第十八話【急げ! もっと急げ!】
勝利の歓喜は、一瞬にして凍りついた。
ビッグブロック制圧の報を喜ぶ間もなく、ワンダたちは損傷した機体を引きずり、輸送ジェット機へと飛び込んだ。
ワンダ: 「お願い、間に合って……! もっと速度を上げて!!」
焦燥が、エンジン音を追い越していく。
この『ビッグブロック制圧作戦』には、立案当初から致命的な「穴」が存在していた。
三十万という未曾有の戦力を一地点に集中させた結果、ラヴド本部の守備力は、史上最低の薄さとなっていたのだ。
「攻め落とされるはずがない」という傲慢、あるいは「刺し違えてでも城を落とす」という覚悟。
その隙間を、エデンの刃が正確に突こうとしていた。
―
――――同時刻、ラヴド本部。
静寂が支配する回廊を、二つの影が滑るように進んでいた。
セルヴォ: 「さて……、セット完了だ。これでこの城も、歴史の塵に還るぜ」
セルヴォが、起爆装置のタイマーを静かに起動させる。
隣に立つビートは、一切の油断なく周囲の熱源センサーを監視していた。
ビート: 「……ああ。撤収しよう、相棒」
彼らがこなしているのは、誇りも名声もない「汚れ仕事」だ。しかし、その手際は冷徹なまでに完璧だった。
ふと、セルヴォがビートの肩に手を置く。
セルヴォ: 「さて……もし俺がここでしくじったら、お前だけでも逃げろよ」
ビート: 「……馬鹿を言うな。予定通り二人で帰るぞ。それが『トゥルース』の仕事だ」
短く交わされた言葉の中に、何年もの死線を共にしてきた二機にしか分からない、鉄よりも固い絆があった。
―
しかし、脱出路である屋上への扉を開けた瞬間、そこには「絶望」が立ちはだかっていた。
ティレルビートル: 「……鼠が入り込んだと思えば、トゥルースの二人組か。……ご苦労だったな」
ラヴドリーダー、ティレルビートル。
コバルトブルーの装甲が月光を撥ね、背負った巨大な顎――『スクワイア』が威圧的に蠢く。
彼がそこに立っているだけで、屋上の大気が物理的な重圧を伴って軋んだ。
セルヴォ: 「さて……こりゃあ、最高にツイてねぇな。ラスボスのご光臨だぜ」
ビート: 「……やるしかない。セルヴォ、散開しろ!」
ビートが叫ぶと同時に、二機が左右に飛び出した。
ビートが距離を取りながらライフルの精密射撃を放ち、セルヴォがその隙を突いて超高速の抜刀攻撃を仕掛ける。
トゥルースが誇る完璧な
だが、ティレルビートルは微動だにしなかった。
ティレルビートル: 「……遅い」
爆ぜるような駆動音。
ティレルビートルが最小限の動きでライフルの弾道を逸らし、
肉薄したセルヴォの剣を、あろうことか左手の一撃で叩き伏せた。
セルヴォ: 「なっ……!? ガハッ!!」
身体を打ち据えられ、セルヴォが床を転がる。
間髪入れず、ビートが援護のミサイルを放つが、ティレルビートルは右腕の『リッパー』を猛烈な速度で駆動させ、
空中で全ての弾頭を切り裂いてみせた。
ビート: 「……化け物か……ッ!」
ティレルビートル: 「貴様らの仕掛けた爆弾は、既に感知している。 ……ここで落とし、解除コードを吐かせてもらうぞ。……ラヴドの誇りにかけてな」
ティレルビートルが地を蹴った。
一瞬でビートの懐へ入り込み、その巨躯からは想像もつかない鋭い掌打を叩き込む。
装甲が悲鳴を上げ、ビートが膝を突いた。
セルヴォ: 「さて……死ぬにゃあ、まだ早すぎるんだよ……っ!」
セルヴォが死に物狂いで組み付くが、ティレルビートルはそれを冷徹な一蹴で撥ね退ける。
圧倒的。個の戦闘能力において、この総帥は既にメダロットという枠組みを超越していた。
ティレルビートルが左腕の『ハンガー』を構え、二機を纏めて粉砕せんとした、その時だった。
「ど、どいてくださあああああいいいッッ!!!」
夜空から、絶叫と共に巨大な火の玉が降ってきた。
エデン運搬課のロケットランチである。
元々、彼の任務はトゥルースの二機を目的地付近まで送り届けることだった。
本来であれば、本部爆破完了後に二人を回収して脱出する手はずだったのだが、待機中にラヴド軍と鉢合わせになり逃亡を余儀なくされたのだ。
彼は追撃のラヴド飛行部隊から逃げ惑ううちに完全にパニックに陥り、
文字通り「墜落」に近い速度で屋上へ突っ込んできたのだ。
ティレルビートル: 「不確定要素か……!」
流石のティレルビートルも、この予測不能の質量衝突を避けるために一歩、後退を余儀なくされた。
セルヴォ: 「さて、地獄に仏とはこの事だ! 行くぜ、ビート!!」
