第四十二話【ここはエデン本部、決戦の地】
第四十二話【ここはエデン本部、決戦の地】
――――ビッグブロック周辺。
そこは、すでに戦場と呼ぶことすら躊躇われるほどの惨状と化していた。
砕けた装甲やティンペットの残骸が地面を埋め尽くし、各所から立ち昇る黒煙が夜空を覆っている。焦げた機械部品と高熱のオイルが放つ異臭の中、ただ一機のメダロットが破壊の中心に立っていた。
ビーストマスター:「ハカイハカイハカイハカイハカイハカイハカイハカイハカイィ!!!!!」
紅く染まった目。
赤熱した砲身。
全身のデスボムとデスビームは、冷却すら待たずに撃ち続けられている。
逃げるエデン兵。
反撃を試みるエデン兵。
そのすべてが、次々と砲撃に呑み込まれていった。
ビーストマスター:「ハカイ! ハカイ! ハカイィィィィィィ!!!!!」
もはや戦略も目的もない。
眼前に存在するものを、ただ破壊する。
それだけだった。
ブラックメイル:「……そろそろマズいぃ~…なッ」
少し離れた城壁の陰で、その光景を見ていたブラックメイルが呟いた。
ブラックメイル:「これ以上やらせたら、エデン軍より先にビッグブロックの方がぶっ壊れちまうぅ~…ぞッ!」
ブラックメイルが地面を蹴る。
熱風と爆煙の中へ飛び込み、暴走するビーストマスターへ一気に肉薄した。
ブラックメイル:「……お疲れさぁ~…まッ!!」
身体を捻る。
回し蹴り。
――ドゴォォォォォォンッ!!
強烈な蹴りが、ビーストマスターの側頭部へ叩き込まれた。
ビーストマスター:「ハカイハカイハカイハカ……グピポピョルグギェェッ!!!!!」
巨体が大きく揺れる。
頭部のバイザーに走っていた紅い光が激しく明滅し、ノイズとともに消えた。
ビーストマスター:「…………」
一瞬の静止。
やがて、排熱ファンが唸りを上げた。
全身から白煙を吐き出しながら、ビーストマスターはふらふらと身体を起こす。
その目には、いつもの青い光が戻っていた。
ビーストマスター:「……ザー…………」
ブラックメイル:「…………」
ビーストマスター:「……おや?」
ビーストマスターが周囲を見る。
ビーストマスター:「おぉ!ブラックメイルさん、敵の掃討は華麗に完了したようですね」
見渡す限りの残骸。
焼けた地面。
吹き飛んだ城壁。
その惨状を前に。
ビーストマスター:「いったい、どうやったのですか?」
ブラックメイル:「…………」
一拍。
ブラックメイル:「お前、何にも覚えてなさすぎて逆に怖いぃ~…なッ」
ビーストマスター:「?」
ビーストマスターは首を傾げた。
ビーストマスター:「何の話です?」
そして、遠方から届く戦況情報へ目を向ける。
ビーストマスター:「ハッ……!」
表示された座標。
そこには、ラヴド主力軍がすでにエデン本部まで到達していることが示されていた。
ビーストマスター:「気が付かないうちに、我が主力軍はすでにエデン本部へ到達しているようですね。……いつの間に、こんなに時間が」
ブラックメイル:「…………」
ブラックメイルは何も言わなかった。
―
――――エデン本部・機密実験室。
最深部に位置する研究室。
壁一面に並ぶ機器が低い駆動音を響かせ、無数のケーブルが床や壁を這っている。
その中央。
巨大な強化ガラスの向こう側に。
十字架へ翼を与えたような異形の機械が鎮座していた。
N・G・ライトの遺産。
正式名称――『DISAPPEARANCE』。
『最大出力、確認します。各リレー正常』
『エネルギー充填率、上昇中』
科学部のメカニックたちが、忙しくコンソールを操作している。
『目標エネルギー量まで、あと二十%……十%……』
数字が上がる。
研究室内の機器が一斉に唸り始めた。
『5、4、3、2、1……』
一瞬、室内の照明が大きく揺らぐ。
『目標エネルギー量の出力を確認! 安定しています!』
カヲス:「…………」
カヲスはモニターを見つめていた。
カヲス:「……よし」
黒い瞳が、僅かに細まる。
カヲス:「これで……仮実験を終了する」
目前にある『D』を見る。
カヲス:「異常個所の点検が終わり次第……『D』を使用した本実験を開始する……」
とうとう、ここまで来た。
