ネリエル・トゥ・オーデルシュヴァンクが『ヒーロー』になるまでの物語   作:猫禰捏涅

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13.USJ⑤

翌日、リカバリーガールが病室に来て『治癒』を施されると、ネリエルの怪我はほぼ完治した。

脚には少し内出血が残っているものの、一週間もすれば消えると診断が出ている。

お風呂に入ってさっぱりとし、体力の回復のためにもしっかりと昼ご飯を食べれば、ほんの少し体に少しだるさは残るもののネリエルはすっかり元気になった。

 

ペッシェが持ってきてくれたスマホにはクラスメイト達からのメッセージが溜まっているはずなので、ペッシェとドンドチャッカが先生達と話しに行っている間、看護師に許可をもらって携帯電話使用可の休憩室に行く。

ソファに座って電源を入れると、途端にスマホが激しく振動しながら音を鳴らし始め、思わず取り落としそうになってしまった。

 

「わっ、わあ!」

 

慌ててスマホを握り直し、どんどんロック画面に通知が溜まっていくのを見る。

ロックを開けてトークアプリを見ると、右上の通知が今まで見たこともない数字になっていた。ネリエルはおそるおそるアプリを開く。

 

一番通知の数が多くなっていたのは、ほぼクラス全員が入っているトークグループだ。

個人のほうに女子生徒達全員と他にも数人からメッセージが来ていたので、まずはそちらから返答していくことにする。

個人のトークで一番上に来ていたのは葉隠だった。

 

「透ちゃん……」

 

葉隠からのチャットには、謝罪の文が入っていた。止められなくてごめん、何もできなくてごめん、という悲痛な言葉だ。

ネリエルはぐっと唇を噛み締め、慣れない手つきで文字を打ち込み始める。

 

(飛び込んでいったのは、私の責任。透ちゃんが止めなかったからなんてことは絶対にない)

 

「心配して、くれて、ありがとう…と」

 

できる限りの言葉を尽くして、葉隠が責任を感じる必要などないことと、感謝を伝える。すぽん、とメッセージを送り、次は芦戸とのトークルームを開く。

芦戸からは主に容態を心配するメッセージが届いていた。耳郎、八百万もそれぞれの個性がありつつも似た文面で、ネリエルは心遣いへの感謝と、今は完治して全く問題ないことを伝えていく。耳郎から届いていたオススメの曲のプレイリストは早速保存して『ありがとう』と返した。

 

蛙吹と麗日が送ってきたメッセージの内容は少し似ていた。

まず、ネリエルの怪我の状態を見てしまっていたからか怪我と体調への心配が大半だ。そして結びには『無茶をしないで』という、優しい二人らしい言葉があった。

蛙吹からは『クラスのグループにできれば一報を入れてあげて。皆とても心配しているから』と追加のメッセージがあり、感謝の言葉とそれへの返答を送る。

 

女子達以外では、峰田、飯田、切島、緑谷からのメッセージが来ていた。

峰田は怪我の心配と励ます言葉、他のクラスメイトは保健室行きの緑谷以外全員ほぼ無傷だという情報が含まれている。まだ怯えている様子がメッセージからも伝わってくるが、内容に下ネタは一切なく至極まともだった。

飯田からは、救援を呼ぶのが遅れたことへの謝罪がまずあった。その謝罪については否定しながら感謝の言葉を返し、体調と怪我を心配するメッセージには問題ない旨を送る。

 

切島からのメッセージにはあの時のネリエルの行動への感謝と称賛があり、すぐに退却しなかったことへの謝罪と、怪我への気遣いがあった。

緑谷のメッセージも内容は似ていたが、一つのメッセージに十数行の文章が詰め込まれており、最後が謝罪の言葉で締められていた。『助けになれると思い上がった』と自身の行動を恥じているらしい。

 

「そんなことないと思うし…。あの状況では、最善に近かったと思うけどな」

 

そう一人呟きながら返事を返していると、ネリエルからのメッセージに気づいたらしい耳郎からぽこん、とまたメッセージが届いた。

無事でよかった、という言葉に改めて感謝の言葉を返してから、クラスのグループトークを開く。

 

「…これ、読みきれるかな」

 

昨日の夕方からずっと会話が続いている。ネリエルはできるだけそれらを読みすすめ、やはり皆の話題がUSJのことで持ちきりであることを確認した。

途中で誰かがまたメッセージを投げるのでさらに未読分が溜まっていくも、なんとか最新のメッセージ___上鳴のものだった___まで読み終え、考えていたメッセージの内容を打ち込み始める。

 

『ネリエルです。心配かけてごめんね。病院とリカバリーガールのおかげで完治して、体は全部異常なしです。今日の午後まで検査入院で、夜には家に帰れるよ。皆も無事でよかったです』

