彼が目覚めてから少し経った後、私達は車に乗ってアインツベルン城を目指していた。この世界でも、私はイリヤスフィールが連れ去られるのを止まることはできなかったらしい。
「そう言えば、あんたに礼を言ってなかったな。ええと…」
彼が言葉をつまらせる。そりゃそうだ、私は彼が来た時点で地に伏していて、イリヤスフィールは連れ去られ、遠坂嬢も気を失っていたのだから。
「蒼崎紫音と申します、長野県は諏訪の管理者を担っている者です。しかし、礼なら不要です。私は、彼女達を守れなかったのですから。」
そうだ。私は結局流れを変えることはできなかった。彼女が連れ去られることを止めることはできず、寧ろ相手方に想定以上の戦力を与えてしまったのだから。
「いや、だとしてもあんたがいなければイリヤの行方がわからないまま連れ去られていた。だから、礼を言わせてくれ。」
「しかし…」
紫音が尚も拒んでいるとハンドルを握っている言峰がミラー越しに目を合わせる。
「感謝ぐらい素直に受け取ったらどうかね。君の為した事は私でも難しいものだ。何しろ人の身で在りながら戦闘に秀でた英霊と暫くの間渡り合うことができたのだから。」
嘗て代行者として第一線で活躍していた神父の言葉には流石に否定し難い重みがあった。流石の紫音も感謝を受け入れる他なかった。
「さて、行きましょう。私は気配を殺しながら付いていきます。英霊が出てきたらこちらで引き受けますのでご安心を。」
森の入口に車を停めて私達はアインツベルンの領域へと足を踏み入れた。そこは鬱蒼とした森の中。今は破壊されているが私の眼は大量の結界術式が仕掛けられていた事を告げている。
「2番、3番は解析及び復元。4番は新設。」
この後待ち受けているであろう黒化英霊との戦いの為に可能な限り準備をする。この世界においては私が知っている以上の手札が相手に存在する以上、ここでバーサーカーとアサシン以外、即ちランサーかセイバーが応戦に出てもおかしくない。ならば、地の利を得る為にも仕掛けは多い方が良い。幸いにもここは格が高い霊地であり、自然の中。私のような人間には慣れ親しんだ環境だ。
隠密状態という条件下において可能な限りの仕掛けを用意しながら考える。私の手札について。私の持つ武装はまず英雄王から託された代用鍵、そして双剣、最後に両儀の家を通じて調達してもらった近代兵装の数々。この中で英霊に通じるのは英雄王由来の物品のみ。手榴弾なら改造済みなので使用できるが開けた場所では効果が薄い上にランサーなら矢避けの加護がある以上期待できない。
魔術はどうだろうか。ここなら権能魔術を用いても無辜の民に被害が出ることはなく、隠匿も余り問題はない。ただ、広範囲攻撃には向いていない以上使い時は真剣に見極めなければ魔力の無駄遣いにしかならない。そうなれば、やはり法術と武技。この2つに英雄王由来の武装を併せて対処するのが最善だな…
そう考えながら紫音達一行は城へ辿り着く。所々戦いの余波で崩れたり傷ついているところはあるものの全体としては無事だ。
「さて紫音。君はどうするのかね?」
言峰が彼に登山の経験を聞き、私にはどうするのかを聞く。
「私はここに残ります。万が一の場合は強引に全員回収して離脱を図るので何も考えずに飛び降りていただいても結構です。」
私は万が一の為の脱出援護を準備する。と言っても出来るのはクッションと時間を用意するのが限界だが。
2人が壁を登っていくのを見送る。そこに、後ろから声をかけられる。
「よう、坊主。さっきは何も言わずにやっちまって悪かったな。」
振り返るとそこにはランサーがいた。
「おや、泥に飲まれても尚正気を保っておられるのですか?」
「まあな。坊主の呪いのおかげで揺らぎが出来たんでな。今の俺は半分呑まれた状態だ。それに、」
「それに?」
「この程度の悪意で俺を奪う事が出来るのなら俺は英霊になんかなっちゃいない」
それは、英雄としての矜持。ケルトの大英雄、アルスターの光の御子としての意地。それこそがランサーを英雄たらしめている。
「成程、でしたらこのままこちらに寝返りますか?魔力でしたら潤沢に提供出来ますし、時間かければ汚染を解除して戦争後も現世を満喫できるように取り計らうこともできますが…」
紫音は寝返りを誘う。もしこちらに彼を引き込めるのなら願ってもない。相手の手札を1枚減らしてこちらの手札を1枚増やせるが故に。
「すまんがそれは出来ない相談だ。」
だがそれは断られる。
「何故ですか?貴方ほどの英雄なら世界を焼き尽くす事を望んでなどはいないでしょうに。いや、成程。忠義の為という事ですか。」
紫音は問い掛けながら自分で答えに気づく。気づいてしまう。それは己も己の神に忠義を抱いているが故のものか。
「そうだな。こちとら2度も鞍替えさせられているんだ。流石に3回目はしたくねえ。だが、このままこれに加担させられるのも面白くねえ。そこでだ坊主。」
ランサーが獰猛な笑顔を作る。全身に冷や汗が湧いてくる。
「俺がお前の壁になってやる。挑んで来い。」
「少し待ったいただければ構いませんよ。彼等が脱出すれば私の成すべきことは終わりますので。しかし、どうして私の壁に成ろうと仰られるので?」
流石に紫音も困惑に包まれた。襲い掛かってくると思えばそうではなく、ただ壁になる、試練を与えるというのだから。
「いやー、それがな。あのいけ好かない王様から言われてたんでな。あやつがこの街に戻ってきたら試練となれとな。どうやら、お前さんはこの先も戦いに満ちた人生を送るらしいぜ。」
それは、英雄王からの贈り物であった。ありがたくない予言と一緒の。
そんなことを考えていると2人が空から降って来た。
「うわ。ってランサー⁉」
3階以上の高さから飛び降りて来た士郎が躓きつつも黒化ランサーと紫音が和やかにしている事に驚く。
「あー坊主か。悪いな、こいつは俺の介錯に付き合ってもらうから少し借りてくわ。」
そう紫音を指差しながら言うランサー。紫音も口を開こうとした途端、悍ましい気配と獣の如き唸り声がした。
「撤退だ!ランサーとこっちで引きつけるから3人は早く撤退を。イリヤ嬢はこれを被っておいてくれ、気配をごまかす。すまん、あんたとの勝負はあれ倒した後で頼む!」
身勝手な頼みをランサーは快く応じてくれた。
「いいぜ。一時だけだが手伝ってやるよ、ついでにルーンで偽装もしておいてやるよ。」
「助かる!」
さて、ギリシアの大英雄に挑むとしましょう!
ちなみにこの世界線だと色々なことがあって何やかんやしたあと、ZZZ仕様のアンドロメダ級+D級ブースターvsORTの最終決戦が発生します。
ジェスター、どうしたい?
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即落ち
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逃走成功!