魔法剣士TS女子は、器用貧乏を良しとする 作:アカマ
魔法剣士といえば、ゲームでは器用貧乏扱いされがちだ。
もし仮に、異世界で魔法剣士になったとしても、同じ扱いを受けるだろう。
純粋に剣技だけを磨いた者や、魔法の深淵をのぞこうとする魔法使いには絶対に技術で劣る。
鍛錬に使える時間が、中途半端になってしまうからだ。
それでも魔法と剣を同時に扱い、器用に立ち回るその姿は人にあこがれを与えるものである。
少なくとも私がそうだった。
中二心にそういう器用な戦い方へあこがれたものだし、ゲームではそういうビルドを好むことも多かったのだ。
そんな私が、異世界で剣術スキルと魔術スキルを同時に所有していると判明したのは幼いころのこと。
私が魔法剣士の道を進むことは、自然な流れだっただろう。
周囲には茨の道だとか、器用貧乏になるだけだとかいってくる人もいたけれど。
別に私は、どっちかの道を究められるほど、冒険者という生活に熱中できるわけではない。
仕事なんて週休三日で食うに困らないくらい稼げれば十分で、私にはそれができるくらいの実力が備わっているのだから。
だったら剣も魔法もほどほどに使えて、器用貧乏に立ち回れる魔法剣士を良しとするのが、私の性格的にもあっていたのだ。
〇
迫りくる名前を忘れたイノシシの魔物を、私は正面から相手取っていた。
「”風の刃”」
ここが森の中であることを鑑みて、火系の魔術は使用を控える。
火属性魔術は全体的に火力重視で使いやすいのだけど、使える場所が限られる扱いにくい属性だ。
そこで森の中でも使えて、相手が魔術の形を視認できない風属性が役に立つ。
これで私はイノシシの足を的確に切り付けていった。
『ぶもおおお!』
叫ぶイノシシに、私はイノシシが倒れたのを確認してから近づく。
足を切りつけられて前につんのめって倒れる感じだから、向こうからも接近してきてくれて近づくのは容易。
そしてそのまま、手にしていた剣を二回ほど直線的に繰り出す。
刺突だ。
突っついたのは、イノシシの瞳。
これで視界が使えなくなれば、足にけがを負ったのもあってイノシシはほぼ動けなくなる。
あとは煮るなり焼くなり好きにしてって感じなんだけど。
「……私の火力じゃ、倒すのにどれだけかかることやら」
血を浴びた剣を引き抜きつつ、今度はその剣を皮膚に突き刺そうとするけど、あんまり刺さらない。
ここから取れる手段は三つ。
詠唱をして強めの魔術を行使する。
身体強化に消費魔力の比重を寄せて強引にたたっきる。
そしてもう一つは――
「うん、一番楽な方法でやるべきだ。――”水の弾”」
水魔術で水球を作って、それで動けなくなったイノシシの頭を包む。
――窒息死、これが一番簡単な方法だった。
〇
「……相変わらずえげつない方法で、大型魔物を狩ってきますねぇ」
「失礼な。立ち回りで勝ったといってほしい」
「あはは、ごめんなさーい」
知り合いのギルドの受付嬢に、冗談交じりではあるものの少し引かれてしまった。
ここは私が拠点にしているディレタントの街の冒険者ギルド。
今はついさっき森の奥で狩ってきた大型イノシシ――グレートボアっていうんだって――を査定してもらっているところだ。
「それにしても、剣と魔術を同時に収めた魔法剣士で、ここまで優秀な冒険者はそういませんよ」
「まぁ、どうしてもどっちかだけを修練した人と比べたら、修練の時間が足りなくなるからね」
私の場合は、幼少期はそこまでいい生活を送っていなかったのもあって、正直冒険者としての実力はそこまで高くない。
今戦ったグレートボアだって、おそらく普通にやっていたら負けている相手だろう。
この辺りに出てくる魔物のなかでは、一番等級の高い二等級魔物だっていうし。
現在の私の等級は三等級だから、普通ならほかの冒険者とパーティを組んで戦うのがセオリー。
今日はたまたま私しかいなかったから一人で依頼を請け負ったけど、よっぽどのことがなければそんな危険は冒さない。
「でも、器用貧乏って悪くないんだよ。いろんな手札が使えるから。今回だって、足をつぶして目をつぶして、最後は動けなくなったところを水で窒息。どれもアイデアがあって、かつ剣も魔術も使える私ならではの戦い方だ」
「そのアイデアが、ある意味で”アカネ”さんの強みですもんね」
アカネ、というのは私の名前。
なんだか日本人っぽい名前だけど、ここは普通に中世風ファンタジー世界なので、日本人っぽいのはたまたまだ。
前世の名前でもない、そもそも性別が違うし。
「これだけ強いなら、二等級昇格を試してみるのもいいのでは?」
「無理無理、っていうか絶対ヤダ。私は今の稼ぎと立場を維持したいの。そういう意味で、はたから見て器用貧乏で評価されにくい魔法剣士は、私にとっては適職なんだよ」
「あはは……まぁ、アカネさんが変わってるのはいつものことですね」
「失礼だな……」
「査定終わりましたよ」
「話題をそらしたな?」
まぁ、ここまでのやり取りは完全に友人同士の無駄口なので、有益な情報なんて求めてない。
報酬だけ受け取ったら、さっさとそれを夕飯に変えるのがいいだろう。
そんな時、ギルドの食堂として運営されているスペースから声を掛けられる。
「おうアカネー、一緒に一杯飲まねぇか? 見ての通り花がねぇメンツでよぉ。一杯くらいならおごるぜ」
見れば、男どもが下卑た笑みを浮かべて、私を誘っている。
あのうち、多分半数くらいは私のお持ち帰り狙い。
むしろ半数くらいなのが、ある意味私らしいといえなくもない。
「遠慮しとくー、今日は大型魔物を狩ったからいいもの食いたいんだ」
「ちえ、つれねぇな」
女になってから、こういう声掛けが常に舞い込むようになった。
名前通りの茜色の髪を適当にまとめ、気だるげな目つきと童顔な顔立ち。
背丈は低いし胸も小さい、あんまり需要のない体と顔立ちをしている私でも、そこそこ容姿に優れていれば狙ってくる男も多い。
たいていはそういう手合いは躱すんだけど、たまにおごられてチヤホヤされることもある。
だって褒められると気持ちいいし、何より私も元男なので結構話が合う。
まぁなんとも、どっちつかずな私らしい対応と言えた。
あ、今のところお持ち帰りされたことはないからね。
今後も予定は特にない。
「今日はステーキの気分だなぁ。狩ったグレートボアの肉がそのまま出てきたりして」
「……って、狩ったの例のグレートボアかよ、器用貧乏のくせにほんとつえぇな、おい」
そういわれると、悪い気はしない。
器用貧乏はぶっちゃけ悪口だけど、私にとっては誉め言葉だ。
なにせそれを、良しとしているんだから。
こんな生活をつづけながら、異世界生活を満喫できればいいなぁ、なんて考えつつ。
私は今日の夕食に悩みながら冒険者ギルドを後にするのだった。