第三十四話【ブラックメイルの奇策】
第三十四話【ブラックメイルの奇策】
――――要塞『ビッグブロック』・司令室。
かつてエデン軍の中枢だったその部屋は、今ではラヴド軍の前線司令部として機能していた。
壁一面に並ぶモニターには、周辺地域の情報と両軍の配置が刻一刻と映し出されている。
ブラックメイル:「……英雄も仲間に引き入れたってことは、そろそろエデンとの決着をつける時だぁ~…なッ」
ブラックメイルが拳を握る。
ビーストマスター:「ええ。我々がこのビッグブロックを制圧したことで、戦況は大きく動きました」
ビーストマスターはコンソールへ視線を落とした。
ビーストマスター:「このまま睨み合いを続ける意味も薄いでしょう」
ブラックメイル:「ハッ。だったら話は早いぃ~…なッ!」
ブラックメイルが不敵に笑う。
ブラックメイル:「一気にエデン本部まで攻め落とすぅ~…ぞッ!」
その時だった。
――ウゥゥゥゥゥゥゥゥンッ!!
司令室に警報が鳴り響いた。
赤い警告灯が明滅する。
『敵戦艦発見。敵戦艦発見。ビッグブロック上空へ巨大熱源が接近中』
ブラックメイル:「……おうおう」
ブラックメイルがモニターを見る。
ブラックメイル:「エデンの奴らも、大人しく死ぬ気はねぇってことぉ~…かッ!」
ビーストマスター:「このタイミングで攻めてきましたか……!」
モニターの映像が切り替わった。
二機の目に飛び込んできたのは。
巨大な戦艦。
幾重にも重なる重装甲。
船体各所から、ハリネズミのように突き出した無数の対空砲。
雲を押し退けながら進むその巨体は、ビッグブロック全体へ巨大な影を落としていた。
ビーストマスター:「これは……」
戦艦下部のハッチが次々と開く。
そこから。
無数のエデン兵が降下を始めた。
ブラックメイル:「…………」
ブラックメイルは、その光景を見つめる。
そして。
ブラックメイル:「ビーストマスター」
ビーストマスター:「はい?」
ブラックメイル:「予定変更だぁ~…ぞッ」
ビーストマスター:「…………?」
ブラックメイルが笑った。
ブラックメイル:「敵がこんだけ大勢でこっちまで来てるってことはよぉ~……」
モニターに映る巨大戦艦。
そして。
降下してくるエデン軍。
ブラックメイル:「向こうの本部は、それだけ手薄ってことだぁ~…ぞッ」
ビーストマスター:「……なるほど」
ビーストマスターも意図を理解する。
ブラックメイル:「主力に命令出せ!」
ビーストマスター:「目標は?」
ブラックメイル:「エデン本部!」
ブラックメイルがモニターを指差した。
ブラックメイル:「こいつらがビッグブロックを攻めてる間に、こっちは向こうの本陣を叩くぅ~…ぞッ!」
ビーストマスター:「了解しました」
直ちに。
ビッグブロック周辺へ待機していたラヴド主力軍へ、エデン本部攻略の命令が送られた。
―
――――ビッグブロック・最上階展望デッキ。
ワンダ:「うわ……」
ワンダが空を見上げる。
ディスト:「な、何あれ!?」
ディストも思わず声を上げた。
上空。
空を覆い尽くさんばかりの巨大戦艦が浮かんでいる。
ディスト:「でっか……! 空がほとんど見えないよ!」
戦艦の下部からは、今も次々とエデン兵が降下していた。
ビッグブロックの迎撃設備が火を噴く。
だが。
次から次へと現れる敵兵によって、要塞周辺ではすでに激しい戦闘が始まっていた。
コスモス:「……あれは」
コスモスが目を細める。
コスモス:「十二使徒専用巨大戦艦――『ノアの箱舟』です」
ワンダ:「ノアの……箱舟?」
コスモス:「はい。大量の兵員を輸送しながら、そのまま戦場へ投入することのできる移動要塞です」
コスモスは巨大戦艦を見上げた。
コスモス:「あれを使って、ビッグブロックを直接制圧するつもりなのでしょう」
ヴァレン:「…………」
ヴァレンは、戦艦そのものより。
地上へ降下してくるエデン兵を見ていた。
ヴァレン:「おい」
背後から足音が聞こえる。
振り返ると。
ブラックメイルが展望デッキへ上がってきたところだった。
ヴァレン:「敵さんは何気にゾロゾロ出てきてんのに、何でこっちの軍団は出撃しねぇんだ?」
