非対称型VR対戦ゲーム『呪術廻戦 Battle Of Remnant』 作:挙句タゲミ
「
明るい教室の中で、頭に一つの髷を作った筋骨隆々の男が声を上げる。
言葉に反応したのは鋭い目つきの少年。名を、虎杖悠仁。
「どこって、高専だろ」
「そうだ。ここは呪術高専東京校……では
「2017年、夏終わりかけ」
「その通りだ」
「……? それがどうかしたかよ、東堂」
男──年齢は少年の方とそう変わらない──の名前は東堂。彼は直感を大事にする術師だ。だから言う。
「
「覚えてるよ別に。……どうした東堂、今日なんか説明口調っつーか、ヘンだぞ。いつもだけど」
「そう邪険に扱うなブラザー。これはいわゆる
「だからそれが意味わかんねーんだって」
セミが鳴いている。夏の終わりを告げるセミ。いや、まるで夏の始まりを告げるかのような鬨。
「視点を切り替えよう。たとえば──そう。Mr.七海。彼、五条悟、夏油傑……この三人がここにいること。これはどうだ」
「どうって……。まぁ忙しいあの三人がいるのがおかしいっていうのはわかるけど……でもそれって別に良いことなんじゃね? 呪霊が少ないっつーかさ、任務が無いってことだろ」
「なら、わかりやすいところで言うと、鹿紫雲一とMr.七海の並びは?」
「異色だな、とは思うけど……つか東堂おまえナナミン好きすぎだろ」
少年たちの視線の先。階下、高専の一階廊下で、窓の誰かとなにかを話し合う七海健人が見えた。
強い日差しが彼の半分側だけを照らし出している。その中で、驚くことに彼は二人の視線に気づいたらしい。軽く目礼をして、会話に戻った。
「やっぱスゲー……。この距離で視線に気付くって。っぱ一級は色々違ぇんだなー。……ってああ、東堂も一級なんだっけ」
「そんなものは他人が定めた尺度でしかないさ。俺とオマエはもうそう変わりはないだろう」
「そうかなぁ……。んでその次が特級だろ? 実感わかねーっつーか」
「アレはまた別の次元だがな。……そうだブラザー、その口元の傷はいつ出来たものだ」
「これ? これは真人にやられたヤツだよ」
「そうか。だが俺に左手はあるぞ」
見せる。持ち上げて、握ったり開いたりを繰り返す。
東堂の両の手に欠損はない。良く鍛え上げられた
悠仁はその手を見て……そっと触れる。別に透けたりしないし取れたりもしない。
「ゴメン、久しぶりに何が言いたいかわかんない。なんかの術式の話?」
「……いや、やはりなんでもない、という結論に落ち着く、か」
コテンと首を傾げた有仁に東堂は笑みで返す。わからないのならわかる必要はないと。
そうしている二人だけの空間──を引き裂く存在が現れる。
「おゥ男子共。二人だけでイチャコラしてんなよ」
「釘崎。おはよー」
釘崎野薔薇。東京校一年のマドンナにして──女傑。……の片鱗を見せる少女だ。
「はいはいおはよーさん。……あら伏黒、大分イカツくなったわね」
「筋骨隆々な伏黒は嫌いか? 釘崎」
「案外アリ。つか虎杖も伏黒も見習うべきよね。五条先生……は術式がズルだからいいにしても、夏油先生とか七海さんくらいにはステゴロで戦えるようにならないと」
「俺は基本徒手空拳だけど」
「……術式が遠距離タイプなだけで、俺も運動はできるが」
彼女に遅れて教室へ入ってきたのは黒髪の少年。彼の後ろには若干苦い顔をした少年が立っている。
──無論、一年が、だが。
「ああいた! 加茂君、東堂君一年の教室にいる!」
「……なんか探されてたみたいだぞ東堂」
「そうらしい。まず西宮、特に任務中でもない時に無線機を使うのはやめておけ。
「はぁ? あのね、こっちは東堂君を探して校外まで行ってるんだから、そこんとこちゃんと──」
「ブラザー、話の続きはまた今度、だ」
「おう!」
ガミガミガミガミ彼を叱るは西宮桃。その様子をいつものことだと眺める一年の皆。京都校が建て直し中で使えないから、
恐らく「お邪魔している」とか「うるさくしてすみません」とか考えているのだろうけれど、まぁその辺一切気にしないのが悠仁たちだ。彼が東京校の大らかさに慣れるが先か、京都校が直るのが先か。それはまだ誰もわからない未来の話、とか。
凄まじい勢いで回転するバスケットボール。それがネットを揺らして……落ちずに引き寄せられる。
「人間さ、強く覚えていようと思うことほど忘れちゃいがちなんだよね。それって結局記憶ってのが断片だけじゃあ機能しないっていうかさ、その記憶に続く記憶とその記憶から続いた記憶も一緒に覚えておかないと、覚えておく、ってこと自体が無理って話で」
「言いたいことはなんとなくわかるよ。けど、今言うことかい、それ」
「じゃあいつ言うべきなんだって話でショ。少なくとも僕は生徒の学びってやつを大事にしたい派だからね」
引き戻されるボールをカットしたのは長い髪の青年。ボールを引き寄せていた方、銀髪目隠しの青年が「あ」と短い声を発する内に、ダムと一度バウンドされたボールが美しいフリースローによって弧を描き──それがまたスススと引き戻される。
沈黙が落ちる。
「そこ、喧嘩すんなよ」
「……硝子。いたんだ」
「お前ら二人指名で仕事。もう一人は学長だってサ」
「えぇー。……っていうか全体的に仕事減ったカンジなのに僕らだけ出撃多くない? あんまり僕ら動かすとお金無くなっちゃうよ?」
「硝子、場所は? 遠ければ何かお土産を買ってくるよ」
「残念ながら都内。東京バナナでいい」
たばこの煙が体育館を舞う。決してあってはならない組み合わせだが、この"暇になった高専"をしてなお激務な家入のその蛮行を止められる者などいない。
ちぇー、なんて言いながら出撃準備をしに向かう二人の背に。
「ああそうだ、今回の個体、例の特殊進化個体の可能性高し、だってさ」
「特殊進化個体……最近出ているやつか。初めは四級ほどの呪力なのに、極めて短い時間で一級相当にまで進化する個体……確かに並の術師には任せておけないね」
「二回ほどやり合ったけど、種として括っていいかはちょっとよくわかんないな。でも自分でもそーやって進化していけることを理解してるっぽくてさ、この種の呪霊、逃げるんだよ。それが面倒臭い」
「強くなるまで生き延び続けられたら、……最悪、特級呪霊にまでなりかねない、ということかい、悟」
「特級で留まればいいけどな」
特級で終わらない可能性もある。
人語を高度に操り、徒党を組むような呪霊の
果ては──。
「両面宿儺の再来、って?」
「あり得なくはないさ。そも、その特殊個体が宿儺由来の可能性もある。なんたってまだ彼の死体は見つかっていないのだから」
「……僕としては嬉しいけどね。リベンジマッチができる、なんてさ」
無意識にか、意図があってか。
お腹の辺りを擦る銀髪目隠しの青年。
「死なずに帰ってこいよ。直してやるから」
「……字、違くない?」
「気のせい気のせい」
出撃するメンバーの準備が整った。
一人目、銀髪目隠しの青年──五条悟。
二人目、ロン毛五条袈裟の青年──夏油傑。
三人目、東京高専学長──夜蛾正道。
どこかの呪霊が「