ネリエル・トゥ・オーデルシュヴァンクが『ヒーロー』になるまでの物語   作:猫禰捏涅

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12.USJ④

ネリエルと相澤、13号が速やかに病院へと搬送された後、雄英高校の保健室にはオールマイトと緑谷が運び込まれた。

ただしオールマイトは筋骨隆々の姿ではなく、骸骨のように痩せ細ってしまっている本来の姿___トゥルーフォームとなっている。

『平和の象徴』とは思えない姿を知るのは雄英の教師達とごく一部の人間のみであり、彼はセメントスの“個性”によるコンクリートの壁で姿を隠しながらの移動だった。

 

「失礼します。…オールマイト、久しぶり!」

「塚内くん!!君もこっちに来てたのか!!」

 

その真相を知るうちの一人である塚内が保健室に入り、オールマイトと気軽な挨拶を交わす。

 

「オールマイト…!え…良いんですか!?姿が……」

「ああ!大丈夫さ!何故って!?彼は最も仲良しの警察、塚内くんだからさ!」

「ハハッ、何だその紹介。…オールマイト、運ばれた三人のことだが」

 

真剣な表情になった塚内に、オールマイトはベッドから身を乗り出した。

 

「…っ!どうなった!?」

「三人とも命に別状はない。頭を打ちつけられたイレイザーヘッドはもちろん、ネリエルさんも頭に怪我をしている形跡があったので、念のため精密検査をしている。13号は背中の外傷の治療が要るが、それでもリカバリーガールの『治癒』も併用すれば全員後遺症なく復帰できるそうだ」

「ネリエルさん……!先生…!よかったぁ……!」

 

緑谷の瞳が潤む。オールマイトは大きなため息を吐き、一気に脱力した。

 

「本当に…よかった……!親御さん…いやお兄さん二人だったか……!何かあったら保護者の方達に顔向けできないところだった…!」

「三人のヒーローが身を挺したおかげさ」

「いや……ネリエル少女だけでなく!生徒らもまた戦い!身を挺した!!こんなにも早く実戦を経験し生き残り、大人の世界を、恐怖を知った1年生など、今まであっただろうか!?」

 

オールマイトは姿こそ頼りなくとも、力強い声で断言する。

 

(ヴィラン)も馬鹿なことをした!!1-A(このクラス)は強いヒーローになるぞ!!」

 

グッ、とサムズアップしてオールマイトが微笑む。

 

「私は、そう確信しているよ」

 

塚内もまた微笑んだが、「あー」と少し言いにくそうに話し出した。

 

「実は、ネリエルさんについてなんだが」

「ん!?」

「緑谷くんにも少々当てはまることだ、聞いておいてくれ」

「は、はい!」

 

緑谷はベッドの上で姿勢を正した。

 

「生徒の何人かから聞いた。ネリエルさんは『脳無』と呼ばれていたあの(ヴィラン)の腕を、『サポートアイテム』で吹き飛ばした(・・・・・・)そうだな」

「っ、あ……!でも、それは…相澤先生を救けるためで、」

(ヴィラン)といえど人間だ。……君の“個性”もそうだ。オールマイト並みの超パワーでのパンチ…(ヴィラン)が『ショック吸収』や『超再生』を所持していなければ、殺していたかもしれない」

「……っ……」

 

ぞくり、と緑谷の背中に悪寒が走る。オールマイトが心配そうに緑谷を見て「塚内くん、それは…」と言うも、そこから何も続けられず口を閉じた。

 

「……今回の(ヴィラン)襲撃でのその部分は、雄英高校と警察で『1-Aの生徒達はやむなく(ヴィラン)に応戦した』とだけ公式発表を行うと、ひとまず話がついた。生徒らへの詳しい事情聴取はこれからだが…緑谷くん」

「っは……はいっ」

「『応戦』の詳しい内容については、一切口外しないでくれ。この依頼に法的な強制力はないが、これは君達の身を守るためでもある」

 

真剣な瞳で真っ直ぐに見られ、緑谷はこくりと頷いた。

 

「やむを得なかった状況とはいえ、君達は仮免許も持たない1年生だ。詳しい内容を公表すれば、口さがない者達からの批判を招く可能性が高い。分かるね?」

「……はい。すみませんでした」

 

