第四十話【何気に、そしてさり気に】
静まり返ったコロシアム。
激戦を終え、応急修復を受けたコスモスの装甲からは、まだ僅かな排熱音が漏れていた。彼女は亀裂の残る掌を握りしめ、覚悟を決めたように目を強く光らせる。
ナギサの治療を受けたレッドも、すでに意識を取り戻していた。かつての仲間たちの傍らで、黙ったままコスモスを見つめている。
コスモス:「……私がエデンを裏切った理由。それは――」
ついに。
コスモスが真実を口にしようとした、その瞬間。
――ガシャアァァァァァンッ!!
コロシアムの巨大な防音扉が、凄まじい衝撃とともに両開きに蹴り破られた。
ヴァレン:「イエェェーイ!! どーもぉー!!」
タイン:「『ナニゲンタルサリゲ』でーーーーす!!!!」
砂煙の中から現れたのは、不敵なポーズを決めるヴァレンと、その横で間の抜けた笑顔を浮かべるタインだった。
あまりにも空気を読まない乱入に、真実を待っていたワンダたちの思考が一瞬止まる。
タイン:「ヴァレン! いつもの言ったげて♪」
ヴァレン:「おぉ聞きたいか! 何気な武勇伝♪」
タイン:「そのさり気な武勇伝を言ったげて♪」
ヴァレン&タイン:「「何気でさり気なベスト10!!」」
ヴァレン:「レアなパーツをオークションに出品」
タイン:「凄い! さり気にその名もチャン『パ』ラソード!!」
ヴァレン&タイン:「「何気に。さり気に。何さりげっげっげげげっげ♪」」
タイン:「レッツゴー♪」
ステージ中央で、二機が奇妙なステップを踏み始める。
直後。
――ドゴォォォォォォォォォンッッ!!
ヴァレン:「グピョォォォッ!!?」
タイン:「ガホォォォッ!!?」
ワンダの裏拳と、竜の容赦ない踵落としが二機の頭部へ同時に炸裂した。
ヴァレンとタインは煙を上げながら、その場に倒れる。
ワンダ:「 古 い わ ッ ! ! ! ! 」
竜:「……ワンダさん、ツッコむのそこじゃないです」
数十年前のネタに皆が凍りつく中、動じることなく女子二機による粛清が完了した。
英雄たちのお披露目は、無惨な墜落をもって幕を閉じた。
誰もが思った。
「何気でさり気なベスト10」と言っていたが、十個披露する前に終わらせてくれて本当にありがとう、と。
ディスト:「えっと、あれでもヴァレンは『ラヴドの英雄』って言われるくらいすごいメダロットで……」
リーブ:「タインさんも『十二使徒のエース』って言われてるくらい、ものごっつ強いんですけど……」
ディストとリーブはこの耐えがたい空気の中で、健気に仲間の弁護をしていた。
煙を吹く頭を押さえ、ステージ下で悶絶するラヴドの英雄と十二使徒のエース。
そんな無様な二機を、竜は感情を削ぎ落としたような目で見下ろしていた。
彼女は一歩前へ出る。
竜:「……茶番はそこまでです」
ヴァレン&タイン:「「…………」」
竜:「現在、通算成績は二勝二敗。……貴方たちは、まだ一度として『正式な試合』を行っていません」
竜の目がさらに鋭くなる。
竜:「さっさとフィールドへ上がり、この戦いの勝敗を決めてください」
タインが、ひしゃげた頭部を押さえながら反論した。
タイン:「な……っ!? 俺たちはたった今、命よりも重い『漢の闘い』を終えたばかりだ! 今更もう一回なんてバカなこと、さり気にやってられるか――」
竜:「……蹴り入れますよ?」
タイン:「……分かった。だからその、さり気に本気で殺すぞって感じの睨み方はやめような、竜!」
いつもの調子で押し切ろうとしたタインだったが、竜の放つ圧には勝てなかった。
情けない声を上げながら、ふらふらとステージへ向かう。
ワンダ:「ほら、ヴァレンも!! いつまで寝てるのよ!」
ワンダがヴァレンへ詰め寄る。
ヴァレン:「何気に、ふざけるなッ! 俺たちは確かに『漢の闘い』を――」
ワンダ:「しばき殺すぞ、あぁ?」
ヴァレン:「……あー、何気にめっちゃ戦う気になってきたわー。頑張るぞー。えいえいおー!」
ラヴドの英雄も、幼馴染(?)の絶対的な凄みの前では一兵卒同然だった。
渋々ながら、もはや逃れられないと悟ったヴァレンとタインは、ステージの対角線上へ立つ。
先ほどまでのふざけた空気は、物理的な粛清によって霧散していた。
そして。
二機の視線が交わる。
――ガチリ、と。
空気が変わった。
不真面目な道化が、戦場を統べる『英雄』へ。
五月蝿いバカが、十二使徒最強の『大悪魔』へ。
二機のメダルが唸るように出力を高める。
あまりにも急激な変化に、見守っていた仲間たちも思わず息を呑んだ。
タイン:「……おい、ヴァレン。いいのか?」
タインが口元を吊り上げる。
タイン:「お前の相手は『十二使徒のエース』、さり気なるグレイン様だぞ?」
ヴァレン:「……タインこそいいのか?」
ヴァレンも笑った。
ヴァレン:「お前の相手は『ラヴドの英雄』、何気なるジョーカード様だぞ?」
二機は同時に、獰猛な笑みを浮かべる。
ヴァレン&タイン:「「クックック……。……始めようか。何気で、さり気な――『漢のロボトル』を!!!!」」
ディスト:「ロ……ロボトル、ファイト!!」
ディストの号砲が鳴り響く。
ラヴドとエデン。
宿命の五番勝負、その最終戦が始まった。
ヴァレン:(何気に一発目は、スバルで斬り刻むか。あるいは、マーブラーで蜂の巣にするか……いや、違うな)
タイン:(一発目は、さり気なく妨害行動か。それとも、メダチェンジで蹂躙するか……いや、違うな)
ヴァレン&タイン:((『 拳 』だ!!!!!!))
