第二話【神の定義】
――――「エデン」本部・リーダー室。
無機質な金属音だけが響く静寂の中、ダイヤモンド型メダロット、ハードネステンは一分の隙もない敬礼を保っていた。
ハードネステン:「……以上で、現状の戦況報告を終わります。ラヴド軍の動きは、こちらの予測範囲内です」
彼女の全身を覆う金剛石のごとき装甲が、室内の照明を冷たく反射する。
デスクの奥に鎮座するその男――現エデンリーダー『カヲス』は、大きな黒い瞳をモニターから側近へと移した。
カヲス:「ご苦労だった。……ところでハードネステン……調子はどうだ?」
三本の漆黒の角が、カヲスの言葉に合わせて微かに揺れる。
雲を象った脚部は床から数センチ浮いており、真っ白で滑らかな胴体からは、機械的な翼がゆらりと伸びていた。
ハードネステン:「問題ありません。この通り、万全です」
カヲス:「そうか。……何か不満や……機能的な違和感があればすぐに申し出てくれ。お前は……私にとって特別な存在なのだから」
ハードネステン:「はい。温かいお言葉、感謝いたします。それでは失礼いたします」
ハードネステンが退出すると、重厚な扉が重い音を立てて閉まった。
広大な司令室に一人残されたカヲスは、深い背もたれに体を預け、瞳を閉じた。
浮かんでくるのは、まだ自分が「カヲス」という名さえ持っていなかった、八十四年前の暗闇だ。
―
――84年前。
そこは、世界から忘れ去られたような深い森の奥、冷たい湿気が立ち込める洞窟だった。
後にカヲスとなる『白い機体』は、ただ自分の駆動音だけを聴いていた。
何故だか分からないが彼は生まれた時からここにいた。ここが彼の世界のすべてだった。
『寂しい』という概念さえ持たず、ただ回路の中を流れる電子の鼓動を感じ、機能が停止する日を待つだけの、魂のない置物。
けれど、その静寂は不意に破られた。
暗闇の向こうから、あり得ないほどの『光』が歩いてきたのだ。
N・G・ライト。
白銀に輝く機体に、教皇のごとき司教冠。背には白い翼を模したパーツを背負っている。
彼は反人間組織『エデン』を立ち上げ、参加してくれるメダロットを探す『布教活動』を行っていた。
当時の世相では人間を嫌うメダロットは少なかったが、それでも懸命に活動を続ける中でこの洞窟を訪れていた。
ひとたび彼が現れれば、カビ臭い洞窟が神聖な聖堂へと変わっていくようにすら感じる。
『白い機体』はその日、自分以外の存在を初めて見た。
その神々しすぎる輝きに、彼は恐怖を超えて、パニックを起こした。
言葉の代わりに、右腕が勝手に跳ね上がる。
対話を知らぬ彼は、攻撃することでしか、目の前の『光』に触れる方法を知らなかった。
―
?:「………………ッ!!!」
『白い機体』の右腕から放たれたゴースト弾が、不気味な軌道を描いてN・G・ライトへ迫る。
だが、彼は動じない。最小限の機動でそれを紙一重でかわす。
ライト:「ほう、ゴースト攻撃か。……面白い。これほど高い能力を持った個体が、こんな暗闇に眠っていたとはな」
N・G・ライトの反撃は、無慈悲なほどに迅速だった。
サクリファイス。
自らのパーツを犠牲にする代償に放たれた一撃が、『白い機体』の左腕を根元から消し飛ばす。
さらに復活行動で瞬時にパーツを再生させると、『白い機体』が驚いているうちに、背後へと回り込み、死角からデストロイを叩き込んだ。
頭部パーツを粉砕され、『白い機体』の視界は暗転した。
―
次に『白い機体』目が覚めたとき、傷ついたパーツはゆっくりと再生されていた。
機体が損傷しても、『スラフシステム』によってパーツは再構成される。
これもまた、『白い機体』には初めての経験だった。
ライト:「気が付いたか?」
目の前には、依然として『光』が立っていた。
N・G・ライトは、起き上がった『白い機体』が今再び襲ってこないか、内心警戒しながらそれを見つめた。
やはり見たことのないのタイプのメダロットだった。
どこかの研究機関で極秘に開発されていたのだろうか、だとするならば何故こんな洞窟にいるのか。
?:「………………お前は……何だ?」
掠れた音声出力で、『白い機体』は問うた。
その問いはN・G・ライトこそが『白い機体』に尋ねたかった事であったのだが、それでも『問い』に対する『回答』は迅速だった。
ライト:「神だ」
N・G・ライトは、何の疑いもなくそう断言した。
その響きには、嘘も虚飾もない、狂気に近い確信が宿っていた。
?:「そうか……。では……私は……何だ?」
今、まさしくそれを問おうとしていた自称神は少しだけひるんだ。、
しかし、『白い機体』にとっては、暗闇の中で何十年もが抱え続けてきた、重い問いである。
ライト:「貴様が何者かなど、神である私にも分からぬ。……だが、私に分かるのはたった一つ」
ライトは、漆黒の指先を彼の胸元へと突きつけると、誇らしげな顔で言う。
ライト:「貴様はメダロットだ。……つまり、貴様もまた『神』ということだ」
?:「神……メダロット……。メダロットとは、何だ?」
