【完結】DISAPPEARANCE   作:土地_0000

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第十二話【ビッグブロックの死闘】

第十二話【ビッグブロックの死闘】

 

 ――――F年F月5日。午前1時30分。

 

 砂漠の夜は、昼間の熱気が嘘のように冷え込んでいた。

 満天の星の下、三十万機に及ぶラヴドの大軍が、ビッグブロックを幾重にも包囲している。

 潜水部隊は水路の周辺に展開し、飛行部隊は上空で待機していた。白兵部隊、重火力部隊、電子・混乱専門部隊も、それぞれの配置についている。

 

 だが、声を発する者はいない。

 敵の城からも、こちらの軍勢からも、物音ひとつ聞こえてこなかった。

 嵐の直前にも似た静寂の中、各部隊から届く通信だけが、作戦の開始が迫っていることを告げていた。

 

 六機の特殊選抜部隊もまた、ビッグブロックの正門から離れた砂丘の陰で待機していた。

 

クロ:「各部隊、作戦時刻の同期完了まであと九百秒。それまでは現状を維持してください」

 

ディストスター:「……本当に、成功するのでしょうか」

 

ブラックメイル:「どうしたの、ディストスター。今さら怖くなっちゃった…のッ?」

 

ディストスター:「そういうわけでは……」

 

ビーストマスター:「敵の反応は?」

 

クロ:「監視部隊からの報告では、今のところ動きはありません。だが、油断はできません。こちらの動きを把握したうえで、待ち構えている可能性もあります」

 

 ラヴド屈指の実力者と、将来を期待される若手から選ばれた六機。

 その任務は、城内へ突入し、敵の中枢を直接叩くことだった。

 彼らが静かに作戦開始を待っていると、砂丘の向こうから小さな影が駆けてきた。

 

ベビー:「ま、待ってくだちゃ~い!」

 

 息を切らしながら現れたのは、ローラが引き取った幼いメダロット、プリミティベビーだった。

 

ローラ:「ベビー!? なぜここにいる! ここは子供が来る場所ではないと言ったはずだ!」

 

ベビー:「もう子供じゃないでちゅ! 僕は四級兵士なんでちゅよ!」

 

ローラ:「四級であろうと、危険なことに変わりはなかろう!」

 

ベビー:「でも、司令部の人にスカウトされたんでちゅ! 僕の泣き声が、戦いの役に立つって!」

 

ローラ:「泣き声が……?」

 

ベビー:「はいでちゅ! 敵を混乱させて、みんなが進みやすくなるようにするんでちゅ!」

 

 ベビーの泣き声には、周囲の機体へ広範囲の混乱症状を引き起こす力がある。

 本来ならば、敵味方を区別せず影響を及ぼす危険な行動だった。しかし、今回の作戦では、その性質を利用して敵の防衛陣を崩す役目を任されていた。

 

ベビー:「ベビーも、みんなの役に立ちたいんでちゅ!」

 

 ローラはしばらく言葉を失い、ベビーの顔を見つめていた。

 やがて膝をつき、その小さな肩へ両手を置く。

 

ローラ:「……分かった。お前もラヴドの兵士だ。わらわが止めるべきではないのかもしれぬ」

 

ベビー:「ローラしゃま……!」

 

ローラ:「じゃが、決して無茶はするでないぞ。危険だと思ったら、すぐに退くのじゃ」

 

ベビー:「はいでちゅ! 頑張りまちゅ!」

 

 ベビーは嬉しそうに敬礼すると、自らの所属する電子・混乱専門部隊のもとへ駆けていった。

 

 その小さな背中を、ローラは心配そうに見送る。

 

ローラ:「ベビーまで、戦場に立つことになるとは……」

 

クロ:「もう、誰かに守られているだけの子供ではありません。彼も自分で選んだんです」

 

ローラ:「……そうですね」

 

 ローラは静かに立ち上がると、再びビッグブロックへ視線を向けた。

 

 作戦開始の時刻は、刻一刻と迫っていた。

 

 

 ―

 

 

 ――――午前1時50分。

 

クロ:「最終情報を更新します。敵司令部を守る戦力の中に、『十二使徒』六機を確認しました」

 

 クロが提示した情報に、六機の間で緊張が走った。

 エデン軍リーダー直下戦闘特化集団――通称『十二使徒』。

 

 戦闘能力に特化した十二機の精鋭であり、諜報活動を担う『トゥルース』とは対極に位置する存在だった。

 現在、その半数にあたる六機が、ビッグブロックに駐留している。

 