二機の思考から、「効率」という概念が消え去った。
同時に地面を蹴る。
ジョーカードもグレインも、本来なら強力な武装を持つ機体である。
だが今、二機が求めているものは一つだけ。
これほどまでに自分を高揚させた最高の
ヴァレン:「うおおおおおおおおおおっっっ!!!!!」
タイン:「ぬおおおおおおおおおおっっっ!!!!!」
至近距離。
二機は守ろうともしない。
ただ右腕を大きく振りかぶる。
――ズ、バァァァァァァァンッッ!!!!!
重い金属音がコロシアムへ響いた。
ヴァレンの右拳がタインの顎へ。
タインの右拳がヴァレンの顎へ。
互いに避けず。
互いに防がず。
相手の拳を真正面から受け止める。
ヴァレン:「何気何気何気何気何気何気何気何気何気何気何気何気ぇぇぇぇぇッッッ!!!」
タイン:「さり気さり気さり気さり気さり気さり気さり気さり気さり気さり気さり気さり気ぇぇぇぇぇッッッ!!!」
無呼吸の連打。
装甲がひしゃげる。
火花が散る。
冷却液が飛沫となって宙へ舞う。
拳を振るうたびに重い衝撃がステージへ伝わり、足元に細かな亀裂が広がっていく。
理屈も。
戦術も。
勝敗への打算すらない。
そこにあるのは、互いの存在を拳で確かめ合う、狂おしいほどの『対話』だけだった。
やがて二機は同時に大きく後方へ跳び、距離を取った。
傷ついた装甲から白煙が上がる。
関節もすでにまともとは言い難い。
それでも二機の目に宿る光は、戦闘開始前よりも強くなっていた。
ヴァレン:「何気に……ここからが真打ちだぜッ!! スバル!!」
タイン:「さり気に……メダチェンジ! そして……アサッシン!!!」
ヴァレンが純白の長刀『スバル』を抜き放つ。
対するタインは、轟音とともに人型から浮遊形態へと変形した。
ヴァレンが踏み込む。
一閃。
白刃がタインへ迫る。
その軌道へ、アサッシンの一撃が交錯した。
――カキィンッ!!
互いの攻撃が弾ける。
ヴァレンが角度を変えて再び斬り込む。
タインも即座に応じる。
カキンッ!
ガギィンッ!!
高速の攻防が連続する。
やがてヴァレンが大きく距離を取った。
ヴァレン:「何気にこれならどうだッ!!」
マーブラーのガトリングが火を噴く。
無数の弾丸がタインへ迫った。
タイン:「さり気に甘ぇッ!! タイムアタック!!」
放たれた攻撃が弾幕へ叩き込まれ、次々と弾丸を弾き落としていく。
爆発。
火花。
斬撃。
射撃。
二機の持つ武装が次々と投入され、ステージを爆炎が覆った。
やがて煙の中から姿を現した時。
二機とも、すでに無傷の箇所を探す方が難しいほどだった。
装甲は剥がれ。
各所から内部フレームが露出している。
辛うじて形を保っているだけの状態だった。
ヴァレン:「ハァ……ハァ……。何気に、やるじゃねえか……タイン」
タイン:「ゼェ……ゼェ……。お前こそ、さり気に……強いな、ヴァレン」
武器を構え続ける力すら残っていない。
二機は吸い寄せられるように、もう一度歩み寄った。
大きく腕を振りかぶる。
これが最後。
ヴァレン:「何気ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッッッッ!!!!!」
タイン:「さり気ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッッッッ!!!!!」
―
十二使徒・タイン。
彼にとって、この戦いは――『楽しい遊び』だった。
難しいことは分からない。
だが、互いの全力をぶつけ合う熱い戦いが好きだった。
同じように戦いを好む者として、十二使徒にはベルゼルガがいる。
しかし、戦いの果てに自らの力を研ぎ澄ますことを求めるベルゼルガに対し、タインは純粋に戦うことそのものを楽しんでいた。
それは似ているようで、まるで違う。
この戦いが、かつての仲間を取り戻すためのものであったことすら忘れ、今のタインが考えているのは。
ただ、目の前にいる
十二使徒最強の戦闘力を誇る『エース』。
タインは、その闘志のすべてを拳へ込めた。
―
――ド、ゴォォォォォォォォォォォォォンッッッッ!!!!!
