第三十一話【COSMOS】
エデンから奪取した要塞拠点『ビッグブロック』。
急造された修復跡が随所に残るその最深部で、帰還したワンダ、ディスト、ローラの三機には待機命令が下されていた。
一方、救出されたハードネステンはヴァレンの要請により、厳重な監視下で整備室へと運び込まれている。
そして今。
仮設指令室では、ラヴドの今後を左右しかねない話し合いが行われていた。
ヴァレン:「……で?」
ヴァレンが司令机へ寄りかかりながら尋ねる。
ヴァレン:「何気に白メダリアがここにあるってのは、ハッタリじゃねぇんだな?」
ビーストマスター:「ええ。事実です」
リーダー代行・ビーストマスターが、部屋の中央に置かれた電磁遮蔽ケースへ歩み寄る。
ビーストマスター:「九年前、貴殿が戦場から持ち帰ったとされる白い物体。そして現在、貴殿自身が探しているもの」
ケースのロックが解除される。
防護ガラスの向こうから現れたのは、白く透き通った一つの珠だった。
通常のメダリアとは比較にならないほど大きなエネルギー反応を示し、周囲の解析モニターには絶えず異常値が表示されている。
ビーストマスター:「これが、我々の回収した『白メダリア』です」
ヴァレン:「…………」
それまで軽薄な態度を崩さなかったヴァレンが、黙って白い珠を見る。
ヴァレン:「……何気に、本物だな」
その声音には、わずかながら真剣さが混じっていた。
傍らでは、ブラックメイルが腕を組んでヴァレンを見ている。
ブラックメイル:「英雄さんにゃあ、是非ともラヴドを背負ってほしかったんだがぁ~…なッ」
ヴァレン:「何気に、窮屈なのは苦手なんだわ」
ブラックメイル:「ケッ!」
ブラックメイルが鼻で笑う。
ブラックメイル:「別にリーダーになれとは言わねぇ~…ぞッ! だが、ラヴドに協力してエデンを叩くってんなら――」
白メダリアへ顎を向ける。
ブラックメイル:「その珠はくれてやるぅ~…ぞッ!!」
ヴァレン:「…………」
ヴァレンは少しだけ考えた。
そして肩をすくめる。
ヴァレン:「……何気に商談成立だな」
ケースの中から白メダリアを取り出した。
ビーストマスター:「……その白メダリアについて、我々はN・G・ライトの力と何らかの関係があるのではないかと推測しています」
ヴァレン:「…………」
ビーストマスター:「そして、もう一つの黒メダリア」
ビーストマスターがヴァレンを見る。
ビーストマスター:「あちらは、貴殿が失った何らかの力と関係しているのではないか。……そう考えています」
ヴァレン:「え?」
ヴァレンが素で聞き返した。
ヴァレン:「何気にそこまで分かったの? 頭いいよな、お前ら」
ビーストマスター:「……やはり、無関係ではありませんか」
ヴァレン:「…………」
ヴァレンが僅かに目を逸らす。
ヴァレン:「さて、何のことやら」
ヴァレンは白メダリアを持ったまま、自身の背中へ手を回す。
そして、機体内部に設けられたメダルの補助スロットへ、迷いなく白い結晶を差し込んだ。
――ガヂィッ!!