ディストスター:「六機も……」

 

ブラックメイル:「……ハッ、上等だぁ~…なッ。名のある獲物がいなけりゃ、暴れる甲斐がねぇ~…ぞッ!」

 

ビーストマスター:「相手が何機であろうと、我々の目的は変わりません。敵司令部へ到達し、指揮系統を破壊する。それだけです」

 

クロ:「そのとおり。十二使徒との交戦が避けられない場合は、各自の判断で対処しましょう。ただし、深追いは禁物です」

 

 六機は無言で頷き、改めてビッグブロックへ向き直った。

 

 ―

 

 ――――午前1時59分。

 

 静寂は、限界まで張り詰めていた。

 全部隊はすでに戦闘態勢へ移行し、突撃命令が下される瞬間を待っている。

 やがて、全軍の通信回線へ司令部からの声が響いた。

 

『全軍、攻撃準備。カウントダウン、最終段階』

 

 各機が武器を構え、正面のビッグブロックを見据える。

 

 ――残り5秒。

 

 ――残り4秒。

 

 ――残り3秒。

 

 ――残り2秒。

 

 ――残り1秒。

 

『総員、突撃!!』

 

 

 ―

 

 

 開戦と同時に、夜の静寂は轟音によって打ち砕かれた。

 

 最初に攻撃を開始したのは、後方に展開する二万五千機の重火力部隊だった。

 無数のミサイルとレーザーが光の軌跡を描きながら夜空を埋め尽くし、ビッグブロックの外壁と城門へ集中する。

 爆発が連続し、巨大な城塞全体が激しく揺れた。

 

 同時に、七万五千機の飛行部隊が城塞上空へ殺到する。迎撃のために起動した対空兵器へ一斉攻撃を浴びせ、次々と沈黙させていった。

 一方、潜水部隊は地下水路や城塞へ通じる水路から侵入し、内部の防衛設備を破壊していく。

 各方面からの攻撃によって生じた突破口へ、十二万機の白兵部隊のうち、第一陣となる四万機が押し寄せた。

 

「迎撃しろ! 一機たりとも通すな!」

 

 城内からもエデンの防衛部隊が殺到し、侵入したラヴド軍と正面から激突する。

 斬撃と銃撃が飛び交い、狭い通路を無数の火花が照らした。

 両軍が入り乱れた、そのとき――。

 

ベビー:「オオォォォォオンギャァァァァァ――――ッ!!」

 

 戦場全体を震わせるほどの泣き声が、ビッグブロックへ押し寄せた。

 広範囲へ混乱症状を引き起こす、プリミティベビーの混乱行動。

 その影響に敵味方の区別はない。

 

 泣き声を受けたエデン兵たちは、照準や敵味方の認識を次々と狂わせていった。隊列は乱れ、連携していた迎撃部隊が互いの進路を妨げ始める。

 ラヴドの白兵部隊も同じ影響を受けたが、後方に控えていた支援部隊が、すぐさま対応した。

 

「『ぼうがいクリア』、一斉発動!」

 

 白兵部隊を包み込むように光が広がり、発生していた混乱症状が解除される。

 さらに、ぼうがいクリアによってマイナス症状への耐性を得た第一陣は、その後も響き続ける泣き声の影響を受けることなく、混乱したエデン兵へ襲いかかった。

 

ビーストマスター:「今です! 敵が態勢を立て直す前に、司令部まで一気に突き抜けますよ!」

 

 六機の特殊選抜部隊も、白兵部隊によって開かれた突破口から城内へ突入した。

 その後方では、ローラの右腕から分離した『ダブレスト』のコアが、四角い障壁を展開しながら追従している。

 障壁はベビーと六機の間に展開され、その背後を進む六機を守っていた。後方から押し寄せる泣き声を遮断し、混乱症状の発生を防いでいるのだ。

 

ローラ:「障壁から離れすぎるでないぞ! わらわたちまで泣き声に巻き込まれる!」

 

クロ:「全員、ローラさんとの距離を維持! このまま司令部を目指します!」

 

 六機は互いの位置を確認しながら、迷路のように入り組んだ城内を駆け抜けていった。

 

 

 ―

 

 

 城の奥深くまで進んだ頃には、後方から響いていたベビーの泣き声も、ほとんど聞こえなくなっていた。

 役目を終えた『ダブレスト』の障壁が消え、分離していたコアがローラの右腕へ戻る。

 やがて六機は、最上階へと続く巨大な螺旋階段へ辿り着いた。

 しかし、その入り口には、これまで戦ってきた一般兵とは明らかに異なる気配が待ち構えていた。

 

 ――ドォォォォォンッ!!

