第十六話【?】
ワンダ:「ヴァレン……本当に、ヴァレンなのね?」
ワンダの声は震えていた。九年間、片時も忘れることなく探し続けた背中が、今、目の前にある。
再会の喜びを爆発させようとしたワンダだったが、現れた「英雄」の第一声は、彼女の感動を木っ端微塵にするものだった。
ヴァレン:「………私はLです。」
ワンダ:「嘘つけぇぇ!」
間髪入れず、ワンダの鋭いツッコミが炸裂する。
再会の抱擁よりも先に、反射的な怒声が響いた。
ヴァレン:「僕は初号機パイロット、碇シンジです!!!!」
ワンダ:「それも嘘ぉぉぉ!」
ヴァレン:「俺はボボボーボ・ボーボボなのか!?」
ワンダ:「聞くなやぁぁぁ!」
ヴァレン:「俺は海賊王になる男だぁーーー!!」
ワンダ:「それ他人の夢ッッッッ!!」
ヴァレン:「俺はこの物語の主人公さ。」
ワンダ:「 バ ル フ レ ア ァ ァ ァ ァ ァ ァ ァ ァ ! ! ! ! ! 」
渾身のツッコミ五連戦を終え、ワンダが肩で息をする中、ヴァレンは「ケラケラ」と、子供のような無邪気さで笑い出した。
ヴァレン:「ハッハッハッ! 何気に相変わらずだな、ワンダ。そのキレ、懐かしいぜ」
ワンダ:「……あんたこそ、相変わらず過ぎて寒気がするわ(しかも古ーーーッいネタばっかり……)」
英雄ジョーカード。九年前に神を屠った男は、その伝説に相応しくないほどひょうきんで、そして底の知れない男だった。
ディスト:「あの……あなたが、本当に、あの伝説のジョーカードなの?」
呆気に取られていたディストが、恐る恐る尋ねる。
ヴァレン:「あん? 何気に俺、伝説になってんの? まぁ、N・G・ライトを倒したってのは何気にマジだがね」
ヴァレンが得意げに胸を張った、その時だった。
メッシュ:「貴様らぁぁ……いい加減に俺を無視するんじゃねぇぇっ!!」
放置され続けたメッシュの怒りが爆発した。
合体形態の巨大な質量を乗せ、右腕の大剣カリパーを振りかざしてヴァレンへ斬りかかる。だが、ヴァレンは笑みを崩さない。
最小限の挙動でそれを回避すると、軽くステップを踏んで距離を取った。
ヴァレン:「おうおう、何気に元気だなぁ。ちょうどいい、九年ぶりの復活で体がなまってるんだ。 何気に付き合えや……そこの『強そうなの』」
メッシュ:「望むところだッ! 伝説ッ!!」
―
激突。
メッシュの猛攻が再開される。カリパーから放たれる幾千の光線が広間を焼き尽くす。
ヴァレンはそれを紙一重でかわし、反撃に転じた。
ヴァレン:「サクリファイス――!!」
自らの腕を犠牲にする自滅的な爆発。
メッシュはゲンジの盾で防いだが、ヴァレンは続けざまに、防御の薄い左方へもう一方のサクリファイスを叩き込んだ。
カリパーで迎撃され直撃こそ免れたものの、広間に凄まじい衝撃が走る。
ジョーカードの機体構成は異質だった。
両腕に強力な自壊攻撃『サクリファイス』を装備しながら、頭部パーツは復活行動(リペア)ではなく、
充填に特化した高性能な装備系パーツなのだ。
つまり、両腕を使い切った今の彼には、攻撃手段が残されていない。
勝利を確信し、メッシュがカリパーを振り上げる。
だが、ヴァレンの瞳は笑っていた。
彼は軽やかな身のこなしで後方へ跳ぶと、先ほどまで「クロ」と「シロ」だった、機能停止した抜け殻の元へと着地した。
ヴァレン:「悪いな。まだまだ闘いは何気に終わらないぜ」
ガシュンッ!! という重厚な機械音。
ヴァレンは一瞬の動作で、クロが持っていた『マーブラー』とシロの『スバル』を自らのティンペットへと強引に接続した。
漆黒の右腕、マーブラー。
純白の左腕、スバル。
