第四十八話【カヲスを越えて終末が近づく】
眩い閃光が、科学部の機密実験室を真っ白に染め上げた。
ディストの左腕『エアスト』、ローラの右腕『ダブレスト』、ワンダの左腕『ソウス』。さらに強化ガラスの向こうでは、第一のフォー・パーツ『ノルス』も激しい光を放っている。
四つのフォー・パーツから溢れ出した光は互いに呼応しながら実験室を駆け巡り、やがて中央に立つカヲスへと集まり始めた。
カヲス:「……が、あ……ッ!? なんだ……この……内側から溢れ出すものは……ッ!!」
カヲスが苦悶の声を上げる。
四つのフォー・パーツだけではない。カヲス自身のレアメダルと、その専用機体までもが同じ波長に反応し、共鳴を始めていた。
ワンダ:「カヲスまで……!」
ディスト:「な、何が起きてるの!?」
誰にも答えは分からない。
しかし、その光の中に新たな異変が現れた。
空中へ映し出されたのは、四人の人間の姿だった。
映像には激しいノイズが混じり、輪郭も時折崩れている。生身の人間がそこにいるのではなく、何らかの記録から再現された不安定な映像であることは明らかだった。
AA:「……やっと繋がったか。いやはや、我ながら随分と回りくどい再会になってしまったわい」
ディスト:「えっと……どなた……?」
中央に現れた老人が、困ったように笑う。
AA:「おっと、これは失礼した。ワシはAA。フォー・パーツ『ノルス』を造った者じゃ」
続いて、残る三人も姿を鮮明にしていく。
Dr.H:「そして、わしが『ダブレスト』」
Dr.O:「わしは『エアスト』」
AI:「私は『ソウス』の製作者よ」
ワンダ、ディスト、ローラ、コスモスの四機は、突然現れた四人を呆然と見つめた。
だが、最も大きな動揺を見せたのはカヲスだった。
カヲス:「…………何者だ……お前たちは……」
AA:「フォー・パーツの製作者であり――」
AAがカヲスを真っ直ぐに見上げる。
AA:「そして、『 カ ヲ ス の 製 作 者 』じゃよ」
カヲス:「…………ッ!?」
AA:「カヲス君。ワシらは、どうしても君へ伝えねばならぬことがあった。そのために、この一度きりの再会を仕組んだのじゃ」
カヲスの身体が僅かに震えた。
ワンダ:「一度きりって……どういうこと?」
Dr.H:「わしら本人がここにいるわけではない。フォー・パーツへ残した、極めて僅かな思考の記録を再現しているに過ぎん」
Dr.O:「パーツ一つに残せる記憶量など、本来はたかが知れておるからな」
Dr.Hが頷く。
Dr.H:「一人の人格を再現するだけでも、本来なら数万個のメダルを直列に連結させねば不可能なレベルなのだからな」
ディスト:「数万個……!?」
Dr.O:「当然、フォー・パーツ一つでは足りぬ。だから我々が残せたのは、それぞれの思考の断片だけだった」
AI:「けれど今は、四つのフォー・パーツがすべて揃っている。それに加えて、カヲス自身のレアメダルと、彼のためだけに造られた専用機体まで同じ場所にある」
AA:「そのすべてが共鳴した今この瞬間に限り、断片的な記録を繋ぎ合わせ、こうしてワシら四人の思考を一時的に再現することができたというわけじゃ」
AI:「でも、長くは保たないわ。これが最初で最後の再会よ」
カヲスは四人を見たまま、何も言わない。
AAはその反応を確かめると、静かに話を続けた。
AA:「カヲス君。ワシらが君を造ったのは、今からおよそ九十年前のことじゃ」
カヲス:「…………」
AA:「当時、世界ではメダロットを利用した犯罪が立て続けに起こっておってな。政府は、そのような事件を鎮圧できるほど強力なメダロットを必要としていた」
AAはそこで一度言葉を止めると、隣にいる三人を横目で見た。
