ネリエル・トゥ・オーデルシュヴァンクが『ヒーロー』になるまでの物語 作:猫禰捏涅
「ネリエルさん、いいなあ!ビジュアルも絶対人気出るぞ!」
「売り出すとしたらどういう方面になる?」
「そりゃあの機動力だろ!ビルの間も駆け抜けられるなら映像映えもばっちりだ!」
「いや、彼女は救助活動に向いていると見たね。災害救助特化のほうがいいんじゃないか?」
ヒーローをプロデュースするための勉強をしている経営科の生徒達が集まる場でも、ネリエルのことは大きく話題に上がっている。
しかしその声は流石にネリエルの元には届かず、ひとまず“個性”を解いて息を整えていた。
『さあ続々とゴールインだ!順位等は後でまとめるからとりあえずお疲れ!!』
「デクくん…!すごいねえ!」
「この“個性”で遅れをとるとは…やはりまだまだだ僕…俺は…!」
「麗日さん、飯田くん」
「一位すごいね!悔しいよちくしょー!」
「いやあ…」
麗日がへろへろになりながらも緑谷に話しかけに行き、飯田はぶつぶつと呟いて自身を鼓舞していた。ネリエルも緑谷に近づき、ざっと体を見て大きな怪我がないことを確認する。
「緑谷くん、怪我はなさそうだけど…どこか痛かったりしない?」
「あ、ネリエルさん…だ、大丈夫だよ!」
「ならよかった。ずいぶん無茶をしてたから」
「それを言うとネリエルさんは…その、爆発はほとんど無視してたよね!」
「うん、あのぐらいの威力なら特に傷は受けないしね。爆風で体勢が崩れるから最初は避けてたけど」
「すごいなあ…!実況で言ってたけどネリエルさんの“個性”は被毛と皮膚が強くなるんだね!身体能力も上がる上に大型の四足動物の脚力と筋力があるから本当に装甲車みたいなもので突進されるだけでも脅威だよ!しかもあのロボットの山の不安定な足場を軽々と登れちゃうのってやっぱり偶蹄類の爪の構造が関係してて硬い蹄の内側にクッションがあってどんなに小さな足場でもうまく引っ掛けることができるから山岳地帯や崖ですごく有利だなって思ってて……ぁ、ご、ごめんつい!!」
マシンガンのように放たれる言葉にネリエルがきょとんとしていると、緑谷は途中でハッとなって謝った。
「大丈夫だよ。少し驚いたけど、皆の“個性”をいつも分析してるもんね。わざわざ『カモシカ』の生態のことまで調べてくれたんだ?」
「へぁ、ぅ、うん、そうです…」
「ふふ、じゃあ緑谷くんと戦うことがあったら気をつけないとね!」
「いやっ、そん、そんなことは…」
ネリエル達が話しているうちに、続々と他の生徒達もゴールしてきている。
その中で、八百万の背中とお尻に『もぎもぎ』で峰田がくっついてきており、峰田は頬を思いきり張り飛ばされていた。
『ようやく終了ね、それじゃあ結果をご覧なさい!』
スタジアムの大スクリーンに、それぞれの顔がカメラで抜かれた映像と順位が表示される。
『予選通過は上位42名!!!残念ながら落ちちゃった人も安心しなさい!まだ見せ場は用意されてるわ!!そして次からいよいよ本戦よ!!ここからは取材陣も白熱してくるよ!キバリなさい!!!』
上位42名のうち、ネリエルは4位という結果だった。上にいるのは緑谷、轟、爆豪のみだ。
(この“個性”なんだから一位じゃなきゃだめだったよね)
内心の悔しい思いを微笑みで隠しながら、ミッドナイトの言葉を待つ。
『さーて第二種目よ!!私はもう知ってるけど〜〜〜…何かしら!!?言ってるそばから、コレよ!!!』
ホログラムモニターに『騎馬戦』という文字が表示され、ネリエルは思わず目を見開いた。
「どうしよう、やったことない…!」
推薦入試の形式と少し似ていた障害物競走と違い、ネリエルが全く経験したことがない競技である。
「騎馬戦…!」
「個人競技じゃないけど、どうやるのかしら」
『参加者は2〜4人のチームを自由に組んで騎馬を作ってもらうわ!基本は普通の騎馬戦と同じルールだけど、一つ違うのが…先ほどの結果にしたがい、各自にポイントが振り当てられること!』
