【完結】DISAPPEARANCE   作:土地_0000

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第四十五話【妖星乱舞 ~第ニ楽章~ 】

第四十五話【妖星乱舞 ~第ニ楽章~ 】

 

 エデン本部、南の尖塔。

 北の空が鬼神像の爆散による紅蓮に染まった瞬間、要塞全域を震わせていた不気味なオルガンの旋律が、断末魔のような不協和音を奏でた。

 第一楽章が唐突に途切れ、より速く、より攻撃的な重低音が空気を物理的に叩き始める。

 

 ―――第二楽章への転調。

 

竜: 「……? 曲調が変わりましたね。他チームの攻略が完了したということでしょうか」

 

 ブラックスタッグの竜が、猫背のままセンサーの焦点を前方へと合わせた。

 漆黒の装甲が周囲の闇に溶け込み、鋭い視線だけが目標を射抜いている。

 その隣で、パーティクルのナギサは、乱れる大気の粒子を慈しむように目を細めていた。

 

ナギサ: 「変化……チェンジ。生きとし生ける者すべてが繰り返してきた宿命。今、僕らにも大きな転換の時が求められているのだろうか……」

 

魔: 「正解だ。……『DancingMad』は、三闘神が一機倒されるごとに危険レベルが上昇する。 音楽を書き換えることで、地上の『心ない天使』たちの出力を強制的に励起させ、汝らを絶望の淵へと追いやるのだ」

 

 

 二機の目の前で、宙に浮遊する巨大な知性の塊――三闘神の一角『魔神像』が、落ち着いた低い声で言う。

 石造りでありながら、その瞳には高度な演算能力を感じさせる冷徹な光が宿っている。

 

 

竜: 「……困りましたね。これでは、私たちがもたもたしている間に、地上の味方が全滅してしまいます……」

 

 竜はとぼけたようなポーカーフェイスを崩さずに呟いた。

 だが、その言葉とは裏腹に、彼女の機体からは戦士としての静かな熱量が溢れ出している。

 

魔: 「汝らが案ずる必要はない。ここで塵となる者たちに、明日の心配など無用なのだからな。……神の理を乱す者よ、汝らに審判を下そう」

 

 魔神像の巨大な質量がゆっくりと前進を開始した。

 南塔の空気が一気に過熱し、決戦の火蓋が切られようとしていた。

 

 巨像の瞳が、凍てつくような蒼白の輝きを宿した。

 魔神像の口部が機械的な音を立てて開かれ、そこから地獄の底を思わせる紅蓮の『ファイヤー』が噴き出す。

 同時に、その指先からは大気を引き裂く青紫の『サンダー』が放たれた。

 

ナギサ: 「フフフ、無駄だよ」

 

 ナギサが静かに手をかざすと、彼の周囲に淡い虹色の光を放つ薄膜――反射(心の壁)が展開された。

 激突。

 火炎と雷光が膜に触れた瞬間、それらは物理法則を拒絶するようにその場で反転し、放った主へと向かって逆流した。

 

 ―――ガギィィィィィンッ!!

 

 反射された自身の熱量と電位を受け流しながら、魔神像は一歩も退かなかった。

 それどころか、像の全身から隠されていた無数の砲門と武装が、計算し尽くされたタイミングで一斉に展開される。

 

 右の指先からすべてを凍てつかせる『フリーズ』。

 背部からは、重力そのものを武器にするような巨大な『ハンマー』と『ソード』。

 さらに肩口の装甲がスライドし、『ガトリング』と『ライフル』の銃口が火を噴く。

 

 全距離、全属性。あらゆる回避を不可能にするために設計された、暴力的なまでの『万能』。

 

ナギサ: 「フフフ……。これほど多くの武器……ウェポンをその身に纏い、何を求めて戦うんだい? 悲しい光景だね」

 

 弾丸の雨、斬撃の衝撃、そして凍気の波動。

 ナギサはそれらすべての殺意を、優雅な舞踏を踊るかのような所作で「心の壁」へと吸い込ませ、無機質に突き返していく。

 反射されたエネルギーが南塔の壁や柱を砕き、爆煙が視界を遮るが、ナギサの周囲だけは聖域のような静寂が保たれていた。

 

