さて、どうするか。先生とグレイ、エルゴの3人が出かけて行ったことによって部屋には私達3人組と幹也さんだけが残っていた。
「さて、それでは作戦会議としましょうか。幹也さん、それと紫音と早苗さん。夜劫の家の情報ってどれくらいあります?」
「僕が知ってる限りだと両儀の遠縁にいる行者系の一党、それなりに腕に覚えのある人達が多いって所かな。後は簡単な地図ぐらいならあるけど、見る?」
「あ、お願いします。後遠坂嬢、私と早苗は大した情報を持っていないから」
「どうして?」
「そりゃあ、あちらさんが苦労して工夫して使っているものをこちらは簡単に使えて、しかも使えるのにそれを私たちの代まで放棄していたんですから」
「そうだったんですか?」
早苗が驚く。待て、なぜおまえが知らない。そうだ、政治関係は大体こっちで引き受けていたからそうだよな。
「そうだったんだね。紫音がお付き合いしている人がいるって聞いたときに君の事は少し調べさせてもらったけれど、浅神の遠縁ってことぐらいしか君の家の情報が出てこなかったから疑問に思っていたけど、そういう事だったんだね」
待って、そんなことをしていたんですか? 幹也さん!
「え? 私の事を調べていたんですか?」
少し引いている早苗。さっきの憤怒を忘れる如き衝撃が彼女に走ったからだ。
「うん。紫音が一時期惚気話を毎日のようにかけてきたことがあったり、こっちに泊っている時期も口を開けば早苗さんの事を話していたから、少し調べさせてもらったよ」
自分の恥ずかしい話を幹也にバラされた紫音と、紫音が自分にベタ惚れし続けていることを知った早苗の二人は顔を茹蛸の如く赤くなるほど恥ずかしがっていた。
「えーと、そこの三人共。ちょっといいかしら?」
蚊帳の外に置かれていた遠坂嬢が額に青筋を立てながら笑みを浮かべる。
数十分にわたる説教のあと、4人は地図を基に夜劫への殴り込みの為の軍議を開いていた。
「さて、地図を見せてもらって思ったけど、手数が少ないわね。先生たちが戻ってくるまでにあちらが動かなければいいのだけど……」
やはり、手数が問題になるか。そうなると、呼んでおいてよかったな。
「そこに関しては朗報が1つある。昨日の晩の内にシエルに武装と一緒に来てもらうように言っておいたから頭数が増える」
「そう、ならば問題ないわね。なら2手に分かれましょう。紫音とシエルさんの2人は正面から敵陣に乗り込んで陽動に当たってもらいます。そして」
早苗を見ながら続ける。
「早苗さんは私と一緒に2人が陽動をかけている間に本丸に乗り込んでアキラちゃんとアイツを奪還する。皆、それでいいかしら?」
「はい、私はそれでいいです」
「異議なし! それでは私はシエルを回収するので先に出発します。タイミングはそちらからの指示を待つので、よろしくお願いします」
「ええ。それじゃ、よろしくね」
そうして私はシエルと聖典を回収するために横田基地へ向かうのであった。
「ねえ、早苗さん。あなた紫音とは長い付き合いなのよね? 彼って何時からあんな感じなのかしら?」
紫音がシエルを迎えに、幹也が車両の手配に部屋を後にした間に遠坂は卓上の宝石に注意を払いつつ両儀の家の家令が持ってきた軽食を口にしながら、早苗に質問する。
「あんな感じって、どんな事ですか?」
「ほら、彼って妙に物事を達観して捉えている節があるじゃない? なのにそれでいて焦っているような」
早苗も思い当たる節があったのか素直に返す。
「そうですね、紫音さんが達観しているのは昔、小学校で出会った時からではありますけど、焦るようになったのは大体3年前の冬に冬木に行った時ぐらいからですね。そこから色々な事が紫音さんに押し寄せて来て、色々な事を抱え込むようになったんです」
「ちょっと待って。冬木に来てから?」
「はい。あの時ぐらいから、紫音さんはうなされるようになったんですよね。英雄王からの宿題をこなさねば、泥の行き先を探さねばーって」
その言葉を一瞬、彼女は理解できなかった。早苗の言っている事は一部理解出来ないところもあったが、彼が聖杯戦争に関わっていた事を物語っていたからだ。
「早苗さん、もうちょっと詳しい事を聞いても良いかしら? 紫音が聖杯戦争に関わっていたのは初耳すぎるんだけれど!」
