ネリエル・トゥ・オーデルシュヴァンクが『ヒーロー』になるまでの物語 作:猫禰捏涅
「その騎馬は普通の騎馬戦とはちょっと違いすぎるんじゃないかなあ!!!?」
「デクくん、ナイスツッコミや!」
「疑問の代弁者…か」
「合理的かつユニークでいいじゃないですか!好きですよああいうの!」
そんなことを言い合いながら、緑谷チームはネリエル達からさらに距離を取る。
ネリエルはそれを追おうとするも、背後からの気配に感付いてその場から横っ跳びに退いた。
「と、わっ!?」
「ごめんね!」
一瞬前までいたところを、硬質な鱗の弾丸らしきものが撃ち抜いていく。ネリエルは背後の耳郎を腕で支えつつ、くるりと後ろ脚を軸にして体を回した。
「くそ、外した!」
「B組の妨害!」
「今のうちに離れるぞ!」
ネリエル達が二足歩行の獅子のような“個性”で巨体の男子生徒と、その肩に乗って腕をこちらに向けてきている三つ編みの男子生徒と相対しているうちに、緑谷チームはさらに遠くに逃げていった。
その後は障子の巨体が追っていく。騎手の姿が見えないが、大きな触腕で包み込むようにして背中に乗せているのだろう。
「逃げられちゃった」
「鱗みたいのを飛ばす“個性”…それに獣みたいな、ネリエルと同系統の“個性”!」
「そうみたいね!」
身体能力に優れた“個性”の生徒を騎馬として、遠距離攻撃の手段を持つ生徒がそれに騎乗するという、奇しくもネリエル達と発想が似通っているチームだ。
「あれ反応すんのかよ…!」
「問題ありませんぞ鱗氏!今度は正面からいきましょう!」
「ああ!」
ネリエルに奇襲をかけた“個性”が再び発射される。体を捻って飛ばされた鱗を避けるが、その弾幕の間に獣の“個性”の男子生徒が突っ込んできている。
(加速なしのパワーではおそらくあちらのほうが上!)
そう判断を下しながら、獣の手に掴まれないよう振りかぶられた腕を掻い潜り、反対方向に飛び出して回避する。
「響香ちゃん、鱗の射程には勝てそう?」
「ごめん無理、あっちのが長い」
「オーケー、それなら近づくね」
「マジか…りょーかい」
こっそりと作戦をやり取りし、さらに高く跳んで攻撃を避ける。
「むぅう、素早い!インパラのごとき軽やかさですな!それにその蹄、まさしく偶蹄類と見ましたぞ!」
「鋭いね、『カモシカ』よ」
「カモシカ!?それにしては巨体ではありませんかな!?」
見た目は獣だが、男子生徒の眼鏡をかけた目には理知的な光があり、どうやら知識も豊富なようだ。しかし、ネリエルの肩越しに身を乗り出した耳郎が抗議の声を上げる。
「ちょっとぉ!女子に向かって失礼じゃねー!?」
「ももも、申し訳ありませんですぞ!そういうつもりでは!!」
「気にしてないわ。それより___…」
ダァンッ!!という轟音と共に、一気に前方へ躍り出る。
耳郎はぐっと体を固くしたものの『イヤホンジャック』は素早く動き、すれ違い様に三つ編みの男子生徒のハチマキを掠め取った。
「っだあ!!クソ!やられた!」
「ぐおお!申し訳ありません鱗氏ー!!!」
「よっしゃ!」
「それじゃ、逃げる!しっかり捕まってね!」
「ぅわ!!!?」
もう一度力強く踏み込み、一気にB組の騎馬を引き離す。
「早すぎんだろ!?」
「ぬう、さすが『カモシカ』の瞬発力…!」
「ありゃ追いつけない!宍田、切り替えろ!1000万狙うぞ!」
「承りましたぞお!!!」
『獣』の男子生徒はパワーに優れているもののスピードではネリエルのほうが上だったらしく、すぐにB組の二人の声は遠くなった。
「よっし!ナイス、ネル!」
「響香ちゃんこそ!」
耳郎が背中の上で拳を突き上げる。ネリエルは他の騎馬を避けつつ場外にはならないよう、フィールドの端ぎりぎりを大きく回る。
『おおおおおお!!?騎馬から離れたぞ!?良いのかアレ!!?』
『テクニカルなのでオッケー!!地面に足ついてたらダメだったけど!』
「爆豪くんね!」
「あれアリなんだ!?」
緑谷チームが逃げていった方角に『爆破』で飛んでいった後、瀬呂の『テープ』に回収される爆豪が見えた。
耳郎は奪い取ったハチマキを首にかけつつ、ポイントを計算する。