AA:「……もっとも、皮肉なことに、その立て続けに起きた事件の主犯格が、ここにいる連中だったのじゃがな」
AI:「…………」
Dr.H:「…………」
Dr.O:「…………」
露骨に視線を逸らす三人を、ワンダが睨む。
AI:「わ、私はただ……愛するパートナーと、ずっと一緒にいたかっただけで……」
Dr.H:「そ、そうじゃ。わしらも別に、すべて悪意があったというわけでは……」
Dr.O:「ほんの少し世界征服がしたかっただけで……」
ワンダ:「いや、お前ら二人は確実にダメだろ」
ワンダの即座のツッコミに、二人の科学者が気まずそうに黙り込んだ。
AA:「まあ……そういう連中じゃ」
AAは咳払いをして、話を戻す。
AA:「ともかく、政府はワシら四人の技術を使い、新たなメダロットを開発することにした」
Dr.H:「AAが基本設計を担当し、AIが調整したレアメダルを用意した。わしはそのメダルと出力に耐えられる専用ティンペットを造った」
Dr.O:「そして、わしがその専用機体に用いる各パーツを設計した」
AI:「そうして完成したのが、あなたよ。カヲス」
カヲスは自分の身体へ視線を落とした。
AA:「君は、ワシら四人が持てる技術のすべてを注ぎ込んだ最高傑作だった」
カヲス:「…………」
AI:「でも、あなたが完成したその日……事故が起きた」
AIの表情が曇る。
AI:「最終調整を終え、あなたにメダルを入れた直後だった。突然、ロボロボ団を名乗る者たちが研究施設へ乱入してきたの」
ワンダ:「ロボロボ団……」
Dr.O:「くだらん悪戯のつもりだったのだろう。だが、その騒ぎの中で研究施設は滅茶苦茶になり、完成したばかりのカヲスも施設の外へ吹き飛ばされてしまった」
Dr.H:「我々はすぐに探した。持てる手段はすべて使ったつもりじゃ」
AA:「だが、とうとう君を見つけることはできなかった」
カヲスの黒い目が、僅かに揺れる。
AI:「あなたは人格形成の最初期を、誰にも見つけてもらえない場所で、一機きりで過ごすことになってしまった」
暗い洞窟。
誰もいない世界。
自分が何者なのかも分からないまま過ごした日々。
カヲスの中に、遠い記憶が蘇る。
カヲス:「…………」
Dr.O:「我々にも寿命がある。いつまでも君を探し続けることはできなかった」
Dr.H:「だから、せめて自分たちが死んだ後でも、いつか君が我々の遺したものと出会えるようにした」
AA:「それが、フォー・パーツじゃ」
ワンダ:「じゃあ……フォー・パーツは最初から、カヲスに渡すために……?」
AA:「その通りじゃ。ノルス、ダブレスト、エアスト、ソウス。それぞれへ僅かずつ、ワシら自身の思考と記憶を残しておいた」
AI:「四つが揃い、あなたと共鳴した時にだけ、私たちの言葉があなたへ届くように」
四人がカヲスを見つめる。
AA:「君に伝えたかったのじゃよ」
カヲス:「…………」
AA:「ワシらは、君を捨てたわけではない」
Dr.H:「見つけられなかったことを、ずっと悔いていた」
Dr.O:「君は単なる兵器として造った物ではない」
AI:「私たちは、あなたを大切に思っていた」
カヲスの身体が震え始める。
怒っているのか。
怯えているのか。
それとも、何を感じればよいのか分からないのか。
本人にさえ、まだ理解できていないようだった。
カヲス:「…………認めん……」
AA:「カヲス君……?」
カヲス:「そんなものは……認めんぞ……ッ!!」
声が大きくなる。
カヲスにとって、自分を初めて救った存在はN・G・ライトだった。
暗い洞窟で一機きりだった自分に名を与え、自分が抱いていた感情の意味を教え、初めて『友情』を与えてくれた存在。
それが、N・G・ライトだった。
