第二十五話【不幸のメダロット~THE BIRTH OF "GOD" AND "LOVED"~】
メダリンピックが終わってからというもの、ルクはしばらくマスコミに追い回される日々を送っていた。あの決勝で異様なメダフォースを披露したヴァレンも「謎のトランプ型メダロット」として何度も写真を撮られ、二人がようやく落ち着きを取り戻したのは、それから半年以上経った頃だった。
騒ぎが収まれば、いつもの生活が戻ってくる。ルクの寝相の悪さにも、ヴァレンはすっかり慣れていた。
朝になれば騒ぎ、食事を囲み、くだらないことで笑う。
もう、この幸せな生活は終わらない。
誰もが、そう思っていた。
しかし幸福とは――これほどまでに脆いものだったのか。
永遠に続くと思われた穏やかな午後は、あまりにも唐突に断ち切られた。
リビングのテレビが、突然砂嵐に呑み込まれた。
ルク:「……何?」
ワンダ:「故障かな?」
耳障りなノイズが三十秒ほど続いた後、画面が切り替わる。
映し出されたのは、一機の白銀のメダロットだった。
神々しいほどに整った姿。
それでいて、画面越しに見ているだけでも本能的な嫌悪を覚えるほど禍々しい存在感。
そのメダロットは、静かに口を開いた。
ライト:『番組の途中だが、愚かな人間諸君、失礼する。私はエデンのリーダー、N・G・ライト』
感情というものを削ぎ落としたような声だった。
直後、カメラが横へ向けられる。
ルク:「…………!」
ワンダ:「……そんな……」
そこには、人間たちの死体が積み上げられていた。
まるで、ただの「物」のように。
ライト:『今映っていたのは、このTV局の人間たちだ。これで、この放送が冗談ではないことが分かっていただけたと思う』
再びカメラがN・G・ライトへ戻る。
彼は死体の山を背に、微動だにせず空中へ浮遊していた。
ライト:『我々は、愚かな人間たちに恨みを持つ者の集団――エデン。そして私がそのリーダー、N・G・ライトだ』
ブゥン――。
低い駆動音と共に、バイザーの奥の眼光が鋭く明滅する。
ライト:『我々はこれより、全人類へ総攻撃を開始する。……ただし、安心したまえ』
僅かな沈黙。
N・G・ライトは首を傾げた。
ライト:『メダロットたちの命だけは保証する。抵抗さえしなければな』
その声には、どこか慈悲深ささえ滲んでいた。
だからこそ、余計に恐ろしかった。
ライト:『神である私は、人類のいないメダロットだけの……神だけの新世界を創造しよう』
画面が大きく乱れる。
ノイズの中、N・G・ライトの顔が画面いっぱいへ映し出された。
ライト:『では、愚かな人間諸君。死のカウントダウンをするがいい……』
映像はそこで途切れた。
それが――地獄の幕開けだった。
リミッターを解除したエデン軍の侵攻は、人類の抵抗を圧倒した。
数日のうちに街は焼け、文明は瓦礫へ変わっていった。
そして。
その魔の手は、ルクたちの暮らす街へも迫っていた。
―
「神よ。まもなく、世界一のメダロッターがいるとされる区画へ到達します」
ライト:「もっともメダロットを使役する能力に長けた人間か……」
N・G・ライトが、燃え上がる街を見下ろす。
ライト:「そいつだけは、神である私自ら始末しよう……」
街はすでに火の海だった。
エデンの兵士たちは、抵抗する人間のパートナーメダロットへ襲いかかっている。
ただし、狙うのはメダルではない。
正確に頭部パーツだけを破壊し、次々と機能停止へ追い込んでいく。
N・G・ライトが命じた――『愛ある破壊』。
メダロットは殺さない。
苦痛を長引かせることなく戦闘不能にし、人間だけを滅ぼす。
それが彼の信じる、歪んだ「神の慈悲」だった。
―
ルクの家。
扉が、ゆっくりと開いた。
その向こうに白銀の姿を認めた瞬間、ヴァレンが叫ぶ。
ヴァレン:「ワンダ! ルクを連れて隠れてろ!!」
ワンダ:「ヴァレン!」
