あれから数日が経過した。バチカンに到着した私達は一晩ぐっすり眠った後、行動を開始した。即ち、天使の書庫に通う事を始めたのである。
余談ではあるが、聖堂教会の禁書は3種類に分かれている。1つ目は禁書目録に登録されたカトリックの体制と信徒に対して有害となる書物。これは一般的なもので、世間では回収次第廃棄されていた物が多く収容されている為、近年においては内容が精査された上で外部の大学に資料として貸し出す事もある。2つ目は、魔術書であり、神秘の隠匿等の目的で禁書として収蔵されている物。これは非敵対的な組織、つまりエルメロイ教室だったり世界中にある聖堂教会と繋がりがあるような退魔組織であれば閲覧の申請が可能。そして、3つ目がこの天使の書庫に納められている資料。
天使の書庫に納められている資料は存在してはいけないし、公開してもいけない資料だ。存在してはいけない神々について記された書物、常に封印し続けなければならない天使の遺物、外法の書物、読むだけで精神を蝕むような書物、神代の宝具の残骸等、神を使った魔術等、現行人類の脅威に成り得る資料が収蔵されている。悪用すれば、いや悪用せずとも公開するだけで世界の秩序を覆しかねない資料が納められている為、収容ノウハウの共有目的で伝承科との協定はあるが、常に安全の為最低限の人数で管理されており、担当の人員以外が閲覧するには埋葬機関の局長及び複数の枢機卿の許可が必要となる。
そんな危険な資料たちが納められている書庫では当然普通の言葉では記された物は少ない。最低でもラテン語やコイネー、ルーン文字等々で記されている物から甲骨文字やヒエログリフ、多種多様な文字で記されている。
「疲れたぁ」
「和洋折衷過ぎて頭がこんがらがる...」
「後何冊あるんですか...」
その結果がこれである。3人とも別に読書は嫌いではないし、語学力もそれなりにはあるし、礼装の補助もある。しかし、ここでは礼装を使えば書庫内の封印術式に干渉する恐れがあるとされ、礼装の使用が禁止されている。よって辞典片手に地道に読み解くほかなく、毎日限界まで書物を読み解いていた3人は限界を迎えようとしていた。
書庫から撤退した3人は埋葬機関の本部にある、紫音の部屋に戻って畳で寝転がりながらロードの礼装から送られてくる情報を娯楽代わりに眺めていた。
この礼装は、虚数魔術を通信手段として利用しているので、通常空間に結界が張られるなどの妨害策が行われても魔術の行使を封じることが出来ない空間であれば情報の伝達が可能である。とはいえ、コスト面を考えると夢の又夢であり、作成にも諏訪子様の補助を必要とするなど、只人が作るには難しいものだ。
3人がロードの映像を眺めている時、正に天啓とも呼べる会話が聞こえてきた。
神という人間以上の存在を利用した高度な演算器を以て人間には対処できない手段で滅びを回避する方策を作り出す。3人は思わず顔を見合わせる。
「これは…」
「私達の力でも」
「上手くすれば、再現出来るのでは?」
三人が口々に言う。滅びを回避する方策はこの際必要ない。だが、高度な演算器を以て手段を見つけるという所が肝心なのだ。
「この場合、リミッターを付けておけば問題ないですよね。」
「魔力は私達3人をパスで繋いで魔力炉心代わりにすればいいでしょう」
「此処にいるのは大体神性持ちと神性みたいな物持っているから、早苗をメインに据えて私とシエルで補助すればいけるか…?」
今彼らが行おうとしているのは、紫音が元々使っていた演算・解析術式を神という演算機能が中心となる形へと作り替える事でより高度化し、エルゴの対処法や原理血戒の解析を一気に行おうという物だ。
「そうだ、確かそれっぽい術式が書いてある本を書庫の方で見た気がします」
シエルのその一言で、方針が定まった。急いで書庫に戻ってその本を探し出す。
幸いにも本は日付が変わる前には見つかった。だが夜も深く疲労困憊である以上事故を避ける為もあり、その日は戻って休息を取った。
次の日、その本を全員で解析し、術式を改変しながら実際に起こしてみた。
「よし、これなら行けますね。メインの制御を私が持って紫音さんとシエルさんで補助。リミッターを設けて暴走を防ぐ。エネルギーは私たち3人の魔力で十分賄えますね」
今回の術式は、紫音でも設計は出来るが、制御の中心となるのは早苗であり、中心の本人が理解出来ていなければ制御が甘くなってしまい、後遺症が残りかねない為早苗が中心となって設計を行っていた。
「一応、本部地下の儀式場を借りておいたから、本番はそこで行おう。環境の制御術式は既に設置して自立稼働状態になっている」
「私の方も、準備ばっちりです!医療班の人にお願いして、待機してもらっています!」
「それじゃあ、行こうか」
紫音の号令で全員は儀式場に向かい、術式の立ち上げを始めた。まず、3人が手を繋いでパスを繋げ、第一段階の従来紫音が使用していた演算術式を立ち上げる。第一段階の演算術式の補助を用いて、三人の意識を半融合状態に持っていく事で限界まで情報による摩擦を減らす。そして、第二段階。早苗の現人神としての性質を活かした演算術式を起動する。
まずは、原理血戒の解析とそれを基にした魔術の組み立て。今までも紫音は常に演算術式を用いて解析を行っていたが、原理血戒は世界に抗う力、すなわち世界一つ分の情報量に等しく、紫音の膨大な魔術回路を用いても解析は遅々として進まなかった。
それが今やどうか。一瞬で終わるというわけではなく、時間は必要とするものの着実に解析が進んでいく。
原理血戒、それは人理の法則の下で稼働する超越存在の核。魔術理論における世界卵。世界を塗り替える力。死徒の力が強く、人理が定着することのできないこの世界においてのみその力を発揮しうる卵。
(解析が終わりました...!組み立ての方、お願いします...)
(了解!)
早苗からバトンを渡された私は必死になって組み立てを行う。早苗の持つ神格としての力が背景の制御をこなしているものの、私の持つ神性は早苗に及ばない。嵐の中で自転車を走らせるような重い負荷を必死になって耐えながら魔術の組み立てを行う。
まずは、一つ目。私が使うための魔術。
範囲を切り詰めて射程を切り詰める。そもそも長距離攻撃なら聖典を使えばよい。デフォルトの射程は1km程度。後は魔力消費を増やす事で性能を調節できるようにすれば汎用性が高い対城宝具相当の魔術として完成する。
そして、2つ目の作成に移ろうとした所で問題が発生した。この高度演算術式が予めセットしてあった安全装置によって
現実に戻る一瞬の間に思考を巡らせる。安全装置の作動要件は幾つか設定されていた。1つは3人のうち誰かが限界一歩手前に辿り着いてしまった時。しかし、自我が半融合状態であった為に互いの状態は手に取るようにわかる。そんな状態にはならなかった。
であれば、もう一つ。先生が礼装を破壊した場合、このケースで間違いないだろう。
意識が現実へと戻った瞬間、身体が引っ張られていくのを感じる。強さと方向から大体の座標は特定できるが、モナコか。まさか、ヴァン=フェムと戦っているとかではないよね?
そんな思いを胸に抱きながら紫音は虚数空間へと沈み込むのであった。
このタイミングの3人は頭を使いすぎていて若干ハイになっています。じゃなかったら早苗もこんな自分に負荷がかかるような方法を提案しないし、紫音もそれを容認しません。
2007年の設定資料集は大体出来上がっているので、後数話書き上げたら投稿すると思います。
ジェスター、どうしたい?
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即落ち
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逃走成功!