その時。
『報告いたします!!』
研究室へ通信兵が駆け込んできた。
『ラヴド軍主力、最終防衛ラインを突破! 現在、エデン本部に対して大規模な総攻撃を開始しています!!』
メカニックたちが一斉に顔を上げる。
カヲス:「…………」
カヲスの表情は変わらない。
だが。
カヲス:(クソッ……あと……少し……だというのに)
あと少し。
あと僅かな時間があれば。
すべてが終わる。
カヲスはすぐに思考を切り替えた。
カヲス:「……『Dancing Mad』を使え」
『……!』
カヲス:「少しでも……食い止めろ……」
『了解!』
エデン本部に隠されていた最終防衛装置。
その名は――『Dancing Mad』。
カヲスの命令と同時に、エデン本部全域へ、低い振動が走った。
―
ラヴド主力軍はついにエデン本部の正門前へ到達していた。
「行くぞ!! この戦争に、今こそ終止符を打つんだ!!」
「エデンを叩き潰せ!!」
無数の兵士たちが前進する。
地上から。
上空から。
砲撃がエデン本部へ集中した。
巨大な外壁が次々と崩れ、正門周辺が爆煙に包まれる。
長く続いた戦争。
その終わりが目前にある。
誰もがそう思った。
やがてエデン本部の巨大な門が、低い音を立てながら開き始めた。
「……?」
一機のラヴド兵が、武器を構えた。
「来るぞ!」
門の奥、暗闇の中から。
メダロットの群れが姿を現した。
「なんだ……こいつら?」
黒い。
だが、その装甲は完全な黒ではない。
どこか半透明で、内部のフレームさえ透けて見える。
感情の読み取れない目。
機械的な歩調。
無数の黒い影が、次々と門の奥から現れた。
「敵だ! 撃て!!」
ラヴド軍が一斉に攻撃する。
銃撃。
斬撃。
砲撃。
黒いメダロットたちは、次々と破壊されていった。
「なんだ、たいしたことないぞ!」
「このまま押し切れ!」
戦闘能力そのものは高くない。
数こそ多いが、熟練したラヴド兵たちの敵ではなかった。
そう思われたその時。
――――♪
低く。
重い音が。
エデン本部全域へ響き始める。
――――♪
「……なんだ?」
パイプオルガン。
荘厳で、不気味で、そして、どこか狂っている。
戦場にはあまりにも似つかわしくない旋律が、夜のエデン本部へ鳴り響いた。
ベビー:「……?」
後方支援部隊にいたプリミティベビーも、その音を聞いた。
ベビー:「何でちゅか……この曲……?」
そして、目を見開く。
ベビー:「……え?」
倒れていた黒いメダロット。
頭部を砕かれた一機。
両腕を失った一機。
脚部を吹き飛ばされた一機。
その壊れた身体が、ゆっくりと動いた。
ベビー:「そ、そんな……」
砕けていたパーツが戻っていく。
ひしゃげた装甲が元の形へ戻る。
失われていた手足が再び形成される。
ベビー:「倒したはずのメダロットたちが……」
立ち上がった。
何事もなかったかのように、再び、ラヴド兵へ襲いかかる。
「な、なんだこいつら!?」
再び破壊する。
だが、少し経つと、また立ち上がる。
頭部を砕く。
四肢を吹き飛ばす。
それでも、音楽が鳴り続ける限り、黒い兵士たちは何度でも修復されていった。
「死なない……!」
「壊しても壊しても戻ってきやがる!!」
やがて、何度倒しても減らない敵を前に。
ラヴド軍の進撃が止まった。
攻撃する。
破壊する。
復活する。
また攻撃する。
同じ光景が、繰り返される。
戦場に響き続けるパイプオルガン。
その狂気の旋律に合わせるように、黒い兵士たちは何度でも立ち上がる。
彼らの名は――『心ない天使』。
ラヴド軍の兵士たちから、少しずつ戦意が失われ始めていた。
その時、空が暗くなった。
「……?」
巨大な影が、戦場全体を覆う。
一機。
また一機。
ラヴド兵たちが空を見上げる。
「……戦艦?」
エデン本部上空へ現れたのは、巨大戦艦――『ノアの箱舟』。
「エデンの増援か!?」
「まだ来るのかよ……!」
絶望しかけた兵士たちが、武器を構える。
その時だった。
『おーーーい、テメェら!!』
「…………?」
戦場全域へ、あまりにも軽い声が響いた。
『何気に派手にやられてんじゃねえか!!』
「……?」