小さく謝罪をして俯いてしまった緑谷に、塚内は慌てて手を振った。

 

「ああいや、謝ってほしいわけじゃないんだ!今回の君達の対応は、誰が何と言おうと正当防衛にあたる。ただ内容について詳しく口外しないで欲しいだけなんだが…大人の事情に巻き込んで、こちらこそ申し訳ない」

「いえ、そんな…僕こそ思い上がってて……僕がオールマイトを、助けられるかもって……」

「実際助けられたさ!!もう、君たち二人だけだと謝罪合戦になっちゃうな!!」

 

オールマイトが明るい声で会話に割り込む。

 

「緑谷少年は誰かに言いふらしたりしないさ!もちろんA組の子達全員ね!矢面に立つのは私達大人の仕事だ!」

「ああ、そうとも。緑谷くん、また後日事情聴取をさせてもらうことにはなるが、ひとまず君は療養に専念してくれ」

「はい、ありがとうございます」

「こちらこそ、協力感謝する。…じゃあオールマイト、また」

「ああ、また!」

 

塚内が退出した保健室で、緑谷は怪人に向けてパンチを放った右拳を見つめていた。オールマイトが気遣わしげに、「緑谷少年」と言う。

 

「オールマイト…僕、ただあす、っ…ゅ、ちゃんを助けたいとだけしか……『OFA(ワン・フォー・オール)』で全力で殴ったら人間がどうなるかなんて、考えが及んでなくて……」

「……まず、君の蛙吹少女を助けたいという気持ちと行動は、絶対に間違いじゃない。それだけは忘れないように」

「っはい……でも僕は、殴った後どうするかってことも考えられていなかったんです……」

「…私が行くまで、どういう状況だったのか聞いてもいいかい?」

 

緑谷はつっかえながらもUSJでオールマイトが到着するまでの戦況の流れを話し出す。

必然的に、水難エリアから顔を出したことで迂闊にも(ヴィラン)の標的になってしまったことも話すことになり、緑谷は表情を暗く沈ませた。

 

「ネリエルさんは…武器を放った後もすぐに動いて、あす、ゅちゃんと峰田君だけじゃなく、パンチを撃っただけで動けてなかった僕のことも、助けてくれました。その後も僕を乗せたまま動いてくれていて……それが脚の骨折の悪化にも繋がったんじゃないか、って…それに、止められたのに僕は飛び出してしまって…」

「それに関しては、間違いなく私の命が助けられたよ。緑谷少年、たられば(・・・・)は考えすぎないようにしよう」

「……はい……」

「さあ、今は休もう。疲れていると、思考もネガティブな方向に行っちゃうからね」

「はい…」

 

緑谷の頭はUSJでのことばかりを考えて、ぐるぐると堂々巡りになっている。そんな状態でも体力を消耗したことによる疲労で泥のような眠気はやってきて、緑谷は眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………ん……、びょう、いん…?」

 

ネリエルの視界には、真っ白な天井と点滴のスタンドが映っていた。

頭がぼんやりとしており、左脚の感覚がほとんどない。下半身に目をやると、掛け布団が両脚の形に膨らんでいたため切断には至らなかったことが分かる。

 

「…っ、けほ…」

 

重だるい体を起こそうとして、喉の渇きに気づく。頭を回してみると枕元にナースコールのボタンがあったので、それを押せばすぐに廊下からぱたぱたと足音が聞こえてきた。

 

「失礼します。…目を覚まされましたか、よかったです!」

 

個室の病室の扉を開けて入ってきた医師と看護師が、目を覚ましたネリエルの側にすぐにやってくる。

 

「…は、い…、あの…」

「ああお水ですね、どうぞ」

 

看護師の女性が持ってきていた吸飲みから水を飲む。入っていた水をほとんど飲み干し、ネリエルはふうとため息をついた。

 

「…ありがとう、ございます」

「いえいえ。ちょっと血圧と体温測りますねー」

「早速ですが、お名前は言えますか?」

「ネリエル・トゥ…オーデルシュヴァンク、です」

「はい、ありがとうございます。ご年齢とご職業は?」

「15歳で、高校生です」

 