 

 階段の踊り場から強烈な衝撃波が放たれ、六機の前進を阻んだ。

 クロたちが踏みとどまり、衝撃波の発生源を見上げる。

 そこには、背中に昆虫の翅を思わせる白銀のウイングを広げた、黒と白のメダロットが立っていた。

 

ベルゼルガ:「フン……。我が名はベルゼルガ。ここまで辿り着いた強者たちよ。本当の戦いを始めようではないか」

 

ブラックメイル:「来たぁ~…かッ。十二使徒!」

 

 ベルゼルガが一歩踏み出す。

 それだけで、周囲の空気が震えた。

 

ブラックメイル:「……おい、お前ら。ここは俺が引き受けるぅ~…ぞッ。先に行け!」

 

クロ:「ブラックメイルさん、一機で戦うつもりですか?」

 

ブラックメイル:「こいつをスクラップにしたら、すぐに追いついてやるからぁ~…よッ!」

 

 ブラックメイルは凶悪な笑みを浮かべると、床を蹴ってベルゼルガへ飛びかかった。

 振り下ろされた拳とベルゼルガの腕が激突し、轟音とともに衝撃波が広がる。

 

クロ:「……任せました! 先へ進みましょう!」

 

 残された五機は、背後で始まった悪魔同士の激突を感じながら、螺旋階段を駆け上がっていった。

 

 ―

 

 五機が中層階の踊り場へ到達した、その瞬間――正面から一発のミサイルが飛来した。

 

ビーストマスター:「おっと、危ないですね」

 

 ビーストマスターが即座に照準を合わせ、ナパームを発射する。

 ミサイルは五機へ到達する前に撃ち落とされ、空中で激しく爆発した。

 炎と煙の向こうから、不気味な笑い声が響く。

 

ゴッドエンペラー:「キッシャッシャー! 俺のミサイルを撃ち落とすとはな。面白ぇ!なかなかの精度じゃねぇか!」

 

 姿を現したのは、全身にミサイルポッドとレーザー砲を備えた兵器型メダロット――ゴッドエンペラーだった。

 多脚戦車を思わせる禍々しい下半身と、圧倒的な火力を誇る重武装。

 かつてテンリョウ・イッキと死闘を繰り広げた機体と同型だが、目の前にいるのは、そのときの個体とは異なる別機である。

 頭部のバイザーに灯る赤い光が、五機を順番に捉えていった。

 

ゴッドエンペラー:「キッシャッシャー! もう百ぱーつ!!」

 

 全身の砲門が一斉に開き、膨大な熱量が集まり始める。

 

ビーストマスター:「……皆さん、ここは私がお相手します」

 

ディストスター:「でも、一機では……!」

 

ビーストマスター:「ご心配なく。華麗なる勝利を収めた後、すぐに合流します。皆さんは先へ進んでください!」

 

 ビーストマスターもまた、全身の砲門を開放する。

 互いの重火器が照準を合わせ、踊り場の空気が震え始めた。

 

クロ:「……分かりました。ここは任せます!」

 

ビーストマスター:「ええ。どうか、ご武運を」

 

 残された四機――クロ、ワンダ、ディストスター、ローラは、ビーストマスターに背中を預け、最上階へ続く階段を駆け上がっていった。

 

 ―

 

 ――――同時刻。ビッグブロックを望む丘の上。

 

 炎上する城塞を見下ろしながら、一機の白いメダロットが狂おしげに身を震わせていた。

 

シロ:「アヒャヒャヒャ……。呼んでる。呼んでるぜぇ、クロぉ……」

 

 城塞から響く爆発音と銃声を聞きながら、シロは歓喜に満ちた笑みを浮かべる。

 

シロ:「最高のパーティーが始まったんだなぁ? 俺も混ぜろよ。死ぬまで踊らせてやるからよぉ!!」

 

 白い狂気――シロは、地獄と化したビッグブロックへ向かって走り出した。

 

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[今回登場したメダロット]

 

【ベルゼルガ】

 エデン軍リーダー直下戦闘特化集団『十二使徒』の一機。

 

【ゴッドエンペラー】

 エデン軍リーダー直下戦闘特化集団『十二使徒』の一機。

 かつてテンリョウ・イッキと戦った機体と同型だが、別の個体である。

 

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第十二話【ビッグブロックの死闘】終わり

 

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