ブラックメイル:「出撃させたくても、もうここにはいねぇ~…ぞッ」
ワンダ:「……え?」
ブラックメイル:「戦える主力は、たった今エデン本部へ向かわせたぁ~…ぞッ!」
ワンダ:「ええっ!?」
ディスト:「今!?」
ヴァレン:「あぁ!?」
ヴァレンがブラックメイルへ詰め寄る。
ヴァレン:「何気に正気かよ!? こんだけ敵が攻めてきてんのに!」
ブラックメイル:「正気だぁ~…ぞッ」
ヴァレン:「何気に一番信用できねぇ返事だな!」
ブラックメイル:「うるせぇ~…ぞッ!」
ブラックメイルは頭上を指差した。
ブラックメイル:「いいから、お前らはあの『ノアの箱舟』へ乗り込め!」
ローラ:「乗り込む……?」
ブラックメイル:「あぁ。恐らく中には、十二使徒の残りがいる」
コスモスの表情が僅かに変わる。
ブラックメイル:「そいつらを叩き潰して――」
一拍。
ブラックメイル:「戦艦ごとパクゥ~…れッ!」
ワンダ:「パクれって……!」
ディスト:「そんな簡単に言う!?」
ローラ:「つまり……」
ローラが状況を整理する。
ローラ:「妾たちは『ノアの箱舟』を奪取。御二方はビッグブロックを防衛。そしてラヴド本隊は、その隙にエデン本部を攻撃する……ということでよろしいのですね?」
ブラックメイル:「その通りだぁ~…ぞッ!」
ブラックメイルが大きく頷く。
ブラックメイル:「戦艦を奪ったら、そのままエデン本部まで来い!」
ヴァレン:「…………」
ヴァレンが呆れたようにブラックメイルを見る。
ヴァレン:「何気に無茶苦茶だな」
ブラックメイル:「勝ちゃいいんだぁ~…ぞッ!」
ワンダ:「言い切った!」
だが。
やろうとしていること自体は単純だった。
かつてトゥルースは。
ラヴド主力がビッグブロック攻略へ出払った隙を突き、手薄となったラヴド本部を襲撃した。
今回は、その逆。
エデンが大軍をビッグブロックへ送り込んだ隙にラヴド主力が、エデン本部を叩く。
ブラックメイル:「時間がねぇ! さっさと行けぇ~…ぞッ!」
ブラックメイルが、展望デッキ脇に待機していた小型輸送機を指差した。
自動航行に設定された機体。
目的地は。
――『ノアの箱舟』。
ワンダ:「行こう!」
ディスト:「う、うん!」
ローラ:「参りましょう」
コスモス:「…………」
コスモスも静かに頷く。
ヴァレン:「ったく。何気に人使い荒ぇな」
五機が輸送機へ乗り込む。
ハッチが閉まり小型機は滑走路を離れた。
目指すはビッグブロック上空に浮かぶ巨大戦艦。
―
――――ビッグブロック・正面城門。
重厚な城門の前。
二機のメダロットが並んでいた。
ラヴド最強の射撃機。
ビーストマスター。
そして、ラヴド最凶の格闘機。
ブラックメイル。
その向こうには。
降下してきたエデン軍が、地平線を埋めるほど展開している。
ビーストマスター:「…………」
ビーストマスターが敵軍を見る。
ビーストマスター:「主力はすべてエデン本部へ向かわせました」
ブラックメイル:「あぁ」
ビーストマスター:「では、ブラックメイルさん」
ビーストマスターが隣を見る。
ビーストマスター:「本当に、我々だけでこの数を防ぐ方法があるのですね?」
ブラックメイル:「あるぅ~…ぞッ」
ビーストマスター:「精神論ではありませんね?」
ブラックメイル:「違うぅ~…ぞッ」
ビーストマスター:「…………」
ビーストマスターは少しだけブラックメイルを疑うように見た。
ビーストマスター:「なら、信じましょう」
城門が開く。
その向こう。
エデン兵が一斉にこちらへ向かってきた。
ビーストマスター:「で?」
ビーストマスターが全身の砲門を開く。
ビーストマスター:「どうするんですか?」
ブラックメイル:「こうするんだぁ~……ぞッ!!」
ビーストマスター:「?」
ブラックメイルが踏み込んだ。
右拳。
狙うのは。
ビーストマスターの頭部。
ブラックメイルは長年この男と共に戦ってきた。
そしてどの程度の衝撃を、どこへ与えれば、ビーストマスターの理性が外れやすいのかを、野生の勘で理解していた。
ビーストマスター:「ちょ――」
――ドゴォォォンッ!!
