第三十九話【 THE DIAMOND'S BODY ISN'T INJURED 】
第三回戦、決着。
ナギサの放った慈愛の余韻が消え、砂塵の舞うコロシアムには再び張り詰めた空気が戻っていた。
通算成績、一勝二敗。
ラヴドL班にとって、次の一戦を落とせばその時点で敗北が確定する。文字どおり、後がない。
その重圧を背負い、かつて十二使徒を率いていたコスモスが静かに前へ出た。
ワンダ:「コスモス……! 負けたら承知しないわよ。絶対に、絶対に勝ちなさいよ!」
ディスト:「そうだよ! ここで負けちゃったら、コスモスがエデンに連れて行かれちゃう……。そんなの絶対ダメだ!」
場外からワンダとディストの必死な声が飛ぶ。
その後ろで、ローラは呆れたように二機を見ていた。
ローラ:「お前たち……自分たちの試合結果、覚えているか……?」
ワンダ&ディスト:「「…………」」
コスモスはそんなやり取りを背に、ステージ中央へ進んだ。
やがて、対面へ一機のメダロットが降り立つ。
深紅と銀の装甲。
悪魔を思わせる禍々しい姿を持つブロッソメイル。
十二使徒、四番手――レッド。
背中から伸びる翼のような鋭利なパーツが、戦艦内の照明を冷たく反射する。レッドは両腕を構えたまま、無言でコスモスを見つめていた。
沈黙。
本来、レッドは十二使徒の中でも特に口数が少ない。
必要最低限の言葉すら滅多に発しない彼女だったが、今日は違った。
レッド:「…………コスモス………………」
掠れた声だった。
場外のリーブと竜が、僅かに目を見開く。
レッド:「…………友達…………。……勝って…………取り戻す………………」
たどたどしく。
それでも、そこには普段の彼女からは想像もつかないほど強い感情が込められていた。
レッドにとってコスモス――かつてのハードネステンは、十二使徒を率いるリーダーである以上に、大切な仲間だった。
レッドは言葉ではなく、その右腕をコスモスへ向ける。
共に過ごした日々への執着を、隠そうともしなかった。
対するコスモスは動じない。
ダイヤモンドを模したピンク色の装甲に覆われた身体を真っ直ぐに立たせ、静かに告げた。
コスモス:「違います。私は裏切り者……貴方の倒すべき敵です」
レッド:「…………」
コスモス:「かつての仲間だからといって、情けをかける必要はありません」
コスモスはL班の仲間たちへ一瞬だけ目を向けた。
今の自分を信じ、受け入れてくれた者たち。
その信頼に応えるためにも、ここで過去へ甘えることはできない。
コスモス:「レッドさん。情けは無用です。……全力で来なさい」
レッド:「…………コスモス………………」
レッドの瞳で紅い光が激しく明滅する。
悲しみ。
怒り。
そして、失ったものを取り戻したいという渇望。
すべてが、一つの闘争心へ変わっていく。
フィールドの外では、ディストが競技用のピストルを構えていた。
ディスト:「じゃあ、いくよ……! ロボトル、ファイト!!」
――バァンッ!!
号砲が響いた。
絶望を拒むダイヤモンドと。
失われた居場所を求める紅き悪魔。
第四回戦が始まった。
試合開始と同時に、レッドの全身が大きく動いた。
レッド:「…………メダ……チェンジ…………」
深紅の装甲が複雑に組み換わっていく。
二脚歩行の悪魔から、四本の鋭利な爪を持つ獣のような姿へ。
変形が完了した次の瞬間。
レッドが消えた。
ディスト:「……えっ!? 消えた!?」
違う。
消えたのではない。
あまりの加速に、視覚が追いついていないだけだった。
赤い残像がコロシアムを駆け巡り、
シュシュシュシュシュッ!!
と、大気を切り裂く音だけが四方八方から響く。
その速度は、操るレッド自身ですら完全には制御できていなかった。
自分が今どこを走っているのか。どの角度から相手へ迫っているのか。それすら正確には把握できないほどの速度。
だが、それゆえに恐ろしい。
まともに狙えていなくとも、その速度で身体が掠めただけで凄まじい衝撃となる。
それゆえにコスモスの攻撃はレッドには全くヒットしなかったが、コスモスは狙い通りと言わんばかりに、急に嵐の中央で動かなくなった。
コスモス:「…………」
赤い残像を見つめ、タイミングを測る。
コスモス:「……捉えました。チョキ&グー!! 成功二倍!!」
コスモス――ハードネステンが持つ戦闘システム。
〝メダコンボ〟。
頭部、右腕、左腕のパーツには〝グー〟や〝チョキ〟といった属性が設定されており、攻撃時にそれらを組み合わせることで様々な追加効果を得ることができる。
コスモスの頭部からミサイルが放たれた。
赤い残像の先。
レッドがこれから通過する位置へ――。
――ドォォォォンッ!!
