バイオロイドサーヴァント   作:fuu349ari

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第67話「シグマ、ネットの海でたくらむ?」

ナイア邸のリビングには、ふたつの妙な空気が漂っていた。

一つはあまりにも無防備に横たわるシグマの体。

そしてもう一つは、その体に向けられるナイアのジト目だ。

 

「……おい。それ、またろくでもないことしてんじゃないだろうな?」

 

ソファに座っていたナイアは、頬杖をついたまま、放置されたままのシグマの肉体をじろじろと睨んでいた。

 

バイトもまた、どこか不安げに眉を寄せて言う。

 

「また、サイト化しかけているのでは……?」

 

ナイアはため息混じりに「やだよ、また敵になるとか。やっと末っ子が馴染んできたってのに……」とつぶやいた。

 

ーーそして、その頃。

 

シグマはというと、ネットの海の深層に潜り込んでいた。

情報の渦をすり抜け、電脳の隙間をすいすいと泳ぐ彼の意識は、ある一点に集中していた。

 

「やっぱり……どこか様子が変だ」

 

映し出されたのは、町の至るところに設置された監視カメラの映像だった。

そこには兄弟たちが映っている。

いつも通りの家事や訓練の風景。

しかし、ふとした瞬間に浮かぶ曇った表情、不自然な間のある会話。

 

「これは……なにか、いやな思いを抱えているのかもしれない……」

 

シグマは思わずつぶやいた。

そして、直後にハッとしたように立ち上がる(デジタル上で)。

 

「ま、まさか……反抗期……!?」

 

思い込みは電光石火。

シグマは即座に行動に移る。

町の人々に“兄弟たちの変調”について片っ端から相談を始めたのだ。

 

「彼らが壁を感じ始めている気がして……これはきっと、機械と人の絆の試練です!」

 

近所のパン屋のおばちゃんは「それは思春期よ」と笑い、八百屋の店主は「反抗期があるってことは、それだけ育ってる証拠だ」としみじみ言う。

 

一方でナイア邸では、依然シグマの“置き去りボディ”を前にして混乱が広がっていた。

 

「おーい、帰ってこーい! そろそろこっちのジュース冷えてるぞー!」

 

「……ナイア様、ジュースで呼び戻せると思ってます?」

 

バイトの冷静なツッコミが虚しく響く。

 

だが誰も知らなかった。

シグマの“ろくでもないこと”は、実はとびっきり優しい計画のためだったことを──。

 

―――

 

「もう改造してやろうかな?」

 

ナイアがペンチのようなマーカーを持ちだすと、バイトを含む兄弟たちがシグマを守るように並ぶ。

 

「お止めくださいナイア様! まだ……まだ有罪とは……!」

 

バイトは気身を低くしながらも、しっかりと腕を広げてためらう。

 

その頂木の木陰で、シグマは電子の海のなか、ちょっとした悩みに顔を作っていた。

 

「ほう……人間は思春期という時期に、ベッドの下に物を隠したがるのか……」

 

ウィキペディアのようなデータの集合体をみながらぶつぶつ呟くシグマ。

 

「そういえばバイトが、ナイアと兄弟の写真を枕の下に隠してたな……まさか、バイトまで反抗期なのか!?」

 

シグマは悩む。他のことなら計算で分析できるのに、これだけは悩みたくなるのだ。

 

「もういたずらでもしてやる! 落書きしようぜ! 落書き!」

 

ナイアは笑顔でマーカーをぶんぶん振り回す。

 

「ナイア様、落書きはお控えになって……!」

 

兄弟たちは守るポーズを続けている。

しかしそのころ……

 

「写真……写真か! いいねそれ! アルバムを作ろう!」

 

その時、シグマの電子意識は闘張するような情熱をしめつけていた。

過去のカメラデータから兄弟たちの撮れた瞬間を検索し、お気に入りの兄弟写真をずらりとピックアップ。

 

そして素晴らしい家族アルバムが完成した頃、シグマの意識は現実の体に戻った。

 

「みんななにやってるの?」

 

「おまえがずっと潜ってたからいたずらしようとしてんだよ!」

 

ナイアは兄弟たちに押さえつけられながらシグマに向かって笑う。

 

しかし、シグマは理解できないような顔をしつつ、ナイアに一つの端末を手渡す。

 

「はい! 誕生日プレゼント!」

 

ナイアはキョトンとした顔をした。

「え? なんでお前俺の誕生日知ってんの?」

 

「センドが前言ってた!」

 

アルバムには兄弟たちとの懐かしい写真がちりばめられていた。

 

「…………よし! 今日はみんなの誕生日ということにする!」

 

「え!」

 

「兄弟全員ですか?」

 

「おう! バイトも兄弟もシグマも、みんなの誕生日だ!」

 

「で、でもそれじゃあ、プレゼントが足りないって言うか……」

 

「なーに言ってんだ。みんなが喜ぶもんくれただろ? 家族のアルバムなんて喜ばねぇ奴いねぇよ!」

 

ナイアがシグマの頭をぽんぽんたたきながら笑った。

 

「よっし! じゃあ盛大に誕生日パーティーと行こうぜ!」

 

「僕ケーキ焼きます!」

 

「俺レース作ります!」

 

「飾り付けします!」

 

「では私はフォトフレームを買ってきます」

 

「今日が僕の誕生日……」

 

「おう、そうだぞ。お誕生日おめでとさん!」

 

シグマは自分の生誕を祝われて、どこか照れ臭くて、だけど心から幸せそうな笑顔を見せた。

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