かつての理性が、かつての本能が、九年の時を経て「英雄」の手によって再び一つへと統合される。
ヴァレン:「行くぜ……。何気にな」
ヴァレンが爆ぜるような速度で踏み込んだ。
右腕のマーブラーが火を噴く。至近距離からのガトリング。
しかし、メッシュの左腕に固定された『大盾ゲンジ』がそれを嘲笑うように弾き返した。
メッシュ:「ファッファッファ! 無駄よ無駄! 我が親友のゲンジを貫けるものなどなしッ!」
即座にメッシュがカウンターの横薙ぎを放つ。
カリパーの刃がヴァレンを襲うが、ヴァレンは左腕のスバルを「置く」ようにしてその衝撃を受け流した。
ヴァレン:(何気に硬ぇなあの盾……。なら、何気にこうするか)
ヴァレンが超低空に潜り込む。メッシュはゲンジの盾で守りながら上段からカリパーを叩きつけようとする。
その瞬間、ヴァレンが跳ねた。
マーブラーを盾の表面で一斉射。跳弾の衝撃でわずかに盾が浮いたコンマ数秒の隙――。
ヴァレン:「そこだ!」
極限の精密突撃。
純白の刃が、盾とメッシュの左腕を繋ぐ「接合部」のベアリング一点に集中した。
ガギィィィィィィン!! という不快な金属音が響き、ゲンジの強固なガードが物理的な破壊ではなく、
構造上の破綻によって弾け飛んだ。
はじけ飛んだゲンジは壁にめり込み、身動きが取れなくなる。
慌てて、メダチェンジを解除し、壁から脱出しようとするが……。
メッシュ:「待てゲンジ、これは罠だッ!」
トランプ「キング」型メダロット、ガンキングの異常なまでの装甲には1つの弱点があった。
それは非メダチェンジ状態において、頭パーツの装甲のみが極めて脆い事である。
ヴァレン:「まずは一枚(ダイヤ)……何気に頂きだ」
メダチェンジを解除したゲンジの頭を、ヴァレンはマーブラーによる射撃で的確に打ち抜き、ゲンジを機能停止させる。
驚愕するメッシュ。しかし彼は止まらない。
ヴァレンの態勢が完全にゲンジを向いている隙に、右腕のカリパーを一気に振り下ろした。
メッシュ:「ならばこれならどうだ! 伝説を真っ二つにしてやるぜッ!!」
大地を砕くような縦一閃。
ヴァレンはスバルで受け止めたが、体勢が崩れておりメッシュに押されてしまう。
メッシュの大剣カリパーがスバルを押し切り、ヴァレンの左腕を綺麗に切断する。
しかし、ヴァレンは怯まずにメッシュの右腕にマーブラーを押し当てた。
銃口から放たれるのは、単なる弾丸ではない。
連射によって発生する「熱」と「振動」をカリパーのグリップ部分に直接叩き込んだのだ。
ヴァレン:「刃物はな……何気に握りが命なんだよ」
ヴァレンのマーブラーが砲身を焼くほどの至近連射。
耐えきれなくなったジャッカルの剣身――カリパーが、メッシュの手から震えを伴って弾き出された。
空中でくるくると回り、地面に深く突き刺さる。
ヴァレンはマーブラーの放熱を待たずして、切断されたスバルの刃の断片を掴むと
まっすぐに地面に突き刺さり、身動きの取れないカリパーへと放り投げる。
スバルの刃がカリパーを貫き、機能停止した。
メッシュ:「な、カリパーッ!」
盾を奪われ、剣を失った。しかし、メッシュはまだ折れていなかった。
剥き出しの星型の瞳が、怒りと愉悦に歪んだ。
メッシュ:「ファッファッファ……!! 流石だ! 流石は伝説の英雄!!」
メッシュは自らのビット装甲を集束させ、素手による強引な近接戦闘へと移行した。
ヴァレンの機体も無傷ではない。
メッシュがパージしたビットの波状攻撃により、全身から火花が上がり、右腕のマーブラーは一部がひしゃげている。
―
――――そのころ、激闘を見守るワンダたち。
