第二十七話【トゥルース、休暇中】
――――新ラヴド軍本部・『ビッグブロック』。
司令官室の大型モニターに、通信ログが表示される。
かつてワンダが「ソウス」を回収した際に救った、すすたけ村の老人メダロットたちから
ワンダ宛てに発信された通信ログだった。
『……ラヴドの天使様、聞こえるかの? 先日、村の裏手にある古い祠から、妙なものが見つかりましてな。
真っ白に透き通り、見たこともない熱量を放つ「メダリア」のような珠(たま)ですじゃ。
……これは、あんた達に預けるのが一番だと村の衆で話し合いましてな』
ビーストマスターはそのログを静かに閉じ、デスクの前に並ぶワンダ、ディスト、ローラの三機を見据えた。
ビーストマスター: 「……状況は理解しましたね。素人の送って来た通信なので、エデンもこの通信を傍受している可能性があります。諸君ら『一級兵士』の最初の任務は、この白メダリアの確保、および村の守護です。……直ちに出撃を」
ワンダ: 「了解しました! ……あのお爺さんたち、またお宝発見したんだ……相変わらずというか……」
ワンダは困ったように笑いながらも、その瞳には仲間と、かつて救った者たちへの強い責任感が宿っていた。
彼女たちは最新鋭の輸送機に乗り込み、懐かしき「すすたけ村」へと翼を広げた。
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――――「エデン」本部・リーダー室。
静寂を破るように、派手な電子音が室内に響き渡った。
デュオカイザー: 「カヲス様ぁ〜♪ 失礼しちゃぅゎねぃ、ぉ仕事中にごめんなさ〜ぃ♪」
トゥルース主任・デュオカイザーが、いつもの極彩色なノリで入室してくる。
カヲスは端末から目を離さず、溜息混じりに応じた。
カヲス: 「……何だ。私は……忙しい…………」
デュオカイザー: 「ぁら、冷たぃゎねぃ。……例の『本部爆破』、完璧にこなしたゥチの可愛い部下たちのことょ。……ねぇカヲス様。そろそろ『ご褒美』、頂いてもぃぃかしらぁ?」
カヲスがようやく手を止め、デュオカイザーに向き直る。
トゥルースはエデン正規軍の階級制度の外にいる、いわばリーダーの「私兵」である。
彼らにはこれ以上の昇進は存在しない。
その代わりに、任務の難易度に応じた「報酬」がリーダーの独断で与えられるのが通例だった。
デュオカイザー: 「ぁの子たち、ボロボロになりながらラヴドのリーダーを始末してきたのょ。……まさか何も無しってことは、ぁ・り・ぇ・な・ぃ……ゎょねぇ~?」
カヲス: 「……分かった……。セルヴォとビートに……十日間の完全休暇を与える。……その間……君も私の前に現れないのなら……追加で五日増やしてもいいが?」
デュオカイザー: 「ぁらん! 流石はカヲス様、話が早ぃわねぃ♪」
こうして、泥沼の戦争の最中において、あり得ないはずの「自由」が二機の諜報員に与えられた。
……尚、セルヴォとビートの休暇期間はそのまま十日間だった。
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――――すすたけ村。
エデン国とラヴド軍の境界に位置しながら、その隠された立地ゆえに奇跡的に戦火を逃れ続けている場所。
村の片隅にある、古びた酒場「アンティーク・オイル」のカウンターに、二機のメダロットが並んで座っていた。
セルヴォ: 「さて……やっぱ休暇つったら、すすたけ村だよな」
ビート: 「ああ、そうだな」
セルヴォとビート。彼らは戦士の貌を完全に捨て、一人の客としてそこにいた。
セルヴォがカウンターの上に、重々しく一本のボトルを置く。
セルヴォ: 「さて、……これが闇市で三百万はする珍品。一世紀前――まだ人間とメダロットが『お友達』だった時代に作られた、伝説のヴィンテージオイル……『ヘベレケスペシャル』だ」
