【完結】DISAPPEARANCE   作:土地_0000

9 / 67
第八話【三つ】

第八話【三つ】

 

――――『ラヴド』本部・兵士住宅エリア。

 

 前線に染みついた硝煙とオイルの匂いから離れ、ワンダは自室のソファに深く身体を沈めていた。

 先日のウミネコ海岸で起きた一件は、軍上層部にも大きな衝撃を与えている。

 敵へ奪われた『ノルス』の痛手を補って余りある、二つ目のフォー・パーツ『エアスト』の発見。そして何より、その適合者として覚醒したディストの存在。

 クロとディストが本部への報告を終えたことで、L班が責任を問われる可能性は、事実上なくなっていた。

 

 かつて人間のパートナーとともに、平穏な日常を送っていた頃、自分がこのような泥沼の戦争へ身を投じることになるとは、想像さえしていなかった。

 ワンダがそんな感傷に浸っていると、静かな室内に鋭いノックの音が響いた。

 

ローラ:「ワンダ。次の任務だ。すぐに準備しろ」

 

 返事を待つことなく扉を開けたローラの声には、すでに戦士としての冷徹な響きが戻っていた。

 ワンダは深いため息をつき、気だるそうにソファから身体を起こした。

 

ワンダ:「……休憩時間、まだ三十分残ってるんだけどなぁ」

 

 しかし、今は戦時下だ。予定されていた休息さえ、急な任務によって失われる。それが彼女たちの日常になっていた。

 

―

 

――――『ラヴド』本部・作戦会議室。

 

クロ:「すでにご存じのとおり、ディストさんの目覚ましい活躍によって、我々L班の失敗は帳消しになりました」

 

 クロは表情をわずかに和らげ、集まった三機の顔を順番に見渡した。

 その眼差しには、部下たちへの信頼と、リーダーとしての厳しさが同居している。

 

クロ:「ですが、エデンとの戦力差は、依然として埋まっていません。次なる標的は、三つ目のフォー・パーツ。探索場所は――『メダロッ島』です」

 

―

 

――――メダロッ島。

 

 かつては世界中から観光客が押し寄せ、歓声の絶えなかった島。

 しかし現在、その面影は失われていた。錆びついた観覧車の骨組みが潮風にさらされ、湿った風が吹くたびに、低い音を立てて軋んでいる。

 

ディスト:「おお! ジェットコースターが止まってる! こっちはお化け屋敷かな? うわー、全然怖くなーい! あはははは!」

 

 静まり返った遊園地の中を、ディストだけが無邪気にはしゃぎ回っていた。

 先日の戦いで過去を乗り越えたとはいえ、普段の性格まで変わったわけではない。今の彼は、いつもの落ち着きのないディストだった。

 

ワンダ:「……よく、この状況で楽しめるよね、あの子」

 

ローラ:「……あの馬鹿者が」

 

 ローラは苛立ちを隠そうともせず、ディストの頭へ拳を落とした。鈍い打撃音が、無人の遊園地に響く。

 

ディスト:「い、痛いなー! ローラ、いきなり殴ることないじゃんか……」

 

 頭を押さえて抗議するディストを見ながら、ローラは自問していた。

 なぜ、自分はこれほどまでに彼へ苛立つのか。

 

 無邪気に笑うディストの姿が、一年前に失った親友――フェニと重なって見えるからかもしれない。

 あのとき、自分が下した判断によってフェニを死なせてしまった。ローラは今も、そう自分を責め続けている。

 親友を失った日から、彼女の心は厚い氷に閉ざされていた。他者を信じることも、守ろうとすることも恐れ、二度と同じ過ちを繰り返さないために、「冷徹」という鎧で心を覆い隠してきたのだ。

 

 やがて一行は、島の中央にそびえる、城を模した巨大なアトラクションへ足を踏み入れた。

 外観こそ華やかな城を再現しているものの、その奥には、娯楽施設には不釣り合いな牢獄が設けられている。さらに調査を進めると、四機は地下へ続く階段を発見した。

 その先に待ち受けていたのは、侵入者を拒む無数の罠だった。

 

 一行は慎重に罠をくぐり抜け、ようやく地下の最深部へたどり着いた。

 そこには、かつて研究室として使われていたと思われる広い空間が残されていた。機材は無造作に散乱し、壁や床には激しい破壊の跡が刻まれている。過去にこの場所で、何らかの戦闘が起きたことは明らかだった。

 

クロ:「とりあえず、手分けして調べてみましょう」

 