接続された瞬間。
ヴァレンの全身を光が駆け抜けた。
ビーストマスター:「……!」
排熱口から白煙が噴き出し、関節の隙間から青白い放電が走る。
解析モニターに表示される出力値が、一気に跳ね上がった。
白メダリアから流れ込む、未知の力。
並の機体なら、とても耐えられる出力ではない。
だが。
ヴァレン:「……フゥ」
ヴァレンは何事もなかったかのように肩を回した。
ヴァレン:「ちょっとだけ強くなったぜ」
ビーストマスター:「…………」
ブラックメイル:「…………」
どう見ても、『ちょっと』ではなかった。
―
――――ビッグブロック、整備室。
ハードネステンは、ゆっくりと目を開いた。
ハードネステン:「……ここは……」
見慣れない天井。
身体には応急修理が施され、逃走中に損傷した左脚も最低限の動作が可能な状態まで戻されている。
ハードネステンが半身を起こす。
その時。
ビーストマスター:「……目が覚めましたか」
ハードネステン:「……!」
部屋の奥から、ビーストマスターが姿を現した。
その後方にはブラックメイルも立っている。
ビーストマスター:「その様子なら、基本動作に大きな支障はなさそうですね」
丁寧な態度とは裏腹に、その視線には強い警戒が滲んでいた。
ビーストマスター:「どうも、初めまして。私は新ラヴドリーダー代行、ビーストマスターです。以後、お見知りおきを」
ハードネステン:「……ラヴドの新たな『長』ですか」
ハードネステンは周囲を見回した。
ハードネステン:「それで……私を、これからどうするつもりです?」
ビーストマスター:「それを決める前に、いくつか質問をさせていただきたい」
ビーストマスターが一歩近付く。
ビーストマスター:「まず。何故、貴方はエデンを裏切ったのですか?」
ハードネステン:「…………」
ハードネステンは黙った。
視線を床へ落とす。
ハードネステン:「……それについては」
僅かに間を置く。
ハードネステン:「答えたくありません」
ビーストマスター:「……そうですか」
ビーストマスターは無理に追及しなかった。
ビーストマスター:「では、次の質問です」
ハードネステン:「…………」
ビーストマスター:「貴方は、この後どうするおつもりで?」
ハードネステンは、しばらく答えなかった。
やがて。
ハードネステン:「……できるならば」
顔を上げる。
ハードネステン:「ラヴドへ、入隊したい」
ビーストマスター:「…………」
ブラックメイル:「……あぁ~?」
二機が揃って驚いた。
自由を求めるでもなく。
どこかへ逃げるでもなく。
つい先ほどまで敵だった組織へ、自ら加わるという。
ビーストマスター:「……理由をお聞きしても?」
ハードネステン:「カヲスを倒すためです」
即答だった。
ハードネステン:「それ以外に……今の私が生きる理由はありません」
その目には、迷いよりも強い憎しみが浮かんでいた。
ビーストマスター:「…………」
ビーストマスターはハードネステンを見つめる。
ビーストマスター:「ですが、貴方は元エデン軍の幹部です」
ハードネステン:「……分かっています」
ビーストマスター:「カヲスが送り込んだスパイである可能性も否定できない」
ハードネステン:「…………」
ビーストマスター:「そのような危険を抱えたまま、易々と我が軍へ受け入れるわけにはいきません」
ハードネステンの表情が僅かに強張る。
反論しようとした、その時。
プシュー。
整備室の扉が開いた。
ヴァレン:「はーいはーい」
ビーストマスター:「……?」
ヴァレン:「何気にいい考えがあるぜ、新リーダーさんよ」
現れたのはヴァレンだった。
ビーストマスター:「……英雄殿」
ビーストマスターが眉を寄せる。
ビーストマスター:「許可なく整備室へ入るのは、あまり褒められた行為ではありませんね」
ヴァレン:「いいじゃねぇか」
ヴァレンは気にした様子もなく、ハードネステンの隣まで歩いてくる。
ヴァレン:「話は何気に聞いてたぜ」
ビーストマスター:「…………」
ヴァレン:「コイツがスパイかもしれない。だからラヴドには入れられない」
ハードネステンを見る。
ヴァレン:「……だろ?」
ハードネステン:「貴方……」
ヴァレン:「だったら」