爆煙が巻き上がる。
だが。
レッド:「…………!」
レッドは爆風を突き破った。
鋭い爪がコスモスへ迫る。
コスモス:「……!」
最小限の動きで避ける。
しかし、速い。
予測よりも僅かに早かった。
――ガギィィィィンッ!!
レッドの爪がほんの僅かに掠めただけで火花が散り、コスモスのダイヤモンド装甲へ一本の傷が刻まれた。
コスモス:(やはり、速い……ッ!)
レッドは止まらない。
一度。
二度。
三度。
何度も超高速でステージを駆け抜けていく。
そして戦い続けるうちに、レッド自身も少しずつその速度へ慣れ始めていた。
最初は自分でも制御できなかった疾走。
だが、次第にコスモスの位置がわずかに見える。
狙うべき場所におおよその見当がつきはじめる。
攻撃精度が上がっていく。
コスモス:「……トリプルチョキ!! ペナルティー無し!!」
コスモスも迎撃する。
ガトリングの銃口から、無数の弾丸が吐き出された。
しかしレッドは、多脚特有の変則的な機動で弾幕をすり抜ける。
レッド:「…………!」
跳躍。
そのまま空中から。
デストロイ。
――ガガガガガガガガッ!!
衝撃がコスモスを襲った。
コスモス:「くっ……!」
幸いにして、直撃は避けることができたが、それにもかかわらず頑強な装甲が軋む。
頭部には細かな亀裂が走り、激しい戦闘による熱が身体の各所から漏れ出していた。
ワンダ:「コスモス、危ない!! 逃げて!!」
ワンダの叫びが響く。
だが。
コスモスは退かなかった。
―
十二使徒・レッド。
彼女にとってこの戦いは――『居場所の死守』だった。
レッドは、その戦闘力を買われてエデンへ迎え入れられるまで、長い間独りで生きてきた。
ほとんど言葉を話さない。
他者との付き合いも苦手。
友人など、できたことがなかった。
そんな彼女が十二使徒へ加わった。
戦闘に特化した凶暴なメダロットたちの集団。
最初は、そう思っていた。
だが、実際は違った。
個性豊かで。
騒がしく。
時には馬鹿馬鹿しいほど愉快な者たちばかりだった。
レッドがほとんど喋らなくても、彼らは気にしなかった。
一緒に戦い。
一緒に喜び。
一緒に悲しんだ。
十二使徒は、レッドが生まれて初めて手に入れた心地よい居場所だった。
そして今。
その居場所が崩れ始めている。
だから、レッドは取り戻したかった。
自分が初めて手に入れた。
あの場所を。
―
嵐のような連撃が続く。
コスモスは辛うじて直撃だけは避けているものの、超高速で放たれるデストロイの衝撃は確実にその装甲を削り続けていた。
対するコスモスも攻撃を返す。
ミサイル。
ライフル。
ガトリング。
だが、当たらない。
レッドの身体を掠め、小さな傷を与える程度だった。
ピキッ……。
ピキピキッ……!
不吉な音が響く。
ダイヤモンドのような硬度を誇るコスモスの装甲にも、無数の亀裂が走り始めていた。
ディスト:「ああっ! コスモスの身体がボロボロだ……! 射撃コンボもほとんど当たってないし、このままじゃ……!」
ディストが不安げに声を上げる。
だが、その戦いを見ていたリーブとナギサは、別の変化に気づいていた。
攻撃を繰り返すたび、コスモスの身体へ、青白い光が少しずつ蓄積している。
ナギサ:「……逆転の聖歌が聞こえるね」
これもまた、コスモスが持つ能力だった。
攻撃を行うたびに、少量ずつメダフォースが蓄積される。
通常なら攻撃を止め、時間をかけて溜めなければならないメダフォース。
しかしコスモスは違う。
攻め続けること自体が、メダフォースの蓄積となる。
命中していない攻撃、レッドへ届かなかった弾丸。
そのすべてが決して無駄ではなかった。
コスモス:「…………」
コスモスの目がレッドを捉える。
コスモス:「……溜まりました」
レッド:「…………!」
コスモス:「……これで、終わりにしましょう」
全身から青白い光が噴き出した。
蓄積されたメダフォース。
そのすべてが解放される。
コスモス:「メダフォース発動……!!」
コスモスが叫ぶ。
コスモス:「『ジ・バク』!!!」
その瞬間。
頭部を除く。
右腕。
左腕。
脚部。
コスモスの三つのパーツすべてが、自ら崩壊を始めた。
ワンダ:「え……!?」
ディスト:「コスモスの身体が……!」
これは失敗ではない。
『ジ・バク』。
頭部以外の全パーツを破壊し、そこに残されていた装甲をすべて攻撃力へと変換する、自壊を前提としたメダフォース。
腕の装甲が砕ける。
脚部が弾ける。
露出したティンペットの周囲へ、失われた装甲すべてが青白い光となって収束していく。
コスモス:「…………!」
コスモスがレッドを正面から見据えた。
レッド:「…………コスモス…………ッ!!」
レッドも止まらない。
最後の力を振り絞り。
赤い疾風となって突っ込んでくる。
紅き悪魔の超高速突進。
それを迎え撃つ、ダイヤモンドの自壊奥義。
――ズ、ドォォォォォォォォォォォォォンッッ!!!!!