ルク:「待って、ヴァレン!」
ヴァレン:「いいから行け!!」
震えるルクをワンダへ託し、ヴァレンは一人、リビングの中央へ立った。
N・G・ライトが静かに室内へ足を踏み入れる。
ライト:「……滑稽だな」
ヴァレン:「…………」
ライト:「神が、人間を護って私を睨むか」
バイザーの奥の視線が、ヴァレンを値踏みするように細められる。
ライト:「だが、その瞳に宿る意志……嫌いではないぞ」
ヴァレン:「何気に光栄だね……!」
ヴァレンが右腕を構えた。
ヴァレン:「けどな――」
サクリファイス。
命中すれば、自分の右腕と引き換えに凄まじい威力を叩き込める。
ヴァレン:「俺は何気に、テメェが大っ嫌いだ!!」
撃つ。
そう判断した時には――。
ヴァレン:「――ッ!?」
N・G・ライトが、消えていた。
いや。
速すぎたのだ。
ヴァレンが照準を定めた次の瞬間には、N・G・ライトはすでにその懐へ潜り込んでいた。
白銀の右手が揺らぐ。
固体であったはずの掌が、液体金属のように形を崩した。
そして一瞬にして膨張。
巨大化した掌が、ヴァレンの胴体を丸ごと掴み上げる。
ヴァレン:「ぐッ……!!」
ライト:「宝条ルクはどこだ」
ヴァレン:「誰が……お前なんかに……ッ!!」
ライト:「…………」
N・G・ライトの声から温度が消えた。
ライト:「神である私は、メダロットの殺しは嫌いなのだが……仕方がない」
ヴァレンの身体が宙を舞った。
直後。
ドガァンッ!!
猛烈な勢いで壁へ叩きつけられる。
ヴァレン:「ぐあっ!!」
N・G・ライトの左手が再び形を変え、万力のようにヴァレンの肩と胴体を壁へ固定した。
逃げられない。
右腕のサクリファイスを放つことさえできない。
ライト:「さらばだ、勇気ある愚者よ」
N・G・ライトが右手を掲げた。
人差し指の形が崩れる。
白銀の金属が流動し、細く、鋭く、長く伸びていく。
やがてそれは――一本の槍と化した。
狙う先は。
ヴァレンのメダル。
ヴァレン:「…………ッ!!」
槍状へ変形した指先が放たれる。
メダルを貫けば、終わる。
その瞬間――。
「やめてえええええええええええええっ!!!」
ヴァレン:「――!?」
死角になっていたクローゼットの扉が開いた。
飛び出してきたのは――ルク。
ワンダ:「ルクちゃん!!」
ワンダの制止を振り切り、ルクは全力で走った。
そして。
N・G・ライトと、壁へ固定されたヴァレンとの僅かな隙間へ身体を滑り込ませる。
ヴァレンの胸を覆い隠すように。
その細い腕で、彼へ強く抱きついた。
ヴァレン:「ルク!?」
グシャリ――。
鈍い音がした。
ヴァレン:「…………」
ヴァレンの目が見開かれる。
N・G・ライトの指は――彼のメダルへ届いていなかった。
代わりに。
ルクの背中から入り、腹部を貫通していた。
ヴァレン:「…………ル、ク……?」
ルク:「へ……へへ……」
目の前。
ほんの数センチの距離。
ルクはヴァレンへ抱きついたまま、苦痛に顔を歪めていた。
それなのに。
どこか満足そうに、笑っていた。
ルク:「見てらんなくてさ……」
ヴァレン:「何……やって……」
N・G・ライトも、動きを止めていた。
自らの指が貫いたものがメダロットではないことを理解すると、その視線がルクへ落ちる。
そこには怒りも焦りもない。
まるで聖母が哀れな者へ向けるような、静かな慈愛さえ浮かんでいた。
N・G・ライトがゆっくりと指を引き抜く。
ルクの身体が大きく震えた。
ライト:「……己の命を投げ出して、
ルク:「…………」
ライト:「見くびっていたようだ」
N・G・ライトは、致命傷を負ったルクを静かに見下ろした。
ライト:「貴様は……『愚かな』人間ではなかったようだな」
白銀の身体が僅かに浮かび上がる。
ライト:「喜べ。神である私が、人類で唯一――貴様だけは敬意に値すると認めてやろう」
ヴァレン:「待て……!」
