第十二話【ビッグブロックの死闘】
――F年F月5日。午前1時30分。
世界は、凍りついたような静寂の中にあった。
要塞『ビッグブロック』を遠巻きに包囲する、ラヴド軍総勢三十万。これほどの大軍勢がひしめき合っているにもかかわらず、聞こえてくるのは各機の冷却ファンが立てる微かな唸りと、砂漠の夜風が装甲を撫でる乾いた音だけだった。
「各部隊、……同期完了まで、あと九百秒」
通信機から漏れるノイズ混じりの報告が、開戦前の緊張をより鋭く研ぎ澄ませていく。
ディスト: 「……いよいよだね。な、なんか緊張してきたよ」
ディストが指先を震わせながら、自身の狙撃用センサーの焦点を微調整する。
ブラックメイル: 「おいおい、ガタガタ震えてんじゃねぇ~…よッ。これは肝試しじゃねぇ、エデンの首を獲りに行く『戦争』なんだぁ~…ぞッ」
ビーストマスター: 「落ち着きなさい、ブラックメイルさん。彼にはこの程度の緊張が必要です。……クロさん、各兵団の最終状況は?」
クロ: 「……問題ありません。あとは、号令を待つのみです」
特殊選抜部隊――ラヴドの頂点と期待の新鋭が集った六機が、堅牢な城壁を睨みつける。
その時、静寂を破って小さな影がこちらへ駆けてきた。
ベビー: 「ローーーーーーラーーーーー♪♪♪」
ローラ: 「ぬぉっ……!? ベビーか、驚かせるな」
正面から無邪気に飛びついてきたプリミティベビーを、ローラがその剛腕でしっかりと受け止めた。
ローラ: 「四級兵士のお前が、なぜこんな最前線にいる。ここは子供が来る場所ではないと言ったはずだ」
ベビー: 「へへへ。僕ね、戦術本部の偉い人にスカウトされたんでちゅ! 僕の『泣き声』が、この作戦にはどうしても必要だって!」
ラヴド軍が今回、三十万という未曾有の大軍を投入してなお、「最短時間での陥落」という電撃戦を選択できた理由。
その核心は、この幼きメダロットの特異能力にあった。
彼の発する広範囲・高出力の特殊音波――それは敵の防衛演算を物理的に焼き切る、
非人道的なまでの「広域攪乱兵器」として作戦の要に据えられていたのである。
ローラ: 「……そうか。お前も、一人の兵士として選ばれたのだな。……いいだろう。活躍を期待しているぞ、ベビー」
ベビー: 「うん♪ ローラに褒めてもらえるように頑張るね! じゃあ、また後で!」
去りゆく小さな背中を見送り、ローラは静かに瞳を閉じた。
心配でないといえば嘘になる。
だが、この作戦における彼の重要性を理解したローラは止めるのではなく、鼓舞することに決めた。
―
――午前1時50分。
クロ: 「最終情報を更新。……司令部を守護するのは、……『十二使徒』です」
クロが提示したデータに、一同の間に戦慄が走る。
「エデン軍リーダー直下戦闘特化集団」通称『十二使徒』――それは、戦闘能力のみに特化した十二機の怪物たち。
諜報を主とする「トゥルース」とは対極を成す、エデンの「最強の矛」である。
現在、そのうちの六機がこのビッグブロックに駐留していた。
ブラックメイル: 「……ハッ、上等だぁ~…なッ。名のある獲物がいなけりゃ、暴れる甲斐がねぇ~…ぞッ!」
―
――午前1時59分。
静寂が、臨界点に達した。
「全軍、リミッター強制解除。カウントダウン、
5……
4……
3……
2……
1……
「「 総 員 、 突 撃 ! ! 」」
―
開戦と同時に、夜の静寂は粉々に打ち砕かれた。
まず動いたのは、後方に控える五千機の遠距離射撃部隊だった。
数千のミサイルとレーザーが夜空を曳光弾の網で埋め尽くし、ビッグブロックの物理装甲を巨大な槌のように叩き割る。
続いて、潜水部隊と飛行部隊が文字通り「鉄の橋」となって堀を埋め尽くした。
自身の機体を足場にして後続を渡らせるという、数に任せた冷徹なまでの物量作戦。
その「橋」の上を、四万の白兵部隊が津波となって城内へと雪崩れ込んでいく。