激突。
眩い閃光がコロシアムを飲み込んだ。
放電。
衝撃。
爆風。
ステージの床が砕け、破片が雨のように降り注ぐ。
やがて、光が晴れた。
そこには、二機の姿があった。
コスモスは立っていた。
右腕。
左腕。
脚部。
すべてのパーツを失い、頭部とティンペットだけとなった身体で。
残された頭部装甲にも、それまでの戦闘で刻まれた無数の亀裂が走っている。
それでも、立っていた。
その正面。
レッドもまた、立っていた。
レッド:「…………」
僅かに身体が揺れる。
レッド:「…………ごめん………………」
掠れた声。
そして、膝が折れた。
コスモスの『ジ・バク』を真正面から受けたレッドは、その場へ崩れ落ちる。
横倒しになった身体から。
力が抜けた。
第四回戦:コスモス VS レッド
《勝者:コスモス》
通算成績、二勝二敗。
ついにタイへ持ち込んだ。
だが、コスモスの目に、勝利を喜ぶ色はなかった。
そこにあるのは倒れた旧友を見つめる静かな悲しみだけだった。
―
砂塵がゆっくりと落ちていく。
コスモスはティンペットだけとなった腕を使い、機能停止したレッドの身体を慎重に抱き上げた。
一歩。
また一歩。
剥き出しになった脚部フレームを軋ませながら、ステージを降りていく。
ディスト:「コスモス……! 大丈夫!? ほとんどパーツ残ってないよ……!」
ワンダ:「無茶しすぎよ、もう……。ちょっと待って。今すぐ最低限の回復を――」
ワンダが駆け寄る。
だがコスモスは首を横へ振った。
コスモス:「……私は後で構いません」
腕の中にいるレッドを見る。
コスモス:「……彼女を、優先して診てあげてください」
ワンダ:「…………」
コスモスはレッドを優しく地面へ横たえた。
リーブ。
竜。
ナギサ。
かつての十二使徒たちが、複雑な表情でその光景を見守っている。
勝負では敵だった。だが憎んでいるわけではない。
リーブ:「……おおきに、コスモスさん」
リーブが静かに笑った。
リーブ:「やっぱりあんたは、僕らの知ってる通りの人やな」
コスモス:「…………」
竜:(……二勝二敗。思ったより長引いてしまいましたか)
ナギサがレッドの傍らへ膝をつく。
状態を確認し穏やかに告げた。
ナギサ:「深き眠り……スリープだ。ほどなくして彼女は、覚醒の時を迎えるさ」
ワンダ:「……そっか」
ひとまず命に別状はない。
それを聞き、ワンダが安堵したように息を吐く。
そして、コスモスへ目を向けた。
ワンダ:「……ねえ、コスモス」
コスモス:「はい」
ワンダ:「今更なのは分かってるんだけど……」
一度言葉を止める。
ワンダ:「……どうして、貴女はエデンを抜けたの?」
沈黙。
それはL班の者たちも。
かつての十二使徒たちも。
ずっと知りたかったことだった。
コスモスは、自らの手を見る。
装甲はない。
露出したティンペットだけ。
ダイヤモンドは傷つかない。
かつてそう信じていた。
だが今の自分は違う。
身体も、その内側にある心も。
決して消えることのない傷を負っている。
コスモス:「……そうですね」
コスモスは顔を上げた。
コスモス:「いつまでも、隠し通せることではありません」
ワンダたち。
そして、かつての仲間たちを見渡す。
コスモス:「……レッドさんが目を覚ましたら」
一度、静かに息を置く。
コスモス:「すべてを、お話しします」
誰も、それ以上は聞かなかった。
一人の戦士が抱えていた真実が。
すぐそこまで迫っていた。
――――巨大戦艦『 ノ ア の 箱 舟 』・甲板。
烈風が吹き荒れていた。
だが、ヴァレンとタインの周囲だけは、別の意味で熱かった。
二機がこれまでに繰り出した「あるあるネタ」は、九十四。
「親父ギャグ」は、二百七十八。
互いの語彙はすでに限界を迎え、装甲の隙間からは白煙まで立ち昇っていた。
ヴァレン:「ゼェ……ゼェ……。何気に、やるじゃねえか……。オレのダジャレエンジンが焼き切れる寸前だぜ……」
タイン:「ハァ……ハァ……。お前こそ、さり気に……」
タインが立ち上がる。
タイン:「だが……これでトドメだ」