 クロの指示を受け、四機は研究室の調査を始めた。

 しばらくして、ローラは部屋の隅にいるディストの異変に気づいた。彼は巨大な装置を前にしたまま、一歩も動こうとせず、警戒するように床を睨んでいる。

 ローラが理由を尋ねると、ディストは忌々しそうに答えた。

 

ディスト:「これに近づいたら、また床が抜ける……なんてオチ、ありそうじゃない?」

 

 先日の失敗が、よほど身に染みているらしい。

 ローラは呆れたように鼻を鳴らすと、ディストを追い越し、自ら装置へ近づいた。

 それは、一機のメダロットを収容できるほど巨大なカプセルだった。

 透明な隔壁の向こうには、赤い装甲に鮮やかな青い宝石(コア)が取りつけられた、見覚えのない右腕パーツが安置されている。

 この施設から発せられていたエネルギー反応の正体であることは、間違いなかった。

 

 ローラはカプセルの開閉スイッチを押した。

 低い駆動音とともに隔壁が開き、求めていた右腕パーツが露わになる。

 しかし、その中に眠っていたのは、フォー・パーツだけではなかった。

 右腕パーツの陰から、小さなメダロットがゆっくりと浮かび上がる。

 

ベビー:「オンギャアアアアアアアアアアアアアア!!!!! オギャアアアアアアアアアアア!!!!!」

 

 目覚めたプリミティベビーの絶叫が、研究室全体を激しく震わせた。

 

 それは単に、大きな泣き声というだけではない。

 声を聞いた者の思考と判断力を激しく乱す、広範囲へ拡散する強力な混乱行動だった。

 ディストは頭を押さえ、その場で苦しそうに身をよじった。カプセルのそばにいたローラも、意識をかき乱され、膝をつきかける。

 異変を聞きつけたクロとワンダが、急いで二機のもとへ駆け寄ってきた。

 

クロ:「一体、何事ですか!?」

 

ワンダ:「うっ……! 何、この声……頭が、真っ白に……っ!」

 

 駆けつけた二機も、たちまち混乱行動の影響を受けた。

 正常な判断を奪われたディストは、防衛本能に従うように右腕の射撃パーツを構え始める。

 

ディスト:「うわぁぁぁ! 撃って、撃って止めなきゃ……!!」

 

クロ:「ディストさん、落ち着いて! ……くっ、しかし、攻撃して鎮圧するしかないのか……っ!」

 

 混乱に呑まれた仲間たちは、泣き叫ぶベビーを敵と判断し、迎撃しようとしていた。

 しかし、ローラの意識だけが、その甲高い泣き声によって過去へ引き戻されていく。

 それは、かつての彼女が何よりも美しいと信じ、今では最も忌まわしく思っている、遠い日の記憶だった。

 

 

―

 

 

――それは、人類が滅ぶ直前。

 

 この世界に、まだ穏やかな日常が残されていた頃の記憶。

 華やかなメダロット展示会の会場で、ローラ――『オーロラクイーン』は、まばゆいスポットライトを浴びていた。

 

 観客たちの感嘆を一身に集める、美しい白銀の機体。

 その優美な姿は、多くの人間の美術家たちを魅了していた。ミスメダロットコンテストでは何度も優勝し、人間たちは彼女の前に傅(かしず)き、布を手に取って、曇り一つない装甲を丁寧に磨き上げていく。

 

 自分は、彼らから崇められ、愛でられるべき存在なのだ。

 神にも等しい美しさを持つ、特別なメダロットなのだと、当時のローラは一分の疑いもなく信じていた。

 

 しかし、その華やかな時間は、突如として終わりを告げた。

 エデン軍による急襲。

 轟音とともに会場が揺れ、爆煙が視界を覆い尽くす。美しく飾られていた展示会場は、瞬く間に血と煤にまみれた惨状へ変わった。

 人々は悲鳴を上げながら逃げ惑い、出口を求めて押し寄せていく。倒れた者を気遣う余裕さえなく、混乱の中で踏みつけられる者もいた。

 

 そんな会場の片隅。

 崩れ落ちた瓦礫の下から、一人の赤ん坊が泣いていた。

 火傷を負った小さな喉を震わせ、助けを求めるように、懸命に声を上げ続けている。

 

ローラ:(……騒々しい! なんと目障りなことか)

 

 当時のローラの胸に浮かんだのは、赤ん坊への慈悲ではなかった。

 自分の美しさをたたえる者たちが、いなくなってしまう。

 自分のために用意された華やかな舞台が、汚され、壊されていく。

 彼女にとっては、それこそが何よりも許しがたいことだった。

 

