 ジェシカは相変わらずだね。 娘さんは元気かい?」
「ええ、かわいい盛りよ。 それよりも、この状況大丈夫なの?」
「大丈夫ではないね。 帝国は長年の無理が一気に来たんだ。 今は大貴族達が滅茶苦茶をしているが、おそらく平民達がそろそろ怒りを爆発させる。 そうなったら、帝国は本格的に大乱の時代になる。 同盟もこの有様だ。 とても兵を出して救援どころじゃない」
ジェシカもつらそうにうつむく。
最高評議会の議員達が、今まで賄賂を受け取って利権争いだけをしていればよかった時代が懐かしいとかほざいていると聞いていたが。
それが過労死寸前まで追い込まれているのだ。
ジェシカは今度、それを背負わされる。
勿論家政婦くらいは雇えるだろうが。それでも莫大なストレスが心身をむしばむ。子供がネグレクトを受けないか心配だ。ジェシカほど聡明な女性でも、キャパを超えたら、どんなことになるかはわからないのだ。
「帝国からの難民に対する敵意が膨れ上がる一方よ。 しばらくは危険だから、できるだけ外出しないで」
「いきなりこんな人数が増えたんだ。 今の同盟政府では、とてもさばききれないだろうね。 ハイネセンとともに同盟を建国した政治家達がいれば、話は別だったのだろうが」
「ええ、本当に」
「ジェシカも無理をしないでくれ。 ラップを悲しませたくないからね」
士官学校の頃から世話になっている相手だ。
ヤンとしても、親友もジェシカも失いたくない。
ちなみに昔はヤンもジェシカが好きだったのだが。
相手がラップだったら仕方がないとも思っていた。まあ今では、ラップと呼ぶと、ジェシカのことも指してしまうが。
ユリアンに茶を頼む。
そして、眠れる間は寝ておこうと思って、更に布団に潜り込んだのだが。
更にまた連絡が来た。
軍のトップであるシトレ元帥だった。
「休暇のところすまないな、ヤン中将」
「元帥こそ、どうしたのです」
「疲れているところ申し訳ないのだが、明日会議が行われる。 ハイネセンに連れてきた難民を、それぞれ植民星に移す。 それに軍事行動を伴う。 おそらく十年単位で、軍はその監視と監督に当たらなければならないだろう」
「……」
完全にキャパを超えた。
そういうことだ。
今後帝国からの難民は、まだ開発が途上の星。
それも恐らくは、テラフォーミングが終わったばかりの星などに危険分子として配備されることになる。
当然内乱を見越してのことだ。
「帝国の惨状は聞いていると思うが、同盟を同じ状態にするわけにはいかない。 勿論帝国からの亡命者は助ける。 だがそれはそれとして、同盟市民を守らなければならないのだ」
「亡命してきた以上、彼らも同盟市民ではありますが」
「ああ、わかっている。 だが、ルールが違う国で生きてきた者達だ。 貴族出身者は自分が特別扱いされないと暴動を煽り、農奴出身者はとにかく自意識があまりにも薄く、命令されることに慣れきってしまっている。 彼らには教育と同化が必要だ。 参政権などはそれからになる」
グロテスクな話だ。
誰でも自由に暮らせる国。
だが、自由と無法は違う。
激しい混乱の中から逃れてきた者には、無法と混乱の区別がつかない者も多い。
「勿論素直に同盟になじむ者は優遇する。 軍出身者には、軍に加わってももらうことになるだろう。 希望者を募って、な」
「わかりました。 ただし私は、あくまで民主主義国家の軍人です。 弾圧の類には、加担はできません」
「わかっている。 可能な限り配慮する」
通話を切る。
そして、ヤンは大きくため息をついていた。
イゼルローン回廊。
第十三艦隊を率いるラップ中将は、凄惨な光景に息をのんでいた。
逃げ込んできた民間船の群れを、「ハンティング」と称して門閥貴族の私兵達が皆殺しにしようとし。
それを獰猛な鷹のように襲いかかったキルヒアイス提督の第十四艦隊が。
文字通り瞬殺したのである。
勿論民間人に手をかけようとした外道だ。それも狩りと称しながら。門閥貴族は平民を人間だとは考えていない。
それはラップも知っていたが。
ただ、それでもなお。
キルヒアイス提督は、相手を文字通り全滅させた。
その手腕はあまりにも鮮やかであり。
徹底的で、容赦がないものだった。
傷ついた民間船を保護し、それでなおラップはキルヒアイス提督と通信回線を開く。モニタに映し出されたキルヒアイス提督の目からは、既に狂気しか感じられなかった。