ライト:「……さらばだ」
ヴァレンを壁へ固定していた左手が元の形へ戻る。
支えを失った二人は、そのまま重なり合うように床へ崩れ落ちた。
N・G・ライトは振り返らない。
まるで一つの儀式を終えた司教のように、静かにその場を去っていった。
残されたのは。
血に染まりながら崩れ落ちる少女と。
その身体を抱き止めることしかできない、一人の男だった。
血の匂い。
焼けた鉄の匂い。
ヴァレン:「ルク……!!」
ヴァレンは、力なく横たわるルクを必死に抱き寄せた。
ヴァレン:「おい、ルク!! 返事しろ!! ルク!!」
ワンダ:「ルクちゃん!!」
ワンダも駆け寄る。
ワンダ:「ごめんなさい……! 私が、ちゃんとルクちゃんを止めてたら……!」
ルクの瞳から、すでに光は失われつつあった。
身体から力が抜けている。
ワンダが何度も何度も癒しの光を放つ。
ワンダ:「お願い……! お願いだから……!!」
けれど。
抉られた腹部から流れ続ける血を、止めることができない。
いくら修復の力を浴びせても。
人間相手では何の効果も無かった。
ワンダ:「嫌……」
ワンダの声が震える。
ワンダ:「嫌だよ……ルクちゃん……!」
悲しみ。
絶望。
自分の無力さへの怒り。
そのすべてが限界を超えた、その時だった。
ワンダ:「…………?」
ワンダの目の端から。
一滴の液体が、零れ落ちた。
オイルではない。
冷却液でもない。
青白く、神々しい光を帯びた――未知のエネルギーの雫。
それは。
どう見ても。
涙だった。
ヴァレン:(ワンダが……メダロットの癖に、涙を……!?)
雫がルクの頬へ落ちる。
その瞬間。
ルク:「――っ!!」
ヴァレン:「!?」
ワンダ:「ルクちゃん!?」
死の淵へ沈みかけていたルクが、大きく息を吸った。
閉じかけていた瞳が、再び開く。
僅かではある。
それでも確かに――『生』の光が戻っていた。
ルク:「……ヴァ……レン……」
ヴァレン:「ルク!!」
ルク:「ワンダ……」
ワンダ:「ルクちゃん!! よかった……!」
ヴァレン:「何気に、生きてたか!!」
ヴァレンが彼女を強く抱き締める。
ルクはそんなヴァレンを見上げて、静かに口端を吊り上げた。
ルク:「ううん……」
ヴァレン:「……え?」
ルク:「多分……もう、長くはないわ……」
ワンダ:「そんな……」
ルク:「ちょっとだけ……命が延び……ただけ……っぽい」
呼吸のたびに、声が掠れる。
ルク:「ワンダが……ちょっとだけ、時間……くれたから……」
ルクが震える手を伸ばした。
ヴァレン。
そしてワンダへ。
ルク:「二人とも……最期は、傍にいて……ね?」
ワンダ:「ルクちゃん……!」
その姿は、あまりにも凄惨だった。
腹部には無惨な風穴が開き、衣服はどす黒い血に染まっている。
部屋には鉄臭い血の匂いが立ち込め、流し続けた涙の跡は頬についた煤と混ざり、ルクの顔をぐしゃぐしゃに汚していた。
だが。
ルク:「もう……死ぬのにね……」
ルクが笑う。
ルク:「凄く……幸せなんだ……」
ヴァレン:「…………」
ルク:「ヴァレンと……ワンダが……いてくれるからかな……?」
血を吐きながら。
涙で顔を歪めながら。
それでも。
ルクは笑った。
メダリンピックの表彰台で見せた、誇らしげな笑顔よりも。
どんな宝石よりも。
どんな星空よりも。
死の淵で汚れ果て、壊れかけながら。
それでも「幸せだ」と笑う彼女の姿を。
ヴァレンは、生涯でもっとも美しいものとして瞳へ焼き付けた。
ルク:「やっぱ……あたし……」
声が、少しずつ弱々しくなる。
ルク:「何度も……言ってるけど……」
ヴァレンとワンダは、ルクの口元へ顔を近づけた。
ルク:「ワンダと……ヴァレンが、大好き……」
ワンダ:「ルクちゃん……」
ルク:「そうだ……」
ルクは、ふと思い出したようにヴァレンを見る。