ボトルのラベルは色褪せ、歴史の重みを物語っている。その時代以降、製法が途絶えたと言われる至高の逸品。
二機は慎重にグラスへ黄金の液体を注ぎ、軽く打ち鳴らした。澄んだ金属音が店内に響く。
ビート: 「美味いな。……今の戦場に溢れている粗悪な代替品とは、密度が違う」
セルヴォ: 「さて、……ビート、あんたと組んで随分経つ。……仕事は地獄だが、こういう瞬間のために生きてるんだよな、俺たちは」
二機が静かにグラスを傾けている、その頃――。
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村の入り口付近。
「白メダリア」の情報を追って村を訪れたワンダ、ディスト、ローラの三機は、
到着するや否や、茂みに潜んでいたエデンの監視部隊に包囲されていた。
「見つけたぞ、ラヴドのフォー・パーツ持ち! お前たちの首を獲れば、俺たちは昇進だぜ!」
功名心に駆られた一般兵たちが、十数機で襲いかかる。
だが、対峙するL班の面々に、かつての初陣のような動揺は微塵もなかった。
ワンダ: 「悪いけど、その構え方見るにあんまり強くなさそう……やめた方がいいと思う」
ワンダが冷徹に告げる。
「何を……! やれ、者共ッ!!」
一斉に火を噴く火器。――しかし、ディストの反応はそれを遥かに凌駕していた。
ディスト: 「遅い!」
ディストの右腕から放たれた精密なビームが、空中で敵の弾頭をすべて迎撃し、
そのまま逆流するように敵機の砲門を焼き切った。
かつての「当たらない狙撃手」の面影はどこにもない。
ローラ: 「……凍りつけ」
ローラが地を滑り、敵陣の中央へ。
右拳から放たれた極低温の波動が、敵機三機の脚部を瞬時に凍結させ、行動不能に追い込む。
その無駄のない洗練された動きは、まさに戦場を支配する氷の女王そのものだった。
ワンダ: 「ソウス――変換!!」
ワンダの左腕から放たれた慈愛の閃光が、残る敵機の装甲を音もなく貫く。
わずか数十秒。包囲していたエデン部隊は、反撃の機会すら与えられぬまま全滅した。
ワンダ: 「……なんか、あっさりだね。ひょっとして私達って……強くなった?」
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一方、酒場。
「た、大変です!! トゥルースのお二人ですよね!? 今、村の入り口で例の三機組と戦闘になり、我が軍が……!」
逃げ延びたエデン兵が、血相を変えて酒場になだれ込んできた。
だが、セルヴォもビートも、その兵士を横目で一瞥しただけで、グラスを置こうともしなかった。
セルヴォ: 「さて、断る。……俺たちは、休暇中だ」
「何だと!? 緊急事態ですよ! トゥルースはプロフェッショナルだと聞いていたが、同胞を見殺しにするんですか!?」
セルヴォが、ゆっくりとグラスを置いた。その動作一つに、兵士は言葉を失うほどの威圧感を感じて凍りついた。
セルヴォ: 「さて、俺たちは公私混同をせず、プライベートと仕事の間に、鉄よりも固い線を引く。両方の世界を、完璧にやり遂げる。……それが俺たちの言う『プロフェッショナル』だ」
ビート: 「……そもそもお前達には俺たちに対する指揮権は無い。……邪魔をするな」
ビートの冷徹な一言に、兵士は蛇に睨まれた蛙のように震え、逃げるように店を飛び出していった。
セルヴォ: 「さて……。酒が不味くなる前に、二杯目といくか。相棒」
ビート: 「ああ。……戦場に戻れば、また地獄が待っているからな」
静かな村に、伝説のオイルの香りが漂う。
プロの休息。それは、次に待ち受ける「さらなる激闘」への、静かなる誓いでもあった。
第二十七話【トゥルース、休暇中】終わり