ヴァレン:「…………!」
タイン:「俺の最大最強の……一撃を食らいやがれ!!」
タインが大きくのけ反る。
全力を込めて。
叫んだ。
タイン:「『ヤンバルクイナ』ッッ!!!!!」
ヴァレン:「…………」
タイン:「『ヤンバルクイナ』ッッッッ!!!!!」
ヴァレン:「――って、何気にダジャレになってねぇだろうがぁぁぁぁぁぁーーーーーーーッッッ!!!」
ただ鳥の名前を叫んだだけだった。
何も掛かっていない。
何の意味もない。
純度百%の虚無。
――ズ、ガァァァァァァァンッ!!
ヴァレンの渾身のツッコミが炸裂した。
タイン:「グ、……ハァ…………ッッ!!?」
タインが、ありもしない衝撃に吹き飛ばされる。
甲板を転がること三周。
最後は大の字になって倒れた。
タイン:「……畜生……。ツッコミまで……武器に使ってくるとは…………」
震える手を持ち上げる。
タイン:「俺の……さり気ない負けだ……」
ヴァレン:「……フン」
ヴァレンが背を向ける。
ヴァレン:「お前の負けなんて、最初から決まってたんだよ」
タイン:「……? どういうことだ?」
ヴァレンは振り返らない。
ハードボイルドな背中のまま静かに語る。
ヴァレン:「お前は偉大なるギャグに『勝敗』をつけようとした」
タイン:「…………」
ヴァレン:「ギャグに勝敗をつけるなんて、何気に愚かなことだ。笑いのツボはみんな違うからな」
意味ありげに間を置く。
ヴァレン:「そう。ギャグを何気に愚弄した時点で……お前の負けは決していたんだ」
言い切った。
完璧に決まった。
ヴァレンはそのまま立ち去ろうとする。
だが。
タイン:「……ちょっと待て」
ヴァレン:「…………」
タイン:「お前の論理だと、さり気にこの勝負の勝敗って無いよな?」
ヴァレンの足が止まった。
数秒の沈黙。
そして、ゆっくりと振り返る。
ヴァレン:「フッ……」
そして。
ヴァレン:「ほんまやんけ……」
漢のギャグバトル:ヴァレン VS タイン
《結果:引き分け》
不毛なる、けれど熱き言葉の応酬はここに終結した。
してくれた。
終わってくれて本当に良かった。
第三十九話【 THE DIAMOND'S BODY ISN'T INJURED 】終わり
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[機体解説]
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【キャラクター名】
レッド
【機体名】
ブロッソメイル
【公式/オリメダ区分】
公式(メダロット4など)
【モチーフ(型式)】
悪魔型メダロット(DVL)
【パーツ】
[頭部]
イービルボディ/デストロイ(ねらいうち)
[右腕]
イービルハンド/サクリファイス(ねらいうち)
[左腕]
イービルアーム/サクリファイス(ねらいうち)
[脚部]
イービルレッグ/二脚
【変形後】
[変形後ドライブA]
デストロイ(ねらいうち)
[変形後ドライブB]
デストロイ(うつ)
[変形後ドライブC]
デストロイ(うつ)
[変形後脚部タイプ]
多脚
【備考】
公式(メダロット4)情報を参照。
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【キャラクター名】
コスモス
【機体名】
ハードネステン
【公式/オリメダ区分】
公式(メダロット5など)
【モチーフ(型式)】
ダイヤモンド型メダロット(DND)
【パーツ】
[頭部]
ブリリアント/ミサイル(うつ)
[右腕]
ブリリアーマー/ライフル(うつ)
[左腕]
ブリリガーダー/ガトリング(ねらいうち)
[脚部]
コンゴーストン/二脚
【備考】
公式(メダロット5)情報を参照。
現状、本作唯一の『メダロット5』出身メダロットであり、メダロット5固有システムを持つ唯一の機体となる。
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