医師からの質問に答えながら、腕に血圧計のバンドを巻かれる。看護師は脇にも素早く体温計を差し込み、医師はペンライトを目に当てて反応を見る。

 

「…うん、意識も受け応えもはっきりしていますし、瞳の動きも問題なしですね」

「血圧も正常値です。体温は…36度5分、平熱ですね」

「頭がふらついたりはしませんか?」

「いえ…ちょっと、ぼうっとするけど」

「鎮痛剤を使用したので、おそらくその副作用でしょう。眠かったら寝てしまっても大丈夫ですよ」

「…あの、脚は……」

 

ネリエルが尋ねると、医師はにこりと笑った。

 

「ほとんど完治していますよ。リカバリーガールの『治癒』のおかげです」

「そうなんですか…!すごい…」

 

『治癒』の破格の効果に驚いて目を見開きながら血圧計を外されていると、廊下からバタバタバタッと賑やかな足音がして、病室の扉がガラッ!と勢いよく開いた。

 

「ネリエルッッ!!!」

「ネル〜〜〜!!!」

「ペッシェ…!ドンドチャッカ!」

 

揃って病室に飛び込んできたのは、ペッシェ・ガティーシェとドンドチャッカ・ビルスタンだった。

 

二人には『破面(アランカル)』としての記憶はないものの、今世でも保護者としてネリエルのことを守り育ててくれている。

ネリエルは一気に顔を綻ばせてベッドから体を起こそうとしたが、駆け寄った二人にそれを押さえられた。

 

「こら!ちゃんと寝ていなさい!!」

「頭を打ったって聞いたでヤンスよ!安静にするでヤンス!!」

「ええ〜?でもさっき大丈夫だって…」

「確かにMRIの検査結果は異常なしでしたが、お兄さん達に心配をかけないのも大事ですよ」

「はぁ〜い……」

「お二人とも、どうぞこちらに」

 

ネリエルは再びベッドに横たわり、ペッシェとドンドチャッカは看護師がベッドの横に並べたパイプ椅子を勧められて座る。

医師がバインダーに挟んだカルテを見ながら話し始めた。

 

「では、保護者の方には既にご説明したのですが、ネリエルさんにも聞いておいていただきたいので改めてお話ししますね。まず脚の骨折ですが、リカバリーガールの“個性”、『治癒』によってほぼ完治しています。残っているのは内出血ですね。それと、『治癒』は本人の体力を消耗して自己治癒力を高める効果なので、今ネリエルさんはかなりの体力を消耗した状態になっています」

「もう治っちゃってるんですね、本当にすごい…」

「それでもちゃんと寝ていなさい」

「そうですね。明日朝にリカバリーガールにこちらの病院にきていただいて、細かい傷のためにもう一度『治癒』を施していただきますので、体力の回復のためにも安静にしてください」

「はーい」

「こら、返事は伸ばさないでするでヤンスよ」

「はいっ」

 

ドンドチャッカとネリエルのやり取りに看護師がくすりと笑った。

 

「念のため左脚には包帯を巻いて軽く固定しています。無理に動かしたりはしないようにしてくださいね。頭部は異常なしで傷もないですが、こちらも念のため包帯を巻いています」

「頭?」

 

ネリエルが自分の頭に手をやると、ざらっとしたガーゼの感触に触れた。「あっ!」と言ったペッシェがその手を下ろさせる。

 

「傷のところを触らない!も〜!」

「ネリエルさん、ちょっと気持ち悪いかもしれないけど今日はお風呂は無理ですからね。明日の午前中には包帯は全部取れますから、その後にしてくださいね」

「分かりました」

 

看護師からの注意に頷く。

 

「先生、入院は何日ほどになりますか?」

「明日一日、検査入院という形になります。ネリエルさんの場合は明日の『治癒』で完治まで持っていけますので」

「本当ですか、それはよかった…!」

 

ペッシェの質問に答える医師の言葉を聞いて、ネリエルは少し顔を曇らせた。

 

「…あの、相澤先生と13号先生は…」

 

ネリエルが尋ねると、医師はぺらりとカルテをめくった。

 