その声は、ビッグブロックにいる二機のもとへも届いていた。
―
ブラックメイル:「……あ?」
通信端末を見る。
ブラックメイル:「へいへい……発信源は……『ノアの箱舟』だぁ~…ぞッ!」
ブラックメイルが顔を上げる。
ブラックメイル:「まさか……」
ビーストマスター:「直ぐにつないでください!」
通信が接続される。
ヴァレン:『オッス。オラ、ジョーカード、みんな元気にしてっか?』
ブラックメイル:「…………」
ビーストマスター:「…………」
ヴァレン:『……十二使徒のヤツらだが、何気に仲間にしちゃったぜ♪』
一拍。
ヴァレン:『なんか、いい人たちだったわ』
ブラックメイル:「あぁ!? テメェ、何言っていやがぁ~…るッ!!」
ブラックメイルの怒鳴り声など、ヴァレンは完全に無視した。
―
『ノアの箱舟』艦橋。
ヴァレンは外部マイクの音量を最大まで引き上げる。
ヴァレン:「全ラヴド兵士に告ぐ!!」
地上。
エデン本部周辺。
すべてのラヴド兵へ、その声が響いた。
ヴァレン:「オレはジョーカード!」
兵士たちが一斉に空を見上げる。
ヴァレン:「たった今、エデン軍が誇る『十二使徒』の五機を、オレのカリスマで仲間に引き入れたぜ!!」
竜:「…………」
リーブ:「…………」
ナギサ:「…………」
レッド:「…………」
タイン:「おぉ!」
竜:「……そこ、喜ぶところではありません」
ヴァレンは続ける。
ヴァレン:「今からこいつらも味方として加勢する! 何気に間違えて攻撃するんじゃねえぞ! いいな!!」
通信が切れた。
一瞬、戦場が静まり返る。
そして。
「ジョーカード様だ!!」
「英雄が帰ってきたぞ!!」
「十二使徒が味方!?」
「どうなってるんだ!?」
「でも……これならいけるぞ!!」
歓声が広がる。
絶望しかけていたラヴド兵たちの士気が、一気に息を吹き返した。
その様子を確認し、竜は外部マイクの音量をゼロまで下げた。
竜:「……さて」
通信画面。
そこにはビーストマスターとブラックメイルが映っている。
竜:「初めまして、ビーストマスターさん」
ビーストマスター:「…………」
竜:「私は元・十二使徒のブラックスタッグ。竜と申します」
一礼。
竜:「これより、私を含む五機はラヴド軍に協力します」
ビーストマスター:「…………」
竜:「このままエデン本部へ突入して問題ありませんね?」
ビーストマスターは大きく、深く、溜息をついた。
ビーストマスター:「……はぁ~~……」
ブラックメイル:「…………」
ビーストマスター:「許可もなく敵の一大戦力を味方にしたとか……もう……」
もう一度。
ビーストマスター:「……はぁ~~……」
頭を抱える。
ブラックメイルは、隣で少し不安になった。
先ほど頭を蹴ったせいではないか。
……多分、違う。
―
『ノアの箱舟』は、エデン本部上空を旋回していた。
艦橋では、竜が地上の戦況を確認している。
ビーストマスター:『……状況は把握しました』
通信越しに、ビーストマスターが口を開いた。
ビーストマスター:『確かに、貴殿ら十二使徒の加勢は、これ以上ない逆転の好機です』
竜:「はい」
ビーストマスター:『ですが……』
ビーストマスターが地上の映像を見る。
何度破壊されても立ち上がる黒い軍勢。
ビーストマスター:『現在、我が主力軍は不気味な敵兵によって進軍を阻まれています。何度破壊しても修復される……あれをご存じですか?』
竜:「知っています」
竜は即答した。
竜:「あれは、エデン本部の最終防衛装置――『Dancing Mad』です」
ブラックメイル:『Dancing Mad……?』
竜:「はい」
竜がモニターへ視線を落とす。
竜:「あの音楽が届く範囲内では、『心ない天使』たちは何度破壊されても修復されます」
ビーストマスター:『なるほど……』
ブラックメイル:『で、どうやったら止まるん~…だッ?』
竜:「三つの装置を破壊する必要があります」
竜がエデン本部の立体図を表示した。
北。
南。
西。
それぞれに、一つずつ巨大な反応が表示される。
竜:「エデン本部には、『三闘神像』と呼ばれる三つの像が設置されています」
北塔。
竜:「『鬼神像』」
