【完結】DISAPPEARANCE   作:土地_0000

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第二十話【黒い理性、白い本能】

第二十話【黒い理性、白い本能】

 

――――「エデン」本部・科学部。

 

 要塞『ビッグブロック』を奪われてなお、リーダーであるカヲスの足取りは乱れていなかった。

 彼は奪取された二つの遺産――『スバル』と『マーブラー』、

 そしてラヴド軍の手に渡った『フォー・パーツ』の戦闘データを前に、深い沈思に耽っていた。

 

 カヲスは、歴史の断片を繋ぎ合わせ、一つの仮説に辿り着く。

 

 始まりは約百年前。伝説のメダロッター、テンリョウ・イッキが宇宙へと旅立った時代だ。

 世間では彼が宇宙人と接触したという噂が絶えなかった。

 そして、『マーブラー』と共に遺されていたあのメッセージ。

 

 このパーツは私からの贈り物だ。

 お前なら装備できるだろう。

 いつか私の星に招待してやってもいいぞ。

 …………ありがとう。

              By マーブラー

 

 ここで語られる「お前」とは、イッキの相棒を指すのではないか。

 そして、それらの機体に共通していたのは、極めて希少な意志を持つ核――**『 レ ア メ ダ ル 』**。

 

 カヲスはモニターに映る波形を見つめ、確信を得る。あの白と黒のパーツは、通常の機体では演算負荷に耐えきれず暴走する。

 意志の力でパーツをねじ伏せ、同調できる『レアメダル』の所有者にのみ許された特権なのだ。

 

カヲス: 「……なるほどな。クロとシロ……あの二機がこれらを装備できたのは、必然というわけか」

 

 そこへ、側近のハードネステンが音もなく入室した。

 

ハードネステン: 「カヲス様。……戦況報告です」

 

 ビッグブロックの完全陥落、総帥ティレルビートルの戦死。

 そして、逃走した兵たちの証言により、ある「名」がもたらされる。

 

ハードネステン: 「……あの『 ジョーカード 』が、ラヴドへ戻ったとのことです」

 

 その瞬間、カヲスの冷徹な瞳が、初めて激しい憎悪に歪んだ。

 

カヲス: 「…………ジョーカード。私の……唯一の親友を殺した男」

 

 親友、N・G・ライトを屠った英雄の再来。

 それはカヲスにとって、戦争の勝敗以上に許し難い『不条理』であった。

 

 

――――新ラヴド本部・『ビッグブロック』。

 

 占領された要塞は、今やラヴドの新たな心臓部として鼓動を始めていた。

 

プリミティベビー: 「ローーーーーーラーーーー♪」

ローラ: 「ぐはぁっ……!?」

 

 ベビーの渾身の体当たりを受け、ローラが膝を突く。

 それはじゃれているにしてはあまりに重く、けれど今のローラにとっては愛おしい衝撃だった。

 

ローラ: 「……どうした、ベビー。そんなに騒いで」

プリミティベビー: 「へへへ。ローラ、これ見て! 『昇格』だって!」

 

 ベビーが誇らしげに掲げたのは、人事部門からの通知だった。

 四級から二級への、異例の二階級特進。それは先の大戦における彼の『混乱行動』が、勝利の決定打となった証でもあった。

 

 さらに、ベビーはもう数枚の書類を差し出した。

 ワンダ、ディスト、ローラの三名もまた、今回の武勲により『一級兵士』――

 すなわち、戦略的判断を任される現場指揮官へと昇格したのだ。

 

ディスト: 「やったぁぁぁ!! 一級だ、一級兵士だよワンダ!!」

 

 ディストが無邪気に跳ね回る。しかし、それに応じるワンダの顔は、死人のように蒼白だった。

 彼女の手には、ヴァレンから託された一ケースのトランプが握られていた。

 

ワンダ: 「……ヴァレンが……逃げた。……また、いなくなった。

     ……逃げちゃダメだ……逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ…………」

 

 そのうつろな瞳。ワンダは壊れた蓄音機のように、古いアニメのフレーズを繰り返し、現実を拒絶していた。

 

ディスト: 「わ、ワンダ……? 大丈夫だよ、きっとまた会えるって。……ね、読もうよ。彼が遺した『答え』を」

 

 ディストの優しい言葉に、ワンダは止まった時間を動かすように、ゆっくりとケースを開いた。

 五十四枚のカード。その裏側に、伝説の英雄の「失踪の真実」が綴られていた。

 

 

**~ Dear ワンダ ~**

 

 これを読んでいるということは、俺はもうお前の前から消えているだろう。

 九年前。N・G・ライトを倒した後、俺の心は空虚そのものだった。

 復讐を遂げたところで、失われたものが戻るわけじゃない。

 虚無感に耐えきれず、俺はラヴドを捨て、世界を彷徨った。そしてある日、奴に出会ってしまった。……カヲスだ。

 

 エデン復活を企てていた奴の不意打ちを受け、俺のメダルは真っ二つに破壊された。

 だが、死ぬはずだった俺は、奇跡か呪いか……二つの人格へと分かたれたんだ。

 

 一方は、俺の持つ『 理 性 』の塊――それがクロ。

 もう一方は、俺の持つ『 本 能 』の塊――それがシロ。

 

 シロが破壊と殺戮に狂ったのは、制御を失った剥き出しの本能だったからだ。

 そしてクロは、それを理性で食い止めようとし、無意識に互いを求め合っていた。

 メッシュの攻撃で再び一つに戻れたのは、皮肉な幸運というやつだろう。

 

 最後にお前に言っておく。俺との共闘は望むな。

 関わる者すべてを死へと導く……俺は、誰とも関わってはいけない『 不 幸 の メ ダ ロ ッ ト 』なのだから。

 

                                **~ By ヴァレン ~**

 

 

ワンダ: 「……ヴァレン……」

 

 手紙を読み終えたワンダの頬を、一筋のオイルが伝う。

 

ローラ: 「ワンダ、不幸のメダロットとはどういう意味だ?」

ワンダ:「それは……ヴァレンがまだ"ルクちゃん"の事を気にしてるのよ……」

 

 ローラの問いに、ワンダは震える声で頷いた。

 

 

ローラ:「……その、差し支えなければだが、……聞かせてくれないか」

 

 ローラはワンダとヴァレンの抱える過去を知るべきだと思った。

 ラヴドの一級兵士として、そしてワンダと共に戦う仲間として。

 

 ワンダはしばらく虚空を見つめていたが、ローラの目を真っすぐに見る。

 その眼差しが真剣であることを確認し、静かに口を開いた。

 

ワンダ:「ヴァレンと私のかつてのマスター『宝条ルク』……あの子の死が、今も尚ヴァレンを縛り付けているんだと思う――」

 

 かつてのワンダのマスター、『宝条ルク』。

 彼女とヴァレンが歩んだ、あまりに残酷で、けれど確かに幸せだった日々の記憶が、今、語られようとしていた。

 

 

 

 

第二十話【黒い理性、白い本能】終わり

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