竜: (……あの手数。一度でも反射のタイミングを外せば、ナギサの体は一瞬で塵になるが……今のところは完封できている)

 

 竜は物陰からその光景を冷静に分析しつつ、魔神像の挙動に潜む「不自然な静寂」を警戒していた。

 魔神像は、自身の全力がことごとく無効化されている現状を、まるで観客席から眺めているかのような、歪な笑みを浮かべて見つめていた。

 

魔: 「……反射か。実に小賢しい。だが、その壁、いつまで『絶対』でいられるかな?」

 

 

 魔神像の歪な笑みが深まった。

 像は反射された自らの熱線を意に介さず、巨大な岩石の腕を自らの機体から「引き抜く」かのような、不気味な挙動を見せた。

 関節部から火花が散り、過負荷の警告音が南塔に不協和音として響く。

 

魔: 「……愚かなり。理に溺れ、自らの終焉を見失うとはな」

 

 魔神像がその右腕を、咆哮と共に撃ち出した。

 それは単なる弾丸やレーザーではない。

 自らのパーツを物理的に切り離し、全エネルギーを爆薬へと変えて放つ、質量兵器の投擲――。

 

魔: 「『サクリファイス』!!!」

 

ナギサ: 「……おや?」

 

 サクリファイス。それは対象に直接「衝突」し、内部から破壊を完遂するダイレクト攻撃。

 光や弾丸を跳ね返すナギサの『心の壁』を、その絶対的な質量で、内側から食い破る死神の牙。

 

竜: 「ナギサさん!! 逃げてください!!」

 

 背後からの鋭い警告。

 竜が黒き閃光となって地を蹴った。

 彼女は呆然と立ち尽くすナギサの胴体を引き寄せると、全関節を軋ませて爆風の圏外へと跳躍した。

 

 ―――ドォォォォォォォォォンッ!!!!!

 

 爆ぜた。

 二機が数瞬前までいた場所。魔神像の腕が着弾と同時に大爆発を起こし、南塔の床板を分子レベルで粉砕した。

 衝撃波が二機の装甲を叩き、ナギサを抱えたままの竜が壁へと激しく叩きつけられる。

 

ナギサ: 「……ダイレクト攻撃……心の壁を通り抜けて僕の心に語りかける……その正体は天使か、はたまた悪魔か」

 

竜: 「ナギサさん……いいかげんに戦いに集中してくださいよ……」

 

 竜は煤に汚れた機体を起こすと、とぼけた顔のまま、しかしその瞳に探偵としての鋭利な光を宿して魔神像を睨み据えた。

 

竜: 「 サンダーに、ファイヤーに、フリーズ……。多種多様な攻撃で相手に『対策』を強要し、思考を誘導して隙を作る。 ……本命のサクリファイスを当てるための、こういうパズルならやりがいがあるかもしれませんね……」

 

魔: 「ほう……。神の理を読み解こうとするか、人間が遺した道具風情が」

 

 魔神像が、失った右腕を再生させながら不気味に浮上する。

 竜の分析が、戦場に流れる「絶望の空気」を、攻略すべき「難事件」へと書き換えていた。

 

竜: 「では……こちらも、相応の策を講じるとしましょうか」

 

 竜は立ち上がると、傍らにいるナギサをぐいと引き寄せ、その耳元へと口元を寄せた。

 そして、魔神像からは決して読み取れない微かな音量で、何事かをボソボソと囁き始めた。

 

ナギサ: 「……!! ……分かったよ。なんとも刺激的……エキサイティングな論理だね」

 

 二機の秘密めいたやり取りを、魔神像の高度な電子頭脳が逃さず捉える。

 像は無機質な視覚センサーを限界まで拡大し、彼女たちの指先の動き、排熱の揺らぎ、果ては放たれる微弱な電磁波に至るまでを徹底的に解析し始めた。

 

魔: (……『耳打ち』だと? どのような連携を組むつもりだ。反射を囮に、近接攻撃を合わせるのか? いや、あのタイミングでの囁き……別の隠し武装を励起させる合図か? それとも、この南塔の構造を利用したトラップか……!?)」

 

