第四話【残酷な剣士のパーツ】
「アーヒャッヒャッヒャッヒャッ! ク〜ロ〜、見〜つ〜け〜た〜ぞぉっ!」
―
廃ビルの静寂を切り裂く、鼓膜にへばりつくような不気味な高笑い。
その瞬間、L班のリーダー、クロの雰囲気が一変した。
クロ:「……下がって。全員、今すぐに」
その声は冷たく、どこか飢えたような響きを帯びていた。
普段の理知的で穏やかな彼女は、そこにはいない。
クロ:「またお前か、シロ……」
直後、白い影が爆ぜるような速度で突っ込んできた。
真っ白な装甲を纏ったクワガタムシ型メダロット、ヘッドシザース――『シロ』。
――ガギィィィィィィン!!
シロが振り下ろした鋭い刃を、クロが右腕のマーブラーで辛うじて受け止める。
激しい火花が二機の顔を照らし出した。
クロ:「くっ……。早く下がって! こいつは……こいつだけは、私が、私の手で……!」
クロのアイセンサーが赤く明滅し、駆動音が漏れる。
守るべき部下を逃がすためというよりも、目の前の白い個体に対して、思考回路が「食らいつけ」と絶叫しているような――そんな異様な執着が、彼女の全身から溢れ出していた。
シロ:「アッヒャヒャ! そうだよ、その目だよクロぉ! さぁ闘ろうぜぇ、アヒャッ、アヒャッ!!」
狂ったように笑いながら、シロの猛攻が再開される。
火花を散らしながら縺れ合う二機。
それは、洗練されたロボトルというよりは、互いの魂を削り合おうとする獣の喧嘩のようだった。
ワンダ達はクロの異様なまでの気迫を前に、後退せざるを得なかった。
―
離れた場所から、息を呑んで戦況を見つめるワンダたち。
彼らは、自分たちのリーダーの変貌に、言いようのない違和感を覚えていた。
ワンダ:「あの……クロさん、あんなに怖かったっけ?」
ディスト:「まるで別人だよ……。なんだろう、あの二機の間だけ空気がビリビリする」
いつもと違うクロの様子に困惑する二人。
そんな中、クロではなく、シロの左腕パーツに注目している者がいた。
ローラ:「…………あれは……『スバル』」
不意に、ローラの絞り出すような声が響いた。
普段は冷静な彼女の腕が、小刻みに、そして激しく震えている。
ワンダ:「スバル……? ローラ、知ってるの?」
尋ねるワンダに、ローラは一度、重く苦しい溜息を吐き出した。
ローラ:「クロ殿が装備しておる『マーブラー』と共に、遺跡で発見された謎のパーツ……。それが『スバル』だ。けれど……発見した直後、あのシロに強奪された。……あのとき、
―
―― 一年前。遺跡。
当時、二級兵士だったローラ率いる調査班は、古い遺跡の深部で、その「遺産」を掘り当てた。
フェニ:「ローラ! ローラ! ちょっと見てよ、これ! すごいよ!」
はしゃいでいたのは、親友のフェニックス型メダロット:『デスフェニックス』のフェニ。
あまり賢くはなかったが、部隊を明るく照らす太陽のような存在。彼女の最高の相棒だった。
フェニの手の中には、白と黒のパーツが二つ。
それこそが、後の『マーブラー』と『スバル』だった。
喜びが最高潮に達した、その瞬間。
闇を切り裂いて、白い影が踊り出た。
シロ:「アッヒャッヒャッヒャー!! そのパーツ、俺にくれよぉ!」
シロの襲来。
ローラたちの班は、訓練を積んだ五機のメダロット。
対するシロはたった一機。 負けるはずのない戦力差。
……しかし、現実は一瞬にして悪夢へと変わった。
シロが動いたと思った瞬間、前衛の一機が首を撥ねられ、即座に機能停止。
スラフシステムによる回復を許さないように、シロは追撃で念入りにメダルを切り裂いた。
残る仲間が連携を試みるが、シロの動きはもはや『速い』という言葉では生ぬるかった。
まるで物理法則を無視したかのような機動で、シロは笑いながら仲間を一人、また一人と「解体」していく。
数分もしないうちに、残されたのはローラとフェニの二機だけだった。
ローラ:(化け物か……。一機の性能で、これほどまでの差があるというのか……!?)