「キルヒアイス提督。 相手は許しがたい外道の集団だったのは事実だ。 だが、降伏を受け入れると言っていた者達もいたのだが」
「残念ながら通信の傍受が遅れました。 それに」
「それに?」
「あの者達は人間ではありませんでした。 人間を守るため、人の味を覚えた獣を狩るのは仕方がないことです」
敬礼をすると、キルヒアイス提督は通信を切る。
それから、第十四艦隊は単独でイゼルローン回廊の周辺を積極的に警戒して回り、貴族の私兵などが近づいた場合は、情け容赦なく爆砕した。
抵抗を諦め、降伏する艦隊にも容赦しなかった。
その代わり、逃げ延びてきた民間船は誰よりも多数を救い出した。
手際は完璧で、誰も文句をつけようがなかった。
同盟に逃げ込んでいく民達は、キルヒアイス提督に感謝しているようだったし。
その活躍は、ヤン以上かもしれないほどだった。
ラップは戦慄する。
キルヒアイス提督は危険だと、ヤンに聞かされていた。
だが、これは想像以上だ。
おそらくキルヒアイス提督は、民間人相手には手を出さないだろう。
しかし貴族とその走狗に対しては、文字通りの破壊神となるはずだ。
帝国は既に事実上瓦解している。
最低でもこの状態が収束するのには後数年はかかると言われており。それはラップも意見が同じだ。
同時に同盟も、あまりにも多数の難民でパンクしかけている。
こちらも最低でも数年は動けないだろう。
暗澹たる気持ちになる。
どこかでこの世界は、歴史を間違えてしまったのではないのか。
そうとさえ思うのだ。
それから、キルヒアイス提督は情け容赦のない武勲を立て続けた。
とにかく国内の不満が高まっていることもあり、英雄が必要だった。それからキルヒアイス提督は大将に昇進。
ヤンも同じように大将に昇進して、イゼルローンの司令官に就任するのと同時に。宇宙艦隊の統合作戦本部の長に就任していた。
人事としては申し分ない。
ラップから見ても、二人のコンビはおそらく同盟史上でも屈指の力量だからだ。
だが。今のキルヒアイスは。
海賊討伐で名を挙げ。
降伏する海賊も、まとめて焼き殺して滅ぼしていたルドルフ皇帝と同じなのではないかと、思ってしまうのである。
イゼルローンに赴任してきたヤンと久々にあったラップは、敬礼して、軽く話をする。
ヤンも話は聞いていたらしく、顔色は暗かった。
「無能な指導者よりはましだとは思って我慢はしているのだけれどね。 有能な指導者がいるはずなのに、この不安感はどういうことなのかわからない」
「ああ、俺もだ。 これからこの宇宙は一体どうなるんだ」
「……」
ヤンは苦笑する。
ヤンは歴史に造詣が深いが、それでもわからないのだろう。
少し黙ってから、ヤンは言う。
「もしキルヒアイス提督が独裁をするようになり始めたら、気をつけなければいけないだろうね。 暴君というのは、最初は英明な改革者であろうとしたことが多いんだ。 あのルドルフ大帝ですら、最初はそうだったのではないかと私は思っている」
「ルドルフもか」
「ああ。 ましてやもしもキルヒアイス提督が、復讐などを心の源泉にしていた場合……」
ぞっとした。
ラップは口をつぐまざるを得なかった。
それからも、キルヒアイス提督の鬼神のような活躍は続いた。
戦いに出れば負けると言うことは一度もなく、瓦解しかかっている帝国が繰り出してくる正規艦隊を、何度も容赦なく粉砕した。
降伏勧告を出そうとしないことも多く、幕僚達が慌てて進言すると。
恐ろしく冷たい目でそれを見てから、ようやく出すことも多かった。
一年間で、大小十四回の会戦で完全勝利したキルヒアイス提督は。第十四艦隊を率いて、合計して三万隻以上の帝国軍艦隊を完全破壊し。同数の艦艇を捕虜にし。倒した将兵の数は五百万を超えた。
捕虜も六百万を超え。
同盟の政治家達は、明らかにキルヒアイス提督を恐れるようになり始めていた。
帝国の兵士からも、赤い悪魔という言葉が出れば、キルヒアイス提督のことだと知られるようになり始めた。
必死の内政も、これだけの状態では実を結ばない。
帝国が破綻して、壊滅の坂を転げ落ちていくのに、同盟も無理矢理付き合わされ続ける。それだけではない。
この壊滅的な不況で、破綻しかけている勢力は、もう一つあるのだった。
フェザーン自治領では、地球との連絡が途絶えたことが、大騒ぎを起こしていた。
同盟と帝国の間で立ち回り、地球を黒幕に暗躍し、戦争を長引かせ両方を消耗させる戦略の元に行動してきたフェザーンだが。
流石にこの状況だ。
