第三十七話【独りじゃない】
二回戦:ローラ VS 竜
一回戦、敗北。
コロシアムのステージから、ディストが肩を落として戻ってきた。損傷した頭部パーツからは、まだ細い煙が漏れている。
ディスト:「ごめん……僕、負けちゃった……」
俯いたままのディストへ、ローラがそっと手を伸ばした。その手を傷ついた頭部装甲へ置き、優しく撫でる。
ローラ:「気にする必要はない。お前は立派に戦った。それに、お前の見せた勇ましき姿は決して無駄ではない」
ローラは微かに笑った。
ローラ:「妾を必ずや勝利へと導く糧となるだろう」
ディスト:「ローラ……」
ディストは目を見開いた。胸の中に重く沈んでいたものが、少しだけ軽くなった気がした。
ローラ:「では、行って参る。見ていてくれ……我が勝利を」
ローラは踵を返し、静かな足取りでステージへ上がっていく。金属製のスキー型脚部が床を叩く硬質な音が、競技場へ響いた。
その正面で待っていたのは、極端な猫背が特徴的なブラックスタッグ――竜だった。
竜:「……お待たせしましたね、ローラさん。私は竜。よろしくお願いします」
低く淡々とした声。とぼけたようなポーカーフェイスを崩すことなく、竜は索敵機能を働かせ、ローラの全身を注意深く観察していた。
ローラ:「妾はオーロラクイーンのローラ。……先の戦いはそちらの勝利であったが、今度は妾たちが勝利を頂くぞ」
ローラが鋭い目で睨みつける。
竜:「いいんですか……? 私、結構強いですよ……?」
その顔に浮かぶ表情は変わらない。だが、その言葉には自らの実力に対する揺るぎない自信があった。
二機の間へ緊張が走る。
フィールドの外では、先ほどの戦いを終えたばかりのリーブが号砲用のピストルを構えていた。
リーブ:「ほな、いきまっせ~」
――バァンッ!!
号砲が響き、第二回戦の幕が上がった。
だが、試合が始まっても二機はすぐには動かなかった。
ローラは右腕のフォー・パーツ『ダブレスト』を構え、相手の出方を待つ。対する竜も猫背の姿勢をさらに深くし、索敵によってローラの動きを探っていた。
数秒の静寂を破り、先に動いたのは竜だった。
竜:「……分析、完了」
次の瞬間、竜が一気に地を蹴った。
ブラックスタッグの機動力を活かし、ローラとの間合いを瞬く間に詰める。ローラも攻撃が来ることは予測していた。ソードの軌道を読み、ダブレストのコアを展開して青い障壁を作り出す。
しかし。
ローラ:「……!? 蹴りだと……!?」
竜が放ったのは、右腕のソードでも左腕のハンマーでもなかった。
しなやかに振り上げられた脚部による、カポエラを思わせる変則的な蹴り。
通常、脚部による打撃は専用の格闘パーツほどの威力を持たない。だが竜は、全身の動きを一つの蹴りへと集約し、脚部そのものを立派な武器として鍛え上げていた。
――ガギィィィィィンッ!!
鋼鉄の爪先が青い障壁を叩く。
衝撃を受けたローラの機体が、数メートル後方へ滑った。
竜:「オーロラクイーン……。伝説のフォー・パーツによって仲間を守り続け、今ではその存在自体がエデンの脅威となっている」
竜は着地と同時に距離を取り、猫背のままローラを見上げた。
ローラ:「随分と妾に詳しいな」
竜:「すいません。気になることは、とことん追求するタチでして」
竜の視線が、ローラの右腕へ向く。
竜:「……ローラさん。その『ダブレスト』。一見すれば無敵の盾ですが、障壁を発生させるコアそのものの耐久力は、存外に低いのではありませんか?」
淡々とした口調だった。
だが、その指摘はダブレストの弱点を正確に突いていた。
竜:「私はこの戦いで、その盾を粉々に破壊してみせましょう。……そうですね。成功確率は五%といったところでしょうか」
ローラ:「フン……五%の割には、随分と饒舌だな。妾の盾が砕けるのが先か、お前の体が凍りつくのが先か……試してみるがいい!!」
再び竜が仕掛ける。
蹴り。
回し蹴り。
さらに踏み込みからの鋭い一撃。
そのすべてが、青い障壁を作り出しているコアの一点へ集中していた。
――ガギィィィンッ! ガギィィィンッ!!