 

「っ、と…わ、早いなあ」

 

送ったメッセージにはすぐにたくさんの既読がつき、次々とネリエルの無事を喜ぶメッセージが送られてくる。

グループにいる全員からではないが、何人かから短文のメッセージがぽこぽこと送られてくるので、どんどん画面が勝手にスクロールされていく。

その中で『学校は明日から開くらしいけど、来れそう?』という芦戸からのメッセージがあったので、『先生に聞いてみるね』と返す。

その時、休憩室にペッシェとドンドチャッカが入ってきて、ネリエルはスマホから顔を上げた。

 

「おかえり!先生達とは話せた?」

「ああ、話してきたよ。これからの対策を聞いてみたら、セキュリティをより厳重にする案を雄英高校から公式発表するとのことだった。それを信じることにするよ」

「ネル、なんだか嬉しそうでヤンスね!」

「え、そう?」

 

ドンドチャッカに指摘され、ネリエルは自分が少し微笑んでいたことに気づく。

 

「うむ。もちろんそのぐらい気楽なほうがいいがな!」

「…うん、そうね。友達がいっぱい心配してくれて…申し訳ないなって思ったけど、同時に嬉しくなっちゃった」

「そうかそうか。いい友達ができたようで何よりだ!」

「楽しそうでよかったでヤンス!」

 

ネリエルがそう言うと、二人も心底嬉しそうに笑う。

 

「ところでネル、今日は臨時休校だが、明日から通常通りになるらしいな」

「うん、友達からも聞いた。明日から行っちゃダメかな?」

「病院の先生曰く、ネルの体調が問題なさそうなら明日から普通に動いていいそうだ」

「そうなの!?なら、明日から行く!」

「体調は大丈夫でヤンスか?」

「うん、全然平気。明日も休むなんて、むしろ体力が有り余っちゃう」

「うむ、それなら行ってきなさい。ただし、スマホは電源を入れておくようにな」

「はーい。最近は使い慣れてきたから大丈夫だよ!」

 

それを見せるようにネリエルは早速トークグループに明日から学校にも行くことをメッセージで送っておく。すぐに芦戸や耳郎、八百万が反応して、文面からも喜びが伝わってくる返信が返ってきた。

 

「ネル、相澤先生と13号先生がネルと少し話したいそうなんだが、今からいけるか?それとも後にするか?」

「そうなの?なら今から行くよ。一区切りついたから大丈夫」

「じゃあドンドチャッカについてもらって行ってきなさい。私が帰る用意をしておくから」

「ありがとう。先生達にはまず謝らなきゃなあ」

 

メッセージのやり取りがひと段落ついたところで、スマホをペッシェが差し出した手に渡す。

「こっちでヤンスよ〜」というドンドチャッカの案内について行くと、『黒瀬』という名前が掲げられた病室の前に着いた。

 

「これ13号先生の本名なのかな」

「そうみたいでヤンスね。じゃあオラはここで待ってるから、行ってらっしゃいでヤンスよ。時間は気にしなくていいでヤンス」

「うん、ありがと。行ってくる」

 

ドンドチャッカは病室前の廊下の壁沿いにあるソファに腰掛けた。

一つ深呼吸をして、病室のドアをノックする。すぐに中から「どうぞ」という13号の声がして、ネリエルはドアを開いた。

 

「失礼します」

「あっ、ネリエルさん…!わざわざすみません。そちらの病室に行くつもりでしたのに」

「オーデルシュヴァンク、体調は」

 

中のベッドには宇宙服を模したコスチュームから病院着になった13号___黄色と紺色の髪をショートヘアにしている背の高い女性と、同じく病院着で車椅子に座っている相澤がいた。

ネリエルが病室に入ると、13号はベッドから降り、相澤も車椅子から立ち上がって一緒に小走りに駆け寄ってくる。

 

「はい、全く問題ないです。…先生達には、まず謝らなければいけないと思っていて。生徒の身で軽率に(ヴィラン)に立ち向かってしまって、申し訳ありませんでした」

 

ぺこりとネリエルが頭を下げると、13号が息を呑んだ音と、相澤が大きなため息をついた音がした。

 

「……頭を上げてくれ。(ヴィラン)との継戦のために、おまえの機動力を当てにして巻き込んだのは俺の判断だ。責任は俺にある」

 

相澤の手がそっとネリエルの肩を押し、頭を上げさせる。

 

「でも、先生を下ろさなかったのは私の判断です」

「無理に下りなかった時点で無言の了承だ、あれは。こっちこそ警備体制が不十分で、おまえ達生徒を危険に晒してしまい、申し訳ない」

「僕からも謝罪をさせてください。君達を守りきれず、申し訳ありませんでした」

 