「ちょっと待ってくださいね」
そう言うと早苗は部屋の隅においてあった自分のリュックサックをガサゴソと漁り、一つの冊子を取り出してきた。
「地球上に存在する人類存続に支障を及ぼす問題とその対策集」表紙にはそう書かれてあり、著者:蒼崎紫音と書かれていた。
「えーと、それは何かしら? 早苗さん」
遠坂は慎重に問い掛ける。どんな意図を持って紫音が作成したのかは不明なれど、題名からして碌でも無いものであるのは確かだからだ。
「紫音さんが書いたハンドブックですね。それで、紫音さんが聖杯戦争に関わることになった理由は
「成程ね。魔力をネコババする為に冬木に来たのね」
「いえ、話はそんなに単純ではないんです。紫音さんがあの時語っていた事とこのハンドブックに記されている内容によると、大聖杯は汚染されていて、決して満たされてはならない盃と化していた。紫音さんが現地調達した代用品は紫音さんが元々用意していたものよりは性能が良かったが、長期間の封印には適さず、そも聖杯戦争終了時の魔力移動を受け止めるだけで限界が来ていたらしいです」
「そう。なら、今何か紫音が対策しているのかわかる?」
「一応、紫音さんのハンドブックにはイリヤスフィール・フォン・アインツベルンっていう人に協力してもらって霊脈からの魔力供給を遮断するコンデンサを用意して大聖杯の起動を防止中って書いてありますね」
大聖杯が汚染されている。それを知った遠坂は驚くような顔も起こるような顔も見せるが、持ち前の冷静さを以て溜息一つで飲み込んだ。むしろ、納得したといわんばかりの表情を見せていた。
「成程ね。イリヤスフィールが時折誰かと会っていたのはこれが原因だったのね。正直、あの時出てきたものを考えると聖杯の中に何が入っていてもおかしくは思わないわ」
彼女が思い出したのは聖杯戦争の最終決戦の時、イリヤスフィールから抜き出した小聖杯を核に、ギルガメッシュが試練と称して呼び出した肉の塊。それは、禍々しきものであったが故に。
「そしてもう1つの方が、『聖杯戦争終了後の調査にて第三者の侵入及び大聖杯と泥の一部の喪失を確認。大聖杯の機能は支障なし。泥に関しては行先不明、聖堂教会にて情報収集の手配済み』と書いているので恐らく又紫音さんもわからないんだと思います」
「成程ねえ。何だか謎の一部が解けたようで又別の謎が増えたみたいだわ」
遠坂は頭を抱えていたが、その時であった。
卓上の宝石が光を発しながら揺れ動く。
「どうやら先生が戻ってくるまで持ちそうにないわね。早苗さん、行きますよ」
2人は急いで荷支度をし、幹也に用意してもらっていた四駆に乗り込む。
「運転は私がするから、早苗さんは紫音と先生に連絡をお願い」そう言って彼女は携帯を早苗に渡す。
そうして彼女達は一路夜劫の本拠地を目指すのであった。
side紫音+シエル
在日米軍の所有する基地の一つ、横田基地。ここは米軍の管理下であり民間人の立ち入りが制限されている為、神秘の隠匿が用意であり、又首都に近いことから聖堂教会の出先機関として一部の建物が聖堂教会に貸し出されている。
格納庫に入ってきた小型ジェットが停止し、エアステアを踏んで一人の少女が降りてくる。彼女の名はシエル。蒼崎紫音の弟子であり、エルメロイ教室の一員だ。
彼女と紫音は、彼女が飛行機から降りる前、即ち彼の通信圏に入った瞬間から念話での情報共有を行っていた為に速やかな行動に移ることができた。
「お久しぶりです、師匠。これが頼まれていた聖典の核です」
「ありがと、じゃあ取り敢えず出発するから助手席に乗ってくれ」
紫音は格納庫の隅に停まっているSUVを指しながら乗るように促す。
「了解です!」
紫音はシエルが乗り込んだ事を確認すると車を発進させる。車は横田基地を抜けると中央道方面、即ち山梨の方面に向かう。
「そう言えば師匠」
「何だ?」
「早苗姉さんとは何処まで行ったんですか?」
「???」
驚いてハンドルを切りかけるも、万が一の為に構築しておいた運転補助術式のおかげで何とか誤らずに済んだ。
「いきなり何を言うか!」
「だって気になるじゃないですか。諏訪子様も神奈子様も2人が結婚するのを今か今かと待っているんですから。早苗姉さんだって」