「ウチが取ったのは115ポイント…これで415ポイントだけど」
「もう少し欲しいかな」
「だね」
『やはり狙われまくる1位と、猛追を仕掛けるA組の面々共に実力者揃い!現在の保持ポイントはどうなってるのか…7分経過した現在のランクを見てみよう!』
タイミングよくプレゼント・マイクの実況が入り、スクリーンに各チームの現時点でのポイントが表示された。
ネリエル達の『415』ポイントは、轟チームの『600』ポイントに次いで6位だった。
『ちょっと待てよコレ…A組緑谷以外パッとしてねえ…ってか爆豪あれ…!?』
「爆豪、取られちゃったんだ」
「パッとしてないって言われちゃったの悔しいな…」
「それな!?よし、もっと取りに行こう!」
実況に焚き付けられるようにして、追いつかれないよう常に走ってはいたものの緩やかだったスピードを上げる。
『さァ残り時間半分を切ったぞ!!B組隆盛の中果たして_____1000万ポイントは誰に頭を垂れるのか!!!』
「今度は5チームが緑谷に向かってった!」
「私達も……っいや、ちょっと待って!!」
ピリッ、とネリエルは自身の毛が逆立つのを感じ取る。
咄嗟にその場で跳躍すると、地面を伝ってバリバリバリッ!!と上鳴の放電が駆け抜けていった。
「っあ…ぶな!!ナイス!」
「まだ!追撃がくる!」
「! 轟の氷!」
緑谷チームはぎりぎりで放電の範囲外に逃れたようだったが、緑谷チームを狙って轟チームと共に突っ込んでいた残り4チームは、電流で完全に足が止まっている。
その隙を轟が突かないはずもなく、騎馬上から八百万が『創造』した棒を伝わせて他の騎馬の足を凍りつかせていく。
『何だ何した!?群がる騎馬を轟、一蹴!』
『上鳴の放電で
『ナイス解説!!』
ついでに無慈悲にも何チームかは轟にハチマキを奪われている。さらに轟は円を描くように氷壁を展開し、緑谷チームを一対一の場に閉じ込めてしまった。
「容赦ないね…!」
「真剣勝負だもの。響香ちゃん、この隙に取ろう!」
「っよし、了解!」
上鳴の放電と轟の足止めで動けていない他チームを狙い、ネリエルは突進を仕掛ける。
「あーっまた!!クソッ!!」
「よし一本ゲット!」
B組の女子生徒達で構成されたチームから、耳郎がうまく『イヤホンジャック』でハチマキを絡めとる。
ネリエルはそれを確認して素早く駆け出し離脱したものの、これで三本のハチマキを保持することになった耳郎とネリエルのチームに、他の生徒達からの注目が集まり始めているのを感じ取る。
「これでウチらは…700ポイント!一旦3位にはなったけど…」
「あと5分はあるし、できればもう少し欲しいね」
緑谷チームに向かっていた周囲の騎馬はまだ上鳴の放電の影響が体に残っていることと足元の氷によってほとんど動けていない。
「どうする?」
「二人騎馬のほうはポイントを持ってないけど、女の子のほうはハチマキがあと一本あるから取っておきたいな」
「はは、いーね!ただこっちも取られたくはないから…」
「ええ、距離を取りながら遠くから!」
ネリエルはトン、と軽く横に飛び跳ねて距離を取る。遠距離へ攻撃できる『鱗』や他のチームへの警戒だ。
「響香ちゃん、地面割っていいよ!」
「マジで!?」
「うん、不安定な足場は得意だから!」
「それなら遠慮なく…!!」
USJでも活躍したという耳郎の“個性”は、サポートアイテムがない今は指向性を与えるのは難しい。だがネリエルは気にせず攻撃の指示を出し、不安定になることに備えて耳郎の体に腕を回した。
「無差別、心音攻撃!!」
ネリエルに掴まったまま、耳郎が地面へ『イヤホンジャック』のプラグを突き刺す。
ドックン!!と響き渡った大音量の心音と共に、ネリエルの足元から地面が大きくバカリと割れて波及していき、氷も砕け散っていった。
「うわぁ!!?」
「地面割りやがった!」
「ぬぅん、しかしこれで氷も!!」
『1-A耳郎、大きく地面を割ったー!!!』
耳郎の派手な攻撃に観客席と実況が沸き立つ。
『自分の足元も不安定になるが…ネリエルにとってはまったく問題ナシ!!巧みな足捌きで他チームを翻弄するー!!』
「あのペアすげえぞ!!!」