相澤と13号が静かに頭を下げる。ネリエルは慌てて「そんな!」と声を上げた。

 

「生徒を預かってる時点で、その行動の責任は俺達にあるんだ」

「君達を守る義務もです。僕らは今回それを果たせませんでした。これからの行動で、失ってしまった信頼は取り戻していきたいと思っています」

「先生達は…信頼を失ってなんていないです」

「ありがとう。ネリエルさん、ひとまず座りましょうか。パイプ椅子しかないので、よければベッドのほうにどうぞ」

 

13号に促されてネリエルはベッドに座る。相澤は車椅子に戻り、13号はベッドの側にパイプ椅子を広げて座った。

 

「寒くないですか?」

「はい、大丈夫です。…あの、相澤先生。車椅子から立ってましたけど、いいんですか?」

「念のために使わせられてるだけだよ。他にはなんの異常もないし、後は腕だけなんだけどな。頭の包帯も念のためだ」

「それなら、よかった。13号先生も、もう大丈夫なんですか」

「はい、すっかり元気です。どこも痛くありませんよ」

 

ギプスで固定された腕で頭に巻かれた包帯を指差しながら言う相澤と、にっこりと笑った13号にネリエルはほっと息を吐いた。

 

「オーデルシュヴァンク、時間はあるか?」

「はい、大丈夫です」

「ありがとう。少し聞いておきたいことがあってな。あーそれと、オーデルと呼んでもいいか?合理性のために」

「もちろん。ネリエルでもいいですよ?」

「いや、オーデルにしておく。聞きたいのは、おまえが使っていた『サポートアイテム』のことと、あの怪人に対してのことだ」

 

ネリエルは相澤からの質問に少し体を固くした。

 

(……よく考えれば、(ヴィラン)とはいえ人間の腕を吹き飛ばしてしまった。アレは人間なのかどうか疑わしかったけど、それでも……)

 

表情を青くしたネリエルに、相澤と13号が慌てて言い募る。

 

「いや、あの(ヴィラン)の腕を飛ばしたことを言っているんじゃない。ああしていなければ、蛙吹と峰田、緑谷の身が危なかった。その点についておまえが責められることはない」

(ヴィラン)連合と名乗った彼らは、明らかに生徒達を殺害しようとしていました。そのことを鑑みて、ネリエルさんの行動は過剰防衛には当たらないと警察からも判断が出ています」

「そう、なんですか」

 

相澤と13号は揃って頷いた。しかし、「ただ…」と相澤が続ける。

 

「一点だけ。おまえが使っていた『サポートアイテム』が『武器』と判断されてしまうと、世間からの批判が招かれる可能性がある」

「っあ…あれは…」

「お兄さんの一人がフリーランスのサポートアイテム開発者で、あれもお兄さんが雛形を作ったものなんだってな」

 

自身が作るサポートアイテムが少しでもネリエルの助けになるようにと、何日も悩んで設計図を引いていたペッシェの姿を思い出す。

同時に、ネリエルはそんなペッシェに甘えて色々な要望を自分から付け足したことも思い出した。

 

「はい、そうです。でも、ペッシェはあくまで私のリーチを伸ばすためにと考えてくれていて、武器として使うことは想定していませんでした。回転機能をつけるようにお願いしたのは私で、破壊力があることを承知で投擲したのは、私の判断です」

「……そうか」

 

相澤は小さくため息をついた。

 

(帰刃(レスレクシオン)のことに意識を引っ張られて、ペッシェに無理を言ったのは私。ペッシェが責められないようにしないと…)

 

そう考えるネリエルに、サイドテーブルからタブレットを取り上げた13号が「ネリエルさん」と声をかけた。

 

「今回の雄英高校への(ヴィラン)襲撃事件については、警察と雄英で『1-Aの生徒達が迎撃し、最終的にオールマイトを筆頭とするプロヒーローが撃退した』という公式発表をすることを取り決めています。あの怪人についても身元不明という以外にも不審な点が多すぎるため、詳細は発表しないそうです。何より、メディアには『オールマイト殺害が目的』というセンセーショナルな部分が大きく報道されると思われます」

「つまり、どういう『迎撃』の内容かは表に出ない。1-Aの生徒達にも、詳しいことについては無闇に広めないよう、警察と高校から要請を出している」

「あ…そうなんですね」

 

13号がタブレットに出した資料は、公式発表の内容の草案だった。ネリエルは生徒達を守るためにそういった判断が下されたことを悟る。

 

