第二十六話【ビーストマスターの推理】
第二十六話【ビーストマスターの推理】
――――新ラヴド軍本部・要塞拠点『ビッグブロック』。
旧本部の爆砕。
そして、リーダー・ティレルビートルの戦死。
その激震がいまだ冷めやらぬ中、奪取したばかりの要塞『ビッグブロック』では、組織の今後を左右する最高幹部会が開かれていた。
円卓を囲むのは、各兵団を率いる最高幹部たち。
その中心には、ラヴドの双璧――ブラックメイルとビーストマスターが並んでいた。
「……リーダーの最期の通信は、全軍のログに残っている。だが、組織には新たな『長』が必要だ」
「ビーストマスター殿。貴殿は司令部参謀として、長年リーダーを支えてこられた。この危機を理知的に乗り越えられるのは、もはや貴殿しかいない」
反対する者はいなかった。
現場で突破口を切り開くブラックメイルの武勇は、全軍が認めている。
だが、旧本部を失い、リーダーまで欠いた今、軍全体を立て直すには別の力が必要だった。
状況を整理し。
限られた情報から優先順位を決め。
全軍を一つの方向へ導く力。
その役目に最も適しているのが、ビーストマスターだった。
ブラックメイル:「同感だぁ~…なッ。ビーストマスター、任せたぜ。俺がその背中を守ってやるぅ~…ぞッ」
戦友からの無骨な後押しを受け、ビーストマスターは静かに頷いた。
ビーストマスター:「……承知しました」
円卓を見渡す。
ビーストマスター:「暫定ではありますが、私が『リーダー代行』としてラヴド軍の指揮を執りましょう。亡き前リーダー・ティレルビートルが命を懸けて繋いだ未来を……決して絶えさせはしません」
厳粛な決定が下された、その直後だった。
作戦司令室の扉が開く。
三級兵士:「報告いたします!」
一機の三級兵士が、慌ただしく室内へ駆け込んできた。
三級兵士:「リーダーが死の間際に転送したデータ群の暗号解除が完了しました! その深部から、『白メダリア』に関する極秘記述を発見!」
ビーストマスター:「……見せてください」
ビーストマスターは受け取ったディスクを端末へ接続した。
メインモニターに、ティレルビートルが遺した記録が映し出される。
―
【白メダリアに関する考察:遺録】
九年前、ジョーカードがN・G・ライトのメダルを破壊した際、その中心核から生成されたとされる未知の物質。
外観は純白。
推測される性質:
N・G・ライトの断片が凝縮された『高密度情報体』である可能性が高い。
所在:
ジョーカードが戦地から持ち帰った。
その後、ジョーカードが姿を消した時期と前後して白メダリアも所在不明となったため、ジョーカードが持ち去った可能性がある。
―
ビーストマスター:「……白メダリア」
ビーストマスターはモニターを見つめた。
ビーストマスター:「N・G・ライトの遺産……ということですか」
ブラックメイル:「待ぁ~ッて」
ブラックメイルが首を傾げる。
ブラックメイル:「英雄が持ち去ったって話なら、何で英雄は今さら白メダリアを探してるんだぁ~…ッ?」
ビーストマスター:「…………」
ビーストマスターは、少し考えてから答えた。
ビーストマスター:「先日の手紙では、英雄はカヲスによって一度メダルを破壊されたと語っていました」
ブラックメイル:「あぁ~……クロとシロに分かれたって話かぁ~…なッ」
ビーストマスター:「ええ。その時に白メダリアも失われた……という可能性はあります」
ブラックメイル:「なるほどぉ~…なッ」
ブラックメイルは一度納得しかけたものの、すぐに別の疑問へ辿り着いた。
ブラックメイル:「じゃあ、もう片方の『黒メダリア』ってのは何なんだぁ~……ッ?」
今度は、ビーストマスターもすぐには答えなかった。
ティレルビートルの遺録。
ヴァレンから託された手紙。
『クロ』と『シロ』への分離。
分かっている事実を、一つずつ頭の中で並べていく。
ビーストマスター:「……現時点では、黒メダリアの正体を断定できる材料はありません」
ブラックメイル:「分からねぇ~…のかッ?」
ビーストマスター:「ええ。ただ――」
ビーストマスターはモニターへ視線を戻した。
ビーストマスター:「英雄ジョーカードが、白と黒――二つのメダリアを同時に探している。それだけでも、両者が完全に無関係とは考えにくいでしょう」
ブラックメイル:「じゃあ、黒の方も英雄と何か関係してるってことぉ~…かッ?」
ビーストマスター:「可能性はあります」
少し間を置く。
ふと、ビーストマスターは英雄ジョーカードと十二使徒メッシュとの戦闘についての報告を思い出す。
メッシュの自爆、不自然な消失といった派手な謎が残っているが、もう一点。普通なら見逃してしまうような一つの報告に着目した。
N・G・ライトを倒した、という割には随分とメッシュ相手に苦戦していたようだった。
久々の戦闘で腕がなまっていたのか……もしくは全快でなかったのか。
ビーストマスター:「手紙によれば、英雄のメダルは一度破壊され、その結果として『クロ』と『シロ』へ分離した。その過程で、我々が知らない何かまで失われていたとすれば……黒メダリアが、それに関係している可能性も否定できません」
ブラックメイル:「つまりぃ~……」
ブラックメイルが腕を組む。
ブラックメイル:「メダリアを集めりゃ、英雄が昔の力を取り戻すかもしれねぇってことぉ~…かッ?」
ビーストマスター:「それも、可能性の一つです」
ビーストマスターは即座に釘を刺した。
ビーストマスター:「ですが、今はまだ推測に過ぎません。黒メダリアが英雄自身の一部なのか、別の何かなのか。それすら確定していない」