全滅の予感。冷徹な計算が、一つの結論を導き出す。
このまま戦えば、数秒以内に全滅する。
この『遺産』を本部に届けるには、誰かが犠牲にならなければならない。
ローラ:「フェニ!! お主はこのパーツを持って本部に走れ!!」
フェニ:「えっ!? でも……」
ローラ:「一番足が速いのはお主だ。頼むっ、これだけは死守せねばならんのだ!」
それは、親友を救いたいという私情と、任務を完遂させるという兵士としての決断。
フェニはローラの瞳の覚悟を読み取り、叫んだ。
フェニ:「……分かった! また本部で会おう!」
走り去るフェニの背中を見送り、ローラはシロの前に立ち塞がった。
ローラ:「くそっ、化け物が! ……くっ、ぐあああああああっ!!」
迎撃しようとしたローラの視界が、白い火花と共に暗転する。
次に何をされたかも分からぬまま、彼女の意識は深い闇へと沈んだ。
―
数分後。
ローラが目を覚ますと、そこは静寂に包まれていた。
シロは去り、仲間たちは破壊され、転がっている。
足を引きずり、本部に続く道を歩き出した彼女の目に、信じたくない光景が飛び込んできた。
道端に、無残に横たわった一機の影。
ローラ:「フェニ…………?」
親友フェニの姿。
恐らく、彼は激しく抵抗したのだろう、あたりの大地は抉られ、戦闘があった事が分かる。
しかし、ローラから託された『遺産』を守ろうとした責任感は最悪の結果を招いた。
近づいた彼女の視界に、砕け散った黄金の破片が映る。
フェニの機体からは、彼の命であるメダルが……無残に粉砕されていた。
あの日、ローラから「誇り」と「親友」を奪った者。
それが、シロという名の災厄だった。
シロはローラを機能停止させた後に、彼女のメダルまでは破壊しなかった。
なぜならば、すぐにでもフェニを追いかけなくてはいけなかったからだ。
皮肉な事に、『親友を逃がす』つもりだった彼女の行為は、結果として『自分の命だけは守った』事になってしまった。
失意のローラは、たった一人生き残って帰還。
ほどなくして、その現場から少し離れた場所で、残る遺産『マーブラー』が発見された。
シロは自分の不得意な射撃パーツを不要として、捨ててしまったのだろう。
仲間を見捨てて、たった一機で生き残ったにもかかわらず、『マーブラー』の回収を怠った。
その責任を問われ、ローラに下されたのは「三級兵士」への降格処分だった。
―
ワンダ:「そんな過去があったなんて……」
ディスト:「じゃあ、シロは親友の敵なんだね……? 仇を討とうとは……」
ローラ:「あれから妾の心は、すっかり凍りついてしまったのだ。復讐の炎すら燃えない……。いや、燃やしたくとも、燃えてはくれないのだよ」
―
ローラの独白が響く裏で、二機の狂宴は続いていた。
互いの剣を弾き、組み合い、咆哮するクロとシロ。
クロのアイセンサーは真っ赤に染まり、目の前の敵を「制する」ことだけにすべての処理能力を注ぎ込んでいる。
その光景は、誰の目にも――正常な戦いには見えなかった。
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[今回新しく登場したメダロット]
【デスフェニックス(フェニ)】
ローラの親友だったメダロット。ローラを守るためにパーツを運ぶ任務を引き受け、命を落とした。
【ヘッドシザース(シロ)】
クロに異常な執着を見せる白い個体。特殊なパーツ『スバル』を持ち、一機で一小隊を壊滅させる戦闘力と、狂気じみた笑いを持つ。
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[機体解説]
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【キャラクター名】
クロ
【機体名】
ブラックビートル(右腕換装)
【公式/オリメダ区分】
公式+オリジナルパーツ
【モチーフ(型式)】
カブトムシ型メダロット(KBT)
【パーツ】
[頭部]
ブラックバリスタ/ミサイル(うつ)
[右腕]
マーブラー/パワーライフル(うつ)
[左腕]
ブラックブラスタ/ガトリング(ねらいうち)
[脚部]
ブラックプレイス/二脚
【備考】
頭,左腕,脚部は公式情報を参照
右腕のみが本作オリジナルパーツ「マーブラー」で、威力、充填放熱、成功全てにおいてシンプルに高性能なライフルパーツ。
銃口を複数取り付ける事でライフルを連射することが可能
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【キャラクター名】
シロ
【機体名】
ヘッドシザース(左腕換装)
【公式/オリメダ区分】
公式+オリジナルパーツ
【モチーフ(型式)】
クワガタムシ型メダロット(KWG)
【パーツ】
[頭部]
アンテナ/さくてき(おうえん)
[右腕]
チャンバラソード/ソード(なぐる)
[左腕]
スバル/レンジソード(なぐる)
[脚部]
タタッカー/二脚
【備考】
頭,右腕,脚部は公式情報を参照
左腕のみが本作オリジナルパーツ「スバル」で、威力、充填放熱、成功全てにおいてシンプルに高性能なソードパーツ。
日本刀のような長刀武器を手に持つタイプで、通常のソードよりもリーチが長い
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第四話【残酷な剣士のパーツ】終わり