 メダロット三原則に従い、ローラは瓦礫の下にいる赤ん坊を助けようとした。

 しかし、そこに本気で命を救おうとする意志はなかった。

 美しく磨き上げられた純白の身体を、煤や埃で汚したくない。

 瓦礫へ手を差し入れれば、装甲に傷がつくかもしれない。

 その思いから、ローラは一瞬、瓦礫を動かすことをためらってしまった。

 

 ――その、わずかな迷いの間に。

 

 背後で大規模な二次崩落が起きた。

 鈍い衝突音が会場に響き、それまで聞こえていた赤ん坊の泣き声は、消えた。

 

 ローラは、振り返らなかった。

 崩れ落ちていく会場を後にしながら、彼女が惜しんでいたのは、失われた命ではない。

 自分が美しく輝くための場所が、永遠に失われてしまったことだけだった。

 

 その後、ローラは反エデン組織『ラヴド』へ身を投じた。

 目的は、あの華やかな生活を奪ったエデンへの復讐。

 現在のローラが振り返れば、それは他者の命を守るためではなく、自分が再び賞賛される日々を取り戻すための、ひどく身勝手な動機だった。

 

 『ラヴド』へ加わったばかりのローラは、高飛車で、他者を見下してばかりいる傲慢な新人だった。

 自分から周囲へ歩み寄ろうともせず、孤高の存在であるかのように振る舞っていた彼女が、仲間たちから好かれるはずもない。

 

 そんなローラの隣に、ただ一機だけ、何度拒絶されても人懐っこく寄り添い続ける者がいた。

 フェニだった。

 

フェニ:『ねぇ、ローラ! さっきの訓練、最高に格好よかったよ! でも、もっとこう……笑ったほうがいいよ。君は綺麗なんだからさ!』

 

 最初のうち、ローラにとってフェニは、ただうっとうしいだけの存在だった。

 こんな低俗な子供が、特別な自分へ馴れ馴れしく話しかけ、勝手に隣へ座る。そのことが、どうしても許せなかった。

 ローラは何度も冷たく突き放した。ときには、二度と近づくなと暴言を吐いたことさえある。

 それでもフェニは、翌日になると何事もなかったかのように笑いながら現れ、当然のようにローラの隣へ座った。

 

フェニ:『ローラって、本当はすごく優しいよね。君と一緒にいたら、僕までみんなから嫌われるんじゃないか……なんて考えてない?』

 

 フェニが寄り添い続けた理由の大半は、見返りを求めない純粋な善意だった。

 ただし、美しいローラのそばにいたいという、わずかな打算が混じっていたことも否定できない。

 

 そうして日々を重ねるうちに、ローラは少しずつフェニへ心を開いていった。

 軍の中で孤立していた彼女の高慢な態度も次第に鳴りを潜め、いつしか、その周囲には信頼できる仲間たちが集まるようになっていた。

 フェニと過ごす穏やかな日々は、ローラに痛みを伴う気づきをもたらした。

 

 人類が滅びたあの日。

 自分は、助けられたかもしれない赤ん坊を、本気で救おうとしなかった。

 その事実を悔いる心が、ローラの中に生まれていた。

 

 ある夜、ローラは自らの罪悪感に耐えきれず、すべてをフェニへ打ち明けた。

 かつて、自分が一人の赤ん坊を見捨てたこと。

 美しく磨かれた白銀の装甲の下には、救いようがないほど醜い心が隠されていること。

 

 きっと軽蔑される。

 罵倒され、二度とそばには来てくれなくなる。

 そう覚悟していたローラの冷たい手を、フェニは自らの温かな手で、そっと握った。

 

フェニ:『いいじゃん。気づけたんだから。僕が、君が震えたときに手を引いてあげる。あの日、止まらなかった泣き声……これからは僕たち二人で、止めてあげようよ。ね?』

 

 その言葉によって、ローラは初めて見つけた。

 たとえ自分が汚れ、傷ついたとしても、それでも守らなければならないものがある。

 そう教えてくれたのが、フェニだった。

 

 しかし、その理由を与えてくれた最愛の親友さえ、一年前、ローラは守ることができなかった。

 

 

―

 

 

 意識が、現実へ引き戻される。

 苦痛に歪む視界の中で、ローラは目の前にいるプリミティベビーを見つめた。

 

 ベビーから悪意は感じられない。

 突然目覚めた見知らぬ場所で、自分を取り囲む者たちに驚き、戸惑い、恐怖のあまり泣き叫んでいるだけだった。

 

ローラ:(……妾(わらわ)は、また救えるはずの命を見捨てるのか!? ……いいや、違う。今度こそ……今度こそッ!!)

