【完結】DISAPPEARANCE   作:土地_0000

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第二十八話【トゥルース、共闘】

第二十八話【トゥルース、共闘】

 

 荒野の風が砂を巻き上げ、村の入り口には沈黙したエデン兵たちの残骸が転がっていた。

 一級兵士へと昇格し、かつてない機体出力を手にしたワンダ、ディスト、ローラの三機は、

 目的地である老人メダロットたちの住処へと辿り着いた。

 

ワンダ:「お爺さーん! いますか!?」

 

 ワンダが声を張り上げると、民家の奥から三体の老兵たちが、関節をギチギチと鳴らしながら小走りで現れた。

 

老兵:「おお!! 天使様! 相変わらずの別嬪さんじゃのう! どれ、再会の接吻を……」

ワンダ:「……しません(即答)」

 

 情熱的に飛びつこうとした老人を、ワンダは一切の迷いなく最小限の足捌きで回避した。

 老人は制御を失って壁に激突し、「フォゲッ!」と情けない排気音を漏らして崩れ落ちる。

 

ワンダ:「それでお爺さん。例のものは?」

老兵:「おぉ。そうじゃった。ちょっと待っておいてくれ。(ガードの固い娘じゃのう……)」

 

 老人は頭部パーツをさすりながら立ち上がり、床板を剥がして家の奥へと消えた。

 しばらくして戻ってきたその手には、一つの包みがあった。

 古びた布が解かれると、周囲の光を吸い込み、真昼の太陽よりも清浄な輝きを放つ「白メダリア」が姿を現した。

 

老兵:「これですじゃ」

ディスト:「お、おお……。なんだか、見てるだけで吸い込まれそうな輝きだね……」

ローラ:「……なるほど。今回の任務は、案外楽に終わりそうだな」

 

 三機が白メダリアの美しさに目を奪われ、一瞬の安堵が流れた――その時だった。

 

 ――シャッ!!

 

 光学カメラが捉えきれないほどの速度で、何かが老人の手元を掠(かす)めた。

 気がついた時には、白メダリアはそこから消え去っていた。

 

メダプルート:「ナッハッハッハ! 俺は盗賊メダプルート。この綺麗な珠は頂いたぜい!」

 

 三機が顔を上げると、月を背負うようにして屋根の上に一機の青い冥王星型メダロットが立っていた。

 

メダプルート:「あばよ!」

 

ワンダ:「あ! 待ちなさい!」

 

 白メダリアを奪還すべく、すすたけ村の入り組んだ路地を舞台にした、必死の追走劇が始まった。

 石畳を叩く硬質な駆動音が、静かな村に響き渡る。

 

 

――――酒場「アンティーク・オイル」。

 

 

 煤(すす)けたランプが照らす店内のカウンターで、セルヴォとビートは周囲の喧騒から切り離されたように座っていた。

 

セルヴォ:「さて、銘酒もいよいよ、半分か」

ビート:「ああ」

 

 一世紀の重みを湛えた『ヘベレケスペシャル』を惜しむように、二機は一滴ずつグラスへ注ぎ足す。

 そこへ、裏口からメダプルートを追っていたワンダたちが雪崩れ込んできた。

 

ディスト:「……くっそ〜、見失っちゃった。路地裏に逃げ込むなんて……あ、トゥルース!?」

 

ワンダ:「ここで会ったが百年目! よくもラヴド本部とティレルビートルさんをやってくれたわね!」

 

 ワンダとディストが即座に左腕を向ける。

 だが、セルヴォとビートは視線すら動かさず、芳醇なオイルの香りを愉しみ続けている。

 

セルヴォ:「さて……不愉快なやつらに会っちまったな。さて、酒が不味くなる。静かに去ってくねえか」

 

 氷のように冷たい拒絶。その態度にワンダが激昂し、ソウスを向けようとしたが、ローラがその肩を掴んだ。

 

ローラ:「ワンダ! 今はあの盗賊を追うのが先だ。奴は裏口へ消えたぞ、行くぞ……!」

 

 三機は殺気をトゥルースの背中に叩きつけながら、再び夜の路地へと飛び出していった。

 ……ようやく戻った静寂の中、二機が再びグラスに手をかけようとした、その時だった。

 

 ――バリバリバリッ、ドォォォォンッ!!