セルヴォは呻くビートの腕を掴むと、激突の衝撃で跳ね上がったロケットランチの脚部に無理やりしがみついた。
ロケットランチ: 「ひ、ひいいいっ! 何か重い、重いですぅぅぅ!! 助けてぇぇっ!!」
パニックのまま再加速するロケットランチ。
ティレルビートルが態勢を立て直して手を伸ばすが、三機の影は既に夜の帳へと消えていた。
―
一人残されたティレルビートルは、深追いしなかった。
彼には、命を懸けて果たさなければならない最後の責務があったからだ。
―
「「全員退避。全員退避。まもなくこの本部は爆破する。全員退避。全員退避―――」」
本部中に鳴り響く警報を無視して、彼は司令室へと戻り、震える指先でメインコンピュータにアクセスした。
ティレルビートル: 「……間に合え。このデータだけは、
ラヴドが長年蓄積してきた全てのデータ、それが消えれば、ラヴドの今後の戦いに多大な影響を及ぼす。
爆破を食い止めることが出来ないとなれば、せめてこのデータだけでも残さねばならない。
アラートが鳴り響く。爆破まで、あと三百秒。
――ガガッ……。
ビーストマスター: 『……リーダー、繋がりました。……状況は?』
ビーストマスターの声が届く。
ビッグブロックに残ったビーストマスターとブラックメイルは、技術班の支援を得ながら
直ちにビッグブロックのセキュリティ設定をラヴド用に設定し直しエデンとのネットワークを完全に遮断。
安全な秘匿通信を確保した上で、ラヴド本部に通信をつなげた。
ティレルビートル: 「ビーストマスター、ブラックメイル。……よく聞け。 今から本部の全データを送信する。……ビッグブロックの基盤を利用して、すべてを刻め」
ブラックメイル: 『待ぁ~…てッ! 何を言ってやがる、早くそこから逃げろぉッ!!』
ティレルビートル: 「……フッ。この大容量だ、送信中はここを離れられん。 いいか、これからはお前たちがラヴドを背負うんだ。……若者たちを、頼んだぞ」
爆破まで、六十秒。
データの転送バーが、ゆっくりと、けれど着実に進んでいく。
ティレルビートルは、静かにモニターを見つめていた。
その脳裏に浮かぶのは、かつて共にこの組織を創り上げた、親友の背中。
ティレルビートル: 「……アークビートルD。……遅くなったな。今から俺も、そっちに逝くよ」
モニターの向こう側で、ブラックメイルとビーストマスターが、言葉にならない絶叫を上げている。
ティレルビートル: 「……なんだ君達、意外と動揺する事もあるんだな。……最後に知れて良かったぞ。……ありがとう、友よ」
残り、五秒。
データの送信が完了し、画面に『SUCCESS』の文字が躍った。
ティレルビートルは満足げに微笑み、静かに目を閉じた。
ドォォォォォォォォォォォォォォンッッ!!!!!!
夜の地平線を、巨大な光の柱が突き抜けた。
―
数キロ先。
全速力で駆け抜けていたワンダたちのジェット機から、その光景が見えた。
ディスト: 「……嘘、だろ……」
ワンダ: 「そ、そんな……」
夜の帳を焼き、すべてを飲み込む橙色の火球。
かつて自分たちを慈しみ、導いてくれた「家」が。
誇り高き総帥の命と共に、音もなく夜の闇へと溶けて消えた。
ワンダたちは、ただ遠ざかる炎を見つめることしかできなかった。
間に合わなかった。その絶望が、彼女たちの心を冷たく塗り潰していった。
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[機体解説]
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【キャラクター名】
ティレルビートル
【機体名】
ティレルビートル
【公式/オリメダ区分】
公式(メダロット4など)
【モチーフ(型式)】
オオクワガタ型メダロット(KWG)
【パーツ】
[頭部]
スクワイア/敵影感知(とくしゅ)
[右腕]
リッパー/ソード(なぐる)
[左腕]
ハンガー/ソード(がむしゃら)
[脚部]
デパーチャー/二脚
【変形後】
[変形後ドライブA]
レーザー(うつ)
[変形後ドライブB]
ブレイク(うつ)
[変形後ドライブC]
ナパーム(ねらいうち)
[変形後脚部タイプ]
飛行
【備考】
公式(メダロット4)情報を参照
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第十八話【急げ! もっと急げ!】終わり