 

 ローラの胸中で、激しい叫びがほとばしった。

 かつて見捨てた赤ん坊への後悔。そして、守ることのできなかった親友への思いが、彼女を立ち上がらせる。

 

ローラ:「この泣き声を、力でねじ伏せてはならぬッ!! この声は……妾が、止めてみせるッ!!!」

 

 その強烈な意志に応えるように、カプセルの中に安置されていた三つ目のフォー・パーツが、激しい光を放った。

 赤い右腕パーツが自ら浮かび上がり、ローラへ向かって飛来する。

 フォー・パーツは彼女の右腕へ激突し、傲慢だった頃の象徴でもある、美しく磨かれた白銀の右腕パーツを粉々に打ち砕いた。

 そして、露出した右腕の接続部へ強引に装着される。

 

 ――ガチャンッ!!

 

 衝撃の中、ローラは目を見開いた。

 右腕に装着された三つ目のフォー・パーツ――『ダブレスト』。

 武骨な形状をしたその腕は、燃える炎を思わせる、鮮やかな赤に染まっていた。腕の外側には、青く輝く円盤状のコアが取りつけられている。

 

 コアから放たれた膨大な熱が、ローラの全身を駆け巡った。

 

ローラ:(この赤……まるで、フェニの炎のようだ……!)

 

 右腕のコアが、本体から切り離された。

 青いコアはローラの前方へ浮かび上がると、その周囲へ四角形の半透明な障壁を展開する。

 オーラのように揺らめく防壁が、プリミティベビーの泣き声によって引き起こされていた混乱行動を遮断した。

 

 『ダブレスト』は、何があっても守り抜くというローラの「がむしゃら」な意志を、防壁を維持するための力へ変換していた。

 思考を乱していた混乱が消え、ローラの意識が鮮明になる。

 

ローラ:「下がっていろ、皆。……この子は、妾が救う。誰にも、指一本触れさせん」

 

ディスト:「ローラ……!?」

 

 クロは、ローラだけがベビーの混乱行動から解放されていることに気づいた。

 それだけではない。

 誰かを守ろうとベビーの前へ立つ彼女から、これまでにない強い意志を感じ取っていた。

 

クロ:「……分かりました。ディストさん、ワンダさん。ここから退避しましょう。今のローラさんからは、かつてないほど強い『熱』を感じます。……彼女を信じましょう」

 

 クロは混乱に耐えながらディストとワンダを促し、研究室の外へ向かった。

 三機は足元をふらつかせながらも、その場を離れていく。やがて泣き声の影響が弱まるところまで退避すると、乱れていた意識も少しずつ正常に戻っていった。

 研究室に残ったローラは、泣き叫ぶベビーを見据え、静かに両腕を構えた。

 

 

―

 

 

ベビー:「オンギャアアアアアアアアアアッ!! オギャアアアアアアアアアアッ!!」

 

 プリミティベビーの絶叫は、なおも止まらない。

 ベビーは長いあいだ、暗い研究室の中で独りきりだった。突然の目覚めと、見知らぬ者たちに囲まれた恐怖を泣き声に変え、ローラへ向かって何度も突進を繰り返す。

 

ローラ:「……怖かったのだな。ずっと、独りで」

 

 ローラは、迫り来るベビーを見つめた。

 

ローラ:「あの日、妾が手を差し伸べることをためらった子も、お前のような声を上げていたのか……」

 

 ベビーが泣き叫びながら、再びローラへ突進する。

 ローラは避けなかった。

 右腕から分離した青いコアを前方へ浮かべ、その周囲に四角形の障壁を展開する。フェニの炎を思わせる赤い右腕を構え、ベビーの突進を正面から受け止めた。

 

ローラ:「来い!! お前の痛み、すべて妾が受け止めてやる!!」

 

 激突。

 鈍い衝撃が障壁全体を揺らした。

 それでもローラは一歩も退かない。『ダブレスト』の防壁が、ベビーの突進の勢いを受け止めていく。

 動きを止められたベビーが、なおも泣きながら暴れようとする。

 

 その瞬間、ローラは青いコアと障壁を二機の間に留めたまま、その左右から腕を伸ばし、向こう側にいる小さな身体を優しく包み込んだ。

 ベビーはローラの腕の中でも激しく身をよじり、何度も装甲をぶつけた。赤い右腕はオイルで汚れ、傷ついていく。

 かつてのローラなら、耐えられなかったはずの汚れと傷。

 しかし今の彼女にとって、それは誰かを守ろうとした証であり、何よりも誇らしい勲章だった。

 