南塔。
竜:「『魔神像』」
西回廊。
竜:「そして『女神像』」
竜は三つの反応を順に示した。
竜:「三像は特殊な音波によって、心ない天使たちへ修復信号を送り続けています」
ビーストマスター:『つまり……』
竜:「三つすべてを停止させれば、『Dancing Mad』も止まります」
ブラックメイル:『だったら話は早ぇ~…なッ!』
ビーストマスター:『……しかし』
地上の戦況が表示される。
現在のラヴド主力軍は、無限に復活する心ない天使を相手にするだけで手一杯だった。
ビーストマスター:『各像へ戦力を割きたいところですが、現状では難しいですね』
竜:「ええ」
その時。
コスモス:「ビーストマスター様」
竜の横から、コスモスが通信へ加わった。
ビーストマスター:『コスモスさん』
コスモス:「エデン本部には、一般兵には知らされていない通路がいくつか存在します」
竜:「……」
コスモス:「そのうち一つを使えば、カヲスのいる科学部へかなり近い場所まで進むことができます」
ビーストマスター:『なるほど』
コスモス:「三闘神像を破壊する以外に、直接カヲスを討つという選択肢もあります」
ビーストマスターは黙った。
立体図。
地上戦。
ラヴド兵の残存戦力。
エデン本部の構造。
それらを見比べる。
ビーストマスター:「…………」
そして、答えを出した。
ビーストマスター:『コスモスさんのおっしゃる通りです』
ビーストマスターが姿勢を正す。
ビーストマスター:『現在のラヴド主力軍には、戦力にも時間にも余裕がありません』
竜:「…………」
ビーストマスター:『ただし、その抜け道をカヲスが知らないはずもない。敵将撃破だけに賭けるのは危険でしょう』
コスモス:「……はい」
ビーストマスター:『そこで』
一拍。
ビーストマスター:『「三闘神像の三か所同時攻略」と「敵将カヲスの撃破」を同時に行います』
艦橋にいる者たちが、一斉に顔を上げた。
ビーストマスター:『任せるのは――ラヴドL班。そして、元十二使徒の皆さんです』
―
竜:「……では、決定した振り分けを報告します」
ビーストマスター、コスモス、竜の三機による協議の結果、十機の担当が決定した。
【カヲス討伐隊】
コスモス
ワンダ
ローラ
ディスト
コスモスの知る秘密の通路を使用。
エデン本部内部へ侵入し、敵将カヲスを直接討つ。
【鬼神像討伐隊】
レッド
リーブ
北塔へ進み、三闘神像の一つ、『鬼神像』を破壊する。
【魔神像討伐隊】
竜
ナギサ
南塔へ進み、『魔神像』を破壊する。
【女神像討伐隊】
ヴァレン
タイン
西回廊へ進み、『女神像』を破壊する。
この決定には多少の意見の衝突があった。
絶対にカヲス討伐に参加したいコスモス。
私情を無視して、適切な戦力分配をしたかった竜。
ヴァレンとコスモスの双方に、ラヴド側のワンダ、ディスト、ローラのいずれかを監視役として同行させたかったビーストマスター。
結果として、自身の主張を強く言えるコスモス、竜の意見が主に通った。
ビーストマスターの意図を表立って主張することはできず、結果としてコスモスには三機が同行する一方、ヴァレンへの監視役配置は諦める形となった。
竜:「……以上です」
全員が、それぞれの担当を確認する。
竜:「ビーストマスターさん。そちらの主力軍には――」
一拍。
竜:「『像を破壊するまで耐え凌げ』とお伝えください」
ビーストマスター:『了解しました』
通信が切れた。
―
竜:「……では」
竜が振り返る。
竜:「行きましょうか」
『ノアの箱舟』のハッチが開放された。
冷たい夜風が、一気に艦内へ流れ込む。
竜がメダチェンジし、飛行形態へ変形する。
ワンダも翼を広げた。
飛行可能な竜とワンダを除く八機は、それぞれ背中に装着したパラシュートを確認する。
ヴァレン:「何気に準備オッケー」
タイン:「さり気に俺もだ!」
リーブ:「ほな、行きましょか」
ナギサ:「決戦……ディサイシブ・バトル。運命は僕らをどこへ導くのか」
ワンダ:「黙って飛んで!」
ナギサ:「フフフ……」
そして。
十機は。
一斉に。
『ノアの箱舟』から飛び出した。
夜空へ放たれた十の影。