「迎撃しろ! 一機たりとも通すな!」
城内からもエデンの防衛隊が殺到し、前線は瞬く間にオイルと火花が舞い散る地獄と化した。
だが、その混沌を一瞬で静寂に変えたのは、戦場の中心に配置されたプリミティベビーの絶叫だった。
ベビー: 「オ オ ォ ォ ォ ォ オ ン ギ ャ ャ ャ ャ ャ ー ー ー ー ー ー ! ! 」
それは広範囲を焼き切るデジタル・ノイズの奔流。
規律正しく迎撃を行っていたエデン兵たちのセンサーが、同時にノイズで埋め尽くされる。
演算エラーが連鎖し、敵機たちは次々と自身の機体制御を失った。
ビーストマスター: 「今です! 混乱が回復する前に、司令部へ一気に突き抜けますよ!」
ベビーの広範囲混乱行動は敵味方無差別に影響及ぼしてしまうはずだが、
症状解除装備を纏い、混乱を無効化した白兵部隊達が次々と敵に襲い掛かる。
特殊選抜部隊の六機は症状無効化効果をもつローラの『ダブレスト』に守られながら、
城内の迷路を猛スピードで駆け抜ける。
―
やがて彼らは、最上階へと続く巨大な螺旋階段の入り口へと辿り着いた。
だが、そこには「雑魚」とは明らかに次元の異なる殺気が待ち構えていた。
――ドォォォォォンッ!!
踊り場から放たれた強烈な衝撃波が、前進していた一行を押し戻す。
ベルゼルガ:「フン……。我が名はベルゼルガ。ここまでたどり着いた強者達よ、本当の戦いを始めようではないか」
ブラックメイル:「来たぁ~…かッ。十二使徒!」
衝撃波の発生源を見ると、一体のメダロットの姿があった。
背中には虫の羽のような白銀のウィングが広がり、黒と白のモノトーンの装甲。
ブラックメイル: 「……おいお前ら、ここは俺が引き受けるぅ~…ぞッ。先に行けッ! こいつをスクラップにした後、すぐに追いついてやるからぁ~…よッ!」
ブラックメイルが凶悪な笑みを浮かべ、ベルゼルガへと跳躍する。
残された五機は、背後で始まった「悪魔」同士の激突を感じながら、さらに階段を駆け上がった。
―
だが、中層階の踊り場で、新たなる脅威が現れる。
真っすぐに飛んでくる誘導飛翔体。
ビーストマスターが迷いなく、ナパームで撃ち落とすと、その場の空気が熱を帯びて爆ぜた。
ゴッドエンペラー: 「キッシャッシャー!俺のミサイルを打ち落とせるとはな。面白ぇ、なかなかの精度じゃねぇか」
かつてテンリョウ・イッキと死闘を演じた伝説の兵器型メダロットと同型。
多脚の戦車のような禍々しい下半身に、全身から突き出したミサイルポッドとレーザー砲門。
頭部にあるバイザーの赤い光が、冷徹に一行をロックオンしていた。
ビーストマスター: 「……皆さん、ここは私がお相手します。華麗なる勝利の後に、すぐ合流しましょう。……行って下さい!」
ビーストマスターが、自らの全砲門を解放しながら叫ぶ。
残る四機――ワンダ、ディスト、ローラ、クロは、二人の「最凶」と「最強」に背中を預け、最上階へと続く最後の階段を駆け上がった。
―
――――同時刻、ビッグブロックを望む丘の上。
炎上する要塞を見下ろしながら、一機の白いメダロットが狂おしげに身悶えていた。
シロ: 「アヒャヒャヒャ……。呼んでる、呼んでるぜぇクロぉ……。 最高のパーティーが始まったんだな? 俺も混ぜろよ、死ぬまで踊らせてやるからよぉ!!」
白い狂気――シロが、地獄と化したビッグブロックへと静かに滑り出した。
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今回新しく登場したメダロット
【べルゼルガ】
エデン軍。十二使徒の一員
【ゴッドエンペラー】
エデン軍。十二使徒の一員
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第十二話【ビッグブロックの死闘】終わり