その認識を支えに、カヲスは長い年月を生きてきた。
だからこそ、今になって「ライトと出会う以前から自分を大切に思っていた者たちがいた」と知らされても、簡単に受け入れられるはずがなかった。
ローラ:「カヲス」
ローラが静かに呼びかける。
ローラ:「お前は先ほど、N・G・ライトこそが自分に初めて『友情』を与えてくれた者だと言ったな」
カヲス:「…………」
ローラ:「それが嘘だったとは言わぬ」
カヲスがローラを見る。
ローラ:「だが、お前はライトと出会う以前から、これほどまでに大切に思われて生まれていたのだ」
カヲス:「やめろ……」
ローラ:「過去を消滅させずとも、お前は最初から――」
カヲス:「やめろッ!!」
カヲスの叫びが実験室を震わせる。
カヲス:「私は……私は……ッ!!」
巨大な身体が激しく震え始めた。
カヲス:「ライト以外から向けられた愛……ライト以外の『神』……そんなものは認めん!!」
ワンダ:「カヲス……」
カヲス:「認められてたまるかッ!!」
カヲスは頭を抱えるように両腕を上げた。
カヲス:「そんなものは……この私が破壊する!!!!!!」
カヲスが翼を大きく広げる。
猛烈な突風が実験室を襲い、その体が一気に上昇した。
ワンダ:「うわっ!?」
カヲスは機密実験室の天井へそのまま突っ込み、頑強な構造物を力任せに突き破った。
砕けた瓦礫が降り注ぐ。
ワンダ:「天井を突き破って……外へ!?」
カヲスは夜空へ飛び出すと、そのまま急上昇していった。
やがて雲に近い高度まで達し、両手へ巨大なゴースト弾を形成し始める。
その大きさは、これまでカヲスが使っていたものとは比較にならなかった。
AA:「いかん!」
四人の映像が激しく乱れる。
AA:「錯乱しておる! あれほどのゴーストを撃たれれば、無事では済まんぞ!」
ディスト:「そんな! どうすればいいんだよ!?」
天井に空いた巨大な穴の向こうで、ゴースト弾はなおも膨張していく。
ワンダ:「飛べるのは私だけだけど……」
ワンダが上空を見上げる。
ワンダ:「あんなの、私一機じゃ止められない……!」
その時、Dr.HがAAを見る。
Dr.H:「……アキハバ……じゃなかった。AAよ、カヲスは今、自分へ向けられていた愛情そのものを拒絶して錯乱しておる。ならば、わしらの残った力を使ってでも止めねばならん」
AI:「……ええ」
AIが自分の身体を見る。
映像の輪郭は、先ほどより明らかに薄くなっていた。
AI:「この一度きりの再会を成立させるため、フォー・パーツへ残されていた私たちの記録には、まだ僅かなエネルギーが残っている」
Dr.O:「それをすべて一機へ集めれば、高高度まで追いつけるだけの力を一時的に与えられるかもしれん」
ワンダ:「誰に……?」
AIが、四機の中の一人を見る。
コスモスだった。
コスモス:「……私?」
AI:「あなたが適任よ」
コスモス:「なぜ……」
AI:「あなたは、誰よりも深くカヲスを見ている」
コスモス:「…………」
AI:「怒っている。裏切られたと思っている。今すぐ自分の手で倒したいほど、あの龍を憎んでもいる」
コスモスが目を伏せる。
AI:「でも、それだけではないでしょう?」
コスモス:「……!」
AI:「あなたは誰よりも深く、カヲスを……あの哀しき龍を愛しているわ」
コスモス:「わ、わ、わ、わた、私は……!」
コスモスが勢いよく顔を上げる。
コスモス:「そんなこと……!」
AI:「そんなこと……何かしら?」
コスモス:「…………」
否定の言葉が続かない。
カヲスに裏切られたと思った時、確かに怒った。
自分がN・G・ライトの代替品として扱われていたのではないかと知った時、許せないと思った。
それでも、自分を導いてくれた存在であることまで消えたわけではない。