拳が側頭部へ叩き込まれた。
ビーストマスター:「がっ……!」
ビーストマスターの巨体が大きく揺れる。
ブラックメイル:「…………」
そのままブラックメイルは後退した。
ビーストマスター:「……ブラック……メイル……さん……?」
ビーストマスターの身体が小さく震える。
頭部のバイザーから。
青い光が消えた。
ビーストマスター:「…………」
静止。
次の瞬間。
赤い光が灯った。
ビーストマスター:「……ハ……」
低い声。
ビーストマスター:「ハカ……イ…………」
ブラックメイルはすぐさま城門の内側へ下がる。
そのまま城門を閉め始めた。
ブラックメイル:「じゃあぁ~…なッ」
迫っていたエデン兵たちが足を止める。
「……?」
「仲間割れか?」
ビーストマスターは動かない。
ただ。
俯いたまま。
ビーストマスター:「ハ……カイ……」
一機のエデン兵が警戒しながら近付く。
その瞬間。
ビーストマスター:「ハ カ イ ィ ィ ィ ィ ィ ィ !!!!!」
全砲門が開いた。
「!?」
――ドドドドドドドドドドドドッ!!
ミサイル。
ナパーム。
レーザー。
ありとあらゆる火器が、一斉に発射された。
エデン兵たちが次々と吹き飛ばされる。
爆炎が地面を走る。
さらに。
次。
その次。
冷却など待たない。
照準もほとんど関係ない。
目の前に存在するものへ。
ひたすら攻撃を撃ち続ける。
ビーストマスター:「ハカイ! ハカイ! ハカイィィィィィィ!!」
エデン兵たちが一斉に散開した。
「こいつ……!」
「止まらないぞ!」
「囲め!!」
だが囲んだ瞬間。
ビーストマスターの砲門が四方へ向く。
爆発。
砲撃。
炎。
たった一機の暴走によって。
城門前は瞬く間に地獄と化していった。
―
ビッグブロック内部。
閉ざされた城門の陰。
ブラックメイル:「…………」
ブラックメイルが、監視モニター越しに外を見る。
そこではビーストマスターが、敵軍のど真ん中で好き放題暴れていた。
ブラックメイル:「うわぁ……」
少し引いた。
ブラックメイル:「やっぱアイツこわー」
さらに巨大な爆発が城壁のすぐ外で起きる。
ビッグブロックが僅かに揺れた。
ブラックメイル:「…………」
ブラックメイルが城壁を見る。
ブラックメイル:「ビッグブロックの方が耐えきれるか心配だぁ~…ぞッ」
と、暴走させた張本人は無責任につぶやいた。
―
――――上空。
小型輸送機が、強い風を受けながら高度を上げていた。
正面に見えるのは巨大戦艦『ノアの箱舟』。
近付けば近付くほど、その異常な大きさが分かる。
ディスト:「うわぁ……」
ディストが窓から見上げる。
ディスト:「近くで見ると、本当に大きいね」
ヴァレン:「何気に要塞そのものだな」
ワンダ:「これ、本当に奪えるの……?」
ヴァレン:「何気にブラックメイルへ聞けよ」
ワンダ:「あの人に聞いても『パクれ』しか言わないでしょ!」
その時。
コスモス:「…………」
コスモスが前方を見る。
コスモス:「甲板に反応があります」
ローラ:「数は?」
コスモス:「五」
一拍。
コスモス:「……全員、十二使徒です」
機内の空気が変わった。
ワンダ:「やっぱり……」
コスモスは黙って甲板を見つめる。
かつて同じ十二使徒として戦った仲間たち。
だが。
今の自分は。
エデンを裏切った者。
コスモス:「…………」
覚悟はできていた。
小型輸送機が甲板へ接近する。
減速。
そのまま。
広大な飛行甲板へ着陸した。
ハッチが開く。
強い風が吹き込む。
ワンダ:「行こう!」
五機が甲板へ降り立った。
その正面ではすでに五機のメダロットが待っていた。
一機。
黄色い装甲のメタル・ビートル。
一機。
猫背のブラックスタッグ。
一機。
大天使パーティクル。
一機。
紅い悪魔ブロッソメイル。
そして。
一機。
グレイン。
ビッグブロックで戦列から失われた六機、そしてエデンを去ったコスモス、それらを除く現在の十二使徒、五機だった。
「……来はりましたね」
メタル・ビートルが呟く。
その声には。
僅かに複雑な感情が滲んでいた。
「……来なければ、こちらから要請するつもりでしたが、手間が省けましたね」
ブラックスタッグが淡々と続ける。
「哀しき運命…デスティニーが、僕らを再び一つの場所に導いたか……」
パーティクルが静かに微笑む。
「…………」
そしてブロッソメイルは何も言わなかった。
ただ紅い目でコスモスを見つめている。
最後にグレインが前へ出てL班を指差す。
「おっ!敵さんが、さり気に降りてきたぜ!」
少しだけ。
妙な空気が流れた。
だが次の瞬間には再び緊張が甲板を支配する。
かつて同じ十二使徒として戦った者たち。
今、その一機であったコスモスは彼らの敵として立っていた。
第三十四話【ブラックメイルの奇策】終わり