ローラ:「ワンダ……彼と、ジョーカードと知り合いなのか?」
ローラの問いに、ワンダは複雑な想いを滲ませて頷いた。
ワンダ:「ヴァレンとはね……昔、同じマスターのところにいたの。あいつは元々野良メダロットで、拾われてから、マスターがエデンに殺されるまでの一年間だけだったけど……」
ローラ:「……辛いことを思い出させてしまったな」
ワンダ:「ううん、いいの。……あの日、マスターを救えなかったことで、ヴァレンは姿を消したわ。N・G・ライトを倒したって噂を聞いた後も、すぐに表舞台から消えた……」
戦場の中央で、死神のように舞うジョーカードを見つめ、ワンダはポツリと零した。
ワンダ:「ヴァレンは、明るく振る舞ってるけど……本当はすごく根暗なの。マスターが死んだのは自分の責任だって、そう言っていた……」
ローラ:「……妾にも、彼の気持ちは分かる気がするな」
ローラは、かつて自分の判断で命を散らした親友の影を重ねていた。
―
ヴァレン:「ハァ……ハァ……。強えぇな、お前。何気に正直、想定外だぜ」
メッシュ:「諦めるか、ジョーカード!」
ヴァレン:「……諦める? あぁ、そうだな。何気に『普通に戦う』のは諦めたよ」
ヴァレンはひしゃげた自身の両腕に力を込めた。
彼の周りを、これまでの十二使徒たちが放っていた殺気とは別質の、
絶対的な「理」を書き換えるような青白いオーラが包み込む。
メッシュ:「メダフォースか……しかし、なんだ……このプレッシャーは……!?」
ヴァレン:「これから俺が、何気に好きなことをするんだ。……そう、『ギャンブル』をな!」
ヴァレンが、青白い焔の中で不敵に微笑む。
ヴァレン:「メダフォース発動――『 ク エ ス チ ョ ン 』!!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
[機体解説]
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
=======================================================
【キャラクター名】
ヴァレン
【機体名】
ジョーカード
【公式/オリメダ区分】
オリメダ
【モチーフ(型式)】
トランプ「ジョーカー」型メダロット(TJO)
【パーツ】
[頭部]
ワイルドカード/常時充填(とくしゅ)
[右腕]
ヌキバーバー/サクリファイス(うつ)
[左腕]
ヌキジージー/サクリファイス(なぐる)
[脚部]
リフルシャッフル/二脚
【備考】
本作オリジナルメダロット。純正パーツ。
詳細は不明だが、100年以上前の天才一族の科学者がデザインしたとされている。
何かの事情があり製品化に至らず、プロトタイプとして作られた1体のみが現存している。
=======================================================
【キャラクター名】
ヴァレン
【機体名】
ジョーカード(両腕換装)
【公式/オリメダ区分】
オリメダ
【モチーフ(型式)】
トランプ「ジョーカー」型メダロット(TJO)
【パーツ】
[頭部]
ワイルドカード/常時充填(とくしゅ)
[右腕]
マーブラー/パワーライフル(うつ)
[左腕]
スバル/レンジソード(なぐる)
[脚部]
リフルシャッフル/二脚
【備考】
本作オリジナルメダロット。
両腕をスバル、マーブラーに換装したヴァレン
=======================================================
第十六話【?】終わり