各地に投資した貴重なインフラも何もかもが完全に焦げ付いて回収どころではなくなり。
さらには地球との連絡すら途絶えた状態である。
青ざめた顔の参謀達を前に、この間自治領主になったばかりのニコラス=ボルテックは。困惑するばかりだった。
「地球はどうなっている!」
「わ、わかりません。 少なくとも門閥貴族達が私兵を繰り出して、血みどろの内戦を繰り広げていることはわかっているのですが」
「すぐに情報を集めろ! フェザーンは同盟と帝国の全ての情報を掌握していると豪語していたのはお前達だろうが!」
怒鳴っても、威厳も何もない。
それに、ボルテックの部下達もそうだが。
ボルテック自身も、どうしていいかわからずおろおろするばかりだった。
やがて、連絡が入ってくる。
必死に内戦まみれの帝国領から逃げ出してきた地球教徒達の話によると、恐ろしいことが起きたことがわかったのだ。
「太陽系が会戦に巻き込まれた!?」
「は、はい。 リヒテンラーデ派の伯爵とブラウンシュバイク派の将校数人が、戦いを開始して。 陸戦部隊が地上に降下して、其処で血みどろの戦闘を繰り広げ、地球教の本部はそれに巻き込まれて、略奪の限りを尽くされるばかりか、総大主教猊下も……」
「な、なんということだ……!」
地球は古くに人類社会の中心であり。
あまりの搾取からその座から蹴り落とされた後も、膨大な富を隠し持ち、歴史に裏から関与してきた。
フェザーンも、そもそも中枢部しか知らないが。
この膨大な金が設立に関わり。
様々な事業などがこの金で行われ。
同盟や帝国の内部に浸透するためにも用いられてきた過去がある。
ボルテックはそれを知っている立場だ。
ここで雁首を並べている連中も。
若い参謀の一人。
先代の自治領主の隠し子であるルパートが挙手していた。此奴も青ざめていた。先代自治領主がいた頃のルパートを知っているボルテックだが。
明らかに覇気がなくなり、ただの青年になってしまったことを見ている。
今はそれもあって警戒はしていない。
ただ、同時に期待もしていなかった。
「それでいかがなさいますか。 帝国はもはや立て直しは不可能、同盟は飲み込んだ豚のせいで身動きできないニシキヘビも同然の状態。 暴れ回っているキルヒアイス提督はこのままでは狂犬のように帝国軍を破滅させるでしょう。 あの功績では、現在以上の地位を得てもおかしくありません。 しかも恐ろしく用心深く、何よりこの状況では暗殺も何もありませんが」
「わかっておる! せめてブラウンシュバイクとリッテンハイムのどちらかが戦死でもしてくれれば」
「それについて、情報を得ました」
ルパートが皮肉まみれの笑顔を浮かべるが。
だが、それは昔の邪悪な知性に裏打ちされたものではなく、明らかにやけくそ気味のものだった。
「アルテナ星域で、両者が激突して、壊滅的な被害を出したという情報が入ってきています。 現場からは箝口令が敷かれています。 凄まじい被害を出した会戦のようで、両者ともに慌てて戦場から逃げ出していく様子が確認されています。 しかも、その後、どちらも完全に動きが止まりました」
「な、なにっ! まさか……」
「おそらく相打ち同然の状態で、二人とも命を落としたとみて良いでしょう。 どちらもまともな戦術顧問もいなかった状態です。 さぞや華麗な戦術を披露し合った結果、ダンスで二人とも同時に転んでしまったのでしょう」
絶句する皆。
今の冗談すら、受け止める余裕がなかったのは明確だ。
ブラウンシュバイクも、リッテンハイムも、どちらも無能だった。
それでも二百年前の帝国だったら、幼い皇帝の後ろ盾として外戚として振る舞うならば、なんとか帝国を多少傾ける程度で済んでいただろう。
五百年もった王朝は、歴史的にみてあまり多くない。
だが、五百年の間で、ゴールデンバウム朝は腐敗をあまりにも蓄積させすぎた。
一応フェザーンもここ最近は延命治療をしていたのだが。これはもう手の施しようがない。
「少し考えさせてほしい。 それと、今の情報については確報を得るまで調査を続けろ」
ボルテックがそういうと、一応は目的ができた部下達が散っていく。
だが、その中の何人が次戻ってくるか。
ボルテックも、あまり自信がなかった。
ブラウンシュバイク、リッテンハイム、相打ち!
この結末は、帝国に致命傷を与えました。
リヒテンラーデも当然既に死んでいるので、もはや帝国には無能であっても国を牽引できる者すらいない。
そういう事態が来てしまったのです。