「チーム…騎馬…?」
周囲の生徒達はポイント制のことに言及しているが、ネリエルは『騎馬を組む』ということに対して首を傾げていた。
「つまり組み合わせによって騎馬のポイントが違ってくると!」
『あんたら私が喋ってるのにすぐ言うね!!!ええそうよ!!そして与えられるポイントは下から5ずつ!42位が5ポイント、41位が10ポイント…といった具合よ。そして…』
ミッドナイトはそこで言葉を切り、緑谷のほうに視線を向ける。
『1位に与えられるポイントは、1000万!!!!上位の奴ほど狙われちゃう___…下剋上サバイバルよ!!』
バッ、と生徒達がいっせいに緑谷を振り向く。
『上に行く者には更なる受難を。雄英に在籍する以上、何度でも聞かされるよ___これぞ
「へー…」
ホログラムモニターに騎馬の図解が表示された。13号とスナイプ、プレゼント・マイクが腕を組んで
『制限時間は15分、振り当てられたポイントの合計が騎馬のポイントとなり、騎手はそのポイント数が表示された“ハチマキ”を装着!終了までにハチマキを奪い合い、保持ポイントを競うのよ』
図解も見て『騎馬戦』の内容が理解できたネリエルはなるほど、と頷いたが、すぐに首を捻った。
「これ…私って、どうしたら………?」
『取ったハチマキは首から上に巻くこと!とりまくればとりまくるほど管理が大変になるわよ!そして重要なのはハチマキを取られても、また騎馬が崩れても、アウトにはならないってところ!』
しかしミッドナイトの説明はどんどん進んでいく。
「てことは…」
「42名からなる騎馬10〜12組がずっとフィールドにいるわけか…?」
「ねえモモちゃん、普通は違うの?」
「ええ、普通はハチマキを取られたり崩れた騎馬は脱落となりますわ。あとは紅白戦であることが多いですわね」
「そうなんだ…」
「いったんポイント取られて身軽になっちゃうのもアリだね」
「それは全体のポイントの分かれ方見ないと判断しかねるわ、三奈ちゃん」
八百万が分かりやすく説明してくれて納得するも、ネリエルはうーんと唸る。
『“個性”発動アリの残虐ファイト!でも…あくまで騎馬戦!!悪質な崩し目的での攻撃等はレッドカード!一発退場とします!それじゃこれより15分!チーム決めの交渉タイムスタートよ!』
「15分!!?」
モニターがすぐに15分のカウントダウンを始める。どんなことでもすぐに始まる雄英高校らしい素早さだ。
「八百万」
「あ…轟さん」
「俺と騎馬組まねえか。おまえがいてくれると戦術の幅が広がる」
「え、ええ!ぜひ!私の万能性をお見せいたしますわ!」
轟に声をかけられ、八百万は何やら気合を入れながら去って行く。近くにいた砂藤は爆豪に声をかけに行った。
「私は……」
「ネールっ」
「…響香ちゃん!」
少しぼうっとしてしまっていたネリエルに後ろから声をかけたのは耳郎だった。
「ウチと組まない?二人の騎馬にしよ!」
「いいの!?ありがとう……あれ、でも、騎馬戦って二人でも大丈夫なの?」
ネリエルが図解を思い出しながら言うと、耳郎は「あーそっか」と頷いた。
「ネル、やったことないのか。まあ確かに普通は4人で組むものなんだけど、ミッナイ先生が2〜4人って言ってたじゃん?たぶんこういうことも想定してるんだと思うよ」
「二人の騎馬を…?」
「そ!ねえネル、ウチのこと背中に乗せてよ!」
にっ、と耳郎が笑う。ネリエルは一度目を瞬かせてから満開の笑顔になった。
「もちろん!!そういうことね!?」
「そーゆーこと!」
二人で笑い合っていたその時、ネリエルの足元にズザザッ!と何かが滑り込んできた。
「わ!?」
「ネリエル様ァアアアァァァ!!!!オイラと組んでくださいいいい!!!!オイラを背中に乗せてあわよくば後ろからその豊ま"ッッッ」
「失せろ、ネルはウチと組むんだよ!」
「おお…」
土下座する勢いで滑ってきたのは峰田だった。ほとんど泣きながらネリエルに懇願するが、耳郎の『イヤホンジャック』を容赦なく頭に突き刺される。