 

 老朽化した天井の梁(はり)が無残にへし折れ、一機のメダロットがセルヴォたちの座るテーブルの真上へと墜落してきた。

 

メダプルート:「痛ててて……。 屋根が腐ってやがったか……」

 

 天井裏に潜んでいたメダプルートである。墜落の衝撃で埃が舞い上がり、異変を察知したワンダたちが店内に引き返してくる。

 

ワンダ:「あ! いたぁ!!」

メダプルート:「あ、ヤバッ!」

 

 メダプルートは即座に跳ね起きると、白メダリアを抱えて裏口から逃げ出した。ワンダたちもそれを追って再び外へ。

 ……しかし。そこに残された二機の周囲には、これまでの戦争のどれよりも濃密で、どす黒い「殺意」が渦巻いていた。

 

ビート:「………………」

セルヴォ:「………………」

 

 自分たちが座っていた席を見て、二機は絶句していた。

 メダプルートの墜落により、テーブルは粉砕。

 その衝撃で、三百万の価値を誇る銘酒『ヘベレケスペシャル』のボトルが砕け散り、

 床には無残なオイルのシミが広がっていた。

 

ビート:「……まだ、半分もあったのに……」

 

セルヴォ:「さて、……トゥルースの酒を割ったらどうなるか、お、思い知らせてやる……へへッ……へへへへへへ……!!」

 

 セルヴォは笑っていたが、そのセンサーは怒りで真っ赤に染まっていた。

 大気が物理的な重圧で軋む。「行くぞ、ビート!!」という叫びと共に、二機は酒場を飛び出した。

 

 

 

 

 再び村の外。既に夜になっており、ワンダたちは暗がりに消えたメダプルートの行方を追いきれずにいた。

 

ワンダ:「う〜ん、どこ行っちゃったのかなぁ?」

 

 そこへ、地面を震わせる足音と共に、凄まじい威圧感を放ちながらセルヴォとビートが現れた。

 ワンダたちは反射的に身構える。

 

セルヴォ:「さて、お前ら!この辺で忌々しいメダプルートを見なかったか!?」

ディスト:「なんでトゥルースもあいつを追ってるのさ? (……ハッ! まさかこいつらも白メダリアを!?)」

 

 ディストの懸念に対し、ビートが低く、地を這うような声で答えた。

 

ビート:「酒を割られた」

ディスト:「……へ?」

 

 あまりに個人的な理由に肩を透かされる三機。そこに、セルヴォが取引を持ちかける。

 

セルヴォ:「さて、という事はお前らも奴を探してるわけか? だったらここは共闘……いや停戦協定を結ぼうじゃねえか。お互いにお互いの邪魔をするのは無しだ」

 

 ローラは、二機の瞳に宿る「酒の恨み」が冗談ではないことを悟り、頷いた。

 

ローラ:「よかろう。だが、奴は既にこの村から出た可能性もある。村の中は十分に探したのでな」

 

セルヴォ:「さて、だったらあの丘が怪しいんじゃねえか?」

 

 セルヴォが村の外れにある小高い丘を指差した。

「あそこからならこの村のすべてを俯瞰できる。俺たちの動向を見張るにも絶好の場所だ」

 というセルヴォの言葉を聞き、ワンダたちは丘へと走り出した。

 

 走り去る三機の背中を見ながらビートが尋ねる。

 

ビート:「俺たちも行くか?」

セルヴォ:「さて、俺はちょっと気になることがあるんでな。先に行っててくれ」

 

 

 

 

――――村外れの丘。

 

メダプルート:「ナッハッハッハ! 綺麗な珠だなぁ。こりゃ高く売れるぞ」

 

 盗んだ白メダリアを眺めてニヤニヤするメダプルートを、ワンダたちが取り囲む。

 

ワンダ:「見つけたわよ!」

ディスト:「もう逃げられないぞ!!」

ローラ:「大人しくそれを渡してもらおうか」

 

 だが、メダプルートは依然として余裕の笑みを崩さない。彼は懐から不吉な黒いスイッチを取り出した。

 

メダプルート:「ナッハッハッハ! これが何か分かるか? 俺が村を逃げ回りながら仕掛けた、十個の爆弾のスイッチさ! これを押せば、五分後にはこの村は吹っ飛ぶぜい? さぁ! それが嫌ならそこを退けてもらおうか?」

 

 村全体を人質に取られ、たじろぐワンダたち。やむを得ず道を開けようとした瞬間、乾いた銃声が夜気を切り裂いた。

 

メダプルート:「ぎゃあぁっ!? な、何だ、誰だ!!?」

 

 メダプルートの脚部を精密に撃ちだされたライフルの一撃が貫く。。

 銃口を向けていたのは、いつの間にか背後に回り込んでいたビートだった。

 

メダプルート:「お、おい! テメェ、村を爆破されていいのか!?」

 

ビート:「…………」

 

 ビートは無言で歩み寄る。その沈黙が放つ絶対的な圧にメダプルートは動揺し、

 叫び声を上げながら強引にスイッチを押し下げた。

 

メダプルート:「ナッハッハッハ! もうこの村は終わりだ。爆弾でお前らもろとも道連れだぜい!」

 

 高笑いするメダプルートを、ビートは無視してその首根っこを掴み上げる。

 脚部を破壊され逃げ場を失った盗賊を、傍らの大木にワイヤーで頑丈に縛り付けた。

 

メダプルート:「あと四分二十秒だ! 今放してくれたら爆弾を解除してやるぜい!?」

 

 必死の命乞い。そこへ、悠然とした足取りでセルヴォが姿を現した。その両腕には、十個の金属塊が抱えられていた。

 