ヴァレンが自分を指差した。
ヴァレン:「オレがコイツの『見張り役』になる」
ビーストマスター:「……貴殿が?」
ヴァレン:「あぁ」
ヴァレンは軽い調子のまま続ける。
ヴァレン:「常にオレの目が届くところに置いとく。もし変な動きをしたら、その時はオレが責任持って止める」
ブラックメイル:「ずいぶんと肩入れするじゃねぇ~…かッ」
ヴァレン:「何気に、助けた奴をすぐ追い出すのも寝覚めが悪いだろ?」
そしてビーストマスターを見る。
ヴァレン:「これが、オレがラヴドに協力するための何気ない『追加条件』だ」
ビーストマスター:「…………」
ヴァレン:「コイツを追い出すってんなら、オレもここを出る」
人を食ったような笑みを浮かべる。
ヴァレン:「選ぶのはアンタだぜ、ビーストマスター」
ビーストマスター:「…………」
ビーストマスターはしばらく考えた。
ハードネステンを受け入れる危険。
そして、ジョーカードの戦力と知識を失う損失。
どちらも無視できない。
だが、少なくともジョーカード本人が監視役を引き受けるのであれば、危険を抑えることはできる。
ビーストマスター:「……分かりました」
ハードネステン:「……!」
ビーストマスター:「英雄殿の身元保証を条件に、ハードネステンのラヴド軍への暫定入隊を認めます」
ヴァレン:「何気に話が早い」
ビーストマスター:「ただし」
ビーストマスターが言葉を続ける。
ビーストマスター:「行動は常に貴殿の監視下に置くこと。そして――」
ヴァレン:「?」
ビーストマスター:「貴殿には、空席となっているL班の班長を務めていただきます」
ヴァレン:「……何気に班長?」
ビーストマスター:「ええ」
僅かに笑う。
ビーストマスター:「そしてハードネステンは、暫定隊員としてL班へ配属します」
ヴァレン:「なるほどな」
ヴァレンがハードネステンを見る。
ヴァレン:「これなら何気に監視もしやすい」
ハードネステン:「……感謝します」
ハードネステンは深く頭を下げた。
ハードネステン:「期待を裏切るような真似はしません」
ヴァレン:「何気に堅苦しいねぇ」
ヴァレンが笑う。
ブラックメイル:「リーダーが決めたことなら文句は言わねぇ~…ぞッ!」
ブラックメイルがハードネステンを見る。
ブラックメイル:「だが、もし裏切ったら――俺も黙っちゃいねぇからぁ~…なッ!!」
ハードネステン:「……承知しています」
こうして。
ハードネステンのラヴドへの暫定入隊と、L班への配属が決まった。
ヴァレン:「……それで何気に悪いんだが」
ビーストマスター:「まだ何か?」
ヴァレン:「このお嬢さんと、何気に二人っきりで話がしたい」
ヴァレンが親指を立てる。
ヴァレン:「五分くらい、席外してくれねぇか?」
ビーストマスター:「…………」
ヴァレン:「何。隠し事の相談よ」
ビーストマスター:「それを本人の前で言いますか……」
ブラックメイル:「ケッ。怪しいことすんじゃねぇ~…ぞッ」
二機は訝しげな視線を残しながら、整備室を出ていった。
扉が閉まる。
ヴァレン:「…………」
ハードネステン:「……?」
ヴァレンはすぐには喋らなかった。
扉の向こうに気配がないことを確認する。
そして懐から、何も書かれていないトランプを一枚取り出した。
ハードネステン:「……何を?」
ヴァレンは答えない。
そのカードへ文字を書き込み、ハードネステンへ渡した。
『DISAPPEARANCEを知ってるか?』
ハードネステン:「……!」
カードに書かれた単語を見た瞬間。
ハードネステンの表情が変わった。
ハードネステン:「……詳細は知りませんが」
小さな声で答える。
ハードネステン:「存在だけは」
ヴァレンは、さらに一枚のカードへ文字を書いた。
『黙っておいた方がいい。あれの存在は、ラヴドとエデンがどうこういう規模の話じゃなくなっちまう』
ハードネステンはその文章を読み終えると、静かにヴァレンを見る。
ハードネステン:「……肝に銘じておきます」
ヴァレン:「……よし」
ヴァレンはカードを回収した。
ヴァレン:「何気に話の分かるお嬢さんで助かるぜ」
一拍置く。
ヴァレン:「……ついでに聞いてやるが」
ハードネステン:「?」