ローラは障壁で攻撃を受け止め続ける。だが、竜の執拗な連撃によって、コアへ少しずつ熱が蓄積していた。
ローラ:「(……何だ? 奴の狙いは……)」
同じ場所を叩き続ける竜の脚部。
その摩擦によってコアは次第に熱を帯び、周囲の空気が僅かに揺らぎ始める。
竜:「……ローラさん。そんなに守ってばかりでは、私を凍らせることはできませんよ?」
挑発するような口調とは裏腹に、竜の表情は相変わらず何を考えているのか分からない。
さらに回し蹴りが飛ぶ。
ローラ:「お望み通り……凍りつくがいい!!」
ローラは障壁を一瞬だけ解き、その隙間から左腕を突き出した。
至近距離から極低温の冷気が放たれる。
竜:「……!」
逃げ場はなかった。
竜の両腕が瞬く間に氷へ覆われ、完全な『フリーズ』状態へ陥る。
ローラ:「勝機……!!」
ローラが追撃へ移ろうとした、その瞬間。
竜が動いた。
ローラ:「な……!?」
凍りついた両腕を、竜はそのままダブレストのコアへ力任せに押し当てる。
竜:「……ローラさん」
ポーカーフェイスのまま、静かに告げた。
竜:「『五%』が、現実になる瞬間ですよ」
―
十二使徒・竜。
彼女にとって、この勝負の結果が自分たちをどちらの陣営へ導こうが、それは「どうでもいいもの」だった。
思考力に優れる彼女は、元々とある探偵事務所の所長だった。
もっとも、所長といっても部下も同僚も存在しない一人事務所である。原因は、彼女自身のお世辞にも良いとは言えない性格にあった。
そんな竜のもとへ、ある日エデン軍から十二使徒への勧誘がやってきた。
半ば無理矢理働かされる形で十二使徒となったものの、その待遇は悪くなく、居心地もそれなりに良かった。
それでも彼女の本音は単純だった。
さっさと戦争を終わらせ、以前の自由な生活へ戻りたい。
そんな中で飛び込んできたのが、ハードネステン――コスモスの離反だった。
拮抗していたラヴドとエデンの勢力図が大きく傾く。
そう判断した竜の行動は早かった。
コスモスを取り戻すという名目で残る十二使徒たちをたぶらかし、戦争の勝敗を左右するだけの戦力を一つに集めた。
エデンに残って戦うにせよ。
この五番勝負に敗れてラヴドへ加わるにせよ。
自分たち五機が加勢した側が、いずれ戦争を制するだろう。
竜はそう考えていた。
だからこそ、「負ければラヴドの仲間になる」などという条件を平然と提示できたのである。
では、どちらが勝っても構わないはずの竜が、なぜ今、持てる情報のすべてを使い、これほどまでに勝利へ執着しているのか。
理由は、極めて単純だった。
彼女は。
『負けず嫌い』なのである。
―
――ビキィィィィィィィッ!!
耳を塞ぎたくなるような破砕音が、競技場へ響き渡った。
度重なる蹴りによって熱を帯びていたダブレストのコアへ、フリーズ状態の竜の両腕が押し当てられる。
急激な温度差に耐えきれず、その表面へ一気に亀裂が走った。
ローラ:「な……っ!? 盾が……!」
次の瞬間。
――パリンッ!