「本来は個人情報として開示できないのですが、お二人からは生徒さんから聞かれれば答えるよう伺っています」

「えっ…!?てことは、二人とも…もう目が覚めたんですか!?」

「ネリエルさんの少し前に。まず、お二人とも命に別状はありません。イレイザーヘッドさんは打ちつけた頭部に異常なし、ただ両腕の骨折の状態が酷かったため、体力の回復を待って少しずつ『治癒』で治します。13号さんは背中に刺さっていたガラス片を取り除く手術が無事完了しましたので、明日『治癒』で完治の予定です。二人とも後遺症も残りませんよ」

「っ……よかったあ…!」

 

ほう、と大きなため息をつく。ネリエルより怪我が酷かったはずの二人が先に目覚めているのは、流石はプロヒーローといったところである。

 

「私達は先生方…ああ、ヒーローの先生方には面会できるんでしょうか?」

「お二人とも安静は必要ですがしっかりとお話はできる状態ですので、了承がいただければ可能です。面会をご希望ですか?」

「はい。少しお話ができればと…」

「先生達と何を話すの?」

 

ネリエルがベッドから身を起こして尋ねると、ペッシェが細い手でネリエルの頭を撫でた。

 

「今後こういった場合にはどう対策していくのか、という部分だな。…かのオールマイトが迎撃したというのにこれほどの被害が出たのは、今回襲撃してきたという(ヴィラン)が相当なものだったんだろう」

「同じことは起きないと信じてるでヤンスが、心配なものは心配なんでヤンスよ!」

「そっか。……ありがと」

 

ネリエルが微笑むと、ドンドチャッカも笑って大きな手でネリエルの頭を撫でた。

 

「では、イレイザーヘッドさんと13号さんに面会希望の旨を伝えておきます。今日はもう遅いので、明日の午後になりますね」

「あ……ねえドンドチャッカ、今って何時?」

「18時20分でヤンスよ。運ばれてきたのは14時ぐらいって聞いてるでヤンス」

「じゃあ結構寝てたんだ」

「『治癒』で一気に体力を消耗したので、その回復のためでしょう。ですがまだまだ体は休息を必要としているはずなので、今夜はゆっくり寝てください」

「はい、あの……」

 

ぐうぅぅ、と大きな音がネリエルのお腹から鳴った。ペッシェとドンドチャッカがどっと笑う。

 

「元気な腹の音でヤンス〜!」

「ああ、よかった!安心したよ、いつも通りだな!」

「も〜!仕方ないじゃん、お腹空いたんだもん!先生、寝る前に何か食べちゃダメですか!?」

「はは、構いませんよ。点滴で入れているのは栄養剤なので栄養分自体は足りていますが、口寂しさはまた別ですからね」

 

看護師がにこにこと笑いながら、ラミネートされた紙をネリエルに手渡す。

 

「ネリエルさんはご飯が食べるのが好きなんですかね?今日はどうしても病院食になっちゃいますが、ここから好きなメニューを選べますよ」

「やった!ありがとうございます!」

 

ネリエルはメニュー表を受け取り、早速目を通す。その横でペッシェとドンドチャッカは目配せをした。

 

「オラ達も何か買って、ここで一緒に食べることはできるでヤンスか?」

「大丈夫ですよ。もしそのまま泊まられるようならナースステーションで申し込みが必要です。泊まられない場合は、面会時間が20時までとなっていますので、申し訳ありませんがそれまででお願いします」

「わかったでヤンス!じゃあネル、コンビニで何か買ってくるから一緒に食べるでヤンスよ!」

「うん!」

「メニューは決まったか?」

「うん、この…チキングリル定食でお願いします!」

 

病院食の中でもボリュームがありそうなものを選んで看護師に頼む。

 

「はい、分かりました。すぐに持ってきますね。あ、もし全部食べられなさそうなら残しても大丈夫ですからね」

「ありがとうございます。でも大丈夫です、絶対全部食べられます」

「それならよかった!」

「では、私達はこれで。何かあればナースコールですぐ呼んでくださいね」

「はい、ありがとうございます」

「ありがとうございました」

 

