第二十四話【不幸のメダロット~THE DECISIVE BATTLE~】
三人の連携と、レアパーツに魂を売ったシュラの猛攻により、
ルクたちは並み居る強豪をなぎ倒して決勝の舞台へと上り詰めた。
狂乱の熱気の中、四人はホテルのレストランで決戦前の晩餐を囲んでいた。
バイキングをいいことに信じられない量を平らげたルクを、
ヴァレンとワンダが引きずるようにして部屋へ連れ帰り、その後はトランプに興じた。
ババ抜き、七並べ、大貧民――すべての勝負において、トランプ型メダロットであるヴァレンが圧倒的な勝利を収め、
悔しがったシュラがふて寝したところで、その夜は更けていった。
深夜三時。ヴァレンはふと、静寂の中で意識を覚醒させた。
ベッドを見ると、そこにいつも自分を押し潰していたはずの「重み」がない。ルクがいなかった。
ヴァレンは無言で部屋を出た。五月の夜風は、昼間の熱気をほどよく冷まし、新緑の匂いを運んできている。
街灯の届かない公園のベンチに、彼女は座っていた。
ヴァレン:「よっ。何気に眠れないのか?」
背後から声をかけた瞬間、ルクの右拳が風を切って飛んできた。
反射的にかわすが、拳はヴァレンのすぐ横の木を「メキッ」と鳴らすほどに重い。
ルク:「……あ、ごめん。ヴァレンだったんだ。昼間、変な男にしつこくされたから、つい」
ヴァレン:「……下手なメダロットより何気に強烈な一撃だぞ」
ヴァレンが隣に腰掛けても、ルクは膝を抱えたまま動かなかった。
ヴァレン:「……あんたでも、緊張するのか?」
いつもなら「世界一のメダロッターはこのあたしよ!」と豪語しそうな彼女が、
今はただ、黙って遠くの街明かりを凝視している。
長い沈黙が流れた。
遠くで救急車のサイレンが微かに響き、風が木の葉を揺らす音だけが二人の間を通り抜けていく。
やがて、ルクが祈るように組んだ指先に、ぎゅっと力を込めた。
ルク:「あたしもね……死のうと思ったことがあるんだ」
心臓を冷たい指でなぞられたような衝撃が、ヴァレンの基盤を走った。
ルク:「両親が死んだって連絡があったときね、あたしは家出中だった。意地を張って連絡先も変えちゃってたから、お葬式も全部終わった後にそれを知ったの」
ルクは、自嘲気味に微笑んだ。
ルク:「もうこの世のどこにも、あたしを叱ってくれる人も、帰る場所もない。……でもね、その時ワンダがいた。ワンダが泣きながらあたしの手を引いて、無理やり生きろって怒ってくれたの。……あたし、ずっとあの子に甘えてきた。だから、今回の大会はどうしても勝ちたいんだ」
ルクはヴァレンの方を向き、その瞳を真っ直ぐに射抜いた。
そこには「生活費」という執着を超えた、もっと切実で、重い覚悟が宿っていた。
ルク:「賞金を稼いで、ワンダを安心させてあげたい。あの子への恩返しがしたいの」
ルクは再び視線をヴァレンから反らし、遠くを見つめる。
ルク:「……それとさ、初めて山でヴァレンを見た時、自分を見てるみたいで放っておけなかったんだよね。自殺を考えていたあんたを『幸せ』にすれば、あたしも救われる気がしてさ。あんたを不幸のメダロットから、最高のパートナーに変えること……それが、あたしのちょっとした『わがまま』なんだよね」
ヴァレン:「…………。」
ルク:「ハイ! 宝条ルクちゃんの、ちょっとシリアスなお話でした♪ さ、戻るよ。……明日は絶対に勝つからね」
ルクは照れ隠しのように、いつもの不敵な笑みを作ってみせたが、その肩は微かに震えていた。
ヴァレンは確信した。不幸の泥濘から自分を強引に引き上げたこの少女を、何があっても幸福にすると。
自分は「不幸のメダロット」かもしれない。しかし、宝条ルクにとってだけは「幸福のメダロット」でありたいと思った。
―
――決戦当日、スタジアム。
