「魔術回路、全力稼働」
ここに来るまで1割ほどしか起動していなかった魔術回路、その全てを起動する。その圧倒的な魔術回路が生成する魔力はその余波のみで大地を震わせるほどの生成量である。その全てを、生存に使う。
(例え狂い黒に染まったとしても、敵たるヘラクレスは紛れもない大英雄。出し惜しみは出来ない!)
鍵に魔力を通し取り出すは片手剣。彼の膂力では狂戦士の剛力を受け止めることは難しく、又大祓詞を用いるとしてもその隙が存在しない以上、例えランサーと共に戦うとしても不可能に近い。
「おらよ!」
ランサーの一撃が狂戦士の肌を裂く。しかし、致命傷には至らない。
「ランサー!宝具は使えますか?」
ランサーの宝具、ゲイ・ボルグの不死殺しを用いて相手の命のストックを一気に削ろうと考える紫音。だが、その目論見は打ち砕かれる。
「だめだ!宝具使ったら魔力の消費量でバレちまう!坊主、お前の方で何かないのか!」
「ありますけど...」
「ならそいつを使え!時間ぐらいは稼いでやる!」
ランサーに切り札を切るように急かされる紫音。実の所ヘラクレスに通じる手札が存在しないわけではない。だが、破壊力が過剰なほど大きいことに加えて後遺症が遺る。だが、開帳しないわけには行かない。
「ハアッッ!」
狂戦士の攻撃対象を絞らせず、決して受け止めようとはせず、いなし、躱す。やっとの思いで心臓に剣を突き刺し、ストックを一つ削る紫音とランサー。しかし剣を抜こうとしても抜けない。故にそれを放棄し新たな手段を取り出す。
「ランサー、少し時間を稼いで下さい!」
「任せろ!!」
蔵から霊薬を取り出し一息に飲み干す。これから行う事による副作用を軽減するために。飲み干した瓶を地面に捨て、祭具を取り出し術を始める。
「告げる。我が命運は汝の手に、汝の命運は我が手に!」
私の持ちうるなかでの最終手段。それは、英霊召喚。本来、英霊を呼び出すには聖杯等の補助がなければ呼び出す事も、仮に呼び出しても維持することが困難である。
故に、己が身の内に降ろす。法術における神降ろしの儀式を流用する事で英霊を神として見立て、神性を帯びたこの私を器とする。己の肉体、その内側は1つの小世界であり抑止力の影響も低い為世界からの修正力が働きにくい。よってこの擬似的なデミサーヴァント化は成り立つ。
但し、デメリットが少なからずある。いくら神の血を拝領したこの肉体であっても高位の存在を降ろす以上摩擦が発生する。呼び出された存在が己の肉体を不可逆的に変化させることも有り得るだろう。
だが、それはここで全てを投げ出し諦める理由になるのか?断じて否!ここで私があの狂戦士と槍兵を倒せば彼に1度分の余裕が生まれる。もしかすればそれ以上に!あの兄妹が幸せに生きる道を得られる可能性があるのならば、原作にはなかったハッピーエンドを手にする事が出来るのなら、ここで全てを賭けるには十分だ!