それぞれが、四つの戦場へ向けて散っていく。
―
――――エデン本部・北塔前。
【鬼神像討伐隊】
砂煙を巻き上げながら、二機のメダロットが地面へ降り立った。
黄色いメタル・ビートル、リーブ。
そして、紅い悪魔、レッド。
リーブ:「ふぅ……。なんとか辿り着きましたなぁ」
リーブが正面を見る。
そこには、巨大な像が立っていた。
石を削り出したような巨体。
太い四肢。
異様な威圧感――『鬼神像』。
リーブ:「あれを壊したら、あの不気味な曲を止められるっちゅうことやな」
レッド:「…………」
レッドが頷く。
リーブがマシンガンを構えた。
その時。
鬼:「グ ア ァ ァ ァ ァ ァ ァ ! ! !」
リーブ:「!?」
巨大な像が動いた。
石造りの腕が持ち上がる。
そのまま、二機へ向けて振り下ろされた。
リーブ:「なんや!? こいつ、ただの置物やのうて自分で戦いよるんか!?」
リーブとレッドが左右へ飛ぶ。
巨大な拳が地面へ叩き込まれ、地面が大きく陥没した。
《リーブ&レッドVS〝Dancing Mad〟の鬼神像》
―
――――エデン本部・南塔前。
【魔神像討伐隊】
竜とナギサは、塔の前に浮遊する巨大な像を見上げていた。
――『魔神像』。
竜:「……妙ですね」
ナギサ:「何がだい?」
竜:「ここまで簡単に来られ過ぎました」
竜は周囲を見回す。
竜:「罠の気配すらありません」
ナギサ:「フフフ……。すべては運命の流れるままに――」
その時、魔神像の目が赤く光った。
ナギサ:「……おや?」
次の瞬間。
――ゴォォォォォッ!!
口部から、巨大な炎が吐き出された。
竜:「!」
ナギサ:「!」
二機は左右へ跳ぶ。
炎が地面を焼き払った。
魔:「今の攻撃をかわすか……」
低い声が響く。
魔:「我が名は魔神像」
竜とナギサが構える。
魔:「神の理を乱す者よ。汝らに審判を下そう」
竜:「…………」
一拍。
竜:「どうやら」
竜が僅かに姿勢を低くした。
竜:「こちらも簡単にはいかないようですね」
《竜&ナギサVS〝Dancing Mad〟の魔神像》
―
――――エデン本部・西回廊。
【女神像討伐隊】
タイン:「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
タインが拳を振るう。
タイン:「さり気に、俺たちのところだけ敵が多くねぇか!?」
ヴァレン:「ぬおぉぉぉぉぉ!!」
ヴァレンも群がってきた心ない天使を蹴り飛ばす。
ヴァレン:「何気に同感だ!!」
正面。
後方。
天井近く。
次から次へと黒い兵士たちが現れる。
ヴァレン:「タイン! 何気にこいつらキリがねぇぞ!」
タイン:「チッ!」
タインが一機を殴り飛ばす。
そして、ヴァレンを見る。
タイン:「ヴァレン!」
ヴァレン:「あ?」
タイン:「ここは俺がさり気に食い止める!」
押し寄せる敵へ向き直る。
タイン:「お前は先に行って、女神像をぶっ壊してこい!!」
ヴァレン:「オッケー」
一瞬の即答。
ヴァレン:「何気に死ぬなよ!」
タイン:「お前もな!」
タインが敵陣へ突っ込む。
拳。
蹴り。
アサッシン。
真正面の敵を薙ぎ払い、僅かな突破口を作る。
タイン:「行けぇぇぇぇ!!」
ヴァレン:「何気に任せた!!」
ヴァレンが走る。
タインの作った隙を抜け、回廊のさらに奥へ。
そして、辿り着いた。
ヴァレン:「……これか」
広い部屋。
その中央。
美しい女性を象った巨大な像が立っていた。
――『女神像』。
ヴァレン:「何気に悪いが」
ヴァレンが拳を握る。
ヴァレン:「さっさと壊れてもらうぜ」
女:「……そう簡単に」
声。
ヴァレン:「?」
女:「ワタクシを破壊されては困りますね……」
女神像から、透き通った声が響いた。
女:「ワタクシの名は女神像」
表面が、僅かに揺れる。
女:「ワタクシは擬態能力を持っています」
ヴァレン:「擬態?」
女:「コンピュータが、貴方を倒すのに最も適した姿を演算し……」
女神像の輪郭が、ゆっくりと崩れ始めた。
女:「それへ擬態するのです」
ヴァレン:「…………」
ヴァレンは少し考える。
ヴァレン:(何気に俺を倒すのに最も適したヤツ……?)
