それはある夏の日。正確に言えば、先生たちがインド・ヒマラヤの方面へ旅立った最中の出来事。私は、自らの居室で大量の書類と仕事に埋もれていた。エルメロイ教室もとい戦闘団においては、ライネス嬢を始めとした裏方の事務部隊と、私やスヴィン、グレイや遠坂嬢などの武闘派が存在しており、基本的に各地の代行者との調整等はライネス嬢たちに丸投げしている。
しかし、ライネス嬢は先生に呼ばれた結果ノエル・スヴィンを連れてヒマラヤ行き。それによって私は事務方の仕事を統制する必要が発生し、尚且つ【城】討伐の為の作戦立案及び各国の特務部隊への呼びかけ等根回しの為の仕事と代行者としての仕事と...といった事で書類の山に埋もれているのだ。
「も、もう無理...ギブ...」
机に突っ伏そうとしても、机の資料が散乱すれば又面倒な事になるし、その選択肢は取れない。だが、このスペースは改造済み。畳を敷いているのでそのまま離脱して座布団枕に床に突っ伏す。
「ただいまーって、大丈夫ですか?紫音さん」
床に突っ伏している紫音に声をかける彼女。手提げ袋から覗く品々を見る限り、観光の帰りの様だ。私がここで仕事をしている間に早苗が一人で任務に行く事はない為、シエルと一緒にローマ近辺を日帰りで巡る事をここ数日の趣味としている。
やっぱり早苗に少し手伝ってもらうかなぁ...いやでも、これ大体権限の問題あるからなぁ...あ、そうだ。忘れてた。
「さ、早苗ぇぇ…ちょっとお願いしてもいい?」
横になっている私に膝枕をしてくれた彼女に少しお願いをした。
数日後、私と早苗はドイツの山奥を訪れていた。黒い森、そう呼ばれる大森林や山々、川の源流に囲まれたこの地は太い霊脈もあってか神秘が色濃く残っており、魔術師の塒として最上級の地点であった。
そう、こここそがアインツベルンの本拠地である。自動的に稼働する幾重の結界によって余人は辿り着くことすら敵わない自然の底にこそ、彼らは探究の拠点を置いたのである。
「よし、車両で行くのはここまでにしよう。早苗、歩きながら土地を掌握しておいてほしい。」
「はい!任せてください、紫音さんの前に敵が来ない様に、しっかりと土地を掴んで見せます!」
実の所、紫音達はアインツベルンの城のありかを細かくは知らない。手掛かりは、事前に依頼主であるイリヤ嬢から聞いていた大まかな位置と魔術の気配。その為、地母神の相を持ち、土地を掌握することが出来る早苗の存在が、位置の特定には不可欠なのである。
今更いう事ではないかもしれないが、早苗の血筋の源は地母神であった諏訪子様に由来する。そして、先祖がえりを起こした早苗の持つ神性も又、地母神の側面を持つものであり、その性質上、土地を支配する事に長けている。その為、霊脈を掌握してしまえばすぐに魔術師の拠点のありかを見つけることが出来るし、土地を目にすることで敵を見つけることも出来るし、意図的に霊脈を操作して敵の工房を機能不全に陥らせることも出来るのだ。つまり、拠点を構える死徒や魔術師に対して絶対的な優位性を誇るのが私のカワイイ早苗という事だ。
そんなカワイイ早苗と一緒に山林の中を進んでいると、不意に早苗が足を止めた。
「どうした、早苗。何か掴んだか...?」
「はい。取り敢えず、拠点っぽい所は見つけられたのですけど...」
早苗の顔が不思議なものを見ている様に思える。
「アインツベルンの人達、多分全員が教会で活動を停止しています。」
「急ごう」
そこから先は早かった。早苗が結界の掌握をしてくれたお陰で速やかに向かうことが出来たが、アインツベルンは既に【終了】していた。アインツベルンの拠点に居たホムンクルスは全員、教会に集まって祈りを捧げる姿勢で動きを止めていた。
「そうか、それがあなたたちの決断であるのなら私は何も言うまい。だが、申し訳ないが未来の為に資料の一切、機材の一切はこちらで頂いて行く。」
眼前のゴーレム、ユーブスタクハイト・フォン・アインツベルンに詫びる様に呟いて、彼は境界を後にした。
その後は、2人で手分けして城内を探索した。城を破壊するにしても、神秘の隠匿に繋がるものは可能な限り回収しておく必要があるし、アインツベルンのホムンクルス鋳造技術を使えば四肢を失った代行者や退魔組織の実動員に生の四肢を接いであげる事が可能になるだろう。
そして、大聖杯の浄化にも彼らの知識は必要だ。大聖杯の基幹システムはユスティーツァ・リズライヒ・フォン・アインツベルンである以上、周辺システムについてもアインツベルン製である可能性が高く、何かしらの情報がある可能性が高い。
というわけで、アインツベルンの資料や設備に関してはその一切を頂き、そして城塞に関してはいい具合に破壊しておいた。ただ一つ、例外がある。
「すまないね、早苗。頼む。」
「大丈夫ですよ、紫音さん。私も同じ意見ですから」
早苗の手によって教会が地に沈んでいく。アインツベルンのホムンクルスたちの亡骸を載せて。
研究を効率よく進めるのであれば、サンプルを確保するのが最善であるかも知れない。しかし、そこまでする気にもなれなかったのが私達の結論だ。ホムンクルスであるから、ゴーレムであるからと言い訳をして腑分けの材料にしてしまえば、私はきっと戻れなくなってしまう。
遠坂嬢ならば心の贅肉と言うかもしれないが、これで良いだろう。
墓標は地の底へと沈み、そこに辿り着くことのできる人は誰もいない。そこに墓標がある事を知る者は2人だけ。
紫音は全世界の退魔組織に伝手を持っており、上手い具合に橋渡しをしてノウハウの共有を行わせ、死徒だったり幻想種対策を効率化させる方向の努力を行っています。
ジェスター、どうしたい?
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即落ち
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逃走成功!