Fate/eastan phantasm   作:Astrad

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魔人現る!

 深夜、誰も起こさぬように両儀邸にこっそりと帰り、布団に潜り込み、隣の早苗に目もくれず目を閉じて思索にふける。

 (さて、重要な部分はわかったか?)

 エルゴという、神を喰らった男。己の内にあるもののせいで命を危うくしている男。遠からず暴走してもおかしくない青年の事がどうにも頭から離れない。眠ろうとしても眠れず、万が一彼が暴走した時に封印する為の術式を考案しているといつしか眠りについていた。

 

 「紫音さん、紫音さーん」

体を揺らしながら呼びかけてくる早苗の声で目を覚ます。目を開けばそこには早苗。

 「もうすぐ朝ごはんですよ、行きましょう」

 「了解、早苗は先に行っておいて」

早苗には先に部屋から出てもらい、軽く着替えて食事に向かう。

 

「おはよう紫音君、よく眠れたかい?」

「ええ。しっかりと休ませてもらいました。」

私たちは、そのまま朝食をとった。途中、今日の予定を聞かれたが枢機卿と内密の連絡を取る必要が出来た事もあり、お茶の水と秋葉原辺りに行って本屋と部品屋を回ると答えておいた。どうせ元々秋葉原方面に出向く予定だったので特に予定の変更はない。

 

 その後、朝食を食べ終えた私たちは駅まで送ってもらい、電車に乗って水道橋の方へ。途中、聖堂教会と”繋がっている”教会に寄って秘匿回線を使用して、ラウレンティス・ノイ両枢機卿に連絡し、天使の書庫の閲覧申請を出してきた。

 

 「事情は承知した。教会に、そして埋葬機関に貢献している君のその申請を認めてあげたいのだがねぇ...」

 「結局のところ、君は埋葬機関に半分籍を置いているとはいえあくまでも外部協力者だ。教会の一員でない者に書庫を開くことはできない。せめて、正式に所属し、位階を授かってくれれば...」

 「君の弟子のシエル、彼女も君に勝るとも劣らないほどの才覚だが、まだ成長中だからねぇ、せめて彼女が成長するまで空白の第七位をもらってくれないかな?紫音君。」

 そう、蒼崎紫音は埋葬機関に外部協力者という形で籍を置いているが、未だに位階を授かった身ではない。故に、教会の一員に見えるが教会の一員ではないという奇妙な状態になっている。大抵の事は肩書を以て押し通ることは出来ても、流石に天使の書庫を開くことは出来ない。

 

 「わかりました、では正式に所属させてもらいましょう。」

 だが、それは何もせずに見捨てる理由にはならない。彼も既にエルメロイ教室の一員であるからには、私の仲間であり危難に陥っているのであれば全身全霊で助けなければならない。そうしなければ、私は私を救った神奈子様や諏訪子様に顔向けできない。

 

 こうして私は、埋葬機関第七位に就任することになってしまった。その他にも、討伐ノルマの上昇などの条件が課せられてしまったがある程度は教室のみんなに背負ってもらいましょう。そんなことを考えながらも私は通信室から出て、管理者の司祭に礼をして教会を後にする。

 

 「お待たせ、早苗」

近くのカフェで待ってもらっていた早苗と合流して歩き始める。前世程は暑くはないが、それでも日差しは強い。自分も早苗も礼装に魔力を通して快適な状態で街を巡る。秋葉原に到着し、暫く早苗に連れられて部品屋を巡っていた時、不意に高出力の魔力を空から感じた。

 

 「は?」

感じた方角に目を向けると、想像もしなかった光景が広がっていた。空に、人が飛んでいる。軽飛行機に乗っているわけではない、魔力で編まれた翼を以て空を翔ける男が1人、両脇に人を抱えていた。しかも、そのうちの1人はあの赤髪の青年ではないか。

 

 程なくしてエルメロイ教室のメンバーで共有しているパスを通じて遠坂から念話が届く。 

 「紫音、エルゴが連れ去られた!」

 「こちらでも確認した、これから追跡に移る。遠坂嬢はうちの早苗と合流して後から来てくれ。一時的にパスを繋げるのでそれから探知して欲しい。」

 方針を一瞬で決めて、パスを早苗に早苗にも繋げる。

 「ごめん、早苗。急用が出来たから昨日あった遠坂嬢と合流して後はそっちの指示に従って。」

 「しょうがないですね、紫音さん。さっきの人影ですか?」

 「ああ。あいつがエルゴを連れ去ったようだから捕まえて懲らしめてくる。」

 そう言って魔力放出と大気の操作で強引に離陸する。風と水を用いて光の屈折を弄ることで周囲から見えない状態にする。幸い、雲が出てきたので暗くなった空を観察し続けているものはいない。

 

 ある程度の高度に達すると障害物も消え、相手の向かっている方向が判明する。東京駅近郊の建設中の高層ビル、エルゴを攫った男はそこへ向かっている。

 「何か嫌な予感がしてくるぞ…」

直感に従い隠蔽術式を起動し、ステルス状態をとる。既に相手にもこちらの存在は知られているだろうが現在位置を朧げにするだけで十分。

 

 「アルギズ、テイワズ、ライゾー、イングズ、カノ!」ルーンを起動し、肉体と服を強化する。既に相手はビルに侵入しており、紫音はエルゴと謎の男の戦闘に乱入する形で制圧しようとしていた。

 

 「こんな街中で何を考えている!」

紫音がビルに近づいたその時、莫大な魔力放出により、空の雲に穴が空いた。神秘の隠匿を考えないその行動に対し、紫音は憤りをも感じる。だが、同時に直感が囁いてきた。

 

 エルゴが暴走しているのではないか?