ヴァレン:「何でエデンを抜けた?」
ハードネステン:「…………」
ヴァレン:「あのカヲスに反旗を翻すなんて、何気に相当な理由があるだろ」
ハードネステンは再び目を逸らした。
ハードネステン:「…………すいません」
長い沈黙の後。
ハードネステン:「それだけは……」
ヴァレン:「…………」
ヴァレンは少しだけ彼女を見る。
やがて。
ヴァレン:「まぁ、いいさ」
それ以上は聞かなかった。
―
――――ビッグブロック、L班待機区画。
急造された資材が積まれた通路で、ワンダ、ディスト、ローラの三機が並んでいる。
その前にはビーストマスターが立っていた。
ビーストマスター:「――というわけで」
三機を見る。
ビーストマスター:「英雄ジョーカードを、空席となっていたL班班長として受け入れます」
ワンダ:「本当ですか!?」
ワンダの表情が一気に明るくなった。
ワンダ:「じゃあ、ヴァレンがまた私たちと一緒に?」
ビーストマスター:「ええ」
ビーストマスターが僅かに笑う。
ビーストマスター:「ワンダさん」
ワンダ:「はい?」
ビーストマスター:「今度こそ、彼が逃亡しないように……『厳重』な監視をお願いしますね」
ワンダ:「全くですね!」
ワンダは深く頷いた。
ワンダ:「でも大丈夫です。あいつ、ふざけたヤツですけど……筋は通すタイプですから!」
ビーストマスター:「……そうですか」
穏やかな返事。
だが。
ビーストマスターの意図は、少し違っていた。
先ほど。
ヴァレンはハードネステンと二人きりになり、わざわざ筆談までして何かを話していた。
内容は分からない。
それだけに、気にはなる。
ビーストマスター:(英雄ジョーカード……彼もまた、完全に監視から外してよい存在ではありませんね)
ハードネステンをヴァレンが見る。
そして、ヴァレンをL班が見る。
ビーストマスターは、その形を作っておきたかった。
ビーストマスター:「それと」
ワンダたちを見る。
ビーストマスター:「L班には、もう一機。暫定隊員が加わります」
ディスト:「もう一機?」
ローラ:「誰だ?」
ビーストマスター:「本人から挨拶してもらいましょう」
その時。
通路の向こうから、二組の足音が近付いてきた。
ビーストマスター:「では、私はこれで」
ビーストマスターはその場を離れる。
ワンダ、ディスト、ローラは敬礼して見送った後、足音の方へ振り返った。
ヴァレン:「よっ」
ヴァレンが片手を上げる。
ヴァレン:「待たせたな、お前ら。何気に重要会議が長引いちまってよ」
ワンダ:「ヴァレン!」
ワンダが一歩前へ出る。
そして。
ワンダ:「……え?」
その動きが止まった。
ヴァレンの後ろ。
一機のメダロットが立っている。
ディスト:「う、うわわっ!?」
ディストが反射的に身構える。
ディスト:「何で!? 何でその人がここに!?」
ハードネステン。
つい先ほどまで、エデン軍に追われていた元副官。
ヴァレン:「落ち着けって」
ヴァレンがハードネステンの横へ立つ。
ヴァレン:「今日からコイツは、何気にL班の『新入り』だ」
ワンダ:「新入り……?」
ヴァレン:「正式には暫定隊員だけどな」
自分を指差す。
ヴァレン:「オレが監視役になるって条件で、ビーストマスターを何気に納得させた」
ワンダ:「冗談でしょ!?」
ハードネステンを見る。
ワンダ:「だってこの人、エデンのNo.2だったのよ!?」
ハードネステン:「…………」
ハードネステンは反論しなかった。
ただ、深く頭を下げる。
ハードネステン:「今回、ラヴド軍L班へ配属されることになりました。ハードネステンです」
ゆっくりと顔を上げる。
ハードネステン:「これまで敵対していた私を、すぐに受け入れられないことは分かっています」
ワンダ:「…………」
ハードネステン:「ですが……私は、カヲスを倒したい」
その目を逸らさない。
ハードネステン:「そのためなら、どのような疑いを向けられても受け入れます」
ワンダとディストは答えられなかった。
その時。
ローラ:「…………」
ローラが一歩前へ出る。
ディスト:「ローラ?」
ハードネステンの前まで歩き。
右手を差し出した。
ハードネステン:「……?」
ローラ:「オーロラクイーンのローラだ」