医師と看護師が病室を出ていく。それを見送ってからドンドチャッカが「じゃあ何か買ってくるでヤンスよ」と立ち上がった。

 

「よろしく頼む!」

「デザート追加したらダメかなあ…」

「今日は我慢しておきなさい。明日完治なんだろう?その時先生に聞いてみよう」

「はーい」

「明日好きなもの買うでヤンスよ!」

「わかった!」

 

ドンドチャッカが病室から出ていき、ペッシェとネリエルが残る。ペッシェは肩にかけていたトートバッグを床に下ろし、ふうとため息をついた。

 

「…元気そうでよかった、ネル」

「うん。『治癒』ってすごいのね。鎮痛剤で感覚はないけど、もう完治してるって」

「そうなのか。そんな“個性”の人がいてくれる高校とは、やはりすごいな。でも、だからといって無茶はするんじゃないぞ」

「わかってる。約束する」

「ドンドチャッカが戻ってきたら、同じように言ってやってくれ」

「うん!」

 

それからしばらく取り留めもない話をしていると、コンビニの袋を下げたドンドチャッカが戻ってきた。

 

「戻ったでヤンスよ〜!おにぎりにしたでヤンス!梅とおかか、ツナマヨとエビマヨでヤンス。ペッシェはどれにするでヤンスか?」

「梅とエビマヨをもらおうかな!」

「そう言うと思ったでヤンスよ〜!」

 

ドンドチャッカはお茶のペットボトルと一緒におにぎりを二つずつ取り出す。ネリエルはベッドの上で座り直し、「ドンドチャッカ」と話しかけた。

 

「どうしたでヤンスか?」

「私、無茶はしないようにするから。『治癒』は確かにすごいけど、それ頼りにはしない」

「ん、ならいいでヤンス!もちろん心配はするけど、信じてるでヤンスよ!」

「うん、ありがとう」

「ネルならきっとやれるさ。お、定食が来たかな?はーい」

 

トントンと扉がノックされ、ペッシェが返事をしてお盆に乗せた定食を運んできた看護師を迎える。

ベッドの横からテーブルが出てきてセットされ、美味しそうなチキングリル定食が並んだ。

 

「はい、ではしっかり噛んで食べてくださいねー」

「ありがとうございます!すごく美味しそう…!」

「今の病院食は彩りも豊かだな!」

「オラ達も夕飯食べてないからお腹空いたでヤンスよ。いただきます!」

「いただきまーす!」

「いただきます!」

 

ぱん、と手を合わせてから早速箸を取り、ネリエルはまず味噌汁の器を手に取った。啜ってみると、少し薄味だが十分に旨みのある味わいだ。

 

「美味しい〜…」

「ム、うちの味噌汁とどっちがだ!?」

 

家で料理を担当しているペッシェが対抗意識を燃やしている。

 

「そりゃおうちのお味噌汁のほうが美味しいよ!疲れたところに沁みてるからだよ」

「そうか、ならいいが!うちのは出汁からこだわってるからな!」

「明日の晩ご飯に食べたい。あれがいいな、厚揚げのお味噌汁」

「もちろんいいとも!厚揚げか、やっぱり病院食は油が少ないからか?」

「うん。全体的にさっぱり」

 

チキングリルもほとんど油を使わず焼かれており、皮も取り除かれているので少し物足りない。付け合わせのポテトサラダもマヨネーズ少なめで作られている。

栄養バランスのためなのか、チキングリルとポテトサラダに味噌汁とほうれん草の煮浸しという組み合わせになっているのが独特だ。

 

「では明日はトンカツにしようか。たくさん揚げるぞ!」

「ほんと!?すごく嬉しい!」

「うむ、頑張ったネルへのご褒美だ!」

「じゃあオラはケーキ買って帰るでヤンスよ!」

「やった!!…あ、ドンドチャッカ、お仕事は大丈夫だった?」

「今日の分はほとんど終わってて、後は今度に回しても大丈夫なものばかりだったから、問題ないでヤンスよ!」

「そっか、よかったぁ」

「私はまあ自分で調整すれば問題ないからな。そうだ、今日は私が病院に泊まろうか」

「それがいいでヤンスね」

「え、いいよ!大丈夫だよ。ご飯食べたらぐっすり寝れる気がするし」

 