「一応、早苗が大学を卒業したら籍を入れるつもり」
「早く覚悟を決めてくださいね。そうじゃないと諏訪子様たちと一緒に師匠を縛って姉さんの部屋に放り込みますからね」
そう、紫音はヘタレである。前世において色恋沙汰を経験していない紫音にとって早苗のみが唯一恋した者であり、愛する者である。そんな彼に一歩踏み出す勇気が在るかと問われれば否と返す他無い。
「はい……そうだ、作戦なんだけど」
「逃げましたね、それで、何ですか? 陽動として正面から突入するって聞きましたけど」
「第三と第四の武装はこっちで使うから、残りの奴使って適当に暴れてくれればそれで大丈夫。黒鍵は持っている?」
「一応、100本ぐらいは持っています」
「じゃ大丈夫だね」
最後の打ち合わせをしている時、携帯が着信音を奏で始める。
「シエル、代わりに出ておいて。多分遠坂嬢だろうから」
「わかりました。はい、もしもし。こちら師匠に代わってシエルが聞いています。はい、わかりました。突入して大丈夫なんですね。それでは、健闘を」
会話は短く、すぐに終わる。
「何て言っていた?」
「儀式が始まったので到着次第戦闘開始で問題ないとのことです」
「了解。じゃ、捕まっていて。飛ばすよ!」
アクセルを踏み込み、一気に加速する。そして偽装魔術を展開しながら聖典を起動する。
「セブン、機動形態に変化」
聖典を起動すると、彼らの乗っていた車両の姿が変化する。純白の車体はガンメタリックに変化し、装甲版が各部に展開される。そして、今まで響いていたエンジンの駆動音は鳴りを潜め、魔力によって駆動するモーターの甲高い音に変化する。
そう。彼らの乗っていた車両そのものが第七聖典であったのだ。
変化の終わった車両は更に速度を増していく。既に300km近い速度を出して目的地へ向かっている。
「師匠怖いです! もうちょっと速度を抑えてください!」
悲鳴交じりのシエルの懇願も無視し、一気に一般道へ空を駆け降りていく。
「うひゃあ!!」
ドスン、高速道路の高架から一般道へ駆け下りた衝撃が車両を襲う。
「師匠やめてください!」
もはや涙目になっているシエルの嘆願に耳も貸さずにひた走るのであった。
実は紫音、遠坂凛と衛宮士郎には聖杯の汚染問題を伝えていなかった。
紫音「だって、イリヤ嬢には相談して既に封じ込め処置は済んでいるからまだ大丈夫かなーって思っていたんですよ」
紫音の作成した冊子は彼の知り得る型月知識と彼が埋葬機関と伝承科関連の仕事で知りえた厄ネタを詰め込んだ資料。紫音が持つ親本とシエルやロード、早苗が所持する子本が存在し、常に親本の内容と同期する為、紫音は任務に赴く際にその内容を書き込んでいます。そうすれば、たとえ彼が死んだとしても何に殺されたのかがわかるからです。
実は余裕ありげ、達観しているように見える紫音ですが精いっぱい強がっているだけだったりします。紫音は確かに人間の中では圧倒的な強者ではありますが彼が3年間の間で戦い続けた相手は人外の悪鬼羅刹、魑魅魍魎です。成長していくにつれ減っていったものの彼が救うことは出来なかった者は数多くいます。死徒に襲われ枯れた町、救援要請を出したものの駆けつける前に倒れた代行者。紫音ですら倒せず、撤退を選ぶことしかできなかった強力な上級死徒や死徒二十七祖。救えなかった人がいる度、彼の心は少しずつ摩耗していきます。それ以外にも、多くの事が紫音を襲っています。彼が本音を、弱音をさらけ出すことが出来るのは早苗や神奈子様、諏訪子様ぐらいです。
だから早苗は彼と共に戦う事を決めました。彼の心を守る為、支える為に。ナルバレック局長はシエルを弟子として押し付けました。彼の戦友を作る事で苦難を分かち合える友を作る為に。まあ、局長の方は育てるのが面倒+紫音が教育者としての才能をそれなりに有しているから、という理由もありますが。
次回「夜劫壊滅」
ジェスター、どうしたい?
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即落ち
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逃走成功!