第十一話【作戦準備】
第十一話【作戦準備】
『ラヴド』という組織はどういうものなのか。
反エデン組織として産声を上げたラヴドは、未だ組織としての完成には程遠い。
その構造は、かつての支配者、人類の組織していた軍隊のような洗練されたものではない。
戦時下で肥大化したレジスタンスの側面が強い。
そもそもの発端が「人類を滅ぼした憎きエデンを打ち倒す」という目的で集められた組織であり、その構成メンバーは感情的で血の気の多い者が大半だ。
先の戦争での勝利後も、目的であったエデン打倒を達成してしまった故に、より一層統率が取れなくなり、実のところ崩壊寸前だったと言っていい。
エデンの復活により、再び共通の目的を得たラヴドの結束は高まったが、やはり、組織構造は不完全であるという現状は変わらない。
ラヴドの階級は、個体の演算能力と戦闘力に基づく「一級」から「四級」のたった四段階のみで構成される。
しかし、急激な勢力拡大に伴い、最高位である「一級兵士」たちが、軍の各部門を兼任することで辛うじて組織を回しているのが現状である。
* 一級兵士(最精鋭・兼任指揮官):
一騎当千の実力を持ち、一個小隊を率いる実戦班長から、戦略、物資、情報といった部門の長までを兼ねる組織の要。
クロのような現場指揮官も、重火力兵団長や突撃兵団長といった『戦略級指揮官』も、等しくこの位階に属し、
組織を支えている。
* 二級兵士(実戦主力):
現場の主力。複雑な戦況判断を自律して行える熟練機。
* 三級・四級(新人・後方支援):
機体整備や情報管理などの雑務から、人格形成途上の新兵まで。
この歪な組織ラヴドは、今、建軍以来の乾坤一擲の攻勢に出ようとしていた。
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――――ラヴド本部・第一作戦会議室。
室内の空気は、かつてないほどの緊張感に支配されていた。
ホログラムテーブルに浮かび上がるのは、エデン軍の心臓部――要塞『ビッグブロック』。
堅牢な物理装甲、不凍液で満たされた広大な堀、そして空を埋め尽くす電子防衛網。
かつての人類が築いたどの城塞よりも難攻不落と言われるその地に、ラヴドは全戦力の八割を投入する。
クロ: 「今回の作戦に動員されるのは、各部門から選抜された三十万体のメダロットです」
クロの放った「三十万」という数字に、室内が一瞬静まり返る。
一級兵士であればメダロット一体でも、かつての戦車一個小隊に匹敵する火力を持ち、かつ100%の稼働率で動く鋼鉄の軍勢。
その三十万が行軍する様は、衛星軌道上からでも確認できるほどの巨大な「鉄の潮流」となり、大地を文字通り踏み砕いて進むことになる。
クロ: 「資料の持ち出しは禁止です。この計画の漏洩は、三十万の仲間の『死』を意味する。……忘れないでください」
配られた端末には、精密な作戦工程が記されていた。
【ビッグブロック制圧作戦(一部抜粋):布陣】
* **潜水部隊(七万五千)**: 水路からの潜入。内側からのゲート開放。
* **飛行部隊(七万五千)**: 高高度からの降下奇襲。対空火網の破壊。
* **白兵部隊(十二万)**: 主力。突破口からの突入。
* **重火力支援部隊(二万五千)**: 城壁の物理破壊。
* **電子/混乱専門部隊(約五千)**: 敵防衛網の攪乱。
* **特殊選抜部隊(六)**: 敵司令部の無力化。
特殊選抜部隊とは、敵司令部の無力化を至上命題とする少数精鋭を指すが、
驚くべきことにその一員として、ワンダ、ディスト、ローラ、そしてクロが名を連ねていた。
ディスト: 「僕たちが特殊選抜部隊……たった六機の中に選ばれたんだ……」
ワンダ: 「総勢三十万……。想像もつかない数だけど、私たちの肩にはそれだけの命が乗ってるんだね」
ローラ: 「……妾達がいかに早く司令部を鎮圧できるかが、勝敗を決める、か。そして妾達と共に特殊選抜部隊に選ばれたのは――――」
ローラが資料に目を落とす。
その視線を向けた先には、軍の双璧――一級兵士の中でも別格の地位にある『戦略級指揮官』たちの名が記載されていた。
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――――同時刻。本部・最深部へと続く大回廊。
一歩ごとに大気を震わせる重厚な足音が、二つの異なる旋律を奏でていた。
ブラックメイル: 「……来たぁ~…かッ。待たせやがって、ビーストマスター」
暗がりに佇んでいたのは、ラヴド『突撃兵団長』ブラックメイル。
ラヴド最凶の格闘機と評される彼は、有能な一級兵士であると同時に、一つの兵団の長をも兼任している。
ブラックメイルが顔をあげた先には、ラヴド『重火力兵団長』兼『司令部参謀』、ビーストマスターの姿があった。
ビーストマスター: 「弾薬の補充と砲身の冷却、それに兵站部門の最終チェックをしていましてね」
彼はブラックメイルと対を成すラヴド最強の射撃機。
その暴力的な戦闘力だけでなく、一兵団の長、そして組織全体の指揮、作戦立案参謀として、ラヴドの「頭脳担当」としての実務をも一手に引き受ける。
激務の日々を送っているはずだが、その様子を一切感じさせない、上品な立ち振る舞いでブラックメイルの隣に立つ。
ブラックメイル: 「いよいよだぁ~…なッ。……武者震いが止まらねぇ~…ぞッ」
ビーストマスター: 「ええ。我々に最重要任務を託された。この期待に背くわけにはいかない。……ブラックメイルさん、貴方の『突破力』を信じていますよ」
ブラックメイル: 「ハッ、お前にそこまで言われちまうとは、なんだか気持ち悪りぃ~…ぞッ!」
ビーストマスター: 「L班の若者たちも同行します。……頼みますから、醜態だけは晒さぬように」
二機は顔を上げることなく、互いの肩を軽く叩くようにして前を見据えた。
かつての人間に愛され、そして奪われた者たち。彼らが求めているのは単なる勝利ではない。奪われた絆の証明であった。
数日後。
この戦争始まって以来、最大の激突となる『ビッグブロック制圧作戦』の火蓋が、ついに切られる。
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[今回新しく登場したメダロット]
【ブラックメイル】
ラヴド一級兵士。突撃兵団長兼任。
【ビーストマスター】
ラヴド一級兵士。重火力兵団長兼任。司令部参謀兼任。
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第十一話【作戦準備】終わり