司会:『ついにこの時が来たぜ! 最強のメダロッター決定戦、ロボトルゥゥ・ファイトッ!!』
試合開始の合図と共に、シュラとヴァレンが飛び出した。
シュラは六本の腕を風車のように回転させ、風を切り裂く轟音を立てて敵陣へと肉薄する。
同時にヴァレンは両腕のサクリファイスを惜しみなく使い、敵機1体の脚部を破壊する。
シュラ:「ヒャホォォォーーーゥ!! 俺ッ様の『武』、その身に刻みな!!」
シュラは至近距離で構えをとった。
六つの拳が複雑な軌道を描き、敵の先陣を担う重装甲機を逃げ場のない連撃で包囲する。
シュラ:「阿修羅六式道技――『 炎 柱 』!!!」
シュラの中心から、紅蓮の劫火が噴き上がった。
その炎は一瞬にしてスタジアムの天蓋へと届く巨大な火柱と化し、逃げ遅れた敵機一体を飲み込んだ。
装甲が赤熱し、内部フレームが溶解する。断末魔を上げる暇もなく、敵機の一体は、炭化したスクラップへと変わった。
会場が熱狂の渦に包まれる。しかし、残った敵も精鋭だった。
彼らはシュラの火力に怯むことなく、回復役のワンダを最大の脅威と見なした。
「ヒーラーを落とせっ!!」
三機がかりの精密射撃がワンダを捉える。回避も間に合わず、ワンダは激しい爆火の中に沈み、機能停止へと追い込まれた。
さらに、ヴァレンは先制攻撃の勢いに乗せて両腕のサクリファイスを使い切っている。
ワンダの修復がない今、ヴァレンは攻撃手段を喪失した。
実質的に二対一の数的不利に立たされていた。
ヴァレン:「ルク!この勝負、何気にどうしても勝ちたいか!!?」
ルク:「何気にっていうか、絶対にどうしても勝ちたいわよ!!」
ルクのその声を聞くなりすぐにヴァレンはメダフォースを溜め始めた。
しかし、決勝まで勝ち上がった猛者がそれを見過ごす筈もなく、今度はヴァレンに攻撃が集中する。
ルク:「ッ!?マズイわ!シュラ!守って!!」
シュラ:「分かってるっつーの!!!」
シュラがギリギリのところで攻撃を拳で落とす。
ヴァレン:「何気にスマン…!まだ時間がかかる。」
シュラ:「俺ッ様にまかせな!!このまま負けたらかっこ悪いまま歴史に名が残っちまうからな!!」
シュラは六本の腕を巧みに使いそれを防ぐ。
しかし、敵の攻撃は止まらない。ミサイル、レーザー、プレス等様々な攻撃が飛んでくる。
さしものシュラも、敵の波状攻撃を六本の腕で捌ききれず、徐々に防戦一方へと追い詰められていく。
シュラ:「クッ……、これ以上の猛攻は……俺ッ様でも持たねぇぞっ!!」
ヴァレン:「何気にもう少し溜めたかったが……仕方ねぇ」
ヴァレンの全身から、不吉な青白い重圧が漏れ出した。
ヴァレン:「……メダフォース発動!! 『 ノ ン ス ク リ ー ン 』!!!」
スタジアムを、物理的な「冷気」が支配した。
それと同時に、天井から染み出した不気味な影が形を成し、巨大な死神が姿を現す。
ヴァレン:「ルールは簡単だ。ここに裏返した四枚のカードが――」
ヴァレンがギャンブルのルールを説明するよりも早く、
天空より降り立つ巨大な鎌を手にした「死神」の姿に、観客たちは悲鳴を上げ、
敵のマスターたちは恐怖のあまり腰を抜かした。
パニックに陥った彼らは、自身のメダロットを強引に回収すると、スタジアムの外へと逃走してしまった。
司会:『……あ、しょ、勝者!! 宝条ルク・チーム……!!』
―
表彰式という名のパニックが一段落し、四人はようやく選手控室へと戻ってきた。
ヴァレン:「……悪かったな。俺のメダフォースのせいで、大会が何気にメチャクチャになっちまった」
申し訳なさそうに肩をすくめるヴァレンに、ルクは真っ先に駆け寄り、その背中をバシバシと叩いた。
ルク:「何言ってんのよ! あんなの初めて見たわ、最高にカッコよかったじゃない!