ハードネステンが、差し出された手を見る。
ローラ:「貴殿の目にあるものが、嘘だとは思わぬ」
ハードネステン:「…………」
ローラ:「かつての妾も、そのような暗い淵を見ていた」
ローラは手を引かない。
ローラ:「救われたいと願う者に、昨日の敵味方など関係ない」
真っ直ぐハードネステンを見る。
ローラ:「共に戦おう」
ハードネステン:「…………」
しばらく。
ハードネステンは、その手を見ていた。
そして。
ハードネステン:「……ありがとうございます」
ゆっくりと手を伸ばす。
ハードネステン:「本当に……」
二機の手が重なった。
ワンダ:「…………」
ワンダが小さく息を吐く。
ワンダ:「もう……ローラがそこまで言うなら、私は何も言わないけど」
ディスト:「う、うん。僕も……ローラを信じるよ」
ハードネステン:「……感謝します」
警戒が完全に消えたわけではない。
それでも。
ハードネステンは、L班の前に立つことを許された。
少しだけ場の空気が和らぐ。
その中で。
ディスト:「うーん……」
ディストだけが何やら難しい顔をしていた。
ワンダ:「何?」
ディスト:「ハードネステン……」
首を傾げる。
ディスト:「ハードネステン……」
ワンダ:「だから何なのよ」
ディスト:「ダメだ!」
ワンダ:「何が!?」
ディスト:「やっぱり呼びにくい!!」
ヴァレン:「いきなり何を言い出すんだ、お前は」
ディストは真面目な顔でハードネステンを見る。
ディスト:「だって長いし、何だかカチカチしてて呼びにくいんだもん」
ハードネステン:「…………」
ディスト:「せっかくL班の仲間になったんだから、もっと親しみやすい名前にしようよ!」
そう言って。
自分を指差す。
ディスト:「僕はディストスターのディスト!」
次にワンダ。
ディスト:「こっちはワンダエンジェルのワンダ!」
ワンダ:「勝手に紹介しないでよ」
ディスト:「ね? 呼びやすいでしょ?」
ハードネステンは、少しだけ目を伏せた。
ハードネステン:「……そうですね」
静かに答える。
ハードネステン:「ディストさんの言う通りかもしれません」
ディスト:「でしょ?」
ハードネステン:「私自身も……」
僅かに間を置く。
ハードネステン:「過去の自分とは決別したいと思っていました」
ハードネステン。
それは、カヲスから与えられた機体名。
今の彼女にとって、その名を名乗り続ける理由はもうなかった。
ヴァレン:「何気に、いい考えじゃねぇか」
ヴァレンが笑う。
ヴァレン:「新しい名前」
ハードネステンを見る。
ヴァレン:「自分自身の志を一番強く表す言葉でも、何気に考えてみろよ」
そして、自分の胸を指差す。
ヴァレン:「あ、ちなみにジョーカードのヴァレンでーす♪」
ワンダ:「今さら!?」
ハードネステンは、しばらく考えた。
カヲス。
古い言葉で――『混沌』。
ならば。
その対極。
混沌ではなく。
自らの意志で進むための名。
ハードネステン:「……カヲス」
静かに呟く。
ハードネステン:「あの男を倒すため」
そして。
ハードネステン:「私が……私として生きるために」
顔を上げる。
ハードネステン:「これからは――」
「『コスモス』」
ワンダ:「…………」
ディスト:「…………」
彼女は、はっきりと言った。
ハードネステン:「これからは、私のことをコスモスとお呼びください」
コスモス。
混沌を意味するカヲスとは対極にある言葉。
ハードネステンではなく。
誰かに与えられた名でもなく。
彼女自身が選んだ、新しい名前だった。
ワンダ:「コスモス……」
ワンダが少しだけ笑う。
ワンダ:「うん。いい名前ね!」
手を差し出す。
ワンダ:「これからよろしく、コスモス!」
ディスト:「バッチリだよ!」
ディストも笑う。
ディスト:「コスモス、これから一緒に頑張ろうね!」
コスモス:「……はい」
新たにコスモスと名乗った彼女が、静かに頷く。
ヴァレン:「よし!」
ヴァレンが三機を見回した。
ヴァレン:「これで何気にニューL班、全員集合だな」
ヴァレンを新たな班長として。
そして。
ハードネステンという名を捨てたコスモスを加えて。
新たなL班が、ここに動き始めた。
第三十一話【COSMOS】終わり