ブラックメイル:「ふぅ~ん……」
ビーストマスター:「少なくとも、現在の英雄が九年前とまったく同じ状態であると断定することもできません」
ビーストマスターは円卓の面々へ向き直った。
ビーストマスター:「ですが――正体が分からないからこそ、放置するべきではない」
幹部たちの視線が集まる。
ビーストマスター:「白メダリアは、N・G・ライト由来の未知の物質である可能性が高い。そして、九年前にN・G・ライトを倒した英雄ジョーカードが、白と黒の双方を追っている」
モニター上に、二つのメダリアを示す簡易図が表示される。
ビーストマスター:「それだけで、軍事的価値が極めて高いことは十分に推測できます」
一機の幹部が頷いた。
「エデンに先を越されれば?」
ビーストマスター:「最悪の場合、我々が把握していない形で戦況を一変させる危険があります」
ブラックメイル:「だったら先に奪っちまえばいいぃ~…なッ」
ビーストマスター:「ええ」
ビーストマスターは静かに頷いた。
ビーストマスター:「白と黒、二つのメダリアを可能な限り我々が先に確保する。そして英雄へ返還することを条件に、正式な協力を求める」
ブラックメイル:「N・G・ライトを倒した英雄がラヴドに戻りゃ、エデンとの戦況も変わるかもしれねぇ~…なッ」
ビーストマスター:「その可能性に賭ける価値はあります」
円卓を囲む幹部たちが、次々と頷いた。
ビーストマスターは通信機を起動する。
ビーストマスター:「L班へ」
間もなく、通信回線が開かれた。
ワンダ:『はい!』
ビーストマスター:「ワンダ、ディスト、ローラ。諸君に新たな任務を与えます」
ビーストマスターは、モニターに表示された二つの名称を見つめた。
ビーストマスター:「『白メダリア』と『黒メダリア』――英雄ジョーカードが探している二つのメダリアを、エデンより先に確保してください」
ワンダ:『了解!』
新たな任務が動き始めた。
―
――――同時刻。「エデン」本部・科学部最深部。
青白い液体に満たされた巨大な強化ガラスケースが、静かな駆動音を響かせていた。
その中には。
エデンリーダーの側近――ハードネステンが、無数のセンサーに繋がれた状態で浮かんでいる。
カヲスは、モニター上を流れ続ける膨大な波形データを凝視していた。
カヲス:「……数値は……安定しているな」
何度確認しても。
異常はない。
カヲス:「……やはり……無駄なのか……」
誰に聞かせるでもなく呟く。
カヲスはコンソールを操作した。
プシュー――。
減圧音と共に、ケース内部の液体が排出されていく。
やがてハードネステンの足が床へ触れた。
自動洗浄アームが動き、濡れた装甲を乾かしていく。
ハードネステン:「……終わりましたか」
ハードネステンがカヲスへ目を向ける。
ハードネステン:「カヲス様。私の状態に、何か問題でも?」
カヲス:「…………」
カヲスは一瞬だけ目を逸らした。
カヲス:「……問題ない」
ハードネステン:「では、なぜこのような検査を?」
カヲス:「お前は……エデンの勝利に不可欠な存在だからな」
カヲスは、いつもの無機質な口調で答えた。
カヲス:「日常的な……チェックを欠かすわけにはいかん……」
ハードネステン:「左様ですか」
ハードネステンは、それ以上追及しなかった。
ハードネステン:「お気遣い、感謝いたします」
なぜカヲスが自分だけをここまで念入りに調べるのか。
なぜ、他の側近たちとは異なる扱いをするのか。
ハードネステンには、その真意が分からなかった。
だが。
今の彼女にとって、カヲスは絶対の主。
疑問があったとしても、それ以上踏み込むつもりはなかった。
カヲスは検査結果を閉じると、別のケースへ向かった。
そこに収められていたのは。
先日、すすたけ村で回収した――黒く光る『黒メダリア』。
カヲス:「……先日の回収物」
カヲスが端末を操作する。
モニターへ解析結果が映し出された。
カヲス:「……解析は、ひとまず終わった」
複雑な波形が重なる。
カヲス:「強力な指向性を持った……異常なエネルギー……」
ハードネステン:「危険な物なのですか?」
カヲス:「……扱い方次第ではな」
カヲスは視線を移した。
部屋の中央。
そこには、巨大な十字架型の機械が鎮座している。
コードネーム――『D』。
九年前。
N・G・ライトから託され。
いまだ完成へ至っていない機械。
カヲス:「……だが」
カヲスは、黒メダリアを見つめる。
カヲス:「これなら……不足していた出力を補える可能性がある」
ハードネステン:「不足していた……出力?」
カヲスは答えず。
さらに別の保管装置へ手を伸ばした。
そこに収められているのは――ノルス。
カヲス:「これと……手元にあるノルスを同調させる」
そして。
再び黒メダリアへ視線を戻す。
カヲス:「さらに……黒メダリアのエネルギーを増幅し……『D』へ流し込めば……」
ハードネステン:「…………」
カヲス:「完全起動へ……近付けるかもしれん」
断定ではない。
それでも。
カヲスの声には、今までにない確かな期待が滲んでいた。
巨大な十字架型の機械。
ノルス。
そして。
黒メダリア。
三つを順番に見つめる。
カヲス:「……試す価値はある」
ハードネステンは黙ったまま、巨大な『D』を見上げた。
何も語らず。
ただ静かに鎮座する、鉄の十字架。
それを見ているだけで。
理由もなく。
胸の奥に、不吉な予感が広がっていった。
第二十六話【ビーストマスターの推理】終わり