第三十五話【仲間を求めて】
――――「エデン」本部・トゥルースのお部屋。
巨大なファンが低く唸りを上げ、執務室の空気をゆっくりとかき回している。要塞『ビッグブロック』にはノアの箱舟が来襲し、その隙を突いたラヴド本隊がエデン本部へと迫りつつある中、この部屋だけは奇妙な静けさに包まれていた。
主任デュオカイザーがキーボードを叩き、一つのファイルを閉じる。その傍らでは、セルヴォとビートが壁に寄りかかりながら報告を終えたところだった。
デュオカイザー:「なるほどねぃ……」
セルヴォとビートが先日、森でヴァレンから聞かされた『DISAPPEARANCE』――過去に起こった事実そのものを物理的に消滅させる機械。その情報は、包み隠さずデュオカイザーへ報告されていた。
セルヴォ:「さて、デュオさん。やっぱり、あのカヲスさんの真の目的ってのは……」
デュオカイザー:「決まってるじゃな~ぃ。『N・G・ライトの死』という歴史そのものを、この世から消し去るつもりなのょ」
デュオカイザーは面白そうに目を細めながら言い切った。あくまで彼女の推測ではあるが、これまでのカヲスの行動と『D』の能力を照らし合わせれば、そう考えるのが最も自然だった。
ビート:「……やはり、そうか。そのために科学部に籠もっていた、と」
セルヴォ:「さて……俺たちにゃあ、不利益もなさそうだが」
デュオカイザー:「そぅねぃ……。『D』については、しばらく様子を見るべきねぃ」
デュオカイザーは不敵に笑う。
その一方で、ラヴド軍の主力部隊は着々とエデン本部への包囲網を狭めていた。歴史の歯車は、トゥルースの静観など意に介さず動き続けている。
―
――――巨大戦艦『ノアの箱舟』・飛行甲板。
雲海を貫き、高高度を巡航する鋼鉄の巨躯。その広大な甲板では、身体ごと吹き飛ばされそうな烈風が絶えず吹き荒れていた。
そこに立つワンダ、ディスト、ローラ、ヴァレン、そしてコスモスの五機。その正面には、同じく五機のメダロットが立ちはだかっている。
ヴァレン:「お、揃いも揃ってお出迎えとは、何気に歓迎されてるなー、コスモス」
ヴァレンの軽口を聞き流し、コスモスは一歩前へ出た。かつて同じ場所で戦った仲間たちを順番に見つめながら、L班へ紹介していく。
コスモス:「……関西弁の方が、メタル・ビートルの『リーブ』さん。猫背のブラックスタッグが『竜』さん。平和主義者、パーティクルの『ナギサ』さん。寡黙なブロッソメイルの『レッド』さん。そして――」
最後に、最も好戦的な笑みを浮かべている一機へ視線を向ける。
コスモス:「グレインの『タイン』さん。……私と共にカヲスに仕えた、エデン軍リーダー直下戦闘特化集団『十二使徒』たちです」
紹介が終わると、黄色い装甲のリーブが一歩前へ進んだ。
リーブ:「……ハードネステンさん。紹介、おおきに」
その言葉に皮肉はなく、むしろ久方ぶりに仲間と会えたことへの安堵が滲んでいた。
タイン:「何で抜けたのかは分かんねーけどよ、さり気に俺たちのところに戻って来いよ! 悩みがあるなら聞くぜ?」
タインも悪意のない笑みを浮かべている。ナギサは穏やかに微笑み、レッドは何も語らず、ただ紅い目でコスモスを見つめていた。
かつての仲間たちから向けられる視線に、コスモスの胸中にも僅かな揺らぎが生まれる。それでも彼女が一歩退くことはなかった。
コスモス:「……すみません。私はもう、戻ることはありません。〝ハードネステン〟という名も捨てました」
静かに、しかしはっきりと告げる。
コスモス:「私の新しい名前は……『コスモス』です」
ナギサ:「コスモス……。神によって秩序を与えられた宇宙を意味する言葉。そして、その対となる『カオス』は、神が手を施す以前の混沌とした宇宙を意味する……。つまり、カヲスさんと完全に対立するという君の決意が、その名には込められているのだね……。フフフ……素敵な名前だ」
ナギサは春風のような笑みを浮かべながら、長々と解説を続けた。
コスモス:「……解説ご苦労様です、ナギサさん。相変わらずの長セリフですね」
コスモスは固い表情のまま返した。
リーブが切なげに目を伏せる。だが、そこへ竜が一歩前へ出た。
竜:「では……皆さん。私たちと、一つの『ゲーム』をしませんか?」
ディスト:「ゲーム?」
竜:「ええ。内容は単純な戦いです。偶然にも私たちとあなたたちは、それぞれ五機ずつ。ちょうど一対一の勝負を五回できます」
竜はいつも通りのポーカーフェイスを崩さず続ける。
竜:「五回のうち、勝利数が多い側の勝ち。そして、私たちが勝った場合には、コスモスさんをこちらへ返していただきたい」
ワンダ:「……!」
竜:「もし、あなたたちが勝てば――」