ローラ:「大丈夫だ……。妾がここにいる。もう、お前を独りにはさせん」

 

 ローラは暴れるベビーを離さず、力強く抱き締め続けた。

 

ローラ:「お前の泣き声は……妾が、慈しみとともに、止めてみせるッ!!」

 

 最初のうち、ベビーはローラの行動を理解できず、必死に抵抗していた。

 それでも、決して自分を傷つけようとしない腕に包まれ、その温かな抱擁に触れるうちに、少しずつ身体から力が抜けていった。

 絶叫は、やがて小さなすすり泣きへ変わる。

 そして最後には、深い安心に包まれたように、安らかな寝息を立て始めた。

 

 ベビーが眠りにつくと、四角形の障壁も静かに消えていった。役目を終えた青いコアはローラのもとへ戻り、赤い右腕の外側へ再び装着された。

 

―

 

――――数十分後・メダロッ島の船着き場。

 

 眠ったベビーを胸に抱き、ローラは仲間たちのもとへ戻ってきた。

 その白銀の身体にも、赤い右腕にも、戦いでついた汚れと傷が残されている。しかし、ローラはそれを隠そうとはしなかった。

 汚れたままの姿で、ベビーを大切そうに抱くローラを見て、ワンダたちは思わず息を呑んだ。

 

ワンダ:「……なんか、クロさんの言ったとおりだね」

 

ローラ:「……クロ殿が、何か言っていたのか?」

 

クロ:「あなたから、とても強い『熱』を感じたんです。……いえ、心を覆っていた氷が、ようやく溶け始めたと言うべきでしょうか」

 

 クロはローラの胸に抱かれたベビーへ目を向け、穏やかに微笑んだ。

 

クロ:「ローラさん。あなたは今日、誰かを守るための、本当の『気高さ』を手に入れたようですね」

 

 自責と傲慢によって凍りついていたローラの心は、かつての罪と向き合い、目の前にいる小さな命を救ったことで、ようやく溶け始めていた。

 ローラは右腕へ戻った『ダブレスト』の青いコアを、愛おしそうに見つめた。

 

 失った親友への償いとは、ただ過去を嘆き続けることではない。

 目の前にいる悲しい命を、二度と見捨てないこと。

 ローラの瞳には、かつての冷徹な光に代わり、優しく、それでいて決して消えることのない慈愛の火が灯っていた。

 

 

―

 

 

【カプセル内に残されていた説明書】

 

 名称:『ダブレスト』

 

 特性:守護(シールド)系統。

 

 「まもる」の熟練度を必要とするが、「がむしゃら」に呼応して性能が跳ね上がる特異パーツ。

 

 右腕から分離した青いコアを中心に展開される四角形の防壁は、物理攻撃だけでなく、混乱などのマイナス症状も遮断する。

 

                 By Dr.H

 

【挿絵表示】

 

 

 

第八話【三つ】終わり

 

------------------------

[今回新しく登場したメダロット]

 

【プリミティベビー】

 メダロッ島の秘密施設に残されていた謎の個体。孤独と恐怖から強力な混乱行動をまき散らしていたが、ローラに救われ、彼女を「親」のように慕うようになる。

------------------------

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

[機体解説]

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

========================

 

【キャラクター名】

 ローラ

 

【機体名】

 オーロラクイーン(右腕換装)

 

【公式/オリメダ区分】

 公式+オリジナルパーツ

 

【モチーフ(型式)】

 雪の女王型メダロット(QUN)

 

【パーツ】

[頭部]

 ブリザード/フリーズ(なぐる)

[右腕]

 ダブレスト/ぜったいガード(がむしゃら)

[左腕]

 フリーズ/フリーズ(がむしゃら)

[脚部]

 ソリスキー/二脚

 

【備考】

 フォーパーツ:ダブレストに右腕を換装したローラ

========================

 

【キャラクター名】

 ベビー

 

【機体名】

 プリミティベビー

 

【公式/オリメダ区分】

 公式(メダロット2、4など)

 

【モチーフ(型式)】

 赤ん坊(BAY)型メダロット

 

【パーツ】

[頭部]

 フラクチャー/フォース制御(そのほか)

[右腕]

 パストタッチ/混乱(そのほか)

[左腕]

 パストフィール/補助チャージ(おうえん)

[脚部]

 アンビリカル/浮遊

 

【備考】

 泣き声によって混乱行動を全方位に拡散する特殊個体

=========================

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。