 十秒。二十秒。竜の囁きは、あえて引き延ばすかのように長く続いた。

 魔神像は、彼女たちが放つであろう「最適解」を迎え撃つために、すべての武装を待機状態に固定する。

 過剰なまでの警戒心。それが像の論理回路に、一分一秒を争う戦場において致命的な『重圧』となってのしかかる。

 

 やがて、耳打ちを終えた竜が、いつものとぼけた顔のままナギサへ頷いて見せた。

 ナギサが優雅な動作でメダチェンジを敢行し、重厚な戦車形態へと変貌を遂げる。

 

魔: 「来るか……ッ! 」

 

 魔神像があらゆるカウンターを想定して身構える。

 だが、竜が放った次の一手は、像の予測した数万のシミュレーションのどれにも当てはまらない、呆れるほどに単調なものだった。

 

 竜が真っ向から肉薄し、ブラックスタッグの鋭い打撃を像の装甲へと叩き込む。

 ヒット&アウェイ。変則的な蹴り。奇策など欠片もない、教科書通りの連続攻撃。

 それも一発一発は、魔神像に致命的なダメージを与えるものではなく、後で『回復』してしまえば全快する程度のダメージしかない。

 

 ナギサはカウントアタックで攻撃するが、これも単調な攻撃。

 それどころか平和主義者のナギサが『嫌々』で撃っているカウントアタックは、魔神像が軽く体を反らすだけで回避できてしまうほどお粗末な攻撃だった。

 

 

魔: (攻撃に転じるか……?いや、おそらくこの攻撃は何かの陽動……こちらが攻撃した瞬間に『何か』が襲ってくるはず)

 

魔人は常に警戒をしながらナギサと竜に反撃を繰り返していた。

しかし、防御を重視していた為、攻撃は正確さを欠いており、二機に当たることはなかった。

 

 しばらく単調な攻撃を受け止めるだけの時間が続いていたが、魔神像の論理回路が、初めて自機の警告音に反応した。

 複雑な策を警戒するあまり、単調な連撃をすべて後回しにしてしまった結果、像の重厚な装甲には、既に数え切れないほどのヒビが刻まれていた。

 

魔:(「ふむ……そろそろ回復しておくか……)

 

魔神像は回復ユニットを起動して、自らの回復を試みる。この程度のダメージであればすぐに全快するはずだ。

当然、竜とナギサの動きに最大限の警戒を払い、距離を十分にとる。

 

しかし、その時だった。

 

魔:「……!?回復ユニットが破壊されている。……復活ユニットも……」

 

 魔神像の音声出力が、激しいノイズを伴って歪んだ。

 像は自らの損傷箇所を修復しようと回復ユニットを励起させたが、竜による単調な攻撃によって破壊されていた。

 

竜: 「……あぁちなみにですが……我々の作戦は『特に何もない』です。ただ地道に、攻撃を繰り返すだけです」

 

魔: (……馬鹿な。私は……意味も無く警戒していたというのか)

 

 自らの「知」に足元を掬われた巨像の足取りが、醜く乱れた。

 知能が高すぎたがゆえに、竜が仕掛けた「虚無の策」という毒が、像の論理回路を内側から腐食させていたのだ。

 

 竜が静かに身を引き、道を開ける。

 そこには、戦車形態の重厚な装甲を赤熱させ、周囲の時空を歪めるほどの高密度エネルギーを蓄えたナギサの姿があった。

 ほとんど無駄撃ちに近かった『カウントアタック』だが、撃てば撃つほど強くなるこの攻撃の特性上、今となっては驚異的な威力となっている。

 

ナギサ: 「さぁ、終止符を打とう、迷える知性の守護者。そして、戦乱を奏でてしまう悲しき魔神……」

 

 ナギサの機体が、臨界点を超えた咆哮を上げた。

 

ナギサ: 「ドライブC……『カウントアタック』」

 

 放たれたのは、一筋の光の槍だった。

 ナギサの放った一撃が、防衛を放棄して混乱に陥った魔神像の眉間――その中枢演算ユニットを正確に貫いた。

 

 ―――ド、オォォォォォォォォォォォォォンッッ!!!!!