二機の拳が同時に炸裂した。
全霊を込めた最後の一撃が、互いの装甲の隙間――機体の中枢へと叩き込まれる。
二機は拳を突き出したまま、一瞬だけ動きを止めた。
そして。
同時に。
ゆっくりと地面へ倒れた。
ディスト:「……嘘……。……引き、分け……?」
コロシアムが静まり返る。
倒れた二機の身体から火花が散り、漏れ出したオイルが床へ広がっていく。
誰も言葉を発しなかった。
あまりにも凄絶な相打ちだった。
だが。
静止した時間の中で。
一機の指先が、僅かに動いた。
ヴァレン:(……ここで……何気に終わるわけには、いかねぇんだよ……)
ヴァレンの視界はノイズに覆われていた。
ヴァレン:(コスモスがどうとかじゃねえ……。プライドの問題だ……)
脚部の駆動系は限界を迎え、姿勢制御もほとんど利かない。
それでもメダルに刻まれた執念だけが、壊れかけた身体を無理矢理動かした。
――ギ、ギギィ……。
ヴァレンが腕を床へ突く。
震える脚を起こす。
一度。
止まる。
それでも。
もう一度。
立ち上がる。
ナギサ:「……肉体的限界を精神が凌駕している……」
ナギサが目を見開く。
ナギサ:「これが、闘争……コンバット……」
平和主義者であるナギサさえ、そこには一種の敬意を覚えていた。
倒れたタインは、薄れゆく意識の中でヴァレンを見上げている。
その口元が僅かに上がった。
タイン:「……ヘッ……」
掠れた声。
タイン:「……流石……さり気に……英雄様だぜ……」
ヴァレン:「…………」
タイン:「……俺の……負けだ……」
その言葉を最後に、タインの目から光が消えた。
完全な機能停止。
その一方でヴァレンは震える脚で、ついに身体を起こしきった。
仮面は半分砕けている。
露出した赤い目が、静かに観客席を見渡した。
ローラ:「……ヴァ、ヴァレンの勝利……」
リーブ:「漢や……」
リーブの声が震える。
リーブ:「ヴァレンさんもタインさんも……ほんまもんの漢やで……!!」
あまりにも馬鹿馬鹿しく。
それでいて、あまりにも熱い戦い。
いつの間にか、リーブは目を潤ませていた。
その言葉を聞いたヴァレンは、ようやく勝利を確信した。
ヴァレン:「……ナ……ニ……ゲッ……!」
直後。
糸が切れたように、ヴァレンの身体も地面へ倒れた。
第五回戦:ヴァレン VS タイン
《勝者:ヴァレン》
【ラヴドL班】 VS 【エデン十二使徒】
三勝二敗。
ラヴドL班、奇跡の逆転勝利。
言葉ではなく、拳で語り合った二つの陣営。
戦いが始まる前には存在しなかった奇妙な連帯感が、いつの間にか彼らの間に生まれていた。
第四十話【何気に、そしてさり気に】終わり
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[機体解説]
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【キャラクター名】
タイン
【機体名】
グレイン
【公式/オリメダ区分】
公式(メダロット4など)
【モチーフ(型式)】
大悪魔型メダロット(ADV)
【パーツ】
[頭部]
デモリッシュ/フォース制御(なおす)
[右腕]
ドローン/行動誘発(ぼうがい)
[左腕]
ルーイン/スタティック(ねらいうち)
[脚部]
ソース/二脚
【変形後】
[変形後ドライブA]
アサッシン(がむしゃら)
[変形後ドライブB]
デストロイ(ねらいうち)
[変形後ドライブC]
タイムアタック(ねらいうち)
[変形後脚部タイプ]
浮遊
【備考】
パーツ性能を活用した戦い方ではなく、
作品によっては巨大メダロットとして扱われるが、本作では標準サイズのメダロット。
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