「どっちもカワイイー!!」
「綺麗だー!!!」
階段を登るかのような気軽さで、ネリエルは隆起した瓦礫の上を跳ねていく。
B組の女子生徒達のほうから“個性”で操っているのか、瓦礫や氷の破片が不自然な軌道で飛んできたが、それもひらりと避けて次の足場へと跳び移る。
『獣』の男子生徒は躱して、女子生徒達の騎馬の側面を突く位置取りだ。
「うわっとと…!すごいね、ネル!」
「響香ちゃんも!」
「へへ!よし、もういっちょ!」
再び地面が大きくひび割れる。さらにネリエルは前脚で割れた箇所を踏みつけ、土埃と破片を巻き上げて目潰しを狙う。
「こ、のっ!!」
だが騎手の女子生徒が手を巨大化させて目潰しを防ぎ、そのままネリエルに掴み掛かろうとしてくる。さらに騎馬の一人の“個性”で破片がネリエルのほうへと撃ち返された。
「っ!」
「ネル、大丈夫!?」
「平気!でも近づくのは危ないかも、あと二人の“個性”も分からないし…!一人は推薦入試で見たような気がするんだけど…」
「そっか、じゃあ遠距離からでいこう!」
「うん!」
ネリエルは石礫をぶつけられても特にダメージは受けないが、背中の耳郎はそうはいかない。
後ろ脚での蹴りが無手の近距離で最も威力が出る技だが、ネリエルがそれをしようと背を向ければ耳郎が無防備になる上、勢いで背中から振り落としてしまう恐れもある。
(そもそも、背中に人を乗せて戦うって初めてなんだよね…!)
冷静に立ち回りながらも、ネリエルは少し焦りを覚えていた。
黒崎一護であれば背に乗せて駆けることに躊躇いなどないが、ネリエルの記憶にある限りではそれを行う機会はついぞ訪れなかった。
「クソー!当たらねえー!!」
「く…っ!こういう時こそ庄田と吹出の突破力が必要なのに!なんでC組の騎馬やってんの!?」
「なんかふらって行っちゃったんだよー!」
後方からの『鱗』の射撃も、蹄が地面を捉える直前に位置をずらすことで射線を外す。
内心の焦燥感は押し隠し、重心を低く保つ。
「跳ぶよ!」
「オッケー!!」
選択したのは回避ではなく機動力による突破で、ネリエルは『カモシカ』の脚力で垂直方向へ爆発的な跳躍を見せる。
B組の男子生徒達の頭上を越える放物線を描き、滞空中に身体を捻って反転させた。
「響香ちゃん!」
「了解!」
着地の衝撃を膝で吸収すると同時に、耳郎の『イヤホンジャック』が呆気に取られているB組の女子生徒に迫る。だが、ハチマキを奪う前に『鱗』によってプラグが弾き飛ばされてしまった。
「い゛っ!」
「響香ちゃん!」
「大、丈夫…っごめんしくった!」
「いいから!離れるよ!」
氷壁を背にする形で離脱し、ネリエルは氷壁を蹴って大きく横へと跳び退く。『鱗』が飛んできて氷を少し抉り取った。
「ハチマキ取れなかった!」
「それより耳は!?」
「へーき、かすり傷だって!てかネル、別の1チーム来てるよ!」
「っ、わかった!」
耳郎の様子を気にしつつ、できる限り振動を抑えながら瓦礫の上を跳ねる。
『残り時間約1分!!轟、フィールドをサシ仕様にし…そしてあっちゅー間に1000万奪取!!とか思ってたよ5分前までは!!緑谷なんとこの狭い空間を5分間逃げ切っている!!』
実況を聞いて、ちらりとスクリーンに目をやる。ネリエル達の順位は変わらず3位で、驚いたことに緑谷チームが1位の座を防衛していた。
だが、次の瞬間緑谷チームのポイントが『0』の表示となる。
「取られたんだ!」
『なーーー!!?何が起きた!!?速っ速ーー!!飯田そんな超加速があるんなら予選で見せろよーーー!!!』
「飯田の必殺技的なのかな…!っネル、左!」
「ええ!」
耳郎の優れた聴覚による索敵で、左側から忍び寄ってきていた浮遊する『角』を避ける。
『ライン際の攻防!その果てを制したのは…逆転!!轟が1000万!!そして緑谷急転直下の0ポイント_____!!』
『角』の一つは後ろ脚で蹴り飛ばしてすぐさま飛び出し、瓦礫だらけとなっている場所へと戻る。通常の騎馬であれば不利な足場でも、ネリエルにとっては逆だ。
『残り1分を切って現在、轟ハチマキ4本所持!!ガン逃げヤロー緑谷から1位の座をもぎ取ったあ!!!上位4チームこのまま出揃っちまうか!?』