青い障壁が砕け散る。
同時に、ダブレストのコアと外装の一部が破片となって弾け飛んだ。
ローラ:「砕けた……!?」
竜:「……どんなに強力な装備であっても、物理法則からは逃れられません」
竜は凍った腕を下ろす。
竜:「……さようなら、ラヴドの守護神」
障壁を失ったローラの腹部へ、竜の蹴りが深々と突き刺さった。
ローラ:「ぐっ……!」
ローラが吹き飛ばされる。
ステージの縁まで転がり、仰向けに倒れ込んだ。
ワンダ:「ローラ!! 嘘……あの盾が、壊されるなんて……!!」
ディスト:「ローラ! 立って! 立ってよ!!」
仲間たちの声が聞こえる。
だが、全身に受けた衝撃のせいか、その声は今のローラにはひどく遠く感じられた。
視界の先では、竜がゆっくりと近づいてくる。
勝ち誇る様子もない。ただ、この勝負を確実に終わらせるために。
竜:「……おしまいです、ローラさん。勝ち星をいただきますね」
竜が脚を振り上げる。
敗北を覚悟した瞬間。
ローラの意識に、一年前の記憶が蘇った。
パーツ運搬という大役を押しつけてしまった親友。
フェニ。
砕け散ったメダル。
何も守れなかった自分。
そして、あの日に感じた孤独。
ローラ:(……ああ。妾は、また何も守れぬまま負けるのか……。すまぬな、皆……。……フェニ……)
その時だった。
――違うよ、ローラ。
ローラ:「…………?」
一瞬。
ローラの目の前に、見慣れた影が立っていたような気がした。
太陽のように明るく。
お節介なほどに温かい、あの男。
聞こえるはずのない声が、確かにローラへ語りかけてくる。
――僕が、君が震えたときに手を引いてあげる。
ローラ:(……フェニ……?)
――あの日、止まらなかった泣き声……これからは僕たち二人で、止めてあげようよ。
あの日の約束。
忘れたことなど、一度もなかった。
ローラの胸の奥が熱くなる。
同時に、砕けたダブレストの破片が赤い光を帯びた。
ローラ:(……そうだ)
右腕へ。
あり得ないほどの熱が集まっていく。
ローラ:(妾は……独りではない)
竜の蹴りが振り下ろされた。
――ドォォォォォォンッ!!
ステージが砕け、土煙が巻き上がる。
竜:「…………?」
だが。
そこにローラの姿はなかった。
竜:「……かわされた……?」
竜が振り向く。
その目が、初めて大きく見開かれた。
竜:「……この熱量は……」
ローラは立っていた。
砕けた外装を残す右腕。
かつて青い障壁を作り出していたダブレストは今、周囲の空気を歪ませるほどの紅蓮の炎に包まれている。
舞い散る火の粉。
装甲を伝っていたオイルさえ、熱によって瞬時に蒸発していった。
ローラ:「……すまぬな、フェニ」
ローラが右腕を見つめる。
ローラ:「妾としたことが、お前の温もりを忘れかけておった」
そして顔を上げた。
ローラ:「……だが、もう迷わぬ」
右腕から紅蓮の炎が噴き上がる。
それは。
かつてフェニ――デスフェニックスが得意としていた『ファイヤー』そのものだった。
竜:「……ファイヤー攻撃……?」
竜のポーカーフェイスが崩れる。
竜:「オーロラクイーンが、何故……!?」
竜の知るローラの情報には存在しない力だった。
氷を操るオーロラクイーン。
絶対防御を誇るダブレスト。
そのどこにも、『炎』など存在しない。
竜:(……あり得ない。データの書き換え……? いや、出力変異……? 何が何だか分からない……)
これまで集めたどの情報にも当てはまらない。
竜の思考が、初めて目の前の相手へ追いつかなかった。
それでも竜は立ち止まらない。
地を蹴り、得意の蹴りをローラの右腕へ叩き込もうとする。
ローラ:「……お前の論理は、確かに見事だった」
ローラも踏み込む。
ローラ:「だが、絆の熱さまで測ることはできなかったな!!」
蹴りを紙一重でかわし、炎を纏った右拳を、竜のガード越しに頭部へ叩きつけた。。
――ゴォォォォォォンッ!!
爆炎が広がる。
竜:「……っ!」
竜の両腕が高熱に晒され、一気に赤く染まった。
竜が後退しようとする。
だが、ローラは逃がさない。
ローラ:「高温の物体を急激に冷やすとどうなるか……」
左腕を構える。
ローラ:「お前が妾に教えてくれたことだ!!」
右腕の炎が消えぬうちに、左腕から極低温の冷気が叩き込まれた。
『ファイヤー』。
そして。
『フリーズ』。
熱せられた竜の頭部へ、冷気が直撃する。
――ビキィィィィィィィンッ!!