ルク:「ヴァレンには……最期に、聞きたいことが……あったの……」
ヴァレン:「最期なんて言うな!!」
ヴァレンの声が震える。
ヴァレン:「そんな……そんなこと言うなよ!!」
ワンダ:「ルクちゃん、待って!!」
ワンダも必死だった。
ワンダ:「もう一度……! もう一度、さっきの涙出すから!!」
自分でもどうやって起こしたのか分からない奇跡。
それでも。
もう一度起こせれば。
ワンダ:「だから死なないで!!」
ルクは、そんな二人の肩へそっと手を置いた。
騒ぐ二人をなだめるように。
そして。
静かに。
掠れた声で尋ねた。
ルク:「……ヴァレン……」
ヴァレン:「…………」
ルク:「あたしのこと……好き……?」
ヴァレンは息を呑んだ。
何気に。
いつもなら、そう答えたかもしれない。
だが。
今だけは違った。
ヴァレン:「……何気に、じゃない」
ルク:「…………」
ヴァレン:「……『絶対に』、好きだ」
声が震える。
ヴァレン:「俺は……」
ルクとの約一年。
初めて名前をもらった日。
食卓。
ロボトル。
笑い声。
寝相の悪さ。
抱き締められた温もり。
すべてが、一瞬のうちに胸へ溢れた。
ヴァレン:「ルクといる時が……世界で一番、幸せだった……!!」
ルク:「…………」
ルクの瞳が、僅かに細められた。
そして。
残された力を振り絞るように、身体を持ち上げる。
――触れた。
ヴァレンの顔に。
血の味のする。
けれど誰よりも温かな、ルクの唇が重なった。
ヴァレン:「…………」
ほんの僅かな時間。
それでもヴァレンには、永遠のように感じられた。
唇が離れる。
ルクはもう一度だけ笑った。
血と煤と涙に汚れた顔で。
それでも。
ヴァレンにとって、世界でもっとも美しい――『生』の輝きに満ちた笑顔で。
ルク:「嬉しい……」
ヴァレン:「ルク……」
ルク:「……ほんとに……しあ、わ………………」
声が途切れた。
ルクの指から、力が抜ける。
ヴァレン:「…………」
ヴァレンが握っていた手から、少しずつ温もりが失われていく。
あれほど温かかった身体が。
不自然なほど冷たくなっていく。
寝相が悪くて。
強情で。
がめつくて。
逞しくて。
自分を『不幸のメダロット』から救い出してくれた。
世界で一番不幸で――。
そして。
世界で一番幸せだと笑った女。
宝条ルクの時間が。
永遠に止まった。
ヴァレン:「…………ルク?」
返事はない。
ヴァレン:「おい……」
ヴァレンが身体を揺らす。
ヴァレン:「ルク……!」
答えない。
ヴァレン:「何気に……返事しろよ……!」
声が裏返る。
ヴァレン:「ルク!!」
それでも。
もう、返事はなかった。
ヴァレン:「ルクゥゥゥゥゥゥゥッ!!!」
最愛の人を失った男の悲鳴が。
廃墟となった街へ響き渡った。
―
数日後。
焼け落ちた街の一角。
瓦礫の山の中に、ぽつりと一つだけ簡素な墓標が立てられていた。
その前で。
ヴァレンは静かに手を合わせていた。
隣にはワンダがいる。
長い沈黙の後。
ヴァレンが立ち上がった。
そして、ワンダへ背を向ける。
ヴァレン:「……俺は」
ワンダ:「ヴァレン……?」
ヴァレン:「やっぱり……死ぬべきだったんだ」
ワンダ:「……えっ?」
ワンダが顔を上げる。
その瞬間。
ヴァレン:「…………」
ヴァレンが走り出した。
ワンダ:「ヴァレン!?」
弾丸のような速さで。
振り返ることもなく。
ワンダ:「待って!! ヴァレン!!」
だが、もう届かない。
その悲しみを共有していたはずの友まで去っていく。
ワンダはただ一人。
ルクの墓標の前で、呆然と立ち尽くしていた。
―
風を切る音が、耳の奥で激しく鳴り響いていた。
ヴァレンは全速力で走っている。
向かう先は。
かつてルクと出会った、あの山。
ヴァレン:(……何が『最高のパートナー』だ)
走る。
もっと速く。
ヴァレン:(何が……ルクを幸せにする、だ……!)
ルクが最期に残した温もりが。
今も唇から消えてくれない。
あの感触を思い出すたびに。
自分を責める言葉ばかりが、頭の中を埋め尽くしていく。
ヴァレン:(俺は『不幸のメダロット』だ)
そうだった。
最初から分かっていたはずだ。
ヴァレン:(俺と一緒にいればルクが幸せになれるなんて……そんな傲慢なことを考えたから……)
脳裏へ蘇る。
自分を庇った背中。
血。
あの笑顔。
ヴァレン:(俺が……ルクを殺したんだ)
そんなはずはない。
殺したのはN・G・ライトだ。
頭のどこかでは理解している。
それでも。
ヴァレンには、そう思うことができなかった。
自分と出会わなければ。
ルクはあの瞬間、ヴァレンを庇うこともなかった。
その考えだけが何度振り払っても戻ってくる。
かつて。
ルクに腕を掴まれ、強引に引きずり降ろされた山道。
今度は自らの意思で、その道を逆へ駆け上がっていく。
周囲の景色は、もう以前とは違っていた。
N・G・ライトが望んだ通り。
人々の営みは消え。
生命の気配すら薄れた、灰色の世界。
太陽を失ったヴァレンにとって。
荒廃した
ヴァレン:(待ってろ、ルク)
頂上が近付く。
ヴァレン:(今すぐ……)
自分は、彼女の人生に関わるべきではなかった。
あの日。
山で死んでいればよかった。
ヴァレン:(お前のいない、この『不幸な世界』から消えてやるから)
頂上へ辿り着く。
そこは。
かつて自らのメダルを砕こうとした、あの場所だった。
ヴァレン:「…………」
ヴァレンは迷わなかった。
自らのメダルへ手を掛ける。
今度こそ。
一切の躊躇なく――握り潰そうとした。
だが。
振り上げた腕を。
左右から、二本の手が強く掴んだ。
ヴァレン:「――!?」
ヴァレンが顔を上げる。
赤。
そして、青。
二機の騎士が立っていた。
アークビートルD:『君。……今、何をしようとした?』
ティレルビートル:『死ぬ気か』
ヴァレン:「…………」
ヴァレンは二機を睨む。
ティレルビートル:『ならば――』
青い騎士が、静かに告げる。
ティレルビートル:『その命。N・G・ライトへの復讐に懸けないか?』
ヴァレン:「…………復讐?」
絶望の底。
そこで。
初めてヴァレンへ差し伸べられた、二つの手。
アークビートルD。
ティレルビートル。
そして。
ジョーカード――ヴァレン。
後に三機は、反エデン組織を立ち上げることとなる。
その名は――。
『ラヴド』。
これが。
後に世界最大級の反エデン組織へ成長する『ラヴド』誕生の瞬間だった。
―
――――そして再び、現在。
荒廃した街。
風化しつつある、一つの墓標。
その前に。
ジョーカード――ヴァレンが立っていた。
長い間、墓標へ触れていた手を静かに離す。
ヴァレン:「…………」
誰にも見えない仮面の裏で。
かつての宝条ルクと同じような、不敵な笑みを作った。
ヴァレン:「フゥ……」
空を見上げる。
ヴァレン:「何気に寄り道が長すぎたな」
そして。
墓標へ背を向ける。
ヴァレン:「……さて」
歩き出した。
ヴァレン:「黒メダリアと白メダリア。何気に探しに行くとしますか」
あの日。
血と煤と涙に汚れた顔で。
それでも幸せだと笑った女。
宝条ルクが遺した、永遠の『愛』。
それは十六年という歳月を経た今もなお。
ヴァレンをこの世界へ繋ぎ止める――。
優しく。
そして決して解けることのない。
『呪い』となっていた。
第二十五話【不幸のメダロット~THE BIRTH OF "GOD" AND "LOVED"~】終わり