呪術廻戦の世界でMobが頑張る話   作:不知火りん

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第15話 降星

 夜蛾先生から任務の説明を受けた後すぐに、私たちは星漿体(せいしょうたい)──天内理子(あまない りこ)のいるというマンションへと向かっていた。

 

「でもさー、少女(ガキんちょ)一人守るために本当に俺たち三人が必要なわけ?」

 

 悟は自販機からココアを取り出しながら、不満げに言った。

 

「さっき先生から説明があっただろう? 非術師の集団である盤星教はともかくとして、Qは現呪術界の転覆を目論む呪詛師集団だ。警戒するに越したことは無い」

 

 傑が淡々と答える。

 

「ふーん、まあ大丈夫でしょ。俺たち最強だし」

 

 あっけらかんと言い放つ悟に、傑がやれやれと首を振った。

 

「悟。前から言おうと思ったんだが、目上の人の前では、一人称『俺』はやめた方がいい。『私』、最低でも瀬那のように『僕』にしな」

「えぇ~。やだよ。それだとお前か瀬那とキャラが被るじゃん」

「キャラが被るって、君ね……」

 

 くだらない二人の会話に、私はしれっと割って入る。

 

「それじゃあ、僕が一人称を『私』にするから、悟は『僕』にしなよ。それだと、キャラ被り問題も解決だよね?」

「瀬那が『私』っていうのは違和感があるから却下」

「えぇ……」

 

 そもそも私は、目の前の最強(五条 悟)の飄々とした振る舞いを真似て「僕」を名乗っているだけで、本当の一人称は「私」なんですけど……。

 

 そんなことを話しながら歩いていると、突然、目の前のマンションの一室が、ボンッ、と爆発した。

 

「「「!?」」」

 

 顔を見合わせる私たち。粉砕されたガラスと砂埃が黒煙を伴って窓から噴き出し、青空を黒く染め上げていく。

 悟が真っ先に口を開いた。

 

「これでガキんちょ死んでたら、俺らのせい?」

「まぁ、大丈夫だよ。まだ生きてるから」

 

 そう言いながら私は走り出す。

 

 爆発した窓から、人影が落ちていくのが見えた。小柄な体。制服の裾が風をはらんで翻っている。

 

 私は後ろからついて来ようとする二人(悟と傑)へと振り返らずに声をかけた。

 

「星漿体は僕に任せて。二人は賊の対処を!」

 

 それだけ言い残し、足元のアスファルトや土壌から瞬時に塩分を抽出する。そして、生成された塩を空中に固定して踏み台にし、ビルの外壁に沿って一気に上空へと跳躍した。

 

 重力に引かれる少女の身体を、空中で素早く腕の中に収め、私も少女と一緒に落下しながら考える。

 

 このまま地面に激突したら、私はともかく、彼女は無事じゃ済まない。どうにかして、ゆっくり着地する必要がある……。

 

 私は即座に呪力を練り上げ、先ほど足場として利用した塩を操作していく。

 

 地上から白い奔流が天に向かって巻き上がり、それが逆風となって下から私たちを押し戻す。さらに、落下の軌道に沿って幾重もの薄い塩の膜を張った。

 

 パリンッ、パリンッとガラスが割れるような音を立てて塩の膜を突き破りながら、少しずつ落下速度を殺していく。最後に、雪山のように積もったふかふかの塩の山へと、私たちは音もなく沈み込んだ。

 

「ふぅ……間一髪」

 

 腕の中の少女──天内理子(あまない りこ)は、気を失っているようだが目立った外傷はない。私はホッと息を吐いた。

 

 上空を見上げると、先ほど爆発した部屋の窓からから白い軍服の男がこちらを覗いてるのが見えた。

 しかし、そちらの心配は無用だろう。

 

 巨大な呪霊に乗った傑が、その男の顔面を無慈悲に蹴り飛ばして室内に押し込んでいる。

 

「よそ見してていいのかい?」

 

 上空で傑が男を蹴り飛ばしたのとほぼ同時に、私の背後、死角から無数の風切り音が迫った。

 

 私は、雪山のように積もった塩の中に寝転がったまま、術式を展開する。

 周囲のふかふかの塩の山から、無数の細かい塩の結晶を高速で射出し、飛来した複数の投げナイフを、空中で白い散弾が正確に迎撃した。

 

パキンッ、パパパパンッ!