自分でも整理できないほど複雑な感情が、今もカヲスへ向けられていた。
コスモス:「…………分かりました」
コスモスがゆっくりと顔を上げる。
コスモス:「私に、貴方たちの想いと力を貸してください」
四人の科学者たちが微笑む。
AA:「……カヲスを頼んだぞ、コスモス君」
Dr.H:「わしらの生み出した最高傑作を……」
Dr.O:「わしら自身の愛と、君の想いで……」
AI:「……止めてきて」
四人の姿が細かな光へと変わり始める。
その光はフォー・パーツを通じて一つへ集まり、そのままコスモスの身体を包み込んだ。
コスモス:「……ッ!」
眩い光の中で、コスモスの装甲が輝きを増していく。
桃色を基調としていた装甲は一時的に黄金と緑色の輝きを帯び、背中からは四枚の純白の翼が展開された。
ワンダ:「コスモス……!」
ローラ:「行け、コスモス!」
ディスト:「イッケーーーーーー!!!」
コスモスが四枚の翼を大きく広げる。
コスモス:「……行ってきます!」
床を蹴った直後、彼女の身体は一気に上昇した。
仲間たちの声を背に受けながら、コスモスは天井に開いた大穴を抜け、カヲスの待つ夜空へ飛び出していった。
―
エデン本部上空では、雲を裂くほどの強風が吹き荒れていた。
その中央で、カヲスが巨大なゴースト弾を両手に掲げている。
毒々しい青紫の光を放つそれは、夜空に浮かぶ星のような巨大さにまで膨れ上がっていた。
カヲス:(消えろ……)
カヲスの目が地上へ向く。
カヲス:(ライト以外から向けられた愛も……私を生み出した者たちも……すべて……)
巨大なゴースト弾が動き始める。
カヲス:(すべて、無に還れ……ッ!!)
カヲスが地上へ向けて攻撃を放とうとした瞬間、下方から複数の光が急接近した。
――シュゥゥゥゥンッ!!
カヲス:「……ッ!?」
コスモスの頭部『ブリリアント』から放たれたミサイルが、巨大なゴースト弾へ次々と命中する。
爆発によって攻撃の集中を乱されたカヲスが、下方を見る。
爆煙を突き抜け、一機のメダロットが猛烈な勢いで上昇してきた。
カヲス:「その姿は……」
カヲスの目が見開かれる。
そこにいたのは、彼が知るハードネステンの姿とは違っていた。
黄金と緑色に輝く装甲。
そして、背中から広がる四枚の純白の翼。
コスモスがそのまま上昇する。
カヲスは巨大なゴースト弾を強引に崩し、そのエネルギーを無数の小さなゴースト弾へ変えた。
散弾のように放たれた攻撃が、四方八方からコスモスへ襲いかかる。
コスモス:「……!」
コスモスは四枚の翼を動かし、空中で急激に軌道を変える。
上へ。
横へ。
さらに一気に下降してから再上昇し、降り注ぐゴースト弾の間を抜けていく。
四人から託された力によって、コスモスの機体性能は一時的に大きく引き上げられていた。
やがて二機は、互いに距離を取って空中で静止した。
強風の中、カヲスとコスモスの目が真っ直ぐに交わる。
カヲス:「…………ハードネステン」
コスモスの表情が僅かに変わる。
カヲス:「何の……つもりだ……?」
コスモス:「…………」
コスモスは静かに首を振った。
コスモス:「私は、コスモスです」
カヲスが黙る。
長い年月の中で積み重なった孤独。
友情。
喪失。
裏切られたという思い。
そして、自分でも認められない愛情。
そのすべてを抱えた二機が、ようやく真正面から向き合った。
コスモスが両腕を構える。
カヲスもまた、両手へ新たなゴーストを集め始めた。
コスモス:「決着をつけましょう。カヲス……様」
カヲス:「…………」
月光に照らされた雲海の上で、コスモスとカヲスの最終決戦が始まろうとしていた。
第四十八話【カヲスを越えて終末が近づく】終わり