僅かに間を置いた後、竜は平然とした顔で、とんでもない条件を口にした。
竜:「私たち五機全員が、ラヴドの仲間になりましょう」
ワンダ:「……ええっ!? 冗談でしょ!?」
竜の発言にL班の面々がギョッとし、一斉にコスモスを見る。
当のコスモスは、しばらく無言で竜を見つめていた。
コスモス:「…………」
自分自身の行く末。
そして、かつての仲間たちの未来まで懸かった勝負。
それでも、彼女の答えは早かった。
コスモス:「……いいでしょう。その『勝負』、引き受けます」
毅然とした即答だった。
こうして、両陣営による五番勝負の開催が決まった。
リーブ:「ほな、決まりや。奥にコロシアムがあるから、そっちで派手にやりましょか!」
リーブが先導しようとした、その時だった。
ヴァレン:「やっしゃ! 戦いなら何気に――」
タイン:「うっし! 戦いならさり気に――」
ヴァレンとタインが同時に一歩前へ踏み出し、まったく同じタイミングで叫んだ。
ヴァレン&タイン:「「俺のLv255のバグミュウツーの実力を見せてやる!!」」
静寂が訪れた。
あまりにも完璧な、そしてあまりにも古いネタのシンクロだった。普段なら真っ先にツッコミを入れるワンダでさえ、思わず言葉を失っている。
ヴァレンとタインは目を見開き、互いの顔を凝視した。
ヴァレン:「……な、何気にネタが被っただと……!?」
タイン:「……さ、さり気にネタが被ったぁ……!!?」
先ほどまで存在しなかったはずの、得体の知れない対抗意識が二機の間に生まれた。
ヴァレン:「おい、タインとか言ったな。……何気にオレとネタを被せるとは、やってくれるじゃねえか」
タイン:「おうおう、言ってくれるねぇ。……お前とは本戦の前に、ここで『さり気に』決着をつけてやる! 漢のギャグバトルでな!」
ヴァレン:「ほっほ~? 何気に受けて立つぜ。……煩悩の数だけネタを持つオレを、何気になめるなよ?」
竜:「…………。皆さん、放っておきましょう。いつものタインのボケです。……行きましょうか」
竜は呆れた様子でそう告げると、二機を置いたまま戦艦内部へと歩き始めた。
ワンダ:「え、いいの!?」
竜:「いいんです」
戸惑いながらも、ワンダたちはその後を追う。
ヴァレン:「お前ら、何気に先に行ってろ! オレはこいつを、何気に笑い死にさせてから行く!」
タイン:「さり気に、勝てたらの話だがな!」
ヴァレン:「は?」
タイン:「あ?」
甲板には、妙な意味で一触即発となった二機だけが残された。
―
巨大戦艦の内部。
分厚い隔壁の向こう側には、外で吹き荒れる烈風が嘘のように静かな、広大な円形競技場が存在していた。
中央にはロボトル用のステージ。その周囲を取り囲む観客席には、十二使徒とラヴドL班の面々が向かい合うように陣取っている。
リーブ:「ほな! あの二機が甲板でアホなことしたはる間に、僕らは始めときましょか。そっちのチームの一番手さん、ステージに上がってや~」
ディスト:「は~いは~い! 僕、一番手がいいー!」
リーブの呼びかけに応じ、ディストが元気よく飛び出した。未知の強敵と戦えることが純粋に嬉しいらしく、その目を輝かせながらステージへ飛び乗る。
対する十二使徒側からは、リーブ自身がゆっくりとステージへ上がった。
ディスト:「僕はディストスターの『ディスト』! よろしくね!」
リーブ:「僕はメタル・ビートルの『リーブ』て言います。こちらこそ、よろしゅう頼んますわ」
二機が互いに構える。
リーブ:「……ほな、闘りましょか」
巨大戦艦『ノアの箱舟』の内部で。
コスモスと残る十二使徒五機の行く末を懸けた五番勝負。
その第一回戦が、始まろうとしていた。
第三十五話【仲間を求めて】終わり
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[今回新しく登場したメダロット]
【メタル・ビートル(リーブ)】
エデン軍。十二使徒の一員。
関西弁で礼儀正しく、常識のある男。
【ブラックスタッグ(竜)】
エデン軍。十二使徒の一員。
猫背で、何を考えているかよく分からないポーカーフェイスの女。
【パーティクル(ナギサ)】
エデン軍。十二使徒の一員。
常に爽やかな笑みを浮かべ、耽美な話し方をする男。
※パーティクルは本来女性型メダロットだが、メダル人格は男。
【ブロッソメイル(レッド)】
エデン軍。十二使徒の一員。
無口な女。
【グレイン(タイン)】
エデン軍。十二使徒のエース。
強い。だが、あえて言おう。バカである。
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