 

 不運にも、その予想は的中していた。ビルの屋上は炎に包まれ、エルゴは正気を失っているように見えた。

 

 「しょうがない、神性解放·建御名方」

――――解放、我が身は天空を司る――――

 紫音は、暴走したエルゴを鎮圧する為、権能の全力解放と魔力放出によって一気に加速し、全力の掌底を当て、同時に昨晩のうちに用意しておいた拘束用術式を以て意識を奪い、ついでにワイヤーで縛り付ける。

 

「おいおい、流石にそいつを持っていくのは勘弁してくれねぇかな。お師匠に怒られちまう。」

 謎の男の翼から放たれた羽がワイヤーを切断する。よく見れば、傍らに連れているのは昨晩の話にあった夜劫アキラではないか。関係者であると判断した紫音は構えを取りつつ返す。

 

「成程、夜劫アキラさんとその誘拐犯の方ですか。貴方達は説教しておいていくつもりでしたが今回の件に関わる人達なら拘束して事情を聞かせてもらいます。」

 傍らの少女が不安そうに物陰に隠れる。それを皮切りに二人の激突が始まる。

 「シッ」

 呼吸音にも似たその声は紫音のものか。一気に大外刈で抑え込もうとするもするりと相手は拘束から抜け出し、周りこんで翼と拳を打ち込もうとする。

 それに対して紫音もまた相手の攻撃を躱して戦闘不能状態に追い込もうとする。その応酬は暫く続き、後に夜劫アキラはこの2人の戦いをダンスみたいだったと表現した。

 「なかなかやるな!だが、思想鍵紋接続!」

 謎の男は紫音に対して思想魔術による封印を試みようとする。

 「緊急用にオヤジからエルゴ用に渡された術式なんだけどな!」

 紫音に対して何かを打ち込もうとする男。しかし、それは紫音の身体に触れることはなく、紫音の手前で男の身体は何かに縫い留められたように動きを止める。

 

 「結界礼装御柱、まあ世界を縫い留める為の柱を模して作った礼装ですよ。エルゴとアキラさんと一緒に同行してもらいます」

 礼装は立方体状に展開し男を封じ込め、最後には小さなキューブとなった。

 「さて」

 紫音の目がアキラに向く。アキラは怯えている様相だが、紫音は安心させるように言う。

 

 「夜劫アキラさんですね、私は両儀の家のものです。貴方がこの男に自発的に同行しているのなら、私達は引き渡すことはしませんので、ご安心を。ただ、少しお話を伺いたいので私達の家に一旦来ませんか?」

 手を差し出す。彼女も又何らかの神秘を帯びている事は相を視る事のできる紫音にはわかっていること。刺激しないように丁寧に、誠実に差し出された手をアキラはとった。

 

 

 「もしもし、幹也さん。ちょうどいいタイミングですね、もしかして見ていたんですか?」

 緊張が解けたのか気を失ったアキラを床に寝かし、最低限の後始末を終えたタイミングで幹也からの着信が来る。

 「いや、見ていないよ。ただ、東京駅周辺で騒ぎが起きたと聞いたから電話しようと思っただけだよ。もしかして、関係している?」

 見ていないと主張するにも関わらず神憑り的な直感を発揮する幹也に、紫音は輸送の支援を要請する。

 「ええ、関係しています。夜劫アキラと連れ去った張本人と思われる男を確保したのでハイエースを廻してもらえますか?早苗と遠坂嬢を回収してそっちに戻ります」

 「分かった。近くにいる知り合いに持ってきてもらうよ」

  電話が切れる。そして早苗と遠坂嬢が到着する。

 二人の眼前に広がるのは、火は止められているものの所々から燻る煙、壁や床の至る所にある穴や凹み、破壊され尽くした調度品の数々。

 

 「あんた、何してくれてんの?」

破壊され尽くした空間を見て遠坂がツッコミを入れ、紫音が笑顔で誤魔化そうとする。 

 「いやー、誘拐犯を捕まえに行ったらエルゴが暴走していてね、そっちは奇襲で鎮圧したんだけど誘拐犯の方を封じ込めるのに手間取っちゃってさ。」

 そう言いながら手に持ってるキューブを遠坂に渡す紫音。

 「後始末するから持っておいて。早苗もエルゴとアキラを見ておいてもらえない?」

 「わかりました、紫音さん。そっちは手伝わなくて大丈夫ですか?」 

 「こっちは大丈夫。あ、ただこのワイヤーでエルゴを縛っておいて。」

 

 虚数ポケットから太めのワイヤーを取り出して早苗に渡して修復作業に入る。といってもまだ工事中である為、そこまで調度品が多いわけでもなく破片を掻き集めてガワを修復し、壁や床を錬金術の応用で修復する程度。30分もしないうちに修復は完了し、幹也さんの知り合いを名乗る人物に用意してもらったバンを運転して一同は合流場所に向かうのであった。




 この世界において、エルメロイ教室は戦闘団としての活動を十全にこなす為に教室の生徒は紫音作成の礼装でパスを常時繋げて思念の伝達や魔力の融通などを行っています。 
 封印された白若瓏は、大体ビン詰めにされている草十郎みたいな感じになっています。意識を取り戻せば外界とのコミュニケーションは可能です。

 後多分2話か3話ぐらいしたら魔人編は終了、モナコとちょっとしたエピソードを挟んだらいよいよ偽りの聖杯戦争に突入できるかなぁ...?


ジェスター、どうしたい?

  • 即落ち
  • 逃走成功!
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