あんたが切り札だって、世界中に見せつけてやったんだから! ナイスヴァレン!」
シュラ:「ヒャホォォォーーーゥ!! 全くだぜ相棒!
あの死神のプレッシャー、俺ッ様まで機能停止しそうだったが、最高にシビれたぜ!!」
シュラは六本の腕をそれぞれ別の方向に突き出し、豪快に笑った。
その装甲には激戦の証である焦げ跡がいくつも刻まれているが、その瞳は満足感に満ちていた。
シュラ:「……まぁ、俺ッ様の『炎柱』があったからこその勝利だがな! な、ねぇちゃん!!」
ルク:「あはは、分かってるって。……シュラ、アンタがいなきゃここまで来れなかった。感謝してるわ」
ルクはいつになく真剣な表情で、金色の輝きを放つパーツケースをシュラに差し出した。
ルク:「約束の品よ。……『リボルバー』。アンタの『武』に相応しい報酬だわ」
シュラ:「おおおっ……! これだ、この輝きだ!!」
シュラはケースを受け取ると、中身を確認し、愛おしそうに頬(?)を寄せた。
そして、六本の腕のうちの三本を広げ、改めてルクたちに向き直る。
シュラ:「宝条ルク、そして相棒の二人! 短い間だったが、アンタらとのロボトル、俺ッ様は一生忘れねえぜ!
またどこかの戦場で、伝説のパーツを奪い合おうじゃねえか!!」
ヴァレン:「……あぁ。次に会う時は敵同士かもしれないが……何気に、アンタの六本腕は厄介そうだ」
シュラ:「ハハハ! その時は死神ごと叩き斬ってやるよ! あばよ、相棒ども!! ヒャホォォォーーーゥ!!」
シュラは嵐のような叫び声を残し、疾風のごとく控室を去っていった。
ワンダ:「……なんか、嵐みたいな人だったけど。悪い人じゃなかったね」
ヴァレン:「あぁ。あんな直球な奴、何気に久しぶりに見たぜ。
……それにしてもルク。一千万のパーツだぞ、何気に本当によかったのか?」
扉が閉まったことを確認した瞬間、ルクの表情がスッと一変した。
口角が吊り上がり、喉の奥で「フッフッフ……」と、不気味な笑い声が漏れ出す。
ルク:「あたしが、一千万の高額パーツをタダで他人に渡すわけないでしょ。……本物はここよ!!」
ルクが懐から取り出したのは、今しがたシュラに渡したものと寸分違わぬ輝きを放つ、本物の『リボルバー』だった。
ヴァレン&ワンダ:「「な、なにぃぃぃぃ!!?」」
ルク:「アレはねぇ。宝条ルクちゃん特製のレプリカ品…リボル『パ』ーよ!!」
よく見れば、パーツケースに刻まれた刻印の『B』の部分が、超精密な加工技術で『P』に書き換えられている。
ルクは幼少期、医者にするための執念に燃えた両親から、物理的な外科手術の予行練習として、
極小の部品をミリ単位で加工するような英才教育を叩き込まれていた。
その皮肉な才能は今や、一級品の「偽造技術」として悪用されていたのだ。
ルク:「………………アレ?どうしたの?リアクション薄いよ~?」
ヴァレンとワンダは、呆れ果てて言葉を失った。
この少女、あまりにもがめつく、恐ろしいほどに逞しい。
だが、その強欲さの裏側にある「ワンダへの恩返し」や「ヴァレンへの想い」を知っている二人は、
ただ深い溜息をつくしかなかった。
ヴァレン:「(……何気に、この女と一緒にいれば、不幸なんて付け入る隙もないかもな。)」
ヴァレンは呆れ混じりの溜息をつきながら、けれど確かな充足感と共に、鼻歌交じりに賞金を数え始めたルクを見つめた。
第二十四話【不幸のメダロット~THE DECISIVE BATTLE~】終わり