セルヴォ:「さて、その爆弾とやらは、コイツのことか?」

メダプルート:「な!? 十個すべて見つけたのか!?」

セルヴォ:「さて……これが、プロフェッショナルってやつだ」

 

 セルヴォは解除した十個の爆弾を、メダプルートの足元に丁寧に並べ直した。

 

メダプルート:「ま、待て!! その爆弾はあと三分で爆発するんだぞ!!」

 

セルヴォ:「さて、自分の爆弾でお星様になりな。惑星メダらしくな」

 

 セルヴォは呆然とするワンダたちを促し、その場を離脱。三分後、丘の上で巨大な爆炎が夜空を焦がした。

 

 

 

 

 凄まじい衝撃波が丘を駆け抜け、爆鳴が止んだ後の世界に、焦げたオイルの匂いが立ち込める。

 メダプルートの姿は、微塵も残っていなかった。

 

 煙の向こうから、颯爽と歩いてくる二つの影。

 セルヴォとビートだ。

 ワンダたちが警戒を解かずに見守っていると、セルヴォが手の中で白い球体を弄(もてあそ)んでいるのが見えた。

 

セルヴォ:「さて、さっきの爆風でこれが足元に転がってきてな。拾ってはみたものの……。ビート。これ、何だか分かるか?」

 

 セルヴォは指先でその珠を弄り、不思議そうに月光に透かして見せた。

 

ビート:「……分からん。ただの、光る石ではないのか」

セルヴォ:「さて、にしてはなーんか不気味なパワーを感じるっつうか。……扱いに困るな」

 

 セルヴォは白メダリアを何度も高く放り投げ、キャッチする。その無造作な扱いに、ワンダたちは心臓が止まる思いだった。

 

ワンダ:「(……白メダリア!! 嘘、エデンの手に……!!)」

ディスト:「(よりによってトゥルースに……最悪の展開だよ……!)」

 

 三機に走る戦慄。

 英雄ヴァレンが求め、ラヴドの未来を左右する(と思われる)至宝が、不倶戴天の敵の手に握られている。

 ローラが真っ先に前へ踏み出し、左腕のフリーズを構えた。

 

ローラ:「……貴様。その手にあるものを、速やかにこちらへ渡してもらおうか」

 

 氷のような殺気。

 一級兵士としての冷徹な義務感が彼女を突き動かす。ディストとワンダもそれに続き、一触即発の緊張が丘を包んだ。

 

セルヴォ:「さて? 藪から棒に物騒な真似を……。休暇中に戦闘なんてごめんだぜ?」

 

 セルヴォが薄笑いを浮かべ、挑発するように目を細める。

 

ワンダ:「悪いけど、それだけは渡せない! 奪い返させてもらうわ!!」

 

 激突が不可避と思われたその瞬間、セルヴォは呆れたように肩をすくめた。

 

セルヴォ:「さて……。さてさて、何をそんなにピリピリしてやがるんだか。休暇中に戦闘なんざごめんだぜ」

 

 そして、今まさに奪い返そうとしていたその球体を、ワンダに向かってフワリと放り投げた。

 

ワンダ:「え……っ!?」

 

 反射的にそれを受け止めるワンダ。手の中に伝わるのは、脈動するような不思議な熱量。間違いなく、白メダリアだった。

 

ローラ:「……いいのか? それが何であるかも知らずに」

 

セルヴォ:「さて、最初に言ったろ? 今日はお互いの邪魔は無しだってな。ドロボーに酒を割られた落とし前は、もうついた。

     ……アンタらがそんなに死に物狂いで欲しがるような『石ころ』にゃ、俺は興味ねえんだよ」

 

 セルヴォは不敵に笑うと、隣のビートを見た。

 

ビート:「……『白いメダリアをラヴドから奪取せよ』という任務は、現在の俺たちには下されていない。

    休暇中に、上官の命令にない無駄な仕事をするのは……俺たちの流儀に反する」

 

 ビートは静かに告げると、踵(きびす)を返した。セルヴォもその背を追いながら、最後に一度だけ振り返る。

 

セルヴォ:「さて、……じゃあな、ラヴドの兵士たち。次に会う時は任務中かもな……」

 

 二機の影は、夜の帳(とばり)へと静かに溶け込んでいった。呆然と見送るワンダたちの手には、確かな重みが残されていた。

 

ディスト:「……なんか、格好いい。……トゥルースって、実はいい奴らなのかな」

 

 ディストの呟きに、ワンダは白メダリアを強く握りしめた。彼らには彼らなりの、鉄よりも固い「筋」があるのかもしれない。

 共闘し、悪を裁き、共通の「誇り」を分かち合った奇妙な夜。

 

 白メダリアは無事、ラヴドの手に収まった。

 

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[今回登場したメダロット]

【メダプルート】

 通りがかりのただの盗賊。L班とトゥルースの怒りを同時に買ったかわいそうな悪党。

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第二十八話【トゥルース、共闘】終わり

 

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