現人神、それは古くから諏訪にある1つの神職である大祝の別名の如きものであるが、この世界においては別の意味、すなわちその名の通りの現人神を表す。
なぜそのようなものが生まれたか。それは、そも東風谷の家そのものが、洩矢神の血を引く一族、即ち神の子孫であり、それにより極稀に先祖返りが発現するからだ。しかし、その先祖返りもあくまでも神性を帯びた人止まりであり、加えて発現する頻度も神秘の衰退に伴い下がる一方であった。しかし、ここに東風谷早苗という規格外の例外、即ち人から外れるほどの神性を得た存在がこの世に生まれ出でたのである。
しかし、高い神性はそのまま人間社会から外れることを意味する。昔であればその神性を以て世を統べることも叶えども、今は人の世。周囲に馴染めず、その力を振るうことも許されず、許されるのは神々と共に歩むことのみ。家族ですら自分とは違う存在、諏訪子様や神奈子様がこの世に残っていなければ真の意味で孤独であっただろう。
されど、孤独と成りかけていた少女の傍らに常に寄り添い続けたのが蒼崎紫音。彼も又、特殊な生まれにて疎外感を感じていたものであり、早苗と共に在ることで、神と共に在ることで疎外感を慰めていた似た者同士であった。しかし、2人は寄り添い続けた事により人間社会との付き合いをこなすことが出来るようになった。
神奈子様と諏訪子様は未だに現世に残り続けている神霊である。それぞれタケミナカタと洩矢神の名を持つ偉大なる神が諏訪という特殊な霊地と今尚続く信仰によって残り続けているのだ。
「まあ、といった事で私は現人神であるし、」
「諏訪子様も神奈子様も残り続けている事で私も二柱の眷属になったということです。」
絶句。
「何よそれ、デタラメじゃない」
遠坂凛の反応は素直であった。それもそのはず、彼等の説明は今迄の習った魔術社会での知識を根底からひっくり返すものであるからだ。
「というか、先生は驚いているようには見えないですけれど、知っていたんですか?」
周りを見渡して対して驚いているようには見えない、しかし顔をゆがめているロードに尋ねる。
「ああ。以前に2柱の神が今も特殊な霊地と信仰に基づいて現存しているということは聞いていた。だが現人神か…」そう答えるロードの顔は、どこか悩ましげに見えた。
「後、後で説明される依頼主の夜劫の家と私達は関係があまり良くないので訪ねる時はグレイさんと一緒に行くことをお勧めします。彼処結構武闘派なので。」
「夜劫?」
「ああ、そういえば言ってませんでしたっけ、今回私たちは仲介役です。」
紫音は、さらりとそんなことを言ってのけた。
「どうも、資料を持ってきました。」
話が終わったタイミングを見計らったかのように、幹也が部屋に入ってくる。
「それでは、詳細をお話しします」
幹也から依頼の詳細を離されたロード達一行は両儀邸への宿泊を固辞し、あらかじめ用意していたホテルへとやって来たが、何故か当然と言いたげに紫音が着いて来た。
「それで、どうして君が着いてくる。君は両儀邸に泊っていると聞いたが。」
「いやー、それがですね。」
そう言いながら紫音は包みを取り出す。
「遠坂嬢から頼まれていた特殊な礼装の受け渡しと後さっき言っていたエルゴ君の解析をしようかと思って。これが一応頼まれていた彼の礼装ですよ。」
そう言いながら紫音は凛へ包みを渡す。
「ありがと、追加料金とかは大丈夫?」
「ええ。最初に頂いた料金だけで大丈夫です。そしてエルゴ君。」
「な、なんでしょうか」
「今から君の事を調べさせてもらうんだけど私は君の事を知らない。だから、君が覚えている範囲でいいから君の体験を話して欲しい」
そう話す紫音の姿は、ロードほどではないが教育者の風格を帯びていた。
「待ってくれ、紫音、エルゴ。紫音には余計な情報なしで所見を聞きたい」
エルゴが話し始めようとしたその時、それを制止したのはロードであった。
「おや、どうしてですか先生。あー、もしかして私みたいに直感が囁いてきたってことですか?」
「そういう事になるな。」
先生、私の真似して理論立てることを放棄したのか...?
まあいいか。溜息を飲み込んでエルゴに向き直る。
「ごめんね。先生のオーダーが入っちゃったから、後で話聞かせてもらうね。」
「いえ、構いません。先生はこういう所ありますからね。」
「違いない。君も、ここ数週間でわかっただろう。」
くすくすと笑顔で笑いあう2人。それを苦虫を噛み潰したような顔で見るロード。
「さて、それでは診させてもらうから上半身だけ脱いでもらって良いかな?」
エルゴに上半身を脱いで見せてもらう。ふむふむ。特に見た目上の差異はないか、そうなると中身となるが、一応工房結界を張っておくか。
「先生、ちょっと結界を展開しても良いですか?」
一応先生が頷いたのを確認して礼装を取り出し起動する。それは部屋の四方の隅へ自動的に移動し、結界を起動する。
【結界礼装御柱】
紫音によって御柱を模して作成した礼装。御柱の持つ、テクスチャを縫い留める柱という性質を利用して1セットごとに別々の空間を封入している。その効果は様々で工房以外にも闘技場や道場なども存在する。
結界が起動され、空間がホテルの一室から洋館の一室へと書き換えられ、紫音の工房へと変化する。術式が発動していることを確認した紫音は、ロードや凛が驚いているのを尻目に解析を始める。
「それじゃあ、失礼するね」
エルゴの背中に触れ、解析魔術を起動する。結界に込められた術式によって増幅された解析魔術は器用にエルゴの精神へと浸透していく。
まるでスパゲッティコードみたいだ。エルゴの精神に浸透していった紫音が最初に抱いた感想はそのようなものであった。何故なら、彼の精神は何本もの幹が複雑に絡み合い、枝が無秩序に広がるといった有様であるからだ。そんな彼の複雑な精神に絡めとられないように慎重に下へ下へ、奥へ奥へと降っていく。
やがてそれも終わりをつげ、幹は一つの木に3つの螺旋状の木が絡みつくといった形状へと変化していき、根本へと辿り着く。根元に辿り着いた紫音はその幹を理解することを始めた。
(成程...3重神性か?それなら自分に近い存在だが記憶喪失は関係ない物になるな。いや、もしや神格か?神を取り込んだとでもいうのか?ならあり得るな。いや待て、神性も混ざっている。雷の気配がするな...成程、そういう事か)
エルゴの精神を解析し、枝や幹を搔い潜って浮上してきた紫音であったが、疲労を全く見せずに先生に向き直るとこう宣った。
「神格3つともう少しといった形ですね。恐らく、彼の記憶喪失は失ったのではなく、溢れたのではないでしょうか?」
もしかしたら次回はHF世界線の話(番外編)かもしれないです。
ジェスター、どうしたい?
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即落ち
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逃走成功!