 

 第二の巨像が、内側から弾けるように爆散した。

 美しくも禍々しい青い燐光が南塔を包み込み、石造りの破片が光の塵となって夜空へ消えていく。魔神像が司っていた高度な通信信号が途絶し、要塞を包む狂気の旋律が再び激しく、そして耳障りに転調した。

 

竜: 「……お疲れ様です、ナギサさん」

 

ナギサ: 「フフフ……でも『特に何もない』というのは酷い偽りではないかな」

 

 実のところ、竜は耳打ちをしながら嫌がるナギサに能動的な攻撃をするように交渉を行っていた。

 ナギサは最初こそ攻撃に対して否定的で、サポートに徹しようとしていた。

 しかし、竜から「『DancingMad』はナギサの嫌う戦争そのものではないか?それを破壊するのは平和活動ではないか?」と刺激的な論理を展開され、とうとう折れていたのだった。

 

 

竜: 「……そうですか? あのように言った方が相手が悔しがっていいと思ったのですが」

 

 

 二機は崩れ落ちた石像の跡に背を向け、合流地点へと歩み出した。

 二つ目の攻略完了。だが、それは同時に、残された最後の守護者がその「牙」を剥く合図でもあった。

 

 

 ―

 

 

 南の塔が青白い爆炎に包まれ、崩壊の咆哮を上げた。

 その瞬間、要塞全域を支配していたパイプオルガンの旋律が、ゆったりとしたテンポで慈愛や悲壮感を感じる曲調へと変貌した。

 第二楽章の終焉。そして、不吉な沈黙を挟んで奏でられたのは、神性・超越性を感じる第三楽章であった。

 

――――同時刻、エデン本部・西回廊。

 

タイン: 「ガ、……ハッ……!! な、何だぁ……!? さり気に、さっきまでとは攻撃の『重さ』が違いすぎるぞ……ッ!!」

 

 タインは膝を突き、激しい火花を散らす自身の胸部装甲を抑えた。

 彼の目の前には、絶え間なく復活する『心ない天使』の軍勢。

 三闘神像の二機が破壊されたことで、防衛システムの危険レベルはMAXへと到達していた。

 

タイン: 「クソッ……! さり気に、これだけの数は……捌ききれねぇ……!!」

 

 タインは不器用なほど真っ直ぐに、握り拳一つで戦い続けていた。パーツの機能に頼らず、己のメダルに宿る闘志をそのまま打撃に変える、彼なりの「漢」の証明。

 だが、限界まで過熱した拳からは白煙が上がり、機体各所のサーボモーターは悲鳴を上げている。

 一機の影がタインの死角へと躍り、鋭い斬撃を振り下ろした。――回避は間に合わない。

 

 ――ズ、バァァァァァァンッ!!

 

 背後から放たれた無数の弾丸が、タインを狙った影を空中で蜂の巣に変え、霧散させた。

 

リーブ: 「タインさん! 大丈夫ですか!?」

 

タイン: 「……リーブ!!」

 

 振り返れば、そこには北の攻略を終えたリーブと、その横で静かに闘志を燃やすレッドの姿があった。

 さらに回廊の入り口からは、南の知略戦を制した二機の影が悠然と歩み寄ってくる。

 

竜: 「なんだ……まだ生きてましたかタイン。さすがに死んだと思ってましたよ」

 

ナギサ: 「地獄の淵で奏でられる鎮魂歌。これこそが、僕らが共に歩むべき最後の運命……デスティニーというわけだ」

 

 再集結。

 かつてはカヲスの下、エデンの戦闘特化集団に選ばれた五機の「怪物」たち。

 彼らの瞳に宿るのは、「仲間」と共にこの地獄を終わらせるという清々しい情熱だった。

 

タイン: 「……ヘッ。……待ってたぜ、お前ら!!」

 

 タインがボロボロの拳を握り直し、吠える。

 

タイン: 「よし! ヴァレンが女神像をぶっ壊すまで……この西回廊、一歩も通さねぇぞッ!!」

 

 エデン本部の長い夜は、ついにクライマックスへと突入しようとしていた。

 

第四十五話【妖星乱舞 ~第ニ楽章~ 】終わり

 




◇補足情報◇
魔神像
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