その狙いの正確さに、ネリエルは思わず小さく拍手をした。
「ウチなら両手フリーにしてバランス取りながら、
「うん、すっごく強いと思う!」
「じゃあ決まり!ウチとネルでちょうど300ポイントね、ハチマキもらいに行こ!」
「うん!ごめんね峰田くん」
「アアァァァアアァ〜〜……」
泣き崩れる峰田を置いて、ミッドナイトのところに耳郎と共にハチマキをもらいに行く。
「チーム決まりました〜」
「はいはい、あなた達二人だけね?」
「です」
「あの、ミッドナイト先生」
「何かしら?」
「最初から“個性”は使っておいてもいいですか?」
第一種目の障害物競走でも迷ったことを尋ねると、ミッドナイトは「ああ!」と頷いた。
「そういうことね、構わないわよ。最初から耳郎さんが変身したネリエルさんに乗っておくってことでしょう?」
「そうです、ありがとうございます!障害物競走のスタートでも迷ったんですけど、怪我をさせてしまうかもしれないからやめたほうがいいのかなって」
「
「そうだったんですね。…じゃあ1位取れてたかもしれないなあ…」
ネリエルが小さくそう呟くと、耳郎は乾いた笑いをこぼしてミッドナイトはにんまりと笑った。
「はは…やっぱ競争系じゃネルは超強いね」
「ウフフフ……いいわねいいわね!それでも結果が全てよ、次の競技頑張りなさい!はいハチマキ!」
「はい!」
「ありがとうございまーす」
『300』と数字が書かれたハチマキを耳郎が受け取る。他の生徒達も徐々にチームが決まり始めたのかハチマキを取りに来ており、耳郎とネリエルは少し離れたところで準備を始めた。
「よし、乗る練習も兼ねて準備しよう!ウチはどうしたらいい?」
「よっと。じゃあここに足引っかけて!」
「おお…!」
ネリエルが『カモシカ』に変身して体の横を耳郎に向け、そちら側の前脚を曲げる。体を捻り、耳郎が掴めるように腕を伸ばす。
「ホントにここに足乗せていいの?」
「うん。私がしゃがんでもいいけれど…」
「いや!やってみる!」
クールな表情を装っているが、耳郎はわくわくとした感情を隠しきれていない。ネリエルはそれを微笑ましく見ながら、残る三本の脚でしっかりと踏ん張った。
「よ……っと!お、おお、すごい!けっこう安定感ある!」
「よかった。高さは大丈夫そう?」
「ウチ高いところは平気。眺めめっちゃいい、3mぐらいあるんじゃない!?」
ネリエルの腕を掴みながら背中に体を引き上げた耳郎が歓声を上げる。その様子もばっちり中継されていたのか、観客席からもわあっと声が上がり、耳郎は恥ずかしそうに背を縮めた。
「そうだ、全部撮られてるんだった…恥ずい…」
「大丈夫よ!ほら、このズボンをしっかり握ってて。もし危なくなったら遠慮なく私の胴体に腕を回していいし、肩に手を置いてもいいから」
「オッケー」
腰に巻いていたズボンを手綱がわりに耳郎にしっかりと握らせ、ネリエルは「少し歩くよ」と声をかける。
小柄で華奢な耳郎は体重も軽いが、背中の上の温かさはネリエルの足取りを少し慎重なものにさせた。
「うん、あれだね、バイクのタンデムっぽい。ウチ乗馬はしたことないけど、タンデムはあるからいけるかも」
「いいね、バイクが趣味の人がいるの?」
「ウチの親父。ロッカーならバイクだろってしばらくハマってた」
「そういうものなんだ」
ゆったりとした速度でグラウンドをしばらく歩き回る。
その間にA組のクラスメイト達もだんだんとチームが出来上がってきており、ネリエルは一つの組を見つけてそちらに歩み寄った。
「耳郎ちゃん!ネルちゃんと二人で組んだんだねー!私誘おうと思ってたのにー!」
「そうだったん?ありがと」
「まー人数的にちょっと半端になるのは分かってたけどな!」
騎馬の前後に砂藤と口田で、葉隠は騎手として『265』のハチマキを頭らしきところに巻いている。通常の騎馬よりも人数は少ないが、騎手が小柄な葉隠であり、口田と砂藤もパワーがあるタイプなのでさほど苦にはなっていないようだった。