先ほどダブレストを破壊したものと同じ破砕音。
竜の頭部装甲へ蜘蛛の巣状の亀裂が走った。
竜:(私の知る情報……最善の作戦……すべてをぶつけたはず………が……ま…。)
竜の膝が床へ落ちた。
その目から光が消える。
自ら仕掛けた熱と冷気の罠を、今度は真正面から返されて。
十二使徒の一角が、静かに機能を停止した。
第二回戦:ローラ VS 竜
《勝者:ローラ(&フェニ)》
ローラは静かに拳を開いた。
周囲には、砕け散ったダブレストのコアと外装片。
その向こうには、機能停止した竜が倒れている。
ローラ:「……お前の敗因は、ただ一つ」
ローラが右腕へ視線を落とした。
ローラ:「妾が、独りではなかったことだ」
一瞬だけ。
どこからか、懐かしい笑い声が聞こえたような気がした。
ローラ:「……感謝するぞ、フェニ」
右腕を包んでいた炎が、ゆっくりと消えていった。
―
――――同時刻、ノアの箱舟・甲板。
階下のコロシアムでワンダたちがローラの勝利を喜んでいることなど、この二機は微塵も知らなかった。
ヴァレンとタインは、機体から立ち昇る排熱で陽炎を作りながら、極限の「思考の死闘」を続けていた。
ヴァレン:「……ハァ、ハァ……。何気に、今の『あるある』の応酬で、オレの語彙回路の半分が死んだぜ……」
タイン:「クッ、さり気に俺もだ……。だが、ここからは漢の領域」
タインが指を突きつける。
タイン:「第二回戦のお題は……『親父ギャグ』だ!!」
ヴァレン:「望むところだ! そして何気に先手必勝だ!!」
ヴァレンが大きく息を吸った。
ヴァレン:「……『布 団 が … … 吹 っ 飛 ん だ』!!!」
――ドォォォォォォンッ!!
背後に存在しない爆発が見えるほどの気迫だった。
タイン:「グ、グハァァァァァッ……!!? 禁忌の最大奥義をいきなり使いやがったな!?」
タインが胸を押さえ、大きく仰け反る。
タイン:「……だが、さり気に耐えきってみせるぜ!! なら、俺はこれだッ!!」
構える。
タイン:「……『ゾ ウ だ ぞ う』!!!!!」
ヴァレン:「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!? 何気に封印されし伝説のギャグがぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ヴァレンは無駄に派手な動きで甲板を転がり、のたうち回った。
第三十七話【独りじゃない】終わり
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[機体解説]
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【キャラクター名】
竜
【機体名】
ブラックスタッグ
【公式/オリメダ区分】
公式(メダロット3、4など)
【モチーフ(型式)】
クワガタムシ型メダロット(KWG)
【パーツ】
[頭部]
ブラックインコム/索敵(まもる)
[右腕]
ブラックバイス/ソード(なぐる)
[左腕]
ブラックビート/ハンマー(がむしゃら)
[脚部]
ブラックフラック/二脚
【変形後】
[変形後ドライブA]
索敵(まもる)
[変形後ドライブB]
ソード(なぐる)
[変形後ドライブC]
ハンマー(がむしゃら)
[変形後脚部タイプ]
飛行
【備考】
公式(メダロット3)情報を参照。
両腕だけではなく、脚部パーツでも攻撃可能に鍛え上げられている。
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【キャラクター名】
ローラ
【機体名】
オーロラクイーン(右腕換装、炎覚醒)
【公式/オリメダ区分】
公式+オリジナルパーツ
【モチーフ(型式)】
雪の女王型メダロット(QUN)
【パーツ】
[頭部]
ブリザード/フリーズ(なぐる)
[右腕]
ダブレスト/ぜったいガード or ファイヤー(がむしゃら)
[左腕]
フリーズ/フリーズ(がむしゃら)
[脚部]
ソリスキー/二脚
【備考】
フォー・パーツ『ダブレスト』に右腕を換装し、亡き親友への想いによって覚醒したローラ。
その右腕には、『ぜったいガード』と炎を操る二つの力が宿っている。
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【キャラクター名】
フェニ
【機体名】
デスフェニックス
【公式/オリメダ区分】
公式(メダロット2など)
【モチーフ(型式)】
フェニックス型メダロット(PHX)
【パーツ】
[頭部]
ブラストライフル/ファイヤー(なぐる)
[右腕]
ファイアライフル/ファイヤー(なぐる)
[左腕]
フレイムライフル/ファイヤー(がむしゃら)
[脚部]
クリムゾンテイル/飛行
【備考】
公式(メダロット2)情報を参照。
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