ネリエルが首を振ると、「いやいや」とペッシェも首を振る。

 

「ネルのことは信じているが、それはそれとして心配なんだ。我々のためだと思って、な?」

「…そっか、わかった」

「ペッシェが付き添うならオラも安心でヤンスよ!オラは帰ってバワバワを見ておくでヤンス」

「うん。…バワバワ、寂しがるかなあ」

「そりゃそうでヤンス。きっとキュンキュン鳴くでヤンスよ」

「明日帰ったらちゃんと構ってやりなさいね」

「うん」

 

ネリエルに大いに懐いているペットで、『今』は雑種の大型犬であるバワバワのことを想う。

ネリエルは最近ようやく使い慣れてきたスマホでバワバワの写真を撮ってあったことを思い出したが、同時に今は病院着であることも思い出した。

 

「あ、カバン。学校に置いたままだ。制服も」

「ああ、それならまとめて警察の人が持ってきてくれたから、ナースステーションで預かってもらっているぞ。スマホか?最近ちゃんと使っていたものな」

「そうなんだ、よかった。でも病室って多分スマホ使っちゃダメだよね」

「基本的にはダメだろうが、後でナースステーションで一応聞いてみようか。私は泊まりの申請をしなきゃならんしな」

「じゃあオラがいるから、申請してくるといいでヤンスよ」

「そうだな、ついでに泊まりの準備もしてくる。ではドンドチャッカ、頼んだ」

「はいでヤンス!」

 

ペッシェが一度病室を出ていく。ドンドチャッカはにこりと笑った。

 

「オラはもう少しだけいるでヤンス!あんまり遅くなるとバワバワがお腹を空かせて泣いちゃうでヤンス」

「そうだね。バワバワ、私に似て食いしん坊だもん」

「いいことでヤンス。完食でヤンスな!」

「うん、美味しかった!」

 

米粒一つ残さず食べ終え、ネリエルは「ごちそうさまでした」と手を合わせた。食べた直後で少し行儀が悪いと思いながらも耐えきれず、ふわりと欠伸が出る。

 

「眠いでヤンスか?」

「うん…普段より量は少ないのにな」

「体力を消耗したからでヤンスよ、きっと。眠いなら寝ちゃっていいでヤンス」

「あ、歯磨き…」

「今日ぐらい構わないでヤンス。お水だけ飲んでおくでヤンス」

「うん…」

 

蓋が開けられたペットボトルを渡され、ネリエルは目が半分閉じかけながらごくごくと水を飲んだ。

 

「ありがと…」

「片付けも気にしなくていいから、横になるでヤンス」

「ん……」

「おやすみでヤンス」

「…ん、おやすみ……ペッシェと、バワバワにも…」

「伝えておくでヤンスよ」

 

ドンドチャッカに促されるままベッドに横になると、急に眠気が襲いかかってくる。

抗えずに目を閉じてしまい、ネリエルはそのままストンと眠りに落ちた。

 

 

 






書いてて思いましたが、やっぱリカバリーガールとんでもねえや。作者がもし(ヴィラン)なら真っ先に潰しにいきますね。

以下、翌日のペッシェ&ドンドチャッカと先生達の会話は書く予定がないのでここで補足。それと二人の情報です。

○イレイザーヘッド&13号
ネリエルの保護者が面会を求めていると聞いて即了承、翌日の午前中『治癒』されてから面会した。怒鳴りつけられることも殴られることも覚悟していたが、ペッシェとドンドチャッカは最初に二人の謝罪だけ受け取って何も言わず、今後の対策のことだけしか聞いてこなかったので少なからず驚愕した。

○ペッシェ&ドンドチャッカ
紆余曲折あってネリエルを引き取り養育している二人。パートナーとかではなく、親友同士。ペッシェはフリーランスで在宅の仕事、ドンドチャッカは個人で配送業をやっている。
本当に教師達や雄英高校に対しては微塵も腹を立てていない。敵に対しての怒りもほんの僅か。
彼らにとって最も腹立たしいのは、自らがネリエルの危機に駆けつけられなかったことである。
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