儀式を妨害しようと狂戦士は紫音に襲い掛かる。しかしそれはランサーの決死の一撃によって阻まれる。
「星の寄る辺に従い、この意、この理に従うのなら応えよ!誓いを此処に。我は星に碑文を遺すもの、我は人の物語を後に謡う者。汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ───!」
ランサーの決死の一撃によって儀式は完了し、英霊は正しく降ろされた。ルーラー・蒼崎紫音。それが彼に宿った力。彼が遥かな未来、可能性の先に英霊となったその力を先取り。天地の境界に立ち、聖典を手にするその姿こそ彼の”いつか来る”未来の姿。記憶と力がインストールされた彼は狂戦士に向かい立つ。
「原理血戒25番起動。罪頸を断て、カルヴァリア・ガルガリン!」
可能性の先にあった未来において彼が手にした原理血戒の1つを用いた宝具。それは遥かな天蓋より遅滞なく降り注ぎ狂戦士の持つ命を8つ消し飛ばす。
すぐさま再生を始める狂戦士だが今の紫音はそれを見逃さない。取り出したるは第七聖典、その武装の一つ、巨大な馬上槍。後にシエルによってパイルバンカーへと改造されるそれを手に、紫音は狂戦士へと突進する。それを見逃す狂戦士ではない。再生しながらも巨大なその武器を手に迎撃しようとする。
だが、一手遅かった。紫音の持つ馬上槍は狂戦士の心臓を確かに穿った。彼が消滅するまでの須臾の間、彼を苛んでいた狂気が払われる。彼は最後、無言で消え果てた。今際の際に彼が思ったことは何であるか。己を打倒した戦士への賛辞か、己の主への願いか。
「終わったようだな坊主。」
振り返るとそこにはランサー。彼も紫音もどちらもボロボロ。ランサーは魔力消費量を抑えた結果、激しい傷が見て取れる。対する紫音も肉体は英霊化によって肉体が上書きされたおかげで無傷なものの魔力は宝具の開帳によってガス欠状態でどちらも満身創痍。だがそれは2人の戦士には何の障害にもならない。
2人は手に武器を持って打ち合う。紫音が取り出したは巨大な両手剣、
だが今の彼は嬉々として打ち合っている。それは彼が身に降ろした未来の自分が彼に莫大な戦闘経験、武具、魔術をもたらしたからだ。今の彼はルーラー・蒼崎紫音でも戦士蒼崎紫音でもない。二人は完全に融合し、溶け合っている。故に戦いを成立することが出来ている!
それが彼にとってたまらない喜び。きっと今の紫音の顔を彼を良く知るものが見ればその喜ぶ顔に困惑を覚えるだろう。それほどの楽しさを彼は感じている。ランサーもそれは同じ、彼も又戦士として己と対等に戦える存在に喜びをいだいている。この時代に、英霊となって弱体化したこの身であっても対等に競い合う事の出来る相手がいることに。
今の彼等は全力を出して戦っている。試練になる、壁になると言っていた槍兵の姿はどこにもいない。手加減など相手に対して失礼に当たる。闘争から逃避することも又同じく。しかし紫音は戦いながらも己の演算能力を活かして必死に一つの魔術式を組み替えていた。
英雄王の蔵から武装を引き出す。片手剣、双剣、槍、戦斧。彼の手から聖典の武装が弾かれるたびその都度新たな武装を引き出すことで彼は戦い続けていた。その間、相手は武器を一度も取り落とさなかった。そこだけが、彼らの間の性能差。多種多様な武具が手から弾かれていく。しかし、彼はついに魔術式の変換を成し遂げた!
本来の彼なら、このような事は成し得なかっただろう。彼の演算能力では性能が足りない。戦闘中に組み替えることなどは出来ない。しかし、彼は今英霊となった己と融合したことでその演算能力は数倍以上に膨れ上がっている。
「原理血戒25番、改変起動。星剣、抜刀!全てを断ち切れ!カルヴァリア・ガルガリン!」
距離をとった紫音から放たれるその一刀は星の剣。聖なる剣ではなくても星の力を宿した光の刃。それを手にした紫音に対して彼も又、宝具を使わざるを得ない。
「行くぞ!この一撃、越えて見せろ――!
跳躍したランサーより投擲される朱の槍、それを迎撃する紫音の星剣。その槍は紫音の星剣に飲み込まれ、ランサー諸共蒸発した。
ランサーをその宝具諸共蒸発させる程の大火力を放った紫音。戦闘中に魔力が回復していたとしても、仮に抑止力の後押しがあったとしてもこのような大火力を振るうことが出来るのだろうか?
答えは否。彼は全ての魔力、気力、生命力をつぎ込んでこの一撃を成立させたのだ。
星の剣を放った後、彼は地面に倒れ伏す。無理矢理にでも動こうとするも身体が動かない。やがて彼の意識は薄れていく。最後に彼の視界に映ったものはかの神父であった。
彼が降ろしたものは彼の未来、本編以降で到達するいつかの姿です。何故そのようなものが降りてきたのかは又別の機会に。
この後、言峰は紫音を全速力で駆け付けたエルメロイ教室組に引き渡し、宣戦布告して帰っています。
次回「起きたら大体終わっていた」
ジェスター、どうしたい?
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即落ち
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逃走成功!