 

 乾いた金属音が響き、空中で飛来したナイフが正確に迎撃される。粉砕された刃の破片と塩の粒が、太陽の光を浴びてキラキラと輝きながら私の上に降り注いだ。

 

 木の陰から、男が現れた。

 こちらも白い軍服を纏っている。恐らく、呪詛師集団Qとやらの仲間だろう。

 

「君、汐宮瀬那(しおみや せな)だろう? 有名人だ。強いんだってね。噂が本当か確かめさせてくれよ」

 

 そう言いながら、男が近寄ってくる。

 

「あ~、今はこの通り、両手が塞がってるから遠慮したいんだけど」

 

 私は天内理子を抱えたまま、寝転がった姿勢で男を見上げて答えた。

 

「はは、言い訳か? 動けないならそのままでいい。この場で大人しく殺されて──」

 

 男が勝ち誇ったように笑い、さらに距離を詰めようと足を踏み出した、その瞬間。

 

 男の足元から、白い奔流が爆発的に噴き上がった。

 生成された大量の塩が瞬時に男の足首から這い上がり、太もも、胴体、そして首までをコンクリートのように強固な結晶で覆い尽くす。

 男は片足を浮かせた不格好な姿勢のまま、白い塩の彫像と化して完全に固まった。

 

「うへぇ~。相変わらず、えげつない術式」

 

 悟が敵の一人の頭を持って、ずるずると引きずりながらこちらに向かってきた。

 

「はぁ……。せっかく二人を賊の対処に回したのに、わざと一人見逃したでしょ」

 

 私はジロリと悟を睨む。

 

「まぁまぁ。どうにかなったでしょ。それで、ガキんちょは無事?」

 

 悟は私の腕の中の少女に視線を向けた。

 

 その時、「ん、んん……」と、少女が眉をひそめ、意識を取り戻し始めた。

 ぱっちりと開かれた大きな瞳が、私たちの顔を間近で映し出す。

 

「あ、おはよう。星漿体のお嬢様。お怪我は?」

 

 私はにっこりと笑みを浮かべて彼女を見た。

 

「げ……」

「げ?」

「下衆め!!」

 

パーンッ!!

 

 乾いた音が響き、頬に鋭い痛みが走る。思い切りビンタされた。

 

「あっははははっ!!」

 

 悟はそんな私を見て、腹を抱えて爆笑していた。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 あれは、酷く暑い夏の日だった。

 

 その光景と不快感は、今でも脳裏にこびりついている。

 

 動機はただの面白半分。五条家のガキと同い年で、当主に就任した化け物がいるというんで、その面を拝んでやろうと思っただけ。

 

『僕の家に来ませんか? どうせ、もうすぐこの家を出るつもりでしょう?』

 

 やめろ。

 

『呪力の有無だけで扱いを変えるなんてくだらない』

 

 やめてくれ。

 

『僕は、本家とか分家とか、呪力の有無とか、そんなことで虐げられない世界を作りたいんです』

 

 やめろやめろやめろ!!

 

『甚爾さん、僕と一緒にきませんか?』

 

 その目(哀れみ)で俺を見るんじゃねぇっ!!!!

 

「──んいん。おい、聞いてんのか禪院っ!!」

 

 孔時雨の苛立った声で、不意に現実に引き戻された。

 

「……んあぁ、悪い。少し、昔のことを思い出しててな」

「ちっ、しっかりしろよ。俺の説明の途中に黙り込んでたから、何事かと思ったぜ」

 

 孔時雨は呆れたように紫煙を吐き出し、言葉を続ける。

 

「それで、依頼内容はどこまで聞いてた?」

「全部聞いてたさ。要するに、中坊のガキを殺せば数億。そういう話だろ?」

「ガキを殺せばって……お前なぁ、簡単に言うが、護衛には五条家の坊ちゃんと汐宮家のご当主サマも付くって話だぜ?」

「問題ねぇよ。受けるだけで手付金3000万。これほどおいしい依頼はねぇだろ。それとも、お前は受けてほしくないのか?」

「いいや。俺はあくまで仲介者(エージェント)。実行役を止める気はないさ」

「そりゃ、よかった。じゃあ、さっさと俺の口座に3000万振り込んどいてくれ」

 

 そう言って、背を向けたままひらひらと手を振って去ろうとした甚爾は、ふと思い出したように足を止め、振り返った。

 

「言い忘れてたが、俺はもう禪院じゃねぇ。婿に入ったんでな」

 

 ひどくどうでもよさそうに、彼は笑って言う。

 

「今は伏黒だ」

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