わあああっと一際巨大な歓声がスタジアム全体から上がる。
緑谷チームが0ポイントとなったことで、ネリエル達は3位へと繰り上がった。
「これで3位になった…!残り約50秒どうする、逃げ切る?」
「…いいえ。狙うわ」
瓦礫の上を跳び回って周囲を牽制しつつ、ネリエルは静かにそう言った。
「マジか…!」
『爆豪チーム2本奪取で5位に!!この終盤でも諦めてねえぞ!!若気の至りだあ!!』
「ほら、追い上げられてる!響香ちゃん、視界は悪くなるけど胴体に腕を回してくっついて!」
「りょ、了解!」
耳郎は背中の上で少し前に移動し、ネリエルの鳩尾あたりに腕を回す。
「ほ…ぁ…」
その腕の上で、ドムンッと温かなものが跳ねる。その柔らかく温かなものの正体に思い当たった耳郎は一瞬呆然とした。
『爆豪!!容赦なしーーー!!!やるなら徹底!彼はアレだな完璧主義だな!!さぁさぁ時間ももうわずか!!』
「爆豪くんのチームが2位に…!」
「はっ、や、やばいね!?」
「しっかり掴まって!それと脚を締めて!」
「あっ、うん!!」
プレゼント・マイクの実況とネリエルの指示で我に返り、耳郎はほぼ塞がれた視界の中で全身に力を込める。
「私が守るから、大丈夫よ!」
「うん!!」
爆豪チームは氷壁へと一直線に向かっている。爆豪チームと対峙していたB組の生徒達の騎馬も向かってきており、ネリエルは地面を蹴り出して横に回避する。
「ヤベェよ0ポイントだぞ!!早く行け!!」
「円場、妨害!!」
「っ…空気の壁、ね!」
進行方向に空気でできた壁のようなものが形成されるが、ネリエルは思いきり頭を振って角をぶつけた。
対人では危険すぎるため使わないが、鋼鉄並みに頑丈で長く伸びたネリエルの角は凶悪な武器となり、空気の壁を一瞬で破壊する。
「物間、なんで取らねえんだ!!」
「っあ、あぁ…」
B組の男子生徒達で構成された騎馬の横をすり抜ける時、騎手の男子生徒の手がネリエルの腕を掠めていった。ハチマキを保持している耳郎ではなく、何故かネリエルに意識が向いていたようだった。
「何してんだ物間!集中!」
「ご、ごめん、『スカ』だ!」
「てか使えたとしてどうするつもりだったんだよ、おまえ騎手だぞ!」
「よ、妖艶なる…」
「お前も何言ってんだ黒色!おい物間っ、0ポイントだぞ!早く壁を…!」
何やらもたついている男子生徒達の騎馬はポイントを持っていない。ネリエルが狙うのは、最も近くにいる手が大きくなる“個性”の女子生徒のポイントだ。
ようやく足元の氷から解放され、緑谷チームと轟チームに向かって行こうとしていたのか氷壁の側面に回っているところ目掛けて走り込む。
「ネリエルッッッパイじゃあああああ!!!!!」
「っ峰田くん!?え!?」
「ケロ、敗退したほうがいい気がしてきたわ」
「うむ……」
その途中、障子の背中の上から跳んできた峰田がいたが、後ろから伸びてきた蛙吹の舌によってすぐさま回収されていった。
「ネル、ウチ今前は見えんからね!!」
「大丈夫、横を通り抜けるから!」
「よし、よく狙って…!」
『残り17秒!こちらも怒りの奪還!!』
この局面で緑谷チームがポイントを奪い返したが、『140』ポイントのため、ポイントを保持しているチームの中では最下位だ。
「やばい来てるよ!!」
「ごめんまだ脚が動きにくい…!!」
「ノコ〜〜ッ!」
『そろそろ時間だカウントいくぜエヴィバディセイヘイ!』
B組の女子生徒達の横を猛スピードですり抜ける。
耳郎の『イヤホンジャック』は、まだ動きが鈍い騎手の女子生徒からハチマキをしっかりと掴んで掠め取った。
「っ取ったあ!!」
「よし!!」
『10!9!』
「このまま、突っ込む!!」
「マジでぇ!!?」
『7!6!5!』
カウントダウンを聞きながらもネリエルは諦めず、氷壁に向かって前脚を高く振り上げた。
『3!2!』
「もう少し___…!最後、まで!!」
『1 ___
バカンッ!!とネリエルの蹄が氷壁を砕くのと、タイムアップの宣言は全く同時だった。
さて、物間はどうして『コピー』に失敗したんでしょうね?