誰だ。
ヴァレン:(N・G・ライト……か?)
だが、あのN・G・ライトを完全に再現できるのなら。
エデンは、とっくにこの戦争に勝っている。
ヴァレン:「……?」
女神像の表面が、どろりと溶けた。
形を変える。
さらに、途中で、二つに分かれた。
ヴァレン:「……なっ!?」
二つの影。
それぞれが、メダロットの形へ変わっていく。
一機。
黒。
一機。
白。
ヴァレンの目が大きく見開かれた。
そこに立っていたのは。
ヴァレン:「これはこれは……」
一拍。
ヴァレン:「何気に『久しぶり』って言うべきか」
二機を見る。
ヴァレン:「それとも何気に『初めまして』って言うべきか」
白い狂戦士が、口を大きく歪める。
シロ:「アッヒャッヒャッヒャッヒャ!!」
その隣、黒い機体が静かに目を細める。
シロ:「そんなこと、どうでもいいんだよ!」
クロ:「ええ、貴方はここで、私たちに倒されるのですから……」
《タインVS大量の〝Dancing Mad〟の心ない天使》
&
《ヴァレンVS〝Dancing Mad〟の女神像が擬態したクロとシロ》
―
――――エデン本部・地下通路。
【カヲス討伐隊】
地上で繰り広げられている激戦とは対照的に、地下は不気味なほど静かだった。
湿った通路。
薄暗い照明。
そこを、四機が駆けている。
先頭はコスモス。
その後ろに。
ワンダ。
ローラ。
ディスト。
ディスト:「うわぁ……」
ディストが足元を見る。
ディスト:「なんだかジメジメしてて、嫌な感じだね」
ローラ:「文句を言うな、ディスト」
ローラが前を見る。
ローラ:「この道こそが、最短でカヲスの喉元へ届く唯一の――」
止まった。
ディスト:「ローラ?」
全員が足を止める。
暗闇の奥。
そこから、足音が聞こえる。
一機。
二機。
三機。
聞き覚えのある歩調。
コスモス:「…………」
コスモスの目が細くなる。
やがて、暗闇の中から軽い声が響いた。
デュオカイザー:「見~つけた♪」
ワンダ:「……!」
ディスト:「トゥルース!」
姿を現したのは、三機。
デュオカイザー。
セルヴォ。
ビート。
セルヴォ:「さて」
セルヴォが、いつもの軽い笑みを浮かべる。
セルヴォ:「ビート」
ビート:「…………」
セルヴォ:「俺たちの今回の任務は?」
ビートは、短く答えた。
ビート:「……足止め」
ローラが右腕を構える。
ワンダが翼を広げる。
ディストが爪を展開する。
コスモスが、一歩前へ出た。
《ラヴド軍L班VSトゥルース》
北塔。
南塔。
西回廊。
そして地下。
四つの戦場。
すべての攻略チームが、それぞれの『壁』へと辿り着いた。
エデン本部。
決戦の夜は。
まだ始まったばかりだった。
第四十二話【ここはエデン本部、決戦の地】終わり