「おまえ達の行動は勇敢だったが、一部軽率と責められても仕方ない部分があるのも確かだ。おまえなら、もう分かっているとは思うが」

「…はい。ごめんなさい」

「あんまり謝られると助けられた俺達の立場がなくなるんだ。十分理解しているみたいだから、もういいよ。それと、『サポートアイテム』について」

「はい」

「やはり、差し戻しにするしかない。作ってくれたお兄さんには申し訳ないが、今後は別の形にしてもらうか、そもそも持たないか…どちらかを選んでもらうことになる」

「そうですよね」

 

ネリエルは納得してしっかりと相澤の言葉に頷く。

 

「今後の警察からの事情聴取でも、同様に詳細は広めないよう要請されると思う。法的な強制力は無いが、従ってくれ」

「もちろんです」

「それと、ネリエルさん」

「はい?」

 

タブレットを膝に置いた13号が、気遣わしげな表情でネリエルのことを見つめている。

 

「本当に大丈夫ですか?結果的にすぐ再生したとは聞きましたが、あなたは人間を攻撃して、腕が飛ぶ場面を見ています。思い出して気分が悪くなったりすることは、ありませんか」

「え………」

 

ネリエルは驚きに目を瞬かせた。しかしすぐに思い直し、13号の目を見て首を横に振る。

 

「ありません、大丈夫です。なんだか、人形のような感じでしたし…血もほとんど出ていなかったからかも」

「……そうですか。もし気分が悪くなったり、悪い夢を見てしまったりした時は必ず先生に言ってくださいね。いつでも話を聞きますし、カウンセラーの方を紹介もできますから」

「はい、ありがとうございます」

 

13号の優しさに、ネリエルはそっと微笑んだ。相澤も無言ながらどこか安堵したような表情で、二人はおそらく何よりもそのことについてネリエルに聞きたかったのだろう。

 

「オーデル。もうどこも問題ないとは聞いているが、明日から学校に行くのか?」

「そのつもりです。もしかして、先生も?まだ腕が治っていないのに」

「リカバリーガールがいるのは高校だし、そのほうが都合がいい」

「僕も明日から復帰ですよ。助けてくれた生徒達のおかげです」

「お二人とも、すごいですね」

「体育祭も控えているからな。休んでる暇はないんだ」

「え、体育祭?」

 

ネリエルが思わず聞き返すと、相澤は「ああ」と頷いた。

 

「雄英高校体育祭は全国に生中継される注目度の高いイベントだ。まあ批判はあるだろうが…例年通りに開催することで、むしろ(ヴィラン)へ対抗する姿勢と体制が万全であることを示す、という方針だ」

「そういうことですか…。でも、楽しみにしていたから嬉しいです」

「ふふ、それならよかった。警備は例年の五倍にするそうです。安心して競技に集中してくださいね」

「はい!」

 

元々体を動かすことが好きなネリエルにとって、雄英高校体育祭は入学する前から楽しみにしていたイベントだった。明るい話題に顔を輝かせるネリエルに、13号がくすりと笑う。

 

「聞きたいことと伝えたいことはこれぐらいだな。オーデルのほうからは何かあるか?」

「んー、特に無いです」

「では、また学校でお会いしましょう。ネリエルさん、病室まで送ります」

「ドンドチャッカが待っててくれてるので大丈夫ですよ」

 

相澤がまた車椅子から立ち上がり、13号がネリエルを扉まで案内するのに着いてくる。廊下に出ると、ソファに座って待っていたドンドチャッカが立ち上がった。

 

「お話はできたでヤンスか?」

「うん、もう大丈夫」

「お時間をいただきありがとうございました」

「それならよかったでヤンスよ!では、先生達もお大事にしてくださいでヤンス」

「ありがとうございます」

「また明日!さようなら、先生」

「はい、さようなら」

 

相澤と13号はドンドチャッカに向かって一度深く頭を下げ、ネリエル達が廊下の角を曲がって見えなくなるまで見送っていた。

 

 




13号先生好きです。可愛い。

○相澤先生&13号先生
原作で描写はないが、おそらく体育祭までの二週間の間で事情聴取と共に他の生徒達にも謝っている。同時に敵に向かっちゃった何人かに対しては愛のある説教もしている。

○ネリエル
ペッシェ&ドンドチャッカから心配され、『今』は未成年の生徒であることを思い出して、先生達に謝らなければという思いを強くしていた。
ちなみに、スマホで文字を打ち込むスピードは少し遅いが、ちゃんとフリック入力はできている。最初はキーボード配列でローマ字入力をしていたのを芦戸や耳郎からやり方を教えてもらった。
通信教育についてはペッシェのノートパソコンで受けていたので、実はパソコンの操作のほうが慣れていたりする。
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