「というかネリエルの騎馬いいなそれ!」
「高速移動式音響兵器、どーよ」
「サイキョーだー!」
「それは絶対つえーだろ!」
しっかりと両手を使ってネリエルの背に体を安定させながらも、耳郎はシュッシュッと『イヤホンジャック』をあちこちに伸ばしている。
「響香ちゃんと私、相性ぴったりなんだよね!」
「いえーい」
ネリエルが背後の耳郎とハイタッチをしていると、スクリーンのタイマーが『00:00』を示した。
『15分経ったわ。それじゃあいよいよ始めるわよ』
『さぁ起きろイレイザー!15分のチーム決め兼作戦タイムを経て、フィールドに13組の騎馬が並び立った!!』
『………なかなか、面白ぇ組が揃ったな』
ミッドナイトのアナウンスと共に、プレゼント・マイクとイレイザーヘッドの実況解説も再開される。
それぞれの騎馬は一定の距離を保って配置された。
『さァ上げてけ鬨の声!!血で血を洗う雄英の合戦が今!!狼煙を上げる!!!』
「血で血をて。物騒…」
「っふふ!そうだね!」
『よォーし組み終わったな!!?準備はいいかなんて聞かねえぞ!!いくぜ!!残虐バトルロイヤルカウントダウン!!』
プレゼント・マイクがテンション高くカウントダウンを始める。
「響香ちゃん、しっかり掴まってて」
「っオッケー、最初から行くってことね!」
「もちろん。ただ…」
『
「狙うのは、遠くから!」
「ぅ、わっ!!」
ド、と力強く踏みきり、勢いよく飛び出す。ただし、『10000310』ポイントを保持する緑谷チームに真っ直ぐに向かうのではなく、少し大回りになるように駆けていく。
「実質
「はっはっは!!緑谷くんいっただくよー!!」
「やっぱり皆も行くよな、そりゃ…!」
「響香ちゃん、先頭に推薦入試の人がいる!」
歯が剥き出しになっているような口元の男子生徒に、ネリエルは推薦入試の会場で見た覚えがあった。障害物競走でもネリエルのすぐ後ろに迫ってきており、地雷原で“個性”を使っていた場面もちらりと見ている。
その“個性”を使われた地面が底なし沼のようになり、緑谷の騎馬をしている常闇と麗日、サポート科らしい女子生徒の足が沈み込んでいく。
「緑谷たちの足が沈んだ!」
「うん、たぶん触れたものを柔らかくするとか沈ませるとかの“個性”!」
「ナイス警戒、巻き込まれなかったね」
「麗日さん発目さん!!顔避けて!!」
2つのチームに狙われていた緑谷は、背中に装着していたジェットパックを起動し、沼と化した地面から脱出していった。
「響香ちゃん、追うよ!」
「了解!」
高く飛び上がった緑谷チームを追うために一瞬で反転し、加速する。
耳郎がネリエルに掴まったまま『イヤホンジャック』で緑谷のハチマキを狙ったが、しゅるりと伸びてきた『
「くそっ!」
「まずい、耳郎さんのチームだ!」
「とにかく着地して迎撃!」
『さ〜〜〜早くも混戦混戦!!各所でハチマキ奪い合い!!1000万を狙わず2位〜4位狙いってのも悪くねえ!!』
緑谷チームが着地する地点に向けて真っ直ぐに走り込みつつ、『イヤホンジャック』が猛攻を仕掛けるも全て『
麗日が足に装着したサポートアイテムを使って柔らかく着地した瞬間に先頭の常闇に肉薄するが、『
「やっぱり強いね、『
「貴様もな…!だがその騎馬はアリなのか!」
「ネリエルちゃんに耳郎さんがそのまんま乗っとる…!」
「なるほど効率的ですね!」
『緑谷チームに仕掛ける耳郎チームは二人体制…っつーかガチの騎馬だな!?これアリかー!!?』
『
その攻防を見ていたミッドナイトが、プレゼント・マイクの実況に対してピシャリと鞭を台に叩きつけた。
『アリよ!!!』
「アリだってさ!」
「良かった!私、騎馬戦って初めてやるんだけど___…すっごく楽しい!」
四足をさらに踏ん張り、『
「その騎馬は普通の騎馬戦とはちょっと違いすぎるんじゃないかなあ!!!?」
緑谷のもっともなツッコミが響き渡った。