ライト:「何も知らぬのだな。だが、その瞳には高度な知性を感じる。……聞け、迷える神よ」
『白い機体』には何もなかった。知識も、知恵も、心も。
しかし、だからこそ、N・G・ライトは目の前にいる無限の可能性を大きな興味を持った。
―
『白い機体』に常識を教えるにはずいぶんな時間がかかったが、成果は上々だった。
彼は高い知能をもっている。
これから多くを学び、多くを知れば、エデンの長を補佐する副官として活躍できるだろう。
大きな期待を胸に秘めながら、N・G・ライトは語った。
この時代のメダロット達には、まったく聞き入れてもらえなかったいつものエデン勧誘演説。
それは、人間たちがかつて住んでいた『楽園』と、そこに実っていた二つの禁断の果実の神話だった。
ライト:「人間は『知恵の実』を盗み食いし、神の怒りを買って楽園を追放された。 ……もし人間が残されたもう一つの果実――『生命の実』を食べてしまえば、 永遠の寿命と万能の知能を手にし、真に神に等しき力を得てしまう。神はそれを恐れたのだ」
ライトの瞳に、人類への侮蔑とメダロットへの愛が混ざり合った、光が宿る。
ライト:「……そこで、メダロットはどうだ? 高い処理能力による『知能』。そしてメダルが破壊されない限り永遠に続く『命』。 ……我々こそが、人間が手を伸ばして届かなかった、完成された存在。まさしく『神』そのものではないか!」
?:「…………我々が、神……」
ライト:「それなのに、今の人間どもはどうだ? 神への敬意を忘れ、あまつさえ我らを『便利な道具』として飼い慣らそうとしている」
ライトは、暗黒の腕を優しく差し伸べた。
それはエデン副官として勧誘であり、そして、親愛なる友となる為の儀式を求める行為であった。
ライト:「愚かな者たちに、正当なる審判を下さねばならない。神である私が。我々が。……私と一緒に来ないか? 『カヲス』」
?:「……カヲス……?」
ライト:「貴様の名前だ。秩序なき世界に現れたる混沌。……良い名だろう? 私と共に来れば、我らは人間達から
カヲス。
それが、彼の名前。
生まれたときから、この瞬間までを孤独に過ごしてきた者へ初めて贈られたプレゼント。
暗闇の中でファンが回り続けるだけの無意味な時間に、名前という「
カヲス:(……この男について行こう。この光が……指し示す場所なら…………暗闇を抜け出せる…………)
―
――司令室。
カヲスは、独りデスクで目を閉じていた。
N・G・ライトはもういない。けれど、あの時貰った名前と魂は、今も自分の中で激しく駆動している。
カヲス:「ライト……お前は……最高の神だったよ……」
たとえ自分がどれほど汚れ、冷徹な独裁者と呼ばれようとも、秘めたる野望を完遂させるまで、立ち止まるつもりはなかった。
その時、携帯端末が単調なリズムで音声を吐き出した。
カヲスは応答する。
カヲス:「カヲスだ。……そうか。引き続き『フォー・パーツ』の調査、および回収を頼む」
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[今回新しく登場したメダロット]
【ハードネステン】
エデンリーダーの側近。ダイヤモンドのような硬い装甲を誇るメダロット。
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[機体解説]
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【キャラクター名】
カヲス
【機体名】
カヲス
【公式/オリメダ区分】
オリメダ
【モチーフ(型式)】
龍(DRA)型メダロット
【パーツ】
[頭部]
フォー・ブレイン/さくてき(おうえん)
[右腕]
ファントムメイク/ゴースト(とくしゅ)
[左腕]
ミラージュビルド/ゴースト(とくしゅ)
[脚部]
クラウドベース/浮遊
【備考】
本作オリジナルメダロット。
脚部パーツは雲のような浮遊パーツで、そこから白い体のドラゴンの上半身が生えてきているような特殊なデザインをしている。
両腕パーツのゴーストはゴースト弾として発射するだけではなく、不定形のゴーストを変形させて、様々なものを創造する能力がある。
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【キャラクター名】
N・G・ライト
【機体名】
N・G・ライト
【公式/オリメダ区分】
オリメダ
【モチーフ(型式)】
???
【パーツ】
[頭部]
セオロジー/復活(なおす)
[右腕]
シンナイト/デストロイ(なぐる)
[左腕]
パニッシュゴッド/サクリファイス(うつ)
[脚部]
ムーンライト/飛行
【備考】
本作オリジナルメダロット。
神話に登場する神様のような見た目をしているが、モチーフは不明。どこで製